山茶花
2024-09-11 20:20:57
7299文字
Public [シルデュ♀]受け女体化学パロ
 

君じゃなきゃダメみたい(4)【084GP004】

シルバーがファーストキスをやり直したがる話。

※現代学パロです。男子そのまま・女体化キャラ入り交じっています。
※独自設定が多く含まれます。
※今回はシルデュの他にマレセベ♀、リドエー♀要素が含まれます。サブカプ成分多め。


↓大丈夫な方はスクロール


『せんぱい……っ、そんなえっちなことしたら、や……っ』
 ベッドに倒れ、白いシーツの波の上で、目にたくさんの涙をにじませながらデュースは俺を見上げる。その衣服ははだけていて、あちらこちらから柔らかそうな肢体が見え隠れしている。
……
 ゴクリと生唾を飲み込んで、俺はそんなデュースに手を伸ばす――

 ――ジリリリリリリリリ!!
 その瞬間、似つかわしくないほどけたたましい目覚まし時計の音が俺の目を覚ました。上半身を起こすと、身体に妙な不快感を覚え、俺は顔を覆う。
……やってしまった……
 とりあえず目覚まし時計を止め、替えの下着を用意する。親父殿には見つからないようにと祈りながら汚れた下着を持って階下の洗濯室へ向かうと、運の悪いことにそこで俺を起こしに来たのであろう親父殿とバッタリ出会ってしまった。
「お、親父殿……っ」
 慌てて俺は下着を後ろ手に隠す。親父殿は俺のことを見て、なんじゃ起きておったんかとなんでもなさげに言った。そして、俺の態度を見て何かを察したのか、親父殿はああ、と頷き、あくびをしながら手を振ってダイニングへと去っていく。
「そのまま洗濯機に放り込んでおいて良いぞ。ま、お前が気になるなら事前に手洗いしても良いが」
 ……こんなことがバレたら、からかわれると思っていたのに。拍子抜けしたような気分と、それでもバレてしまったのが恥ずかしく消え入りたいという気分が混ざりあって、その日の朝食ではあまり親父殿の顔を見ることはできなかった。

 それから、登校する。朝、セベクと共にマレウス様をお迎えして、自分の下駄箱へと向かう。いつもと変わらない朝の光景だ。……マレウス様が、あからさまにセベクへの態度が甘くなっていること以外は。
「おはよう、セベク。今日も朝から会えて嬉しいぞ?」
「ま、マレウス様……っ、おはようございます……っ」
……俺は席を外した方が宜しいのですか、マレウス様……
 二人の間に何があったのか俺にとっては与り知らぬところだが、あまりにも甘い空気過ぎて、砂糖もミルクもなしの苦いコーヒーを口にしたくなる。
「ふふ、僕は別にシルバーがいようといまいとかまわないが、セベクは照れてしまうかもしれないな」
「そ、そんなことは……っ!」
「おや、では昨日のようなことがシルバーの前で出来るとでも?」
「それは、その……っ」
 ……ダシにされている。俺をダシにして、イチャついていらっしゃる。別段、二人が幸せなのならそれは一向にかまわないのだが、なんとなく疎外感を覚えながら共に歩いていたところ、それを助けてくれるようにデュースが現れる。
「あっ、シルバー先輩! おはようございます!」
「おはよう、今なんだかとてもお前に会いたかった」
 思わずそんなことを口にすると、デュースは髪を耳にかきあげながらえへへ、私もですと笑った。だが、俺はそこで今朝の良からぬ夢を思い出す。
『せんぱい……っ』
 煩悩は捨てろと頭を振って自分の理性をどうにか引き出した。……そうだ、俺にはあれから考えていたことがあったんだ。俺は、昨日の帰り道、デュースに良からぬ狼藉を働いてしまって、せっかくのファーストキスを台無しにしてしまった前科がある。だから、俺は、今日、ちゃんとデュースの要望を聞き出して、準備が整ったらファーストキスをデュースの望むようにやり直してやりたいと思っているんだ。

 俺たちが一緒に歩んでいると、校門を抜けた先の広場で激しく誰かが言い合っている声が聞こえてきた。……どうやら、リドルとエースのようだ。毎朝毎朝、アイツらもよく飽きないな。
「だからね、キミ。毎日言わせないでくれるかい!? なんだいその短いスカートは!? アクセサリーの類もジャラジャラとつけて、校則違反にも程がある!!」
「これはね、オシャレって言うの! 頭のお固い副会長様には分かんないだろうけど!!」
「馬鹿にするな! ボクだって、オシャレでキミがやってることくらい分かっているよ!」
「へ~、じゃあ放っておいてくれたらいいじゃん! アタシがアタシの好きにしてるんだからさ!」
 リドルはそう言い放つエースに向けて、答える。
「そうはいかないよ。今のキミのような服装をしている女性は、軽く見られ、そう扱われがちだ。キミは自分の身を守るためにも、もう少しまともな恰好をするべきだね」
……何それ。心配してくれてんの?」
「何を言ってるんだ。男が女性を守るのは当たり前だろう? たとえキミのようなじゃじゃ馬でもね」
「一言多いっての! ……まあ、でも? 今日はその心配に免じて、ちょっとだけスカート丈長くしといてあげる! じゃね!」
「あっ、お待ちよ! ボクの話はまだ終わっていないのだけれど!?」
 そして俺たちの前からリドルとエースは去っていく。俺はデュースと顔を見合わせて、これはひょっとするとマレウス様の言う通り、あの二人にもそのうち何か起こるかもな、と笑い合った。

 そして、昼休み。集まった俺たちへの、マレウス様からの第一声はこうだった。
「ああ、そういえば。僕も正式にセベクと交際することになったから、お前たちも知っておいてくれ」
「え~嘘じゃん、セベク、おめでと!」
「やったな、セベク!」
 エースとデュースが代わるがわる抱き着いたり撫でたりとスキンシップを取って、セベクを祝う。マレウス様はそれを良い良いと機嫌が良さそうに眺めているが、なぜ女子のスキンシップはあんなにも距離が近いのだろうか? 不思議だ。
「アンタも何か言ってあげなよ~、シルバー先輩。幼馴染なんでしょ?」
「この度は大変めでたい報せに、心から喜ばしく思う」
「堅っ! 式典の祝辞じゃないんだからさ!!」
「そうは言われても、二人の気持ちは昔から知っていたしな……。正直なことを言えば、『やっとか』という気持ちだ」
「ふふふ、長らく待たせてすまなかったなシルバー。今後はお前たちに負けないように関係を進展させていくつもりだぞ」
「き、競うものではないと思いますので……。二人の時機を大切にされてください」
「なんだまったく、つれない奴だな」
 そんなことを話しながら、今日の昼食は終わった。そして解散後、大体はデュースと共に図書室で授業の予習復習をしていることが多いのだが、今日は小テストが多くて授業が難しかったからちょっとのんびり羽を伸ばしたいです、とデュースが言うので、二人で屋上へと向かった。
「んー、風が気持ちいいですね」
「ああ、そうだな」
 屋上には人がおらず、まわりを見たところ俺たちだけのようだ。これはチャンスじゃないのか? 俺は考えた。今なら、聞けるかもしれない。
「あ、あの、デュース」
「はい、なんですか?」
 俺はデュースに尋ねる。
「その……、先日はすまなかった。それで、何か詫びをしたいと思っていて、考えたのだが……
「そんな、気にしなくて大丈夫ですよ!」
「いや、このままでは俺の気が済まないんだ。だから、その、詫びと言うにもなんなのだが、お前の……本来したかったような、理想のファーストキスがどんなものだったのか、教えてほしい」
「えっ!?」
 俺の言葉に、デュースは真っ赤になる。……可愛いな……。いや、煩悩に負けてる場合じゃないだろう、俺。頑張れ。
「本来、初めてのキスというのは、女子にとっては大切で特別なものなのだと、書籍で読んだ。それをあのような形でこなしてしまって……だから、その、ええと、お前が想像していた理想のものがあるのなら、その通りにちゃんとやり直してやりたいと思っている」
「先輩……
 デュースはとん、と俺の胸に飛び込んでくる。抱き返してやった方がいいのだろうかと迷っていると、デュースは言った。
「私、初めてのキスは、綺麗な白いドレスを着て、結婚式の日に、お嫁さんとしてするものだって思ってました。でも……もう、してもいいんですよね。恋人、なんだから」
「デュース……
……確かに、昨日はびっくりしましたけど……。あれも、先輩との大切な思い出だって思うから、やり直し、っていうのは嫌です。なくなっちゃうみたいで……。でも、ちゃんとしたキスもしたいから……
 今から、ちゃんとしたキス、してみませんか? とデュースは言う。
「いいのか?」
「えへへ……。実は昼休みの前に、セベクから、話聞いてて。羨ましくなっちゃったんです」
「セベクから、話を?」
「はい。セベクの奴、ドラコニア先輩から告白されて、部屋に連れてってもらって、いっぱいキスしたり、いちゃいちゃしてもらったんだって……だから、いいな、私もまた先輩とちゅーしたいな、って思ってて」
 その、えっちな子でごめんなさい、とデュースは言う。
「い、いや……俺は、嬉しいから。お前がえっちでも……
「も、もう! 何言ってるんですか!」
 デュースに軽く胸を叩かれる。すまない、と言って顔を見つめれば、なんだか甘い空気が流れた。
……デュース」
「あ……
 デュースの身体を引き寄せ、そっと唇を寄せる。――大切な子だ。俺にとっての。初めてくちづけてしまったときの、欲だけが暴走した想いとは違い、何かむずがゆく暖かな気持ちになる。
「先輩」
 キスをした唇を離してやると、デュースはそっと俺に身体を寄せてきた。それを抱きしめてやると、なんだかとても胸がいっぱいになる気がした。
「デュース……好きだ」
「はい、私もです……
 舞う桜の吹雪が緑の葉に変わりかける、新緑薫る五月の風の中のことだった。

 それから、放課後。俺はいつものように部活をこなし、帰宅時間になって、マレウス様とセベクと共にデュースを待つ。
「シルバー、今日は、というか、今日もその……
 言いづらそうなセベクに俺は事情を察して、マレウス様に尋ねる。
「今日もセベクを連れて帰るのですか?」
「ああ。僕の時間は限られているからな。できるだけ、互いの用事がない日にはセベクと共にいる時間を作ろうと思っている」
……分かりました。お気を付けてお帰りくださいませ、マレウス様」
 そうして送迎の車に乗り込むマレウス様とセベクを見送る。……なぜ、あんなにも幸せそうに想い合っている二人が、いつの日か引き裂かれなくてはならないのだろうか。俺が二人のことに想いを馳せ、切なさを覚えていると、部活が終わったらしいデュースが姿を現した。
「デュース、待っていた」
「えへへ、お待たせしましたっ」
 デュースは髪をほどき忘れているようで、陸上部のときの服装と同じく後ろで髪を結わえたままだ。
「髪、ほどき損ねているぞ」
「あっ、ほんとだ」
「まあ、それも似合っているから、悪くないと思うが」
 褒めてやればすぐ赤くなるデュースの顔に満足して、すっと手を差し出す。
「帰ろうか」
……は、はい」
 だんだんと、こうして手を繋いで帰路につくことが、当たり前になってきた。俺の日常の中に、少しずつデュースという存在が溶け込んでいくようで、日々、大切な存在になっていってるようで、それをなんだか、とても暖かく、嬉しく思う。
 俺は、帰り道の河川敷で立ち止まり、デュースに言う。
「入学式の日に告白してくれたから……、今日でちょうど、一か月くらいが経つのか」
 お前と付き合ってから、と続けると、デュースは、はい、と言った。
……あの日から、俺は……分からないことだらけだ。告白を承諾したのも初めてだし、誰か特定の女子を特別に可愛いと思ったのも、初めてだった。今も、お前をどうやって扱ってやったらいいのか、日々、混乱ばかりでいる」
「シルバー先輩……
 デュースは俺の隣に寄ってきて、ぎゅっと手を握る。
「私も、です。私も……。ちゃんと、『女の子』やれてるのかな、って。先輩の隣に立ってていいような、可愛い女の子になれてるのかな、って、毎日心配ばっかりで……
……お前は、可愛い女の子だ。俺にとっては、俺のために……自分のすべてを、丸きり変えてくれた。次に、いつ会えるかも分からず、お前に振り向く確信があったわけでもないような男のために、努力してきてくれた……とびきり可愛い女の子だと、俺は思う」
……えへへ」
 デュースは嬉しそうに笑うと、俺にも同じように応えてくれた。
「先輩も、恰好いいです。慌てたり、焼きもち妬いてくれたり、確かに、先輩もこんな風になるんだ、って意外なことはいっぱいあったけど……、でも、そういうところも、ぜんぶ、好き……って思うの」
「デュース……
 ……綺麗だ。いつも、可愛いとばかり思っていたが、なんだか今日は、夕日に照らされるデュースの横顔が、とても綺麗に見えた。いつかこの横顔を、真っ白なドレスを着せて、揃いのタキシードを着て、そんな立場で見てみたいと思うくらいには。……まだ、そんなことを考えるには早すぎるだろう、俺。ドキドキと鳴る心臓の音が聴こえるなと祈りながら、デュースと手を握りしめ歩く。触れた手が熱い。汗なんて、かいてなければいいが。
「その、……少しだけ、遠回りして帰ってもいいだろうか?」
「何か、用事があるんですか?」
……いや、その……用事は、なくて……
 そこまで言えばデュースも俺の意図に気付いたようで、はい、と照れくさそうに手を握り返しながら了承してくれた。デュースを家の前まで送ると、娘の帰りが遅いことを心配したのか母親らしき女性が家の前に経っていた。
「あっ、母さんだ!」
「あれが、お前の母君か」
「はい。ただいま、母さん!」
 デュースは母君に手を振る。……俺と手を外すのを忘れたままで。
「あら……、あらあらあら!? デュース、その子がシルバーくんなのね!?」
「えっ、あっ……!!」
 慌ててデュースは俺と繋いでいた手を外す。俺は改めて、母君に挨拶をした。
「初めまして。……その、娘さんとお付き合いさせていただいています、シルバーと言います」
「あはは、話は聞いてるわ。アタシはディラ。デュースの母です、よろしくね、シルバーくん!」
「今日はデュースを送り届けるのが遅くなってしまって、すいません」
「いいのよ。遅いから心配してたけど、シルバーくんと一緒にいただけなら良かったわ! デュースを送ってくれてありがとう」
「いえ、俺がやりたくてやってるだけですから」
 そう告げると、母君は俺に言った。
……デュースったらね。ある日突然、『今までごめん、それと、俺、ちゃんと女の子になりたい』って言ってきたのよ。アタシ、娘から可愛い恰好をせがまれるのってちょっとやってみたかったから、今、毎日デュースがオシャレしようって頑張ってるのが、本当に嬉しくって……。こういうのも全部、シルバーくんがうちの娘のことを女の子として見てくれたからなのよね。……本当にありがとう。ずっとお礼言いたかったの!」
「そう、だったのですか。……俺が、デュースのためになることが出来ているのなら、良かったです」
「せ、先輩はいつもためになってます! 先輩のことがあったから、今の私があるので……っ」
「そうか。なら、良かった。……また明日も会えると嬉しい、デュース」
「は、はいっ」
「ふふっ、青春だね! おっちょこちょいなところもある娘だけど、これからもデュースをよろしくね、シルバーくん」
「ええ。俺が出来る限りのことは、彼女のために力を尽くそうと思います。では、また」

 デュース母子と別れ、自宅へと帰る。すると、家では親父殿がなぜだかケーキを買って待っていてくれた。
「親父殿。誕生日にはまだ少し早かったと思うのですが」
「ふふ、まあ良いじゃろ。ちゃんと祝っとらんかったと思うたんじゃよ。お前に、新しく大切な存在っちゅうもんができたことをな」
……こんなに盛大に祝うものなのですか?」
 同級生にも彼女ができたという話は聞いたことがあるが、ケーキを買ってまで誕生日のように家族で祝うという話はあまり聞いたことがない。
「いや、何。学校でも遠巻きにお前の様子を見ておったが、お前があまりにも日々、彼女のことを大切にして、悩んで、成長して、と、健全な思春期の日々を送っておるもんじゃからな。お前が順調に大人の階段を上っとることが嬉しくなって、つい祝いたくなってしまったんじゃよ。付き合うてくれるか?」
……そういうことであれば、分かりました。少し、照れくさいですが。遅くなりましたが、すぐに夜食を用意しますので、少々お待ちください」
 それから親父殿と二人、ケーキと晩の食事をつつきながら、様々なことを話す。彼女に対する想い、女性の扱いの難しさ、デュースの母君に会ったこと、デュースには言えないようなちょっとした欲のことまで、いろいろなことを。そのどれもの話を、親父殿は眩しそうに目を細めて聞いてくれていた。
「正直なことを言えば……毎日、新しく彼女のことを好きになっているような気がします。こうした想いに、上限はあるのでしょうか……。もし無いとするのなら、それには少し、恐ろしさも覚えます」
「くふふ、お前の口からそんな惚気を聞く日が来るとは、のう? ま、想いの天井がいつ来るかっちゅうのは、お前の心次第じゃろうな。ひょっとすると、何年の時が経とうが、いつまでもその日は来ないのやもしれぬ」
 ゆるりと時間の流れる、穏やかな毎日の中、大切な人たちとたくさんの幸せな時間を共有し、そして、また新しくできた大切な人のことを話し合う。それがあまりにも幸せで――俺は、こんな日々がずっと続けばいいのにと祈るばかりだった。

*おしまい