山茶花
2024-09-11 20:32:48
7660文字
Public [シルデュ♀]受け女体化学パロ
 

君じゃなきゃダメみたい(13)【094GP014】

シルデュが文化祭デートする話。

※現代学パロです。男子そのまま・女体化キャラ入り交じっています。
※独自設定が多く含まれます。
※今回はシルデュの他にマレセベ♀、リドエー♀要素が含まれます。



↓大丈夫な方はスクロール

 長かった夏休みも終わり、体育祭を経て、秋が近づいている。学校中のあちこちでは、来たる文化祭に向けての準備が始まっていた。
「デュースはいるか?」
 放課後、一年生の教室へと向かう。
「ここにいます! 先輩、迎えに来てくれたんですか?」
「ああ。一緒に帰ろうと思って、迎えに来た。もう、今日の作業は終わりか?」
「はい、すぐに片付けますね! 少しだけ待っててくださいっ!」
 デュースの所属するクラスである1年A組は『たこやきメイド喫茶』をするそうで、デュースは連日、当日の喫茶店の飾り付けや衣装を作る準備に追われているようだ。
「ああ、待っている」
 そんなデュースをほほ笑ましく待っていると、教室の中から視線を浴びていることに気が付いた。一年生の女子だろうか、と思ったが、どうやら視線の主は数名の男子のようだった。
「そこの君。俺に何か用事か?」
「い、いえっ! なんでもっ!!」
 俺を見ているからには何か用事があるのだろうかと思ったのだが、そうではなかったようだ。やがてデュースがお待たせしましたと言って、カバンを持って俺の前に現れる。その手を取った瞬間、男子生徒の顔が悲しそうに歪んだのを見て、そういうことかと理解した。
 ……見なかったふりをしてやろう。俺はもう、この手を振りほどいて彼にこの子を渡してやることはできないのだから。
「帰ろうか、デュース」
「はいっ!」
 嬉しそうなデュースを連れて、そそくさとその場を立ち去る。確かに、以前言われた通り、デュースは同級生の男子に多少人気が出ているらしいな。俺はなんとなくデュースの手を強くぎゅっと握って、その日の帰り道を歩いた。

 それからしばらくして、文化祭当日。
 俺のクラスはスタンプラリーを開催しているので、当日は担当箇所さえ気にかけて、何かあればメンテナンスさえしていれば、景品の引き換え担当者以外は教室に不在でかまわない。マレウス様もリドルと共に生徒会として文化祭全体の進行をしているし、邪魔をするわけにはいかない。
 なので、さっそくあちこちを見て回ることにした。とは言ってもこの足は正直なもので、自然とデュースがいるであろう1ーAのメイド喫茶に足を運んでいた。
「あれっ、シルバー先輩じゃーん! 1名様ご案な~い!」
 教室へ行くなりエースに見つかり、店内へと案内される。とは言っても、店内は飾り付けられた教室なのだが。
「メニュー何にする? と言ってもたこ焼きしかないんだけどね!」
「なら、ひと舟もらおうか」
「飲み物は? 麦茶とウーロン茶あるよ!」
「麦茶をいただこう」
「おっけ~! じゃ、少し待っててね!」
 エースの手慣れた接客に、大したものだと感嘆する。しかし、デュースはどこにいるのだろうか? 店内には見当たらないようだが……
「お、お待たせしましたっ……!」
「デュース」
「えへへ……。先輩、来てくれたんですね」
 可愛らしい黒のエプロンドレスに身を包んだデュースが、注文通り温めたたこ焼きと麦茶を持ってきてくれる。
「ああ。俺のクラスはスタンプラリーをしているから、時間があってな。さっそく様子を見に来た」
「そうだったんですね! 私、最初の時間の担当だから、このあとならゆっくり一緒に回れますけど……
「なら、待ってる」
……ありがとうございますっ! あと20分くらいで終わるので、ゆっくりしていってくださいっ!」
 パタパタと奥に引っ込んでいったデュースを見送り、たこ焼きを食べる。……うまい。夏祭りで食べたものとは、また違う赴きの味がするな。冷たい麦茶で喉を潤して、そのままゆったりと食事を取り、食べ終われば教室の外でデュースを待った。
「先輩、お待たせしましたっ」
「ああ。そっちは大丈夫だったか?」
 やがて廊下に姿を現したデュースに声をかける。
「はい! もうあちこち回ってきていいそうです! 宣伝代わりに服はそのまま着ていけって言われましたけど……
「いいんじゃないか? その服装も、可愛らしいと思うぞ」
「そ、そうですか? なら、このままでもいいかな……
「なら、一緒に店を回るか」
……はいっ!」
 そうして、デュースと共に文化祭の店をいくつか回り始める。まだ食事を取るには少し早い時間だからと、まずは出しものを見て回ることにした。
「あ、お化け屋敷やってるみたいですね! 入りますか?」
「そうだな。入ってみるか」
「カップル2名様ごあんなーい!」
 暗幕の張られた教室の中に、おどろおどろしいBGMが響いている。冷房を入れているのか、空気は少しひんやりとしているな。しかし、公共機関である学校なだけあって防音があまりしっかりとしておらず、外の賑やかな喧噪がわずかに聞こえてきて、大して怖くはない。それでもデュースは少し雰囲気に吞まれているようだ。
「なんだか暗くて寒いってだけでも、ちょっと不安になりますね……
「そうか? 俺は平気だ」
「ふふっ、頼もしいです……きゃあ!」
 ばあ、と狼男に扮した学生が俺たちを脅かす。だが、それはよく見れば、時折運動場や一年生の教室で見かける、見知った後輩の姿で。
「ジャックか。狼男、似合っているな」
「ちょっとは驚いてくださいよ、先輩。脅かし甲斐がねえぜ」
「な、なんだ、ジャックかあ。びっくりした……
「逆にお前は驚くなよ、デュース。準備中に何度も顔合わせただろ」
「なるほど。この先も人為的に驚かせてくれる仕掛けなのだろうな。お前たちの驚かせ方がどれほどのものか、楽しみにしている」
「ったく、厄介な客が来たもんだぜ。……まあ、イチャつくダシにくらいはなったみたいで何よりッス」
 そう指摘されて、デュースは俺の腕に絡ませていた手をぱっと離した。
「別に、俺はそのままでも良かったんだが」
「も、もうっ! からかわないでくださいっ!」

 それからお化け屋敷を出た俺たちは、俺の所属する2ーA教室主催のスタンプラリーを集めつつ、迷路などにも挑戦した。そのうちに、昼の時間近くになってくる。
「そろそろお腹空いてきちゃいましたね」
「なら、食べ物の出しものも見てみるか」
 そうしてクレープや焼きそばなど、食べ物の屋台が立ち並ぶ通りへ向かう。
「わ、おいしそう! 私、クレープ食べたいです!」
「甘いものが好きだな、お前は」
 そうしてクレープをひとつ購入し、デュースに手渡す。
「私も先輩に何か買ってあげますね! 何がいいですか?」
「そうだな……
 俺の好物はきのこリゾットだ。文化祭の出しものとしてはあまり存在してはいない類だろう。辺りを見回して、適当に選ぶ。
「なら、あれにしよう。からあげとポテトが一緒になったセットだ」
「ふふっ、ガッツリ系を選ぶなんて……男の子ですね! 分かりました!」
 そしてデュースに、カップに入ったからあげポテトを手渡され、ありがとうと受け取る。
「ステージの近くにテーブル席が用意してあるそうだから、そこでゆっくり食べよう」
「はいっ」
 二人でステージ脇のテーブルに座り、開催されているイベントを見ながら食事を取る。ステージの上では軽音部やダンス部によるパフォーマンスが行われていた。
……ん? 軽音部のパフォーマンスには、親父殿も参加されているのか」
「みたいですね! ヴァンルージュ先生、楽しそう」
「ああ。親父殿が楽しそうで何よりだ」
 親父殿が心から楽しそうに演奏をしている姿を、目を細めて眺める。そんな俺を見つめながらクレープを食べるデュースの口元が汚れているのに気付いた。
……ん? ほら、頬にクリームがついているぞ」
「あ……
 デュースの頬からクリームをすくいとり、指を舐める。
「甘いな」
「す、すいません。ありがとうございます……
 すると、デュースは顔を真っ赤にしてしまった。……俺は何かおかしなことでもしてしまっただろうか?

 それから席を立ち、また二人で文化祭を巡っていると、マレウス様とセベクに出会った。
「マレウス様。おひとりで文化祭をご覧になられているのですか?」
「いいや。セベクと一緒だ。お前たちと同じく、文化祭デートというものを楽しんでいる」
「そうですか。それは良かったです。……てっきり、生徒会としての運営が忙しく、そうした時間は取れないかと思っていましたから」
「ふっ、そんなことはない。今頃ローズハートも同じように、トラッポラと文化祭を巡っている頃だろう」
「それなら良いのですが」
 俺がマレウス様と話し込んでいると、デュースはデュースでセベクと何やら話しているようだった。
「エース、うまくいくかな?」
「リドル先輩の様子を見る限り、うまくいくだろう! マレウス様もそう仰っていた!」
「何の話だ?」
「ふふ、きっとあの話だろう。トラッポラがとうとうローズハートに告白するそうだ」
「え!?」
 俺は驚く。リドルがエースに、なら、今までの経緯もあって納得もいくのだが、向こうもリドルのことが好きだったのか?
「エース、言ってたんです。今のままじゃ、ローズハート副会長はいつまで経っても告白してくれなさそうだから、自分から言うんだ、って!」
「うむ! この文化祭の日を狙って言うのだと言っていたから、うまくいくはずだと私たちは願っているのだ!」
「まあ、うまく行かないことはないだろう。なあ、シルバー?」
……そうですね。リドルはもう、かなりエースのことが好きですから」
 俺たちが肯定すると、デュースとセベクはきゃあと声をあげて二人で喜んだ。
 マレウス様たちと別れ、またしばらく店を巡ったり、客を案内していると、文化祭が終了に近付くアナウンスが流れてきた。
「えっ、もうこんな時間? 時間が経つのは早いですね……
「そうだな。一度、教室に帰らなければならないだろうか」
「そうですね。……シルバー先輩、今日はありがとうございました。文化祭一緒に回れて、嬉しかったです!」
「ああ。俺も、楽しかった。……去年はマレウス様やリドルの手伝いをして回っていたのだが……。恋人と共に巡るというのも、いいものだな。ありがとう」
 またあとで迎えに行く、とデュースの頭を撫で、教室へ送り届ける。デュースは嬉しそうにほほ笑み、立ち去る俺に手を振っていた。

 それから、教室であちこちに置いてきたスタンプラリーの撤収をする。案外たくさんの人が参加してくれたようで、景品の数はなかなか減っていた。そういえば俺たちもスタンプを集めていたが、景品を引き換えていなかったことを思い出す。
「カリム。景品を引き換え損ねていたのだが、今、引き換えてもいいか?」
「おう、いいぜ! あとはどうせリサイクルショップに引き取ってもらうばっかりだからな!」
 来てくれる人とたくさん話したいから、と景品の引き換えを担当していたカリムが言う。景品は小さなぬいぐるみの数々だ。黄色いヒヨコが目についたが、毎回ヒヨコでも芸がないかとぬいぐるみを吟味する。少し大きいニワトリと、白いうさぎのぬいぐるみが目に留まって、どちらにしようかと頭を悩ませた。すると、カリムが欲しいならどっちも貰っちまえよ、と言った。
「しかし、スタンプラリー1枚につき景品は1つだろう? ズルをするわけにはいかない」
「何言ってんだ、お前はカードを2枚持ってるじゃないか。自分の分と、デュースの分だろ?」
 そう言われて、確かにと俺は納得した。カリムはこういう計算が得意だな。
「なら、言葉に甘えてこの2匹をもらっていこう」
「毎度あり!」
「そうと決まれば、さっさと担当箇所を撤去してしまうか。早くアイツに渡してやりたい」
「おう! 気を付けて行って来いよ~!」
 カリムはぶんぶんと手を振って見送ってくれる。良い友達を持ったものだ。

 俺の担当箇所である、食べ物の屋台とイベントステージの間に置いたスタンプラリーの台を撤収する。簡単な折り畳みの台で出来ているので、作業自体は難なく終わった。撤去作業で出たゴミを捨てに焼却炉へ向かう。
 その帰り道、体育館裏にデュースらしき人物の青い髪がなびいているのを見た。
……デュース?」
 なんとなく嫌な予感がして、俺はその後についていく。すると、嫌な予感は的中したようで、デュースは何やら他校の不良生徒に絡まれているようだった。
「ずいぶん変わったじゃんかよォ!」
「何優等生気取っちゃってんだァ? また遊ぼうぜ、デュース!」
……お前ら……
 デュースは不良生徒たちを睨みつける。
「私はもう変わったんだ! お前たちとはつるまない。分かったら大人しく帰れ!」
「ああ、はいそうですかと帰るとでも思ってんのか!?」
 男の手が思い切り振り上げられる。俺は走ってその間に入り、男の腕を掴んだ。
……女性に手を上げるのは、いかがなものかと思うが?」
「なんだテメェ、王子様気取りか?」
「先輩……!」
「その制服、他校の生徒だろう。文化祭は終了した。お引き取り願おう」
……はっ、テメェさては知らねえんだろ? その女、元はバリバリのヤンキーだったんだぜ! 男みてえな恰好して、悪いコトもたくさんしてた! お前みてえなのが守ってやるほど、弱っちい女じゃねえぞ!?」
 不良生徒の手を握る腕に力が籠る。
「知っている。デュースが、俺に守られるほど弱くはないことくらい。……だが、それでも、俺は、守りたいものを守りたいと思うから守るんだ!」
「よく言ったぞ、我が息子よ!」
 啖呵を切った瞬間、パンパンと手を叩きながら親父殿が現れる。
「さて、そこの不良ども。わしはこう見えて、この学校の教師でのう。……ちいと仕置きさせてもらうぞ?」
「チッ、先公かよ!」
「待たんか! ……シルバー、そっちは任せたぞ!」
「はい、親父殿!」
 逃げていく不良たちを追っていった親父殿を見送り、デュースに向き直る。
「デュース、無事だったか?」
「は、はい。先輩が来てくれたので……
……良かった」
 俺は胸を撫で下ろしたが、それでもデュースは浮かない顔だ。
「どうしたんだ? ……怖かったか?」
「い、いえ……。違うんです。私、浮かれてたのかな、って。こんな私でも、先輩と付き合えて…………でも、やってきたことは、そう簡単にはなくならないんですよね。今みたいに、昔つるんでた奴らに絡まれたりすることだってある……。それで、いつか、先輩に幻滅、されたりとか……
「デュース……
……私、わたし……。今、先輩に、釣り合えてるのかな。勉強も全然だし、他の女の子の方が、いっぱい可愛いし……っ! それに、普通の女の子なら、あんな風に絡まれたりして、先輩に迷惑かけたりしなかったのに……っ!」
 涙をこぼすデュースを、そっと抱きしめる。
……釣り合うかどうかなんて、気にすることではない。俺がお前を好きで、お前が俺を好きでいてくれたら……それでいいことだ。……ずっと、そんな不安を抱えていたんだな。気付いてやれなくて、すまなかった」
「う、うう……っ。先輩、優しすぎますよ……っ!」
……お前だからだ」
 デュースが泣き止むまでずっと、その髪を優しく撫でていた。

 それから、教室の方は先んじて解散になったと窓から顔を出すカリムに聞いて、帰り支度をしてデュースを送っていくことにした。不良の一件はマレウス様たち生徒会と親父殿たち教師陣にも共有されたようで、該当の学校へ注意が渡るそうだ。
「デュース、帰ろう」
……はい」
 手を繋ぎ帰っていると、不意に、手前を歩く人影に気付いた。少し距離は離れているが、その人影はリドルとエースのもののようだ。……声は何やら口喧嘩をしているようだが、二人の影は、俺たちと同じように手と手を繋いでいる。
「うまくいったみたいだな」
……はい、良かったです!」
「ああ。……お前も、ようやく笑ってくれたな」
「あ……
「行こう。マレウス様とセベクが待っている」
……はい」
 デュースの手をぎゅっと握り直し、マレウス様たちの待つ校門へと急ぐ。そしてわずかな時間の帰り道を共有して、送迎車に乗っていくマレウス様とセベクを見送り、デュースを家に送って帰る。一年前は考えもしなかった、すっかり慣れた日常だ。
「この季節は夜になると少し風が冷えるな。寒くはないか?」
「大丈夫です。でも、そろそろタイツとか出した方がいいのかも」
「女子はスカートだから、寒そうだよな」
「はい。なかなか大変です。でも、憧れでしたから……。ひらひらしたスカート履くの」
「そう、だったのか?」
……はい。先輩に言ってもらえたから、私にも履く勇気が出たんですよ?」
 知ってました? とデュースは言う。
「いや、知らなかった。……聞かせてくれて嬉しい。ありがとう」
「ふふっ、私こそ、ありがとうございます」
 やがてデュースの家が見える曲がり角に近付いた頃、俺はあるものを思い出した。
「そういえば、これ」
「わ、可愛い! ニワトリさんとうさぎちゃんですね! どうしたんですか?」
「スタンプラリーの景品、交換していなかったから……。俺の方で勝手に選んでしまったが、良かったろうか」
「えっ、ふたつとも貰っちゃっていいんですか?」
「俺がそんな可愛いものを持っていてもしょうがないだろう。お前が、こうした可愛いぬいぐるみは好きだったと思ったから、持って来たんだ」
……なら、遠慮なく……。またひよこちゃんのお友達にしますね! ありがとうございます!」
「気にするな。元々は、二人で回ったスタンプラリーの景品だ」
 それから、デュースの家の前に行き、今日の別れを告げる。
「それじゃあ、今日はこれで。……デュース」
「はい……
……少し、上を向いてくれるか?」
「え?」
 上を向いたデュースの額に、くちづける。このくちづけが、どうか、デュースの心に眠る氷をほどいてくれるといいと祈って。
「今日は、お前にとって恐ろしいことがあったようだから……。安心できるおまじないだ。家に入ったら、ゆっくり休むといい。少し早いが、おやすみ、デュース」
「も、もう……
 デュースはぬいぐるみで顔を隠すようにしてつぶやく。
……これ以上先輩を大好きにさせて、どうするんですか……
「ふっ。どうしような。それじゃあ、また明日」
「はい。また、明日」
 そうして俺の足はまた我が家を目指す。時折、名残惜しく、デュースの家を振り返りながら。

*おしまい