山茶花
2024-09-11 20:19:57
8460文字
Public [シルデュ♀]受け女体化学パロ
 

君じゃなきゃダメみたい(3)【083GP003】

シルバーが無自覚に妬いて暴走してしまう話。

※現代学パロです。男子そのまま・女体化キャラ入り交じっています。
※独自設定が多く含まれます。
※今回はシルデュの他にマレセベ♀、リドエー♀要素が含まれます。
※監督生(♂、ユウ)います。

↓大丈夫な方はスクロール


「そういえば、デュース。お前はもう部活を決めたのか?」
「はい、陸上部に入ろうと思ってます!」
 昼休み、食堂でデュースたちと食事を取る。そんな中で尋ねたのは、デュースの部活の有無だった。今のところ、俺たちは、付き合っていて、彼氏彼女という立場になってはいるが、大きく共にいる時間を取ることは少ない。だから、下校の時間に一緒に歩くくらいしか出来ていなかった。
「そうか。なら、帰りの時間は合わせられるな」
 俺がそう言うと、デュースははい、と嬉しそうに返事をして、スプーンいっぱいのオムライスを口に含ませた。大きなオムライスをおいしそうにほおばる姿が可愛くて、じっと見ていたら、デュースは恥ずかしそうにそのオムライスを見つめる。
「い、いつもはこんなにいっぱい食べてないんですよ? ほんとですよ?」
 なんだ、俺の前で山盛りのオムライスを食べていることが気になったのか。大量に食う女子ならセベクを見て慣れているし、気にしなくともいいというのに。……そういえばセベクの奴も、昔、マレウス様の前では小食なフリをしようとしていたことがあったな。俺がその意図に気付かず体調が悪いのかと尋ねて、それで結局セベクの普段食べている量がマレウス様にもバレてしまって、大目玉を食らった覚えがある。
 そのときは確か、マレウス様がセベクに向けてたくさん食べる女性が好みだと言ってくれたことで、俺は難を逃れた記憶があるのだが…………女子というのは、そんなに男の前で食べる量など気にするものなのだろうか?
「別に、気にしなくともいいだろう。食べたいなら好きなだけたくさん食べろ。俺は気にしない。むしろうまそうに食べているお前を見て、可愛いと思って、いた、だけで……
 そこまで口にして、手で隠しながら顔を逸らす。……近頃どうかしてしまったのか、この俺の口は、油断するとすぐ、所かまわずデュースに向けて可愛いと言ってしまう。良くないことだ。浮ついている。この間、デュースと共に手を繋いで帰った日から、俺はどうかしている。なぜだかあの日から急に、デュースが可愛く見えてしょうがないんだ。お陰で、あの日の翌日、朝から会ったデュースに「お前昨日より可愛くなってないか?」なんて、馬鹿なことを尋ねてしまったくらいで……。まさか俺の心は、一般的な男子高校生がそうするように、初めての彼女という存在に浮かれきっているのだろうか。本当に良くないことだ。
「あう……
 ほら見ろ、デュースも真っ赤になって俯いて、恥ずかしそうじゃないか。もしかしてその顔も上げてくれたら、実は可愛いんじゃないかとか、可愛いと言ってやる度にもっと可愛くなるんじゃないかとか思ってる場合じゃないぞ、俺。急に静かになってしまった俺たちの様子を横から見ていたマレウス様が、愛い愛い、と笑う。
「ふふ、お前たちは本当に初々しいな。見てるこちらがいじらしくなってしまうぞ」
「マレウス様……
「い~な~、デュースってば幸せそうで。アタシもなんかステキなカレシほし~」
「お前は良い人がいないのか、エース?」
 セベクが尋ねると、エースは答えた。
「アタシは良い出会いはないわ! ムカつく出会いならあったけどね。あの、リドルって生徒会副会長? アタシの恰好見るなり、風紀を乱すなってうるさいのなんの! ぜーったい、頼まれたってアイツだけはカレシになんないわ」
「ほう、ローズハートに会ったか。確かにあれは、校則に厳しいからな。だが、案外お前たちの相性は良いかもしれないぞ?」
「え~、やめてよマレウス先輩~! アタシ、アイツだけはぜーったいお断りだね!」
 皆、楽しそうに歓談している。近頃ではすっかり慣れてしまった、昼の食事風景だ。一通り食べ終えてしまうと、皆それぞれの用事をこなしに解散していく。
「お前は今日、どうするんだ?」
「図書室で授業の復習しようと思ってます。同じクラスの友達に貸してもらったノート写そうと思って」
「なら、俺も付き合おう。一年の範囲であれば、分からないところがあれば教えてやれることがあるかもしれない」
「本当ですか!? ありがとうございます!」
「かまわない。周囲にも、お前と共にいる姿を見せておくべきだと思うしな」
 最近、俺に届く恋文の量は目に見えて減った。以前は毎日のように届いていたが、デュースと付き合ったことを公言して以来、俺の下駄箱が他人に開かれることはめっきりなくなったようだ。デュースは女子たちの妬心から嫌がらせを受けることもあったようだが、それについては、今はマレウス様が懇意にすることで守ってくださっている。あと俺ができることは、エースからも言われた通り、これから他の女子に良からぬ勘違いをさせてしまわないように一線を引いて付き合うことだけだ。そうすることで、ちゃんとデュースだけが特別なのだと示していきたいと思っている。
 その一環として、昼休みはこうしてデュースの傍にいるように努めた。もちろん、彼女にも彼女の事情があるだろうから、友人たちとの交友や女子だけの用事などまで邪魔するつもりはないが、それでもできるだけ一緒にいたいとは思っている。……ひょっとすると、そうした理屈抜きに、ただ単に俺が傍にいてやりたいだけなのかもしれないが。
 デュースと共に図書室へ行き、ノートと参考書を並べる。デュースはさっそく友人に借りたというノートを写し始めたようで、俺は自分のノートを開きながらもその姿を眺めていた。ふと、デュースが写しているノートに書かれた名前に気付く。
「『ユウ』?」
「あ、ユウはこのノート貸してくれた友達です。いいやつ……っとと、いい子なんですよ!」
 デュースはいいやつと言いかけて、慌てて口調を訂正する。俺のまわりにもカリムやセベクなどさばけた喋り方をする女子はいるし、あまり気にしなくても良いのだが、俺の前では女の子らしくありたいと思ってくれているんだろうなと思うと、それもまた可愛らしく思えてくる。
「そうか、どんな子だ?」
「えっと、大人しそうに見えてけっこうズバズバ言うタイプで、でも変な誤魔化しとかはしないから、そういうとこが話しやすいんです」
「そうか。お前にもエース以外の女友達ができているようで何よりだ」
 俺がそう言うと、デュースは変な顔をした。何か俺はおかしなことを言っただろうか?
「どうかしたか?」
「あっ、えっと。ユウは、女友達じゃなくて……男の子なんです。私とエースの、男の子の友達で。だいたいいつも三人で話してます」
……男?」
「はい! 頼りになるんですよ、ユウは」
 自慢げに話すデュースに、俺はなんとなくむかむかとした居心地の悪さを覚える。
……頼りになる男なら、目の前にもいるだろ」
 そっぽを向いて呟いたから、デュースの顔はよく見えない。ただ、俺はなんとなく気に入らなさを覚えていた。
「あ、えっと……ご、ごめんなさい。先輩の前で、他の男の子の話するの、あまり良くなかったですよね」
 デュースが髪をかきあげる。それは照れたときの癖じゃなかったのか? 今、どこにお前を照れさせる要素があった。その男のことでも思い出したのか?
「なぜ、照れている。……俺の言葉以外でそんな風にするな」
 俺が腕を組んで不機嫌でいると、デュースはだって、と言った。
「せ、先輩が焼きもち妬いてくれるって、私、思ってなくって……
 焼きもち。そう言われて、俺は急に自覚する。そうか、俺はその『ユウ』という男子生徒に、妬いていたのか。みっともなく、子どものように。
「え、あ、これが、焼きもち……っ」
「えっ、先輩、分かってなかったんですか?」
……すまない、ちょっと……ちょっと待ってくれ……
 俺は思わず机に突っ伏す。情けない。恥ずかしすぎる。自分で妬いてることすら分からず、デュースに向けてまるで幼い子どものように拗ねてしまっていたとは。
「え、えへへ……っ。私は嬉しいです、シルバー先輩っ」
 デュースがにこにこと嬉しそうに、手で撫でながら頬を緩ませ、顔を笑みでいっぱいにしているのが、不幸中の幸いと言えるだろうか。……ああ、それに比べて俺は、きっと情けない顔をしている。
……妬いて何が悪い。俺はお前の彼氏だぞ」
「は、はいっ。そうです、そうなんですよね、えへへ……っ、……もう、夢じゃないんだもんな……っ」
 俺が開き直ると、デュースはまた嬉しそうに笑っていた。

 放課後。運動所の隅で馬術部の活動に励む。陸上部は校舎の外周を走っているようで、グランドのフェンス越しにデュースも走り込んでいるのが見えた。……エースのように、後ろで髪を結わえている姿は新鮮だな。女子の髪型など気にしたことがなかったのに、今ではデュースのその髪型もよく似合っていると思う。本当に現金なことだ。
 俺も見惚れてばかりいないで、アイツに負けないよう自分の活動に励もうとしたとき、傍から男たちの声が聞こえてきた。
「あれ服の脇から見えてんの、もしかして、ブ……ブラじゃね!? やっぱ陸上部の服最高だわ!!」
「大きいのも小さいのも、揺れてんのが見えんの、いいわ~……
「やっぱ足だろ、足。胸ばっか見てんじゃねえよお前ら。足と尻も見ろ。せっかく出してくれてんのに失礼だろ!」
 どうやらいくつかの部活動から、良からぬ気持ちを抱いた男子生徒たちが抜け出して集まっているようだ。その邪な視線にデュースも晒されているのだろうと直感した瞬間、俺はそこに集う男たちを睨みつけた。
「失礼なのはお前たち全員だろう。神聖な競技の服装をそのように邪な目で見るのはいかがなものかと思うが?」
「うおっ、シルバー!」
 よく見たら、同学年の顔見知りも混じっているじゃないか。……まったく、頭が痛いことだ。
「そう言わずにお前も一緒に見ろって!」
「断る。お前たちも今すぐ去れ。散れ」
「なんだよお堅いな~。お前だって彼女の胸や尻見てんだろ!? なんなら触ってんだろ!? 正直になれ!」
「なっ……
 そんなことを言われたタイミングで、デュースがまたすぐ傍の外周に姿を現す。一生懸命走っていたが、傍にいる俺の姿に気付いたのか、小さく手を振ってまたデュースはランニングコースへと戻り見えなくなっていった。一通りデュースが見えなくなったあとで、俺は、目の前にいる同級生の肩を掴む。
「見てるわけないだろう……!!」
「痛い痛い痛い、シルバー痛い! ごめんて!! 純情なお前をからかってごめんって!!」
 そうしていると、俺たちが騒いでいることに気付いた同じ馬術部のリドルが、集まっていた男たちを蹴散らす。
「そこで何をしているんだい、お前たち! さてはまた邪な目的で集まっていたね!?」
「げっヤバイ、ローズハートだ!! 逃げろ!!」
 一目散に逃げていった男子生徒たちのあとで、俺だけがひとり取り残された。
「シルバー。君まで何してるんだい? ……まさかとは思うけど……
「ち、違う! 俺は注意しようと思って来ただけだ! アイツらが陸上部をおかしな目で見ていたから……!」
「ああ。君、彼女ができたんだっけ。陸上部なんだね」
 リドルに察され、俺はそんなに分かりやすいのかと少し気恥ずかしくなる。
「まあいいよ。彼らがいなくなったのなら、ここに用事はないだろう。君もさっさと部活に戻るように!」
「ああ、すぐ戻る」
 俺は、邪な同級生に植え付けられた煩悩を余計な雑念だと振り払いながら、どうにか真面目に部活動へと戻るのだった。

 そして、部活が終わり、デュースを待つ。どこか落ち着かずに校門で立っていると、マレウス様が笑った。
「シルバーよ。今日はずいぶん落ち着かないようだな? ずっとそわそわしているぞ。そんなに彼女が恋しいか?」
「い、いえ……
「ふふ、分かるぞ。僕もお前たちの部活が終わるのを待つ間、一日千秋の想いだった」
……
 セベクはマレウス様の言葉を黙って聞いている。……いつもうるさいくらいなのに、珍しいな。マレウス様は、部活帰りのセベクを送るため、生徒会室で俺たちのことを待っていらっしゃった。セベクは、私のためにマレウス様をお待たせするわけにはいきません、先に帰宅されても良いのですよと言っていたが、マレウス様がセベクを待ちたいと言って押し通した。セベクはそれを、何かを飲み込んだように分かりましたと承諾した。以前ならばもう少しごねていたはずだが、俺の知らない間に、二人に何かあったのだろうか……
「俺のことよりも……マレウス様、セベクと何かありました?」
「ああ。想いを告げた」
「ああ、想いを……はあ!?」
 なんで急にまた、と思わず驚きの声を上げると、マレウス様は飄々とした態度で言った。
「何、あまりにも初々しいお前たちの恋模様を見ていたら、羨ましくなってしまってな。学園にいる間まで家のことに縛られる必要はあるまい、と考え、想いを告げることにした。まだ返事はもらえていないのだが、いずれ色好い答えが返ってくるだろうと確信はしている」
「は、はあ……
 それでずっとセベクは静かだったのか。さては感動して何も言えなくなったのか、あるいは気を失いそうなほど嬉しいのを耐えているかのどちらかだな……。というか本人の前で淡々とその事情を話していて良いのですか、マレウス様。
「だから今日もセベクは僕と同じ車で送っていくぞ。なんせ、『彼氏』だからな。お前と同じように、『彼女』を家まで送ってやらねばなるまい?」
「そう、ですね……。仰る通りかと思います」
 恋人のように振る舞うのは、きちんとセベクの返事を待ってからの方が良いのでは、と思ったが、セベクがするだろう返事なんか俺はもうとっくの昔に知っている。であれば、マレウス様の好きにしていただいてもいいだろう。
「ふふ、そういうわけだから、僕たちは二人で先に失礼するぞ、シルバー? このあとセベクとたっぷり話したいこともあるのでな」
……承知いたしました。お気を付けてお帰りくださいませ、マレウス様」
 セベクを連れて去っていくマレウス様に一礼し、姿が見えなくなったところで顔をあげてはあ、と息を吐く。すると後ろからわぷ、という声が上がると共に、背中に何か柔らかいものがぶつかってくる感覚がした。
「きゃっ、シルバー先輩! ごめんなさい、つまずいてぶつかっちゃいました!」
「あ、ああ。デュースか。大丈夫だ、ケガはないか?」
「はい、私は大丈夫です。……先輩こそ、どうかしました?」
「いや……
 俺はデュースの方を見られず、明後日の方向を向く。アイツだ。あの同級生が、馬鹿なことを言うからだ。
『お前だって彼女の胸や尻を見てんだろ!』
 ……うるさいぞ……! 見てるだろって言われたら、思わずそこに注目してしまうのは自然な現象だろう!! 誓って言うが、俺はけして陸上部の神聖な競技服を邪な目で見る気など断じてなかった!! そしてこれからもない!!
 だけど、なのに、俺の頭は何度もデュースの腕や足など、無防備に晒された素肌を思い出してしまって。その上、さっきデュースが転んだと言ったとき背中に当たってきたのは……感触からすると……。ダメだ、これ以上考えるのはよそう。よした方がいい。
 俺はただ健全に、デュースのことを可愛らしいなと思って大事に眺めてられたらそれでいいんだ。それでいいじゃないか。それでいいだろ!?
「か……帰ろう、デュース!」
「は、はいっ!」
 俺の混乱につられたのか、気合いが入って返事をするデュースと共に歩き出す。それなりに歩いてようやく俺の気持ちがほんのりと落ち着きはじめてきた頃、不意に手に柔らかく暖かな感触がした。
……っ」
 デュースが、俺の手を握っている。どうやらせいいっぱいの勇気を出したのか、デュースはぎゅっと目をつぶっていて、顔は赤くて。それが、可愛くて、可愛くて堪らなくなって、そして、不意に、他の男も、この可愛い女の子のことを見ているんだ、コイツの傍にいる男は他にもいるんだということを思い出して、俺は、繋がれたままのデュースの手を引っ張り、近くの路地裏へと連れ込む。
 そのままぎゅっとその小さな体を抱きしめると、その柔らかさが全身から俺に伝わってくるようだ。首筋に顔をうずめれば、ふわりとシャンプーの良い香りが漂う。……本当に、女の子らしくなった。俺が、コイツを女の子にしてしまったんだ。俺が、今コイツを見ているどの男よりも先に、女の子にしたんだ!!
「デュース……っ」
「せ、先輩……?」
 俺はできる限りの理性を以って身体を離してやり、デュースの肩を掴んで告げる。
「すまない、お前のことをおかしな目で見てしまった……! 同級生の男子にからかわれて、それから、お前の身体のことが気になるようになって……今も、こうやって、お前の身体や唇に、触れたくて堪らない。危ないから、この後は離れて歩いてくれないか……!」
 必死で頼む俺の気も知らず、デュースは俺に応えようとする。
「せ、先輩がしたいなら、私は別に……っ」
……本当だな?」
「えっ」
 軽々しく俺に許可を出すデュースの唇を指でなぞり、自分のものを近付ける。やがてふにと柔らかな感触が俺の同じものに触れると、もう止まれなかった。
「んっ、ん……んん!? ん、うぅ、ん……っ!!」
 デュースの腰を引き、舌を入れて思い切り貪り、ついでに片手は胸を揉む。俺が触れる手に合わせてびくびくと動くデュースの身体に満足を覚えながら一通り口内を蹂躙したあと、ようやく少し落ち着いて唇を解放してやると、互いの唇から糸が引いた。
「デュース……
 やってしまった。そんな気持ちと満足感がぶつかりあう中デュースの目を見ると、彼女は必死で俺の身体を掴み、涙目になりながら熱い息を吐き、膝を震わせながら俺のことを見上げてくる。
「や、やぁ……せんぱい……こんな、とこで、こんな、えっちなちゅー……、まだ、いや……
 俺はその言葉を聞いて、喉元に生唾をゴクリと飲み込み――そして、半ば無意識のうちに一歩距離を取り、自分で自分を殴った。
「せ、先輩!? 大丈夫ですか!?」
 デュースに心配されるが、俺は思い切り自分を殴り飛ばしたことでようやく頭が落ち着き始めた。俺とコイツにとっては初めてのキスだったのに、なんという狼藉を働いてしまったのか。それに、こんな路上で理性を飛ばしかけて……女性の扱いについて勉強した成果はどこへ行ったんだ、俺。
……すまない。本当にすまない、デュース。冷静になった。お前が嫌がることは、俺はしたくない。……もう夜も遅いから、ちゃんと送っていく。だけど、少し離れて歩こう。頼む。……今度は、分かってくれるだろう?」
 そう言って先に路地裏から出て歩き出せば、デュースが大人しくついてくる気配がした。やがてデュースの家が見えてきて、俺は距離を取りながらデュースに別れを告げる。
……今日は狼藉を働いてしまい、すまなかった」
「い、いえ……。その、先輩と、キスするの自体が、嫌なわけじゃなかったので……
「その、言い訳をするようだが……他の男が、お前のまわりにもいるんだと思って……。お前を見ている男は、俺の他にもいるんだと思うと、つい、俺だけのものにしたくなって……自分で自分を止められなくなってしまった。本当にすまない」
「そう、だったんですか……
 先輩、そう言ってデュースは俺に少しずつ近寄ってくる。思わず俺が何もしないようにと身構えると、デュースはえい、と背伸びをして俺の頬にキスをした。
「私、その、ちゃんと、先輩のもの、なので……っ、み、道とか外ではダメですけど……っ、ちょっとずつ、してもいいところで……、普通のちゅーからしましょうね……っ」
 じゃあまた明日、と逃げるようにデュースは家の中へと駆け込む。……駆け込んでくれて、助かった。そうじゃなかったら俺が、今度は何をしていたか分からない。いや、逆にもう、何もできなかったかもしれない。どちらにせよ、俺の気持ちとしては情けないし不甲斐ない。もう二度と欲に負けるべきではない。一層、精神の鍛錬に励まねば。
 そんなまともぶった呪文を頭の中では唱えながらも、俺は、きっと見たことはないだろうほど真っ赤になっている顔を親父殿に会う前に冷やそうと、いつもの帰路よりずいぶん遠回りして帰る羽目になるのだった。

*おしまい