山茶花
2024-09-11 20:24:47
9492文字
Public [シルデュ♀]受け女体化学パロ
 

君じゃなきゃダメみたい(6)【087GP007】

デュースの誕生日プレゼントを探してデートする話。

※現代学パロです。男子そのまま・女体化キャラ入り交じっています。
※独自設定が多く含まれます。
※今回はサブカプ要素ありません。


↓大丈夫な方はスクロール


 5月も終わりに近付き、この頃、雨がよく降るようになった。梅雨の時期が近付いてきたのだ。雨は、あまり好きではない。室内で過ごすことが増え、身体を動かしづらくなる。そんな折、食堂で皆で食事を取っていると、不意にエースが言った。
「そういやシルバー先輩、知ってる? デュースね、もうすぐ誕生日なんだよ」
「そうなのか? 何日だ?」
「えっと、6月3日です」
「本当にもうすぐだ。……俺と近いんだな」
 そう言えば、デュースはえへへと嬉しそうに笑う。……誕生日が近いだけでもそんなに嬉しいのか? この子は本当に、俺のことが好きなんだな……
「何か、欲しいものはあるか? なんでもいいぞ」
「この際だ、とびきりのものをねだってやれ、デュース!」
 隣でセベクが囃し立てると、デュースは恥ずかしそうに口を噤む。
「そ、それじゃあ……えっと……でも、やっぱり……
「遠慮はいらない。セベクの言う通り、好きなものを言うといい」
 俺が促すと、ようやくデュースは欲しいものを言った。
……じゃあ、あの……。一緒にお買い物とかして、選びたいです……
「そんなことでいいのか?」
 これはどうやら失言だったようで、セベクとエースから睨まれてしまった。
「え~、シルバー先輩、それはちょっとなくな~い? 彼女からデートに誘われてんだよ?」
「え、あ、デートっ!?」
「そうだ! シルバー貴様、付き合って一か月半も経とうというのに、まだデートのひとつにも誘っていないらしいじゃないか!」
「そ、それは……っ」
 ……確かに、失念していた。これでは女子たちに怒られるのも、無理はない。マレウス様をちらりと見ても、シルバーも男としてはまだまだだなと笑うだけで、助けてはくれなさそうだ。
……確かに、お前たちの言う通りだ。本来、俺から誘うべきだったな……。すまない、デュース。分かった、出かけよう。今度の週末でかまわないか?」
「は、はいっ! 大丈夫ですっ!」
 デュースは嬉しそうにスケジュール帳へと予定を書きつける。……そんなに嬉しそうな顔をするのなら、本当に俺から気付いて誘ってやれば良かった!

 そして、平穏な日々を過ごし、週末。デートの当日だ。いつもよりたくさん目覚まし時計を仕掛けて、親父殿にも絶対に叩き起こしてくれと頼み込んで、待ち合わせ当日の朝。
「これ、シルバー!! いい加減に起きんか!!」
「あと、5分……
……好いたおなごとの待ち合わせに大遅刻しても良いと言うのなら、好きなだけ寝ると良いが……わしは起こしたぞ!」
 親父殿がピシャリとドアを閉める音がしてから、10秒後。ガバリと勢い良く身体を起こしたら、もう待ち合わせの15分前じゃないか。急いで身支度をして、焼きもしないパンを適当に一枚ひっつかんで家を出る。
「すいません親父殿、ありがとうございました!! 行ってきます!!」
「気を付けて行くんじゃぞ~」
 俺が寝坊したときのためにと、昨日のうちに荷物の支度をしておいて本当に良かった。電車を降りて、走って待ち合わせ場所まで行くと、辿り着いた瞬間に時計の針は待ち合わせ時刻を指した。
「はあ、は……っ、ま、待たせてすまない、デュース」
「い、いえ、私も今来たところですから……。時間ぴったりですね、先輩」
……目覚まし時計を、いつもの倍の量仕掛けて、親父殿に叩き起こしてくれと頼みこんで……。ようやく起きたのが、さっきのことだった」
「ふふっ、そうだったんですね。急いで来てくれて、ありがとうございます」
 顔を上げると、デュースは首元まである白いニットの服に、なんだかふわふわとしたレース重ねの白いスカートを重ねて、上にはコート風の水色のジャケットを羽織っていた。
……可愛い」
「えっ、あっ……ありがとう、ございます」
 デュースは照れくさそうに髪を耳にかけて、オシャレしてきて良かった、と呟いた。俺のために、可愛い服を選んできてくれたのか…………嬉しい。これがデートというものなのか。
 元々、俺はデュースが俺のために可愛くなろうと努力してくれたところから好きになったようなものだ。そう考えると、俺のためだけに服を可愛らしく着飾り、時間を共にしてくれる今日この日の催し事は、なんというか……。もしかすると俺にとって、めちゃくちゃ幸せなことなんじゃないか?
 なんてことまで考えて気付いた。――馬鹿だな、俺は。好きな女の子を目の前にすると、それだけで俺の頭はただの馬鹿な男に成り下がってしまう。
 馬鹿なことを考えていないで、とりあえずエスコートをした方がいいのだろうなとデュースに手を差し出した。
「買い物をしたいと言っていたが、どこか行きたい店や欲しいものなどがあるのか?」
「えっと、そういうわけじゃなくって……。その、先輩と一緒に、出かけたかったっていうか……
 ……なるほど。欲しいものがあって出かけるのではなく、デートすること、それ自体が目的だったのだな。
「なら、街の店を適当に巡ってみるか。ところどころで遊びや休憩でも挟みながら、お前の誕生日プレゼントを探そう」
「は、はいっ」
 そうして俺たちのデートは始まった。プレゼント選びならば、まずは雑貨屋に入ってみようということになる。うさぎやクマのぬいぐるみが所狭しと飾られたショーウィンドウに、淡いピンクに塗られたメルヘンな壁が俺たちの前に立ちはだかる。
「こ、こんな可愛いお店っ、私が入っても大丈夫かな……
……お前ほど可愛い子がこの店に入るのに、何の問題があるんだ? ほら、行くぞ」
 遠慮がちなデュースの手を引いて店内に入ると、いらっしゃいませ、あら可愛いカップルさんですねと店員に挨拶をされる。ほら見ろ、誰も気にしてないどころか、歓迎されているじゃないか。
「さあ、お前はどんな雑貨が好きなんだ? いろいろ見てみよう」
「は、はい……っ」
 店内を巡り、いろいろなものが置かれた棚をとりあえず眺めてみる。
「良い香りがするな。入浴剤だとか、アロマキャンドルに……ポプリ? なんてものもあるらしい」
「本当だ、綺麗……
「こうしたものは好きか?」
「はい。でも、形やパッケージが綺麗すぎて、結局取っておいたまんま使えない、なんてこともたくさんあります」
「ふっ、そうなのか。それなら、実用性があるものよりも、最初から飾る目的のものの方がいいかもしれないな」
 そう言ってぬいぐるみ置き場に移動すると、大小のヒヨコをモチーフにしたぬいぐるみがぎゅうぎゅうに詰められている棚を見つけた。
「すごいな。真っ黄色だ。……デュース?」
「わああ……ふわふわ……
 手のひらサイズのヒヨコのぬいぐるみを手に取り、デュースは感動した表情を浮かべている。……これはもう、贈り物は決まったようなものだな。
「そいつが気に入ったのか?」
「あ、えっと……っ」
「隠さなくてもいい。離れがたいんだろう?」
「でも、まだこのあとも他のものを見るかもしれないし……っ」
 そう言いながらも、デュースはその小さなヒヨコのぬいぐるみに後ろ髪を引かれている様子だ。
「他にも欲しいものがあれば、また買ってやる。とりあえずソイツは連れて帰れ」
 デュースの手からヒヨコをひょいと拾い上げ、会計に持って行く。こぶりの手のひらサイズなだけあってそれほど高くもないもので、価格は1000円もしなかった。これなら、他にももう少し何か買ってやってもいいだろうと、ついでに目についたものをこっそり一緒に会計に放り込んでおいた。
 メッセージカードをつけますかと店員に尋ねられたので、お願いしますと告げ、シンプルな緑のメッセージカードに言葉を書き込む。あとで見つけてくれたときの表情が楽しみだ。ヒヨコだけが入ってるフリをして、俺はデュースに小さな紙袋を渡した。
「あ、ありがとうございます、大切に可愛がりますっ」
「ああ、そうしてくれ」
 店を出ようかと言うと、ちょっとだけ待っててくださいとデュースが言うので、待っていると、デュースは会計で何かを買ってきたようだった。
「何か買ったのか?」
「えへへっ、新しいリボンです。エースがアクセサリー作るの得意だから、髪留めにしてもらって、この子とお揃いでつけるの」
「そうか。なら、そのときはきっと俺にも写真を撮って見せてくれ。……可愛いだろうから」
 デュースの頭をぽんぽんと撫で、行くぞ、と声をかける。はい、とついてきたデュースの顔が赤く染まっているだろうことを、そろそろ見なくても分かるようになってきた。

「そろそろ昼だな。適当な店に入るか?」
「はい、先輩は食べたいものとかありますか?」
「俺は特に……
 ない、と言いかけたとき、目の前にとある店を発見した。……あの店は確か、セベクも気に入っていたな。
「なら、あの店がいい」
 俺がその店を指すと、デュースは目を丸くして驚いた。それもそのはずだろう。なぜならその店は、ウサギや少女がモチーフになった、赤いチェックを基調とした意匠の、あからさまに女性向けのレストランだからだ。
「えっ!? 先輩、あのお店に入ったことあるんですか!?」
……セベクの付き添いでな」
「なんだ、そうだったんですか。ふふっ、ひとりで入ったことがあるのかなって思っちゃいました」
「さすがに女子もいないときに入る勇気はない。だが、今日はお前も一緒だし、何より、この店は……
 お前の大好きなオムライスが腹いっぱいに食べられる店だからな、と言うと、デュースは俺の意図に気付いたようで、真っ赤になりながらも俺を上目遣いに見て言った。
……私のことばっかりじゃなくて、先輩の好きなこともしていいんですよ?」
 それがいじらしくて、つい頬が緩んでしまう。
「好きなことならしている。この店は、女子でも満足にたくさん食べられる量が出てくるとセベクのお墨付きだ。お前が大好きなオムライスを食べて、おいしそうにしている姿を見たいと思った。ダメだったろうか?」
「だ、ダメじゃないですけど……っ」
 俺たちが入口近くで立往生していると、店内から出てきた店長らしき店員が2枚のチケットを差し出してきた。
「幸せそうなカップルにだけ渡してるチケットだよ! デザート無料だから、使ってね!」
「ありがとうございます」
 俺はチケットを受け取り、デュースを横目に見やる。
「せっかくいただいたんだ、使ってしまおう、デュース」
「は、はい。そういうことなら……
 店内へ入り、メニューと水を受け取る。何を食べたい、と聞くと、デュースは真剣に迷っているようだった。……本当にオムライスが好きなんだな、と言うと、オムライスも大好きですけど、卵を使ったお料理はみんな好きです、と返事が返ってきた。なるほど、覚えておこう。
 結局デュースはシンプルなチキンライスのオムライスに決めたようだ。
「他にもいろいろあるが、普通のものでいいのか?」
「なんだかんだ言って、こういうシンプルなやつが一番好きなんです!」
「そうか。確かに、俺もそういうタイプだ」
 俺はキノコとチーズのオムライスを頼み、やがてメニューが届く。
「わあ……
 金色に輝く焼かれた玉子に目を輝かせるデュースを見て、俺は満足する。この表情が見たくて決めた店だからな。
「いただきますっ」
「いただきます」
 二人で手を合わせて、食事を取る。んーとおいしそうな声をあげながら口いっぱいに頬張るデュースを見て、やはりこの店にして良かったと思うのだった。
「こちらもひとくち食べてみるか?」
「いいんですか?」
「ああ。ほら、口を開けろ」
 自分のオムライスをスプーンでひとさじすくって、デュースに差し出す。デュースはなんだか少し躊躇っていたが、結局大人しくそれを口にした。
『ねえ、見てあそこのカップル。彼氏の子カッコ良くない?』
『ほんとだ、彼女さんあーんしてもらってる、あーんって。真っ赤になっちゃってて、可愛い~。彼氏くん分かってないのかな?』
 くすくすと近くの女性客から笑い声をあげられているのに気付いて、俺はようやく自覚する。……もしかして俺は、なんだかとても恥ずかしいことをしてしまったのではないだろうか。
「す、すまない。笑われてしまったな……
「い、いえ、おいしかったので……
 食欲に正直すぎる感想に、思わずふっと笑えば、デュースは頬を膨らませてしまった。
「あ! もう、なんで笑うんですかっ!」
 デザートのパフェが運ばれて来るまで、拗ねてしまったデュースの機嫌を取るのが大変だった。

 店を後にし、さて午後はどこへ連れて行ってやろうかと考え始めたところ、空模様が曇り始めた。
「なんだか雨が降りそうだな」
「そうですね……
 デュースは傘を持ってきていないようで、早めに帰してやった方がいいかと尋ねると、俯いた様子を見せる。
「まだ帰りたくないな……
 そんなことを呟くデュースに、俺の胸はドキリと音を立ててしまう。いや、デュースがそういう意味で言ってるわけじゃないのは分かっているんだが。
……その辺りの店だとか、施設に適当に入って時間を潰してもいいが……お前さえ良ければ、また家に来るか?」
「えっ!? ……い、いいんですか?」
 慌てた様子のデュースに、俺は答える。
「その、俺のために可愛い恰好をしてきてくれたんだろうから……特別な服なんだろうと、自惚れている。なら、雨や泥で濡らしてやりたくはないから……
 そう言えば、デュースは、お邪魔してもいいですか、と尋ね返してくる。クッションだけ追加で買わせてくれと頼んで、家具屋に寄って帰ることになった。

「どのクッションがいい?」
「私が選んでいいんですか? 先輩のお部屋に置くものなのに……
「ああ、他の来客用と、お前用で買うからな。お前用のはお前が好きなものを選べ」
「わ、分かりました……
 他の来客用のクッションを適当に選び、カゴに入れてデュースの元へ戻る。デュースはクッションのデザインにずいぶん悩んでいるようだ。
「そんなに悩まなくても、好きなのを選べばいい」
「で、でも、先輩のお部屋にあんまり可愛いクッション置いたら浮いちゃうんじゃ……
「それの何が悪いんだ? 他の人間が遊びに来たときにも、お前用だと分かりやすくて良いと思うが」
 じゃあこれ、とおずおずとデュースが差し出してきたのは、ネコの肉球の形をしたクッションだった。水色の下地にピンクの肉球がついていて、とても女の子らしく可愛いデザインだ。これが俺の部屋にあれば、明らかに女子のものだと分かりやすくて良い。
「ヒヨコじゃなくていいのか?」
「ど、動物の形のやつは、座ってつぶれちゃうのが可哀想で座れないので……
 そうか、と笑って俺はデュースの持って来たクッションもカゴに放り込み、会計へと進んだ。

 だんだんと霧雨が降り始めた頃、ようやく家に辿り着く。
「おお、お帰りシルバー。早かったのう……ん? なんじゃ、デュースも連れてきたんか」
「雨が降りそうだったので、連れてきました。部屋で自由に過ごしていますので、親父殿はおかまいなく」
「お邪魔します、ヴァンルージュ先生」
「うむ、わしはこのあと少し出かけるからな。ゆるりと過ごすが良いぞ」
「何か用事がおありだったのですか?」
 俺が親父殿に尋ねると、親父殿はすれ違いざまに俺に囁いていった。
「お前のために席を外してやるっちゅうとるんじゃ! 分からんかい!」
……親父殿! 余計な気遣いは……!!」
「じゃあの~! セベクかマレウスのところにでも顔出してくるわ! 晩には帰ろうぞ!」
 そして親父殿は、止める間もなく家を出て行ってしまった。……出来たら二人きりにはしないでもらいたかったのだが……
……はあ。ともかく、部屋へ入ってくれ」
 俺が促すと、デュースは分かりました、と部屋のドアを開く。その直後、俺は慌てて部屋へ入るデュースを追いかけた。
「や、やっぱり少し待ってくれ! そういえば今朝、取るものも取らず出ていったから、部屋を散らかしたままだった!!」

 急いで部屋を片付け、ようやく落ち着いてデュースを招き入れる。買ってきたばかりのクッションを出してタグを切ってやり、デュースにほら座れと声をかけた。
「失礼します……、わ、ふわふわ!」
 可愛い恰好をした可愛い女の子が、可愛いクッションに座ってる。なんだこの可愛い生き物は? いつも朝から寝坊しかけてバタバタと騒いでいる俺の部屋で起きてるとは思えない出来事だ。
「何か、飲み物を入れてくる。ココアとコーヒーどちらがいい?」
「ココアがいいです!」
「分かった」
 階下へ降り、自分用のコーヒーとデュース用のココアを淹れて、部屋へ戻る。ココアを淹れたマグカップを手渡してやると、ありがとうございますと受け取ったデュースがふう、とマグカップに息を吐いていた。……あれは、実を言うと俺のマグカップのひとつだ。来客用は他の男も口をつけたりするから、なんだかそれが嫌で俺のカップをなんとなく選んだ。俺はこんなに心が狭かっただろうかと考えながら、とりあえず部屋の中で落ち着いたひとときを過ごす。
「すまないな。部屋へ来いとは言ったものの、何か、遊べるものだとか時間を過ごせるものだとかはろくに持っていなかった」
「先輩、真面目な人ですもんね」
「代わりと言ってはなんだが、この部屋にあるものは自由に見ていいぞ。見られて困るものは置いてない……はずだ、たぶん」
 そう言われて何か探したのか、デュースはきょろきょろと辺りを見回す。そして、本棚にある一冊のファイルに目をつけたようだった。
「あ! じゃあ、あのアルバムが見たいです」
「アルバムか? いいぞ、ほら」
 本棚からアルバムを抜き出し、デュースに見せる。最初のページを開くと、赤子の姿の俺が写真に収められていた。
「わあ、可愛い。赤ちゃんの先輩だ~」
「親父殿が、毎年の誕生日には必ず俺の写真を撮っていてくれた。そのアルバムだ」
「先輩は、ヴァンルージュ先生の養子なんでしたっけ。たくさん可愛がってもらったんですね」
 そういえば、デュースには俺の家の事情をちゃんと説明したことがなかった気がする。まあ、俺や親父殿、セベクがマレウス様の護衛であることは隠していないし、学園でも噂になっているだろうから、大体の事情はうっすらとでも把握しているのだろうが。
「ああ、そうだ。俺の本当の両親は、俺が赤ん坊のとき、花見に行った際、橋の崩落事故で亡くなっている。親父殿からは、先日の誕生日にその実父と親父殿との関係を聞かせてもらった」
「お友達、だったんですか?」
……分からない。あれは友人と言うのか、そうでないのか……。ただ、二人にしか分からない繋がりは確かにあったのだろうな、と思う。……きっとその縁で、俺が引き取られたんだ。確か、親戚筋には他に赤子を育てたい引き取り手もいなかったそうだから、親父殿が引き取り手になるのはそう難しくなかったそうだ」
「そうなんだ……
 デュースはしんみりした顔をする。
「そう暗い顔をするな。俺は、引き取られたあと、親父殿と同じようにドラコニアの家に仕えることになったが……俺はそれを幸せであり、誇りに思っている」
「ドラコニア先輩、いい人ですもんね」
「ああ。……俺の仕えるべき主君が、マレウス様で良かった。昔から尊敬していたが、最近は特にそう思う。マレウス様が、俺を男友達のようにも扱ってくださるからだろうか」
 そうして二人でしばらくアルバムを見て、思い出話に花を咲かせる。雨音が窓を叩く中、こんな風に穏やかなひとときを過ごすのも、コイツとなら悪くないと思った。

 やがて空が暗くなり、カーテンの先の窓の向こうが薄暗闇に包まれる。カア、カアとカラスの鳴き声がして、そろそろ帰らせた方がいい時間帯だということに気付く。
「今は雨も弱まっているようだな。そろそろ帰るか? 送っていくぞ」
「はい、お邪魔しました」
 デュースは立ち上がり、スカートを軽くはたく。玄関へ赴き、傘を一本取ってデュースを待った。
「行くぞ」
「はい」
 小雨の降る中、一本の傘を持ち、デュースと共に水たまりの道を歩いていく。
「デュース。あまり離れると、お前が濡れてしまう。……もっと近くに身体を寄せていろ」
「は、はい……
 デュースが濡れないようにと傘を差しかけて、俺の右肩は濡れていく。曲がり角の先へ差し掛かった時、速度の速い車が隣を通って、水たまりを跳ねあげていった。咄嗟に水たまりに背を向け、デュースを庇う。
「危なかったな。お前は濡れなかったか?」
「は、はい、私は……。でも、先輩が濡れちゃいました」
「俺は良い。気にするな。お前を守れて良かった。……人から見ればほんのささいな泥水からでも、お前を守ってやりたい」
 デュースの手を取り、その甲にくちづけると、デュースは、王子様みたいと小さく呟いて、ぎゅっと身体をちぢこめてしまった。

 やがてデュースの家の前に辿り着き、俺はデュースに別れを告げる。
「今日はありがとう、お前とひとときを過ごせてとても楽しかった」
「そんな、私こそ……。いっぱいドキドキして、嬉しかったです。ありがとうございます」
 ヒヨコちゃんも可愛がります、とデュースはヒヨコの入った小さな紙袋を見せびらかして言う。……そういえば、あの中に入れたものはデュースは見つけてくれるだろうか。驚いた顔が近くで見られないのは少し残念だが、まあ、まだ知らないフリをしていよう。
 それじゃあ俺はこれで、とデュースの家の前から立ち去る。数歩ほど歩いてからもう一度顔が見たくなって振り向くと、デュースはまだこちらを見送ってくれていた。
 そんなデュースに手を振って、曲がり角を曲がる。今頃、デュースは部屋に戻って、ヒヨコと共に入れたプレゼントを見つけてくれただろうか。
 俺がデュースに贈ったのは、手乗りサイズの小さなヒヨコのぬいぐるみと、それから、金箔と花びらの入った、銀の柄をした透明な口紅。もし肌に合わず使うことができなくても、部屋のインテリアか何かにはなりそうだと決めたものだ。その場で名入れをしてもらえるとのことだったので、デュースの名も入れてもらった。
 アイツは女の子らしさにこだわっていたから、きっと見た目に華々しい化粧品は喜んでくれると思ったんだ。そういう雑貨のひとつですら、俺がデュースに似合うと思っているのが伝わったらいい。……俺が本当に、デュースのことを心から可愛いと思っていることが。
 最後に、口紅の箱に差し込んでもらったメッセージカードに書いた言葉を思い出す。
『誕生日おめでとう、デュース。生まれてきてくれて、俺と出会ってくれて、ありがとう。』
 それは今の俺にとっての、心からの本音だ。今頃どんな顔でその言葉を受け取ってくれたのだろうと想像しながらつく帰り道は、とても心躍る心地がした。

*おしまい