山茶花
2024-09-11 20:22:05
13490文字
Public [シルデュ♀]受け女体化学パロ
 

君じゃなきゃダメみたい(5)【085GP005】

シルバーの誕生日にキスをする話。※サブカプ要素濃いめ

※現代学パロです。男子そのまま・女体化キャラ入り交じっています。
※独自設定が多く含まれます。
※今回はシルデュの他にマレセベ♀、リドエー♀要素が含まれます。サブカプ成分濃いめ。


↓大丈夫な方はスクロール


……
 すう、と深く息を吸い込む。明日は俺が親父殿に引き取られた日である、5月15日。俺の誕生日だ。そんな誕生日を目前にした夜に、ひとり自室のベッドサイドで、俺は――
『やあっ、シルバーせんぱい、そんなとこさわっちゃ、だめ……っ』
 ……デュースの、あられもない姿を想像し、自分のものを慰めていた。誓って言っておくが、これは俺が自ら望んでのことではない。ただ、こうでもしないと夜中に妙な夢を見て、それで勝手に夢精してしまうから、そうなる前に体調管理の一環として、事前に処理しておくべき必要があるというだけなんだ。だから、俺がアイツのことを進んで邪な目で見ているとか、そういうわけではないんだ。それに、恋人がいるのに彼女以外で性欲処理をするというのも、不貞のようで良くないだろう。だからだ。だからこんなことをする羽目になってるんだ!
『あっ、あんっ、先輩、シルバー先輩、私、もう……っ』
 誰に言い訳するでもないそんな言葉を頭の中で繰り返しながらも、一方で服も髪も乱して俺を求める淫らなデュースの姿を妄想する俺の頭は止まらない。……ああ、あの柔らかな感触に、肌に、もっと触れて、俺の好きに乱してしまいたい……!!
「くっ、デュース……っ」
 やがて想いの高まりと共に、俺の中から力と何らかの液体が抜けていく感覚がする。手早く後始末をして、それから大きく溜め息をついた。
「はあ……
 ……この頃、いつもこうだ。初めてのキスをしたとき、欲が暴走してデュースの胸を揉んでしまって以来、俺の欲は留まることを知らない。だから、また暴走してしまわないようにとこうして適宜処理しているのだが、事が済んだあとはいつも大きな罪悪感と後悔に襲われる。
……すまない、デュース……。俺は汚れた存在だ……
 今頃、彼女は何をしているのだろう。きっと、暖かな部屋の中で、明日の登校準備でもしているのだろうな。それに比べて俺は、なんと情けない……。毎日こんな風になるのは、あまりにも俺の欲が深いのではないかと心配して、恥を忍んで保健体育教師でもある親父殿に相談したところ、親父殿は、年頃の男ならそれくらいで健康じゃ、そう気に病むなと言ってはくれたが、やはりなんというか、デュースという綺麗なものを、俺の身勝手な欲で汚してしまっていることへの申し訳なさが次から次へと襲ってくる。アイツは俺のことを、物語に出てくる小奇麗な男のように思ってくれているのだろうに……。実際はこんな欲にまみれた凡俗な男だと知られたら、どう思われるのだろう。
 俺は頭を振って、気分を切り替える。俺が男として生きていく上で、生理上必要なことなのだから、仕方ないんだ。これについては、割り切るしかない。欲を言えば、もう少し落ち着いてくれると嬉しいのだが、親父殿が説明するには、男の思春期というのは男性ホルモンが活発になる時期だから、他の男も大して変わらない目に遭っているそうではあるが…………だとするとまさか、マレウス様も俺と同じように? いやいや、さすがに失礼だろう。ほんの少し湧いてしまった好奇心をかき消して、明日の球技大会の準備を始める。
 そう、明日は球技大会だ。俺は男子の組で、バスケットボールの試合に出場することになっている。マレウス様は確か、ドッジボールに出られるのだったか。あとの女子たちはみんなバレーだと言っていた気がするな。身体を動かすのはいい。身体を動かしていれば、余計な欲も発散されるし、眠くもならない。俺は人よりも睡眠時間が多い体質らしく、授業中もよく眠ってしまうから、身体を動かしていられるのは本当に助かることだ。
 裏でこんなに情けない姿を晒している分、せめて彼女の前では恰好をつけようと、柔軟体操をして軽く体をほぐしてから眠ることにした。

 翌朝。いつも通りマレウス様とセベクと合流する。すると、二人とも俺と会うなり言祝いでくれた。
「おはよう、シルバー。そして誕生日おめでとう」
「私からも祝ってやろう。誕生日おめでとう、シルバー!」
「ありがとうございます、マレウス様。それに、セベクも」
「今日は放課後に部活がなく、時間があるからな。祝いの品はあとで渡すことになっているから、忘れず受け取れよ、シルバー!」
「ああ、ありがとう」
「ふふ、今年は僕とセベクが二人で選んだ品だ。放課後を楽しみにしておいてくれ」
「それは……本当に、とても楽しみですね」
 二人と共に校門まで向かい、そして学園内に入り二人と別れると、俺を見つけたらしいデュースがタタタと駆け寄って挨拶をしてくれる。
「おはようございますっ、シルバー先輩!」
「ああ、おはよう」
 今日は球技大会だからなのか、今朝のデュースは部活動の服装と同じように髪を束ねている。……それが銀色のリボンなのは、俺のせいだとうぬぼれていいやつだろうか。
「髪、今日も結んでるんだな。……似合ってる」
「え、えへへ……ありがとうございますっ」
 そして、二人並んで下駄箱まで歩く。いつもと変わらない朝の光景だ。普段はここでそれぞれの教室へと別れていくのだが、今日はこのまま更衣室で着替えて、体育館に集合して良いことになっている。
「今日の球技大会、頑張ろう」
「はいっ! 先輩はバスケでしたよね? 私、一生懸命応援しますね!」
 二人で体育館へ入り、それぞれの更衣室へと向かった。

 やがて開会式を経て球技大会が始まり、すぐに俺の出番がやってくる。一年女子のバレーはまだトーナメントの順番が後のようで、エースとデュースが2人で俺の試合を応援してくれていた。セベクとマレウス様の姿は見当たらないが、まあ、恐らくトーナメントの順番が来たか、二人でどこかで休憩しているかのどちらかだろう。
 試合開始のホイッスルが鳴り、俺はパスされたボールを受け取る。落ち着いてやれば負けることはないだろうと、敵陣を抜いていく。このままシュートを決めてしまおうとしたとき、応援の声が響いた。
「シルバー先輩、頑張れー!!」
 それは、夢にまで見た愛しいデュースの声で。それを聞いた瞬間、俺の中の何かが騒ぎ出す。少しくらい、彼女にいいところを見せたがってもいいだろう? ……俺は、あそこで応援してくれているデュースの『彼氏』なんだから。
 ゴール下までボールを持って行き、レイバックシュートを決める。どうやら無事にボールはゴールを抜けたようで、わあ、とギャラリーから歓声が上がった。エースとデュースが手を握り合ってすごいすごいとはしゃいでいるのも横目に見える。
「このまま次も獲るぞ!」
 チームメイトを鼓舞し、相手チームからボールを奪い続ける。試合が終了する頃には、すっかり敵チームから睨まれていた。ありがとうございました、と一礼をしてゲームが終わった瞬間、相手チームにいた同級生から絡まれる。
「シルバーお前ちょっとは容赦しろよ! 何彼女に応援されてその気になってんだよ!」
「すまない、いいところを見せたくて、ついやりすぎた」
「うわ~、コイツ! 否定しないの腹立つ! 俺らもいいとこ見せたいっての! 見せ場寄越せっての!!」
 試合の中では敵のチームだった同級生が、楽しそうに俺をもみくちゃにしてくる。清々しくて良い友人たちだ。そんな俺に差し入れを持ったデュースが近寄ってきてくれた。
「先輩、まずは初勝利おめでとうございます! これ、タオルとドリンクです」
「ありがとう」
「次は私の番ですね! 頑張るので、応援しててください!」
「ああ。ちゃんと見に行く、頑張れ」
 俺は同級生たちの恨めし気な視線に、じゃあ俺は彼女の応援に行くからと手を振って立ち去る。背後から、男たちの声によるシルバーのイケメン! 色男! 男前! 彼女持ち! だとか、そんな罵倒にすらなっていない罵倒が浴びせられるのを思わず笑って聞いていた。

 場所を移動し、デュースたちのバレーを見守る。周囲のギャラリーがほとんど女子なので少し居心地が悪いが、応援すると約束したからな。男の応援が物珍しいのか、なんだか視線を集めてしまっている気はするが……
「お前も応援に来たか、シルバー」
「マレウス様。マレウス様も、セベクの応援にいらしたのですか?」
「ああ。先ほどまでは少々乳繰り合っていたが、もう試合の時間だからと逃げられてしまってな。渋々応援に来たというわけだ」
……そ、そうでしたか」
 幼馴染のそうした事情を堂々と聞くのは、多少気まずいものがある。特にセベクは、俺にとっては妹のように育ってきたやつだから。その辺の機微を、マレウス様に問うわけにもいかないのだが。
 ともかく、男一人での応援よりは心強い。マレウス様がいてくださることに感謝して、俺は女子バレーの光景を眺めた。
「頑張れ、デュース!」
 デュースはなかなか運動神経がいいようで、自チームに次々とあげられるトスからアタックを決めていく。
「ほう、スペードもなかなかやるな」
 相手をしているセベクのブロックも、女子にしては高い身長を活かしたもので、なかなか堂に入っている。見応えのある試合だ。しかし、どうやらマレウス様は違うところを見ていたようだ。
「女性が行っていると、なぜ、同じ競技でも男がするのよりも華やかに見えるのだろうな?」
……マレウス様にも、そうした感性がおありなのですね……
 何を言う、とマレウス様は笑う。
「この僕とて、好いた女性の前には一介の凡俗な男に成り下がる。お前にも身に覚えがあるのではないか?」
 俺は昨夜のことを思い出し、マレウス様の言葉を否定しきれない。
……ない、とは言い切れないですね……
 良い良い、とマレウス様はまた笑った。
「ふふふ、実はお前に恋人ができたと聞いたときから思っていたのだ。これからは、男同士の話ができるな、と」
「別に、それは以前でも出来たことではないのですか?」
「何を言う。以前のお前と来たら、ただの堅物だっただろう。だが今のお前は確かな実感を伴って僕の話についてきてくれる、それが喜ばしいのだ」
「は、はあ……
 俺たちがそんなことを話していると、試合が終わった。結果は、セベクのいるクラスが勝ったようだ。
「悔し~! せっかく先輩が応援してくれたのに、負けちゃいました!」
「はっはっは! 私にはマレウス様の応援がついているからな、無敵だぞ!」
 試合を終えた二人が、俺たちの元に駆け寄ってくる。俺はお疲れ様、とデュースの汗をタオルで拭ってやった。すると、また周囲からヒソヒソと声がする。
『ホントに付き合ってるんだ……
『え~、ショック……なんでアイツが……?』
 未だに残る女子からのざわつきと、デュースに向けられる敵意の視線に、俺はいい加減にしてくれという気持ちになる。
「文句があるのなら、俺に直接言ったらどうだ?」
 ざわつく女子を睨みつけると、やだ、とか怖い、だとか勝手なことを呟き、女子たちはそそくさとどこかへ去っていった。……まあいい。俺に幻滅して、デュースヘの態度を軟化してくれるなら、それはそれでかまわないことだ。
 行こう、とデュースの手を引き別の場所へ移動しようとする。すると、別の女子から呼び止められた。
「あの、シルバー先輩っ! これタオル、どうぞ!」
「は……
「さっきの試合、すごい恰好良かったです……っ!! 良かったら、受け取ってくださいっ!」
 俺は硬直する。この女子には、俺がデュースの手を引いているのが見えているよな? というか、先ほど俺が、女子たちを睨みつけたのも見ていたんだよな……? デュースの顔をちらりと見ると、ものすごく不機嫌そうに膨れて、眉をしかめている。……それはそうなるだろうな。俺だって、俺がいることを無視してお前に言い寄るような男がいたら、そうなるぞ。俺は以前エースに言われた『好きじゃない子には勘違いさせるな』という言葉を思い出して、わざと冷たい印象になるように女子の申し出を断った。
「すまない。もう彼女に用意してもらったから、君のは必要ない。試合を頑張ったのも、君じゃなくて、彼女にいいところを見せたかったからなんだ。……そういうことなので、俺は失礼する」
 そう言ってデュースの手を引き、別の場所へと移動する。なんだか散々な誕生日だなと内心で呟き、溜め息をついた。昼休みを知らせるチャイムが、バレーボール会場を後にする俺たちの耳に響いた。

 体育館の片隅で、俺はぷん、と頬を膨らますデュースに困り果てていた。
「先輩って、分かってましたけど……。すごく、すごーーーくモテるんですね!」
……
 デュースはすっかりご機嫌ナナメだ。俺は困ってしまう。拗ねた彼女の機嫌の取り方なんて、俺は教わってないんだ。
「すまない、機嫌を直してくれないか?」
……先輩に怒ってるわけじゃないんです。でも、私、他の女子から見て、そんなに勝てそうに見えるのかなって。……ああいうことするのって、私からだったら先輩を奪い取れそうって思ってるわけで……ほんと、いい度胸してるなって思うんです!!」
 デュースはメラメラと闘志を燃やしている。……不良だった頃の闘志が出てきてしまっていないか?
「デュース。俺はああいうやり方をする人は、そもそもあまり好みでない。だから、お前が負けることはない」
 だから、と俺は続ける。
「そんなに不機嫌な顔をしないでくれ。せっかくの誕生日に、お前にそんな顔をさせてはいたくない」
 俺がそう言うと、デュースはきょとんと目を丸くした。
「たん、じょうび……?」
「ああ」
「先輩、今日お誕生日なんですか?」
「ああ、そうだ。生まれた日ではなく、親父殿に引き取られた日だが……今日を誕生日としている」
「やだ! 私、全然知らなくて……! ごめんなさい、プレゼントも持ってきてなくて!」
「言ってなかったからな。知らなくても無理はない」
 とりあえず落ち着いたなら昼食でも食べようと言うと、デュースは言った。
「あっ、そうだ。私、今朝早起きして、お弁当作ってきたんです。母さんと一緒に……。シルバー先輩に、食べてもらえたらなって思って」
 食べてくれますか? とデュースは尋ねる。俺は二つ返事でこれを承諾した。
「ああ、もちろん」

 デュースが作ったという弁当は、女子らしく可愛らしいものだった。ウィンナーがタコのように足を切られていて、小さなゴマで何とも言えない顔がつけられていたり、卵焼きが砂糖で甘めに味付けられていたり。ミートボールを刺すピックも、つまようじなどではなく、わざわざ星やハートの書かれたデザインのものになっていたり。白米にはでんぶや玉子、そぼろが乗せられていて、全体が彩り豊かで見目華やかだ。俺が弁当を作ったら、こうは行かないだろうな。なんというか、全体的に茶色くて、無骨なものになる気がする。
「いただきます」
 デュースの作ってくれた弁当をひとくち食べる。
……うまい」
「本当ですか!? 良かったぁ……
「本当だ。嘘じゃない。毎日でも食べたい」
 俺は、実を言うと、以前から女性にはひとつだけ求める好みがあった。それは、料理が下手ではないこと。上手までは求めない。食べられるものを作れたら、それでいい。下手でさえなければそれでいいんだ。……俺の親父殿は、男手ひとつで血のつながりもない俺を育ててくれた、そのことには本当に感謝している。とはいえ、食事だけは……その……褒められた腕前ではなかった。だから、もし伴侶になるのなら、最低限食べられるものを作れる人がいいと常々思っていた。デュースは無事それに当てはまってくれたようで、わりと心から、本気で嬉しい。
「ま、まいにち……? それって……
 そんな考えのせいか、ポロリと出てしまった言葉がデュースを照れさせる。
「あ、いや、今のはその、思わず言ってしまっただけで……っ」
「で、ですよね! 分かってます、私分かってますから!!」
「いつか言うから! ちゃんと、もっとまともに……!!」
「い、いつか言うの……っ!?」
 俺たちは二人で顔を抑えて、真っ赤になる。ここが他の同級生たちも思い思いに食事を取っている、体育館の片隅なのだということも忘れて。だがこれには思わぬ効果があったようで、またまわりの女子たちの声が耳に入ってきた。
『え……? もっとクールだと思ってたのに、なんかイメージと違う……
……なんか、冷めちゃった』
 どうやら、午前中の出来事と併せて、いくらかの女子は俺に対して幻滅してくれたようだ。まあ、かまわない。かまわないのだが……じゃあなぜ、今まで君たちは俺の何を求めていたんだ……? という気分には少しなる。とはいえ、そんな些末なことよりも、今はデュースの……彼女の手作り弁当というものを堪能しようと、また箸を進めた。

 それから午後の球技大会も難なく終わり、放課後。イベントによって部活動は休止されているから、今日は帰りに寄り道をする余裕もある。どうやら女子たちは球技大会の間に放課後の計画を練っていたようで、エースとデュースとセベクの三人で買い物に行くのだと言っていた。
 マレウス様も彼女たちと共に街を散策したいと仰るので、俺も荷物持ちとしてついていくことになった。俺たちが着いていくと申し出ると、デュースとセベクはなぜか顔を赤くして、気まずそうにした。エースは、『ついてきてもいいけど、先輩たち。後悔するかもよ?』と笑って言った。
 その言葉の意味は、街に出てすぐに分かった。彼女たちがまっすぐに向かっていったのは、女性用の下着店……ランジェリーショップだ。
「シルバー先輩、マレウス先輩、中、一緒に入る~?」
「入れるかっ! ……俺たちは外で待つ、デュースにもセベクにもそう言っておいてくれ……
 俺たちをからかうエースに思わずツッコミを入れ、入口近くにあったベンチで三人の買い物を待つことになった。入口さえ見ていられなくて背中を向けたベンチに座っていると、マレウス様が呟く。
「僕は別に、中を見てみても良かったのだが」
「マレウス様!?」
 主君の口からとんでもない提案が出ているのを聞いて、驚いてしまう。
「いくらマレウス様でも、よろしくないのでは……?」
「そうか? 市井では、交際している男女で下着のデザインを選ぶことはあるらしいと聞いたのだが……ふむ、お前がそう言うのならば、誤情報だったろうか」
「というか、俺たちのように、自分の彼女とはいえど女性をそうした目で見ている男が下着店にいるのは良くないと思います……。他の女性客もいるでしょうし」
「確かに、言われてみればそうだな」
 しかし、とマレウス様は続ける。
「セベクは今頃困っているのではないだろうか? 恐らく、僕の好みの下着に合わせて新たなものを購入しようとしているのだろうからな」
「え、そうなんですか?」
「ああ。先日、セベクを僕の部屋に連れ帰って、僕のものにしたいと囁いたところ……。まだ準備ができていないから駄目だとすげなく断られてしまってな。恐らく今日は、その準備をしに来たのだろうと思っている」
「は、はあ……
 だから、何度も言いますが、俺はものすごく複雑な気持ちになるんですよ、マレウス様。幼い頃から見ているセベクとマレウス様のそうした詳しい事情を聞かされると。とはいえ、自分たち以外の事情も気になる気持ちは分かる。だからこうしてマレウス様と踏み込んだ恋の話をすることは、複雑だが不快というほどのものではない。
「いつの間にか、関係がとても進んでいらっしゃるようで……
「ふふ。僕だっていくらか気恥ずかしい気持ちはあるぞ? だが、セベクのことだけではなく、お前とこうした話をしていられるのも、きっと今のうちだけだ。悔いのないうちに、と思ってな」
「そう、ですか。そうですよね」
 そうだ。これからゆっくりと関係を進めていける俺たちと違って、マレウス様に残された時間は少ない。そう考えると、複雑な気分になるとはいえ、たまの惚気話くらい聞いてもいいんじゃないかという気にはなる。
 そんなことを話していると、スマートフォンに連絡が来たようだった。エースからだ。
『先輩たち、何色が好き? もちろん、彼女の下着の色と思って答えてね!』
 一応マレウス様に報告した方がいいのだろうかと迷っていると、悩んだ俺を見兼ねたマレウス様が横から画面を覗き込んだ。
「何を悩んでいるのかと思えば……。僕は黒か緑だな。そう返事しておいてくれ」
「本当に堂々としていらっしゃいますね……?」
「隠しても仕方あるまい。それに、こんなことで嘘をついたところで得はないのだぞ? さあ、お前も自分の心に正直になるが良い」
……
 『マレウス様は黒か緑がお好きだそうだ』と返信する。俺たちはまだそんな関係じゃないから、返事しなくてもいいだろ。するとすぐにエースから返事が返ってくる。『ちゃんと答えてくれないとお店の中で選ばせるよ、シルバー先輩!』
 ――頭を抱える。そう言われても、下着の色にそこまでのこだわりなどないのだが……。悩みに悩んで、悩み抜いて、結局、清楚なイメージを持つ二色であるだろう『白か青』と送り返した。

 俺が返事を送ってから少しして、ようやく彼女たちは店から出てきた。
「お、お待たせしました……っ」
……いや、大丈夫だ」
 恥ずかしそうに店を出てきたデュースに、荷物は持った方がいいかと声をかける。大丈夫ですと遠慮するので、俺もそうかと引いておいた。……男に下着を持たれるのは嫌かもしれないからな。引き際は肝心だ。
 セベクは何かを決心したようにマレウス様の前に歩み出て、声をかけている。
「ま、マレウス様……っ。私の準備は、整いました!」
「ふふ、そうか。まだ友人たちと語らっていてもいいのだぞ?」
「い、いえ……っ! 決心が揺らがないうちに、お願いします!!」
「いいだろう。では、トラッポラ、スペード、シルバー。僕たちはこれで失礼する」
 エースとデュースもセベクから事情を聞いていたのか、頑張れセベク、と手を握り合って応援している。仲が良くて良いことだ。セベクは俺の顔なんか見ると萎えるかもしれないので、マレウス様の方に声をかけることにした。
「送迎車は回っているのですか?」
「ああ、街の近くに待機していたそうだから、直にここへ来るだろう」
「分かりました。では、お気を付けて。……それとも俺も、御武運を、とでも申し上げた方がいいですか?」
「ふふふ、お前からそんな冗談が聞けるとはな。まあ、気には留めておくとしよう。ああ、そうだ。ほら、シルバー。忘れないうちに、贈り物を授けよう。僕たち二人からお前への誕生日プレゼントだぞ?」
「このタイミングでですか!? いえ、大変ありがたくいただきますが……!」
 そんなことを話していると、やがて送迎車が俺たちの傍に止まる。マレウス様はセベクの手を引いて車に乗り込み、俺たちに手を振って去って行った。
「あ~あ、これでアタシたちの中でセベクが大人の階段一番乗りかあ~!」
 マレウス様たちが去った後、エースがそんなことを言う。
「こら、女の子があまり大きな声でそういうことを言うんじゃない」
 エースを嗜めると、だってぇとエースは言った。そこにデュースが尋ねる。
「エース、彼氏いたことあるって言ってたのに」
「いたはいたけど、そこまで行かなかったから、まだアタシ処女なの!」
「そ、そうなのか……!」
……
 エースとデュースのあまりにも明け透けな話題に、居心地が悪くなってしまう。しかし、暗くなっていく街に、女子だけで残していくわけにもいかない。黙って横について歩いていると、そのうちにデュースが気付いてくれた。
「あっ、ご、ごめんなさい。先輩がいるのに、こんな話……
「いや……そうだな。少し気にしてくれると、嬉しい」
「あれ、先輩気にするカンジのヒトだったの? ごめんごめん、そういうの気にしないタイプかと思っちゃってた!」
 お詫びに二人きりにしてあげるね! とエースが走り出す。俺はそれを慌てて引き留めた。
「おい待て、もう暗くなるぞ。女の子ひとりじゃ危ないだろう。ちゃんと俺が二人とも送っていく」
「いいのいいの。アタシを送ってくれるナイト様ならちゃんとそこにいるからさ!」
 そう言ってエースが指差す先には、リドルの姿が見えた。……偶然、街に来ていたのだろうか? エースが手を振ってリドルに声をかけると、リドルはこちらに寄ってきた。
「いったい何の用事だい? キミたちは見たところ、買い物帰りのようだけれど」
「ね~、リドル副会長! 今バイト終わり? アタシのこと家まで送ってってくんない?」
……何の話だい?」
「実は……
 順を追ってリドルに事情を話す。元々はマレウス様たちもいたこと、二人が先に帰ったこと、エースが俺たちを気遣って二人にしてくれようとしていること、そうして今リドルを見つけたらしいこと……。そう言うと、リドルは事情は分かったよと言ってエースを送ることを承諾してくれた。
「いいのか?」
「ああ。今ちょうどバイトも終わったところだし、彼女を送るのはいつものことだしね」
「えっ、いつもなんですか? バイト?」
 デュースの言葉に、リドルは答える。
「キミたち、彼女から聞いていないのかい? いつもキミたちが、マレウス先輩とセベク、キミとシルバーの二人ずつで帰るから、帰り道、エースはひとりであぶれているだろう。彼女みたいな人が、いつものような軽い服装で夜道を歩けば、どんな目に遭うか分からない。そこで仕方なく、生徒会や部活で帰る時間が同じになりがちなボクが彼女をいつも送っているんだ。生徒会副会長として、そして男としての役目としてね」
「バイトはね、塾講師と家庭教師やってるんだって! リドル副会長ってばひとり暮らしなんだよ、すごいでしょ?」
 確かに、俺は小耳に挟んだことがあった。リドルは厳しい親の元で育ってきたが、高校ではそんな親元を離れるために、マレウス様から援助してもらって、あとは講師のバイトをして今はひとり暮らしをしているのだと……。だから、その恩があるマレウス様を補佐するため、生徒会副会長にもなったのだと。
「それじゃあ、話がついたようだし、ボクはこれで。……ほら、行くよエース」
「はーい。じゃあねデュース、シルバー先輩。また明日!」

 去っていくエースとリドルに手を振り、俺たちは顔を見合わせる。
「知らない間に、すごく仲良くなってたんですね……。エースと、ローズハート副会長」
「ああ。俺も、リドルの話は聞いたことがあったが、エースとそんな風になっていたのまでは知らなかった。……エースがひとりになってしまうことまでは気が回らなくて申し訳がなかったが、今回はそれで良かったのかもな」
「そうですね」
「じゃあ、俺たちも……帰ろう」
「はい」
 デュースに手を差し出し、街の中を帰り歩く。すると、やがてデュースが足を止めた。
「シルバー先輩、もうちょっとだけ二人で寄り道していきませんか? ……先輩の誕生日プレゼント選びたいなって」
「そんなに気にしなくても良いんだが……
 今、欲しいものも特には思い浮かばないから、と告げてから、あることを思いついた。
……ああ、いや。ひとつだけあった」
「なんですか? 私に用意できるものなら、なんでも言ってくださいっ」
「こんなこと、口にしていいのかは分からないんだが……
 お前と、たくさんキスがしたい。そう告げると、デュースは真っ赤になった。
……そ、外では、ちょっと。でも、私か先輩の、部屋でなら……
……では、帰りが遅くなると母君に連絡してくれ。……俺の部屋へ連れていく」
「は、はい……っ」
 デュースが母君への電話を終えるのを待つ。
「母さん? 今日はちょっと遅くなる。そう、シルバー先輩と一緒。うん、晩ご飯は先食べてていいから。じゃあね」
 電話が終わったところで、再びデュースの手を取る。
……行こうか」
「は、はい」
 妙な緊張の中、俺はデュースを自室へと連れ帰った。

 帰って玄関のドアノブを回すと、まだ鍵がかかっている。親父殿は帰っていないようだ。カギを回して、家に入る。
 手洗いうがいを済ませ、いよいよ自室へとデュースを招く。
「多少散らかっているかもしれないが、清潔に保つようにはしている。入ってくれ」
「お邪魔します……
 デュースが俺の部屋へ入ると、さらに妙な緊張感とドクドクとした鼓動が鳴るような心地がした。
「鞄、その辺に置いていいぞ」
「あっ、はい」
 俺がベッド脇に荷物を降ろすと、デュースもその脇に鞄や荷物を降ろす。人を座らせるためのクッションなどを用意していなかったことに気付いて、しまったと額に手を当てた。
……ベッドにでも座ってくれ。座布団やクッションを用意していなかった。今度買い足しておく」
「し、失礼します……
 デュースは俺のベッドに腰かける。俺がその隣に腰かけると、ますます妙な緊張が漂って、二人の間に沈黙が流れた。
 窓ガラスを見つめると、赤くなった俺とデュースの顔が街の夜景に映っている。
 俺は、覚悟を決めた。……少しくらい、いいよな、なんせ、誕生日……なんだから。そんな言い訳をして、デュースに手を伸ばした。
「デュース……いいか?」
「は、はい……
 ドキ、ドキと鳴る心臓の音がうるさい。デュースの柔らかな唇にくちづけると、デュースはん、と息をこぼした。俺はデュースの髪に結ばれたリボンを手ですいてほどきながら、デュースにもう一度をせがんだ。
「は……っ、もう一回」
「はい……
 ……こんなに熱くなっているのは、俺だけだろうか。俺だけじゃないと思いたい。だって、デュースの唇もこんなに熱いのだから。
 ちゅ、ちゅ、と何度もデュースの唇にキスをする。そのうちにデュースの手へ指を絡めると、デュースの肩がぴくりと反応した。……可愛い。
 どうして、口と口を合わせているだけなのに、こんなにも熱くて、気持ちいいのだろうか。俺もデュースも、目がだんだん、とろんとしてきている。デュースも、気持ち良いと思ってくれているのだろうか? そうしているうちにだんだん堪らなくなってきて、デュースに深くくちづけようとする。
「デュース、口を開けろ」
「ふぇ? こう、ですか?」
「そうだ、いい子だ」
 口を開けたデュースの唇を食むように深くくちづける。ぐぐ、と押すように力を入れれば、デュースはそのままバランスを崩して俺のベッドに倒れた。
「せん、ぱい……
……デュース」
 俺は、デュースの首元へ、吸い寄せられるようにくちづける。んっ、とデュースが声をあげ、俺がその胸元のボタンに手をかけかけた途端、ただいまと大きな声が玄関から響いた。……親父殿が帰ってきたんだ。
「す、すまない。親父殿が帰ってきたみたいだ。……今日はここまでにしよう。これ以上は、俺の理性が持たないかもしれない」
 そう言ってデュースの上から退いてやると、デュースは身体を起こして首筋をさすった。
……怖かったか? 恐ろしい目に遭わせてしまったのなら、すまない」
 ベッドに座すデュースの前にひざまずいてそう言うと、デュースは、違います、と言った。
「私も、いつか、今日のセベクみたいに……、好きな人と、シルバー先輩と結ばれる日が来るのかな、って、想像しちゃって……
 照れちゃいました、とデュースは茶化して笑う。俺はそんなデュースに、自分の手で顔を覆う。……やめてくれ。俺の狼藉に、そんな嬉しそうな顔をしないでくれ。
「お前がそんな調子でばかりいるのなら、その日は遠くない」
「えっ……
……今日はもう帰った方がいい。家まで送っていく」
 クラクラする頭を押さえながらドアを開け、階下へ走り降りて思い切り洗面台で顔を洗う。なんじゃなんじゃとやってきた親父殿に、彼女を家まで送ってきますと言えば、なんじゃ、おなごを連れ込んでおってそうなったんかと笑われた。
「ヴァンルージュ先生、お邪魔しましたっ」
「おー、またいつでも遊びに来るんじゃぞー。シルバーよ、ちゃんと送って帰って来いよ~」
 あとから階段を降りてきたデュースが親父殿に一礼して家を出る。
 無事にデュースを家まで送り届けたあと、部屋のベッドで見つけたのは、俺がこの指でほどいたデュースのリボンだった。
……ダメだろう、忘れ物とかしたら……
 そのリボンについたデュースの髪の香りの残り香は、確かにこの場、この部屋、このベッドにデュースがいて、そして夢のようなひとときを共に過ごしたことを、何度でも俺に思い出させるのだった。

*おしまい