山茶花
2024-09-11 20:23:32
4370文字
Public [シルデュ♀]受け女体化学パロ
 

君じゃなきゃダメみたい(5.5)【086GP006】

誕生日、シルバーがリリアから実父の話を聞く話。

※現代学パロです。男子そのまま・女体化キャラ入り交じっています。
※独自設定が多く含まれます。
※番外編のため、CP要素はありません。
※本編7章のネタバレが含まれます。


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 デュースを送り届けた後、親父殿は家に誕生日のケーキを用意して待っていてくれた。こんな短期間に何度もケーキを食べることは少なかったから、新鮮な心地がする。
 親父殿は、二人で取る少し豪勢な夜食の中で、ぽつりと話し始めた。
……お前の父親も、恋人といるときは大層幸せそうにしておったよ」
 今のお前と同じように、と親父殿は呟いた。俺は、この話が聞けることに、少し驚いた。――親父殿は、昔のことや、俺の実父の話を、今までほとんど俺に語らないでいた。幼い頃はそれとなく聞くこともあったが、そのうち、何か俺に知られたくない事情があるのか、それとも話せない事情があるのかと察した頃から、自ら尋ねることはしなくなったのを覚えている。だから、親父殿が自分からこんなことを話してくれるのは少し意外だった。
「話して、くださるのですか?」
 そんなことを聞けば、別に隠しているわけじゃないわと親父殿は俺に告げた。
「長い話にもならん、短い話じゃからな。……話さなかったっちゅうよりは、話せなかった、ちゅうほうが正しい。それでも良ければ、話してやろう。わしと、お前の本当の父親との話を」
 お願いします、と俺が言えば、親父殿は語り始めた。



 ――わしは幼い頃、孤児じゃった。身寄りのない子ども、っちゅうやつじゃな。それで、孤児院で育っておった。お前の父親も、同じように孤児として、同じ孤児院におったよ。
 それで、しばらく同じ部屋で暮らすことになったんじゃが……。わしとあやつはあまりソリが合わなくての。なんせ向こうは無口で、ほとんど喋らんでひとりで黙っているようなやつじゃった。同じ部屋で暮らしていようと、それぞれ好き勝手に就寝時間に帰ってきてはベッドで寝るだけ。ろくな会話もしとらんし、一言も交わさない年すらあったぞ。
 ま、今思えば、向こうはいつもモジモジと何かを言いたそうにしとったから、本音を言えば仲良くしたかったんかもしれんが……わし、その頃はちょっとした暴れん坊のやんちゃ坊主でのう。あやつのように大人しい子どもとは、うまくやっていける気もせんかった。……今とは違ってな? じゃから、自分からは関わろうともしなかったんじゃ。
 やがてわしはそのやんちゃ坊主の身体能力を見込まれ、ドラコニア家に引き取られることになったのはお前も知るところじゃな。引き取って世話をする代わりに、命に代えてもドラコニアの一族を守れと護衛の技を叩き込まれたわい。良いっちゅうたのについでにと大学にまで放り込まれ、教員免許も取らされたぞ! まあ、感謝しとらんとは言わんがな。
 で、それと同じような時期に、あやつの方もなんぞ金持ちの家に引き取られていったわ。それが偶然にもドラコニア家と多少なり関わりがある一家でのう。といっても、あまり良い噂を聞く家ではなかったが、年末年始の会合やらでは、たまに姿を見かけておったわ。
 あやつの方も、わしと同じようにその金持ちの家の護衛として身元を引き受けられたようで、毎回見かける度、身体は徐々に鍛えられておって、生傷も耐えていなかったようじゃな。ぱっと見じゃと家でひどい扱いでも受け取るんかと思ったが、よくよく耳をそばだてて聞けば、わしと同じように護衛の技をしごかれとるだけじゃったわ。
 ……ん? ああ、なぜ伝え聞きのように喋るのか、じゃと? それはなあ、別に会合で姿を見かけても、親しく挨拶をしたり、話すような関係ではなかったからのう。向こうもわしのことなぞ覚えておらなんだと思い、別段、詳しい話をしたわけでもないんじゃ。だからこの話は、すべてわしの推測によるものなんじゃよ。だから言っとるじゃろ? 長い話にもならん、話すにも話せなかったほど、何もない話なんじゃと。
 で、じゃ。わしはドラコニア家に引き取られて、良い思いも嫌な思いもそれなりにしてきたが、それは向こうも同じような感じだったと思われるわ。
 引き取り先の男はあまりあやつにとって喜ばしくない性格のようじゃったが、そこの娘さんと喋っているときは、本当に幸せそうな顔をしとった。……それこそ、今のお前とソックリじゃったぞ。
 それを見て、わしはなんとなく安心したんじゃよ。ああ、アイツも勝手に、自分自身で幸せになれるんじゃないか、と。……わしはそれまでどこか、あやつのことを可哀想だとか弱いとか思っていたんじゃろうなあ。傍から見れば、大して変わらんっちゅうに。
 それでひとまず勝手に幸せそうなあやつを見て、わしもなんとなく気にかかっていたもんが降りた気がしとったんじゃ。肩の荷っちゅうほど気にしていたわけではないが、どこか心に引っかかるようなもんがな。
 ……それからしばらくは、本当に何もなかったわ。たまに会合で姿を見かけて、ああ、あやつもわしもまだ生きとるらしいなっちゅうのを確認するだけ。何かを話すわけでも、目を合わせるわけですらなかったわ。仲睦まじそうな娘さんをそのまま嫁に取ったと聞いたときでさえ、わしはおめでとうの一言すらかけてやらんかった。絆というにはあまりにも脆く、関係っちゅうにはあまりにも希薄。顔見知りと言えば顔見知りじゃが、それ以上でもそれ以下でもない。ただ一方的に、あやつが生きてることを見て、なんじゃ、今年も生きておったんかと思うだけ。それがわしとあやつの関係じゃった。
 ある日のこと。そんな確認作業が途絶えた。あやつとその嫁さんが、姿を見せない日があった。なんとなく落ち着かんような胸騒ぎがして、そちらの家の者たちに、あやつらはどうした、顔を見ないぞと尋ねてみたら、実は三日も前から二人とも帰っていなくて、と返事が返ってきた。
 二人は、生まれたばかりの子どもに鮮やかな桜の花を見せてやりたいから、山へ花見に行ってくると言い残したきり、帰ってきていないのじゃと。捜索隊が既に山に入っておるとは聞いたものの、わしは正直、居ても立ってもいられんくなった。
 とはいえ、主君たちを何が起こるか分からん会合に置いていくわけにもいかんかったから、皆が寝静まる夜を待って出発した。昔の相当おてんばじゃった若い頃ならマレノア様も着いてこようとしたじゃろうが、さすがにまだ1歳の幼いマレウスを腕に抱いておったからには、わしのことなど気にも留めておらんかった。
 それで、わしはひとり夜の山に分け入った。5月の時期に咲く桜ならば、まだ気温の低い上の方にあるじゃろうと、とにかく桜を捜して山を登り、そして、日が昇りそうになった頃にようやく見つけたのは、一台の車が崩れた石橋の傍に止まっておる姿じゃった。橋の向こうには、満開の桜が咲いておって……
 ……何が起こったのかを、瞬時に理解した。きっと、車を止めて橋向こうの桜を見に行こうとしたとき、親子もろとも古くなった橋の崩落に巻き込まれ……
 斜面を滑り降りて、川沿いに『どこだ』と呼びかけながら歩くと、やがてかすかな返事が聞こえてきたわ。声に耳を澄まして、そっちへ近寄ると、崩落に巻き込まれたときにあちこちの骨が折れ、内臓に刺さったんじゃろうな。川の中から這ってきたようで、身体も冷えておった。そんな息も絶え絶えのあやつが、先に力尽きたらしい嫁さんの遺体に寄り添うようにそこにおった。そこでわしは呼びかけようとして、困ったわ。……何度も顔を合わせてきたっちゅうのに、そんなときに呼びかけてやれる名前のひとつも知らんかったんじゃ。
 向こうはわしのことを分かっておったのかは定かではない。もう虫の息じゃったからな。ただ、わしを一目見て、あやつは笑ったんじゃ。
『息子、を……頼、む……
 意識を失おうとするあやつに、必死で声をかけたが、無駄なことじゃったよ。
『おい! 勝手に頼んで勝手に死ぬな! テメェのガキくらい自分で面倒見ねえか! オイ、こんなとこでくたばってんじゃねえ!! オイ!! ……くそっ! お前はこんなところで、くたばるタマじゃねえだろ!? 俺と同じで、しぶとい野郎なはずだろ……!!』
 そうしている間にもやつの体温は徐々に冷えていき、やがて目の前で事切れた。ただの顔見知りとはいえ、知り合いの死など、あまり気分の良いものではない。なんとも言えず暗い気分に浸っておると、どこからか泣き声が聞こえたんじゃ。赤子の泣き声じゃった。
 声のする方に近寄ってみると、なんと、小鳥たちが止まる茨の先に、元気に喚いて泣く赤子がおるではないか。それも、不思議なことに、森の茨に守られるように囲われておる。……あの死に体の両親がこれをできたとも思えぬし、しかして、崩落の衝撃で放り出されたにしては、赤子には茨の棘で傷ひとつついておらぬ。なんとも不思議なことよ、とその茨を分け入り、その子を抱き上げた。目を開けたその子は、髪こそ銀色をしておるが、あやつと同じオーロラ色の目をしておって……。確かめずとも一目であやつの子じゃと分かったよ。それがお前じゃ、シルバー。



 そこまで語ると、親父殿は一息をついた。
「あとはお前も知っての通り、わしがお前を引き取って育てたんじゃ」
「そう、だったのですね。……なぜ、今になって、俺にその話を?」
 俺が尋ねると、親父殿は答えた。
……そうじゃなあ。お前が恋を知ったと聞いた日から、薄々話してやるべきかとは思っとったんじゃ。お前も、来年は18……。成人する歳じゃしなあ」
 そうは言うが、と親父殿は続ける。
「何、単に……思い出しただけの、年寄りの昔話なのかもしれんよ。近頃のお前を見ていると、嫁さんと一緒にいて幸せそうじゃったあやつの横顔を、なんとはなしに思い出すからな」
 そうじゃ、ほれと言って親父殿は俺に何かを差し出した。……それは、俺の瞳と同じ色の、オーロラ色の指輪だ。
「それはあやつが常に身に着けておった、唯一の形見じゃ。この話をしたついでじゃ。これからは、それはお前が持っておれ」
……分かりました。話してくださって、ありがとうございます」
「うむ。また、何か思い出すことがあれば、そのときは話してやろうぞ」
「はい」
 食卓が終わり、自室に戻る。机の引き出しを開け、そこに布を敷いて指輪をそっと置いた。……顔も知らぬ、俺の本当の父。お前たちの顔は本当に瓜二つじゃぞと親父殿は言うが……
「あなたは、幸せだったのですか?」
 指輪に向けて問いかけると、わずかに指輪が光り、煌めいたような気がした。

*おしまい