山茶花
2024-09-11 20:18:41
11776文字
Public [シルデュ♀]受け女体化学パロ
 

君じゃなきゃダメみたい(2)【082GP002】

シルバーがデュ♀をハッキリ意識しはじめるまでの話。

※現代学パロです。男子そのまま・女体化キャラ入り交じっています。
※独自設定が多く含まれます。
※今回はシルデュの他にマレセベ♀、ジャミカリ♀要素が含まれます。
※ジャミルが欲にまみれた男子高校生です。ジャミル好きの方ごめんなさい。というかスカラビア好きの方ごめんなさい。

↓大丈夫な方はスクロール


 ――朝。窓辺に来た小鳥たちのさえずる声が、寝ぼけ頭の俺を徐々に起こしていく。
「ん……あと五分……
 布団から離れがたく、寝返りを打っていると、階下から父の呼ぶ声が聞こえた。
「シルバー!! 朝じゃぞー!!! 起きんか!」
……朝だ……
 どうにかこうにか、ベッドから身体を起こす。けたたましく鳴っていたはずの目覚まし時計はいつの間にか止めていたらしく、枕元にゴロゴロといくつもの目覚まし時計が転がっていた。

 身支度を終え、階下に降りる。朝は時間がないので、もっぱらトースターで何枚かのパンを焼き、適当にバターやスプレッドを塗るだけになっている。親父殿も朝に強い方ではないから、俺たちの朝食は本当に簡単なもので済まされていた。
「そういえばシルバーよ。お前、昨夜は部屋に籠り切りで、夕餉のときまで上の空じゃったが、どうかしたんか?」
 具合が悪いのなら早めに言うのじゃぞ、と親父殿は俺のことを心配してくれる。しかし、俺がそんな態度になってしまったのは、親父殿に心配してもらうほどのことではない。誤解は早めに解いておかねば。
「いえ、具合が悪いわけではなくて……。心配をかけてすいません」
「うむ、それなら良いのじゃが」
……その、女性の扱いを学んでいたんです。改めて……
 その言葉を口にした途端、親父殿は目を輝かせる。
「春か!? シルバー、お前にも春が来たんか!? うちの学校か!? どこのクラスの子じゃ!?」
「ま、待ってください! 順を追ってお話しますから……
 そうして俺は、新入生のデュースと付き合うことになった旨を親父殿へと報告した。
「ほ~。恋愛なんて見合いでもしてからでいいとか抜かしておったお前が、のう? まるでおのこのようであったおなごが、自分のために可愛くなってくれたことが、ついいじらしくて断り切れなかった、じゃと?」
………………
「はっはっは、良い良い! 青春じゃなあ! ……大事にするんじゃぞ~?」
 からかわれている。これはもう、からかわれている。多少は覚悟の上だったが、やはり気恥ずかしい。俺はさっさと朝食のパンを食べ終えると、カバンを取って足早に玄関へと急いだ。
「先に行きます、親父殿。行ってきます」
「そう照れんでも良いではないか! まったく。……気を付けて行くんじゃぞ」
 親父殿に手を振り、玄関を出発する。やがて学校近くの通路に辿り着けば、セベクがそこに待っていた。
「来たか、シルバー」
「ああ。おはよう、セベク」
 俺たちは毎朝、この道端でマレウス様をお待ちしていた。マレウス様は毎朝、専任の運転手が学校近くまで送迎していらっしゃる。が、毎朝学校まで乗り付けて悪目立ちし、他の生徒との距離が開くのは嫌だと言って、学校の近隣で俺たちと合流し、そこで降ろしてもらうことで妥協しているのだ。
 もちろん、帰り道も同じようにこの場所でマレウス様と別れる。学校にいるときも、俺とセベクはできるだけ離れないように言われているが……。そこは、セベクと二人で過ごしたいだろうマレウス様の気持ちを鑑みて、俺だけは昼休みなど席を外すことが多い。もちろん、俺がいても気にしない二人ではあると思うのだが、二人がその実想い合っていることを思うと、やはり邪魔はできないな、という気分になってしまうのだ。
「おはよう、二人とも」
「「おはようございます、マレウス様!!」」
 やがてマレウス様が、ご家庭の乗用車から姿を現す。そして、道の一番内側にセベク、次にマレウス様、一番車道側に俺が立って歩く。いつもの朝の登校風景だ。
 この夜鴉学園は、ひとたび学校の敷地内に入れば、それなりのセキュリティが保証されている。一部では芸能人なども通っている学校だから、警備員や監視の数なども多い。なので、俺もある程度は安心してマレウス様とセベクを二人にしてやれるのだ。もちろん、何かあったときにすぐに駆けつけられる場所にいるよう、なるべく努力はしているし、注意は払っているが……。今のところ幸いなことに、この学園の中で大きな事件が起きたことはない。
 やがて靴箱に着き、室内履きに履き替えようとする。中には手紙が入っていて、またかと俺は溜め息をついた。想いを込めてくれた女子たちには失礼かもしれないが、彼女たちにとっては一度きりのことでも、俺にとってはほぼ毎日のことだ。ほぼ毎日、誰かを悲しませてしまうことへの心労に、彼女たちには見えないところで溜め息をつくくらいは許してほしいと思ってしまう。
 ……そういえば、昨日も俺は靴箱を開けたとき、同じことをしていたな。だけど、ひとつだけ違ったのは……
……先輩?」
 そんなことを考えていると、後ろから声をかけられる。この声は……
「デュース。おはよう」
「おはようございますっ!」
 朝から会えて嬉しいです、と照れくさそうにデュースは髪を耳にかきあげる。……癖なのだろうか? だが、嬉しそうにしていたデュースの表情はだんだんと曇りはじめてしまった。
「先輩、それ……
「ん、どうしたんだ?」
「い、いえ! なんでもないです。それじゃあ、僕……じゃなかった、私、教室行くので! 失礼します」
「あ、ああ」
 なんだか様子が妙だった。どうしたのだろうか、と思っていると、後ろから同学年の男子生徒であるジャミルが声をかけてきた。
「おはよう、シルバー。今日も君はモテているな」
「おはよう。ジャミル。お前がいるということは……
「おはよっ、シルバー!」
「ああ、カリム。おはよう。やはりお前もいたんだな」
 カリムとジャミルの男女二人は、俺の友人だ。特にジャミルとは、同性であり、また主君は違えど同じ仕える立場の者同士として、気が合うことも多い。二人とも、本当に良い友人だ。ある一点を除けば、だが。
「君はいい加減彼女を作らないのか? 彼女はいいぞ。なんせ、いくら胸を揉んでもキスをしても、何をしても怒らない存在だ」
……それは、人の性格にもよると思うのだが……?」
 唯一の欠点を上げるとするなら、これだ。ジャミルは、その……。女性の胸や身体に、興味がありすぎる。今のところ、カリムに強くそれが向かっているのは、良いのか悪いのか……。ジャミルの主君であるカリムは、それを明け透けに許しているが…………ジャミル本人の話では、幼い頃から自分の意に反してカリムに何もかも譲る生活に嫌気が刺し始めた頃、ちょうど成長期に差し掛かったカリムの裸を見てしまい、思わずそれに触れてしまったことでジャミルの中の何かがこじれてしまったそうなのだが……ま、まあ、二人の関係だ。俺の詳しく感知するところではないと、一年間放置し続けている。そして深く気にすることはないだろう、これからも絶対に。それさえ除けば、二人ともとても良き友人なのだから。
「それに、彼女なら……できた」
「えっそうなのか!? おめでとう、シルバー! どこの誰だ?」
 カリムに祝われ、俺は答える。
「新入生の、デュース・スペードだ」
 胸を見たりするなよ、と俺が釘を刺す前にジャミルの言葉が先立った。
「ふむ、あの子か。まだ小さいが、やりようによっては大きくなりそうだよな」
「誰彼かまわず女性の胸を品評するのは良くないと前にも言わなかったか!? というか、人の彼女の胸を品評するな!」
 俺が声を荒げると、ジャミルは冗談だと笑った。……本当に冗談だろうな?
「さすがに俺だって、友人のものに手を出したりしないさ。リスクが大きすぎる」
「リスクとか、そういう問題ではないだろう……
「まあまあ、シルバー。ジャミルなりの冗談なんだ、許してやってくれよ! もし本当にやろうとしたら、なんとかして止めるからさ!」
 どこか信用ならない二人の言葉に溜め息をついて肩を落としていると、ジャミルは続けた。
「まあ、まともなことを言えば、君、先ほど彼女の前でラブレターを見せびらかしていたが、良くなかったんじゃないか? それ、あの子からじゃないんだろう」
「え、あ……
 俺はずっと手に持っていたラブレターを見る。そういえば、会話の間中、後生大事に握ってしまっていた。それで、アイツの顔は曇っていたのか。
……こういうとき、どうしたらいいんだ?」
「さあな。俺はそういった事態の一般的な対処法はよく知らないが、君ならなんとかなるんじゃないか? じゃあ、俺たちはお先に。行くぞ、カリム」
「じゃあな、シルバー! またあとで、教室でな!」
 手を振って先を行く二人に手を振り返し、俺は頭を抱える。……とりあえず手紙の主には恋人ができたと真実を言うしかないとして……。デュースには何と言えば。何か不貞を働いたわけではないが、心を曇らせてしまったのは事実で……。かといって、お前のことをちゃんと好きだから、と言ってやるには、まだ俺の気持ちが昨日の今日でそこまで育っているとは言い切れないわけで。さらに言えば、まわりの人たちからそのように扱われるから、だんだん、アイツが俺の彼女なのだと、そういう存在になったのだという実感が、今、だんだんとようやく湧いてきているくらいで。
 俺はどうしたらと考えながら、予鈴のチャイムが鳴る教室へと足を進めた。

 それから、何も思いつかず、放課後。呼び出し先の手紙の主に、恋人ができたと断り文句を告げると、どこの誰ですかと尋ねられた。
「新しく入ってきた、1年のデュース・スペードだ」
 俺は、きちんと想いを告白してくれた相手の質問に答えないのも不誠実だろうと思い、そう告げた。その選択は間違いだったと気付いたのは、事が起こってからだった。

「ねえ、アンタ。シルバー先輩ってヒト?」
 それから数日後。二年生の教室に、派手に制服を改造した赤毛の女子が現れる。髪の毛はゆるいポニーテールに結んでいて、手首にはシュシュ……だったろうか。そう呼ばれる髪飾り。スカートは短く、シャツの胸元は開いていて、あちこちにアクセサリーがつけられている。リドルがいたら、大目玉だったろうな……。そんな第一印象を受ける女子が、何やら俺を呼び出した。
「俺に何の用事だ?」
「ちょっと二人になりたいんだけど、いーい?」
「ここで済ませられない用事なのか?」
 ナンパの類だろうかと思い、断ろうとすると、いいからいいからと言ってその女子は俺に耳を寄せ囁いた。
……デュースのことなんだけど!」

 人気のない非常階段にその女子は座ろうとする。俺は上着を脱ぎ、その下に敷いてやった。
「スカートが汚れてしまうだろう。敷いていろ」
「やっさし~。誰にでもこういうことしちゃうんだ?」
……用件があるのなら、手短にしてくれ」
 俺が溜め息をつくと、目の前の女子は言った。
「ダイジなコトだよ? 好きじゃない子には勘違いさせないのって。特に、アンタみたいにモテちゃうオトコのヒトは。アタシもそーだもん、よく分かる」
……デュースのことで話があるんじゃなかったのか?」
「そのハナシにカンケーあるの。あのね、アンタ。この前、下級生の女子の告白断ったでしょ?」
「ええと……どの女子だ?」
「ウッソ、そこまで!? えーっとね、とにかくデュースと付き合ってるって話した女子! いたでしょ?」
「ああ、いたな」
 俺は記憶を手繰り寄せる。確かに数日前、俺は告白してきた女子に対して、デュースと付き合っていることを公言した。
「そいつらがさあ、どうにもデュースに嫌がらせしてるみたいなんだよね。アンタを取られたって嫉妬から」
「なっ……
 そんなことは寝耳に水だ。あの後、デュースの元へ向かい、嫌な気持ちにさせてすまなかったと謝罪はしたが、そのときもデュースは平気そうにしていた。その後も校内で何度か会うことはあったが、そのときもおかしな様子はなかったはずだ。
「女子の嫌がらせってコワくてさ。アンタには絶対バレないところで、陰湿にやるの。授業のノート貸してあげないとかさ、ランチ一緒の席で食べてあげない、とかさ。アタシ、そういうコソコソつるんで嫌がらせするような性格悪いオンナが大嫌いだから、空気読まずにデュースと一緒にいるんだけど、アンタがちっとも知らん顔なのムカついちゃって。で、文句言いに来たワケ」
「そうだったのか……、デュースと共にいてくれて、ありがとう。デュースは、大丈夫なのか?」
「んー、まあアイツもタフだからね。そんな滅入ってる感じではないけどさ。ともかく、アンタのせいだからね、って言いに来たの、アタシ」
……すまない。教えてくれて、ありがとう。君、名前は?」
「エース。デュースと同じクラスで、前後ろの席だから、覚えてよね!」
 俺から彼女たちに注意しようか、と言うと、エースはそんなの絶対ダメ、と言った。
「アイツがアンタに大切にされればされるほど、嫉妬と嫌がらせは強くなるよ。アンタにできるのは、こっそりデュースを慰めてあげることだけ!」
「そ、そうなのか……。何から何まで、すまないな」
「別に! フツーじゃない?」
 そう言ってぷんとそっぽを向いて怒るエースに俺は感心する。この子は見た目は派手だが、友達のために怒り、行動できる子なのだな。
「デュースはずいぶん良い友人を見つけたようだ。君のような子が傍にいてくれて良かった」
「だからぁ、そういうの! そういうとこだって! ヘタに女の子勘違いさせないように気を付けろっての!! いっちょ前に彼氏ヅラする前に!!」
 そうしてエースと別れ、教室へ戻ると、もう既に俺のことが噂になっているように感じた。いや、もう既に噂にはなっていて……今の今まで、俺の耳に入っていなかっただけだろうか。
『彼女できたらしいよ
『えー、ショック! 誰のものにもならないから諦めてたのに……!』
『一年生のデュース・スペードだって』
『なんであんなのが? 大して可愛いわけでもないし、勉強だってできないじゃん。ウワサでは元ヤンだったって話もあるしさあ……釣り合ってないよ』
 よくよく耳をそばだてれば、苛立つ悪意の声があちこちから聞こえてくるじゃないか。……選ばれなかったことに不満があるのなら、直接俺に腹を立てればいいのに、なぜ、何も悪くない彼女に悪意が差し向けられてしまうのか。……付き合ったばかりだが、もう、俺から別れを告げてやった方がいいのだろうか。悪意の声に、彼女が折れてしまう前に――

 昼休み。どうしようもなくなって、誰か大切な人たちに会いたくなった俺は、マレウス様とセベクの待つ生徒会室へと半ば逃げ込むように駆け込んだ。お前が昼この部屋に来るとは珍しいな、何かあったのかと告げるマレウス様に、俺は事情を説明する。
「なるほど、そんなことが……。ふむ、お前が自由恋愛をするとそのようなリスクが伴うのか」
 マレウス様は考える。俺が、別れてやった方がいいのでしょうかと尋ねると、マレウス様はそれを否定した。
「それは得策ではないだろうな。妬心を覚えたものからすれば、一度、お前と付き合えたという事実だけでも、後々に響く悪意の種になる可能性はある。別れてしまえば、守ってやることさえ簡単ではなくなるぞ」
「では、どうしたら……
 俺が頭を抱えていると、セベクは言った。
「ふん、くだらん。私だって、お前関連の嫌がらせなら受けているぞ。中学の頃から、お前といつも一緒にいるのが気に食わないと言って……
「そうだったのか!? どうして言ってくれなかったんだ!?」
「どうだっていいことだったからだ。そのような低俗な人間との交流、私から願い下げだったしな。物品に被害が出たなら、淡々と買い直して、然るべき場所に被害を訴えればいいだけのこと。その女子も同じようにすればいい。堂々としていれば、嫌がらせはじきに止むだろう」
「セベク……
 それでいいのだろうか、俺にできることは本当にないのだろうかと頭を悩ませる。俺のことで嫌な思いをさせているのに、俺には何も手出しできないなんて……
……俺はどうしたらいいのでしょう、マレウス様……
 失意の中俯いていると、マレウス様は仰った。
「良いことを思いついたぞ。セベク、そうは言うが女友達は欲しいだろう?」
「そ、そんな……! マレウス様がいれば、私には女友達などいりません!!」
「そう言うな。お前が本当はいろいろなことを話せる友達を欲しがっているのは知っているぞ? ……さあ、そうと決まれば、皆でシルバーの姫君を迎えに行こうではないか」
……えっ?」
 マレウス様は、置いてけぼりで顔を見合わせる俺とセベクの顔を見て、ふふふと不敵に笑っていた。

 そして、その後すぐ。一年生の教室へ、三人で向かう。マレウス様が一声、教室へと声をかける。
「デュース・スペードはいるか?」
「は、はい……私、ですけど」
「ふむ、お前がそうか。……では、単刀直入に誘わせてもらうが……これから僕たちと、食事を共にしないか?」
「えっ? 今日、一緒にお昼食べようってことですか?」
「ああ。生徒会長として、聞いておきたい話を小耳に入れてな。もし真実であれば、なんらかの対策を練らねばならない」
 マレウス様は一通り教室内を睨みつける。デュースはマレウス様の後ろに控える、気まずそうな俺を見て事情を察したようで、分かりました、と俺たちについてきた。

「して、一部の女生徒から嫌がらせを受けているというのは本当か? スペードよ」
「エースがバラしちゃったんですね……。嘘じゃないです。と言っても、ちょっとしたことだけど」
 生徒会室にて、食事を取りながらもマレウス様による事情聴取が始まる。デュースは観念したのか、すべてを正直に話してくれるようだった。
「食堂で私と同じ席に座らないとか、そういうのは別にいいんです。ムカつくけど、何か実害が出てるわけでもないから。でも、ペンとかノートを隠されたりするのは、買い直すのがちょっとお小遣いにも響くな、って……それくらいで」
「ふむ、なかなかに状況は深刻なようだな」
……すまない、俺のせいで……お前を巻き込んでしまった」
「先輩のせいじゃないですよ! 嫌がらせなんて、する奴らが悪いんだから。……それに……、ムカつくけど、あの人たちの気持ちも、ちょっと分かる気がするし……
「どういうことだ?」
……私、ずっとシルバー先輩のこと、その……好きで。でも、先輩には、会えない間に、とっくの昔にもう他に好きな人とか恋人とかいるんだろうな、って何度も考えて、そしたらすごい悲しくなったり、嫌になったりしたんで……
 だからってホントに嫌がらせしたりするのは良くないですけどね、とデュースは言った。
「だからと言って、気が済むまで好きにさせておく必要もあるまい?」
 マレウス様は言う。本当に、お優しい方だ。とはいえこの状況の打開策など、俺たちには――
「そこで僕からお願いがあるのだが――かまわないか、スペードよ」

 翌日。俺たちは食堂で、デュースと共に食事を取る。マレウス様が提案したことは、セベクの女友達になって欲しい、ということだった。
「私でいいんですか?」
「シルバーの恋人になるというのなら、むしろ望ましい。セベクは素直でなくて、気難しいから、女子の間では浮いてしまいがちなのだが、お前がこれからシルバーと懇意にするというのなら、セベクとも長い付き合いになるだろう。どうか仲良くしてやってくれないか?」
「そういうことなら……。よろしく、セベク!」
「ま、まあ、マレウス様のお願いだからな! 仲良くしてやらなくもないぞ、デュース! ファッションだの、恋だの、スイーツだの……、そんな浮ついた話なんかも、まあ、お前がしたいのであれば、聞いてやらなくもない!」
 ……新しくはしゃげる女友達ができて、あからさまに嬉しそうなセベクはさておき、このことは何か解決に繋がるのですか、とマレウス様に尋ねれば、続きの言葉が帰ってきた。
「ああ。これは副産物のようなものだ。本命の狙いはこちらにある。スペードよ、明日から食堂で僕たちと共に食事をしてもらってもかまわないか?」
「食堂で、ですか?」
「ああ。毎日とは言わないが、できるだけこの四人で共に食事を取ろう。僕はこう見えても、なぜか生徒たちに妙な畏れを抱かれているようでな。お前の身に何かあれば僕の耳にもすぐに入るとなれば、悪意ある者たちも簡単に手出しはできなくなるだろう。……ああ、そうだ。もちろん、お前の友人を連れてきてもかまわない。食卓は賑やかな方が良いからな」
 そうして、今に至るというワケだ。いつも生徒会室で食事を取っていたマレウス様が食堂に姿を現したことで、周囲は多少ざわついている。マレウス様がセベクとデュースの女子二人を大切そうに扱うのを見て、まわりの者の空気が変わったのを肌で感じた。
 ……確かに、これならばデュースに手出しする者は減るだろう。マレウス様の威を借りているようで、申し訳なく、情けないが……それでも、今の俺にできることは、マレウス様を頼り、頭を下げることの他なかったんだ。
「マレウス様……、ありがとうございます」
「何、安いことだ。いくら強がっていようと、セベクにも同性の友人は必要だろうからな。あまり良いきっかけではないが、良き機会は得たと言える」
 それにしても僕たちの花である二人が揃うと見目華々しいな、お前もそうは思わないか、シルバー? とマレウス様は機嫌が良さそうに問いかける。……なぜ、こんなにも明らかにセベクのことを想っているのに、セベクのやつは気付かないんだろうか……
「ねね、デュースから話聞いちゃった。アタシもご一緒していーい?」
「エース。……ああ、もちろん」
 どこからかひょこりとやってきたエースも含め、5人で食事を囲む。後から聞いた話だが、この日からデュースへの嫌がらせは徐々に止んでいったのだと言う。俺はそのことを聞いたあと、改めてマレウス様に感謝の意を示した。
「マレウス様、今回は本当に……本当に、ありがとうございました!」
「良いと言っているだろう、まったく。……お前はまだあまり実感が湧いていないようだが、あれはお前にとって大切な存在なのだぞ? であれば、僕たちにとっても将来の家族も同然。であれば、お前が跳ねのけられない理不尽な悪意の手から僕が守ってやるのは、当たり前のことだろう?」
…………
 俺は、そう言われて気付く。みんな、からかいながらも、笑いながらも、最初から……友人や家族たちは皆、あの子を『俺にとっての大切な存在』と扱ってくれたじゃないか。気付いていなかったのは、俺だけだ。あの子が、俺にとって大切な存在になったんだと。これから、なっていくんだと。他の子よりも特別で、守らなければならない存在。そう、扱わなければならないのだと。みんな、口に出して教えてくれていたじゃないか。
……ありがとうございます。大切なことを、見落としていたようです」
「ふふ、お前にとっては初めての恋だろうからな。良い良い、なんでも先達たる僕に聞くと良いぞ?」
「ええ、頼りにしています。つきましてはひとつ、お願いがあるのですが……よろしいでしょうか?」
「うん?」
 それから俺は、マレウス様にひとつのことを願い出た。

 放課後。俺は、校門でデュースのことを待つ。今はまだ新入生の勧誘期間で、部活動自体は休止されているから、帰宅時間も早いものだ。やがて姿を現したデュースに俺は言う。
「デュース。その、一緒に帰らないか。……校内ではなかなか、共にいる時間が取れないから」
「い、いいんですか? 先輩、護衛のお仕事は……
……確かに、マレウス様を途中まで送らなくてはならないから少し歩くが、それでも良いのなら……俺と、一緒に帰って欲しい」
 するとデュースは、全然大丈夫です、と言って俺と共に歩き始めてくれた。少し先で待っていたセベクとマレウス様が、俺たちの様子を見て笑い合う。
「無事に連れてこれたようだな、シルバー」
「ええ、マレウス様のお陰です」
 マレウス様の言葉に、俺は答える。俺がマレウス様にお願いしたのは、デュースと共に帰りたいので、帰り道に連れてきても良いかということだった。マレウス様はこれを快諾してくれ、いずれ僕たち4人でWデートというのも面白そうではないか? なんて冗談さえ言っていた。
「では、帰るとしようか」
 マレウス様の号令で、俺たちは歩み始めた。朝と同じ通路で、俺はマレウス様をお見送りする。どうやら今日はセベクも共に乗せていくようで、ここでお別れだと言われた。二人に別れを告げ、俺はデュースに向き直る。
「それじゃあ、ええと……帰ろうか」
……はい」
 帰り道、沈黙も気まずく、ぽつりぽつりと俺はいろいろなことを話しかけた。
「その……そういえば、お前はたまに、僕と言いかけるが、前は俺と言っていなかったか?」
「あっ、えっと、それは……。まだ髪が短かった頃、まだ男の子みたいなのに、私って言うのが恥ずかしくて、僕を間に挟んだ時期があったんです……そのときのクセが、抜けなくて」
「そう、だったのか。そういえば、聞き損ねていたが……どうしてお前は俺を好きになってくれたんだ?」
……私、あの頃、ひどい態度してたから、お母さんを泣かせちゃってて……。お巡りさんにも説得されて、不良やめたいけど、どうしたら……って迷ってたんです。……そしたらあの日、先輩に、女の子って言ってもらってから、本当の女の子みたいに、可愛くなりたくなって……
「そうだったのか……。ええと、今回は、俺のせいで大変な目に遭わせてしまって、すまなかった。本来は俺が守るべきところを、うまく対処できなかったことも、情けなく思う」
「いえ、それは、何度も言いますけど、先輩の謝ることじゃないですから」
「あとは……その、すまない、話があちらこちらに飛んでしまう。俺は昔から口下手で、話が得意ではなくて……
「ふふっ、そうなんですね。緊張してくれてるのかと思っちゃってました」
 そう言って笑うデュースに、俺は意を決して言う。
……緊張なら、している。マレウス様に言われて、ようやく気付いたが……。お前のことが、特別なのだと。これから特別に扱っていかなければならない存在になったのだ、と。今日、やっと自覚して……だから、その……どうしてやったらいいか分からなくて、緊張は……ずっと、している」
「そう、なんですね……
……ああ」
 俺たちの頬が赤いのは、きっと、夕日のせいだけではないのだろう。ふと、隣を歩くデュースの手に手の甲が触れた。
……
 なんとなく思い立って、デュースの手を握ってみる。……柔らかくて小さい、女の子の手だ。
「せ、せんぱい……
……
 照れくさくなって、黙ったままでいると、デュースも黙ってしまう。やがてデュースの家が近付いてきたようで、あそこです、と指を差された。
「あ、あの、先輩、手……
「あ、ああ、すまない」
 握りしめてしまっていたデュースの柔らかな手から、手を離す。
「今日は、その……待っててくれて、一緒に帰ろうって言ってくれて……嬉しかったです、ありがとうございます」
「ああ」
「手も、ぎゅっとしてくれて、私だけの一方通行じゃないんだ、って思って……だから、えっと、あの……っ」
 好きです、とデュースは改めて俺に告白する。その、赤くなった頬が、潤んだ目が、ぎゅっと握りしめられた両手が、これが俺にとって特別で、大切な存在なのだとそう思うと、改めて可愛くて、可愛いと思って、ドキリと俺の胸を打って。ああ、俺は、初めて告白されたとき、どうしてあんなになんでもない顔をしていられたのだろう?
「ま、待って、くれ、その……っ、あまり、そういうことを、たくさん言うのは、まだ……っ」
 赤い顔を手で隠して、隠しながら、デュースの前から立ち去る。
……ま、また明日!」
 その場から走って逃げるようにしたあと、辿り着いた河川敷でしゃがみ込んだ。
「なんだ、これ…………恋って、なんなんだ……?」
 ドキドキと胸を打ち始めた心臓が、止まらない。これから、こんなことに常々耐えなくてはならないのか? なんてことだ、世の中の恋人と言われる人たちはみんなそうしてきたのか? 俺は、止まらない心臓と、熱い顔を冷まそうと、ただ走って家に帰ることしかできなかった。

*おしまい