芹沢亀吉
2024-09-11 00:00:24
2129文字
Public 風刺
 

誤字

暴虐なナルシストの楠木武が恥をかく物語の通算109話目。

 この度宜野湾市長選に立候補した照屋てるや敦彦あつひこを応援している楠木くすのきたけし一等陸佐はSNS上に下記の投稿をした。

「経済問題と基地問題は、反対、反対だけでは解決しません。今この宜野湾市は大きなチャンスを迎えています。沖縄の未来の安全と繁栄、そして県民の笑顔の為に気合いを入れ宜野湾市に赴きテルヤ候補の応援を行います。#テルヤ淳彦を宜野湾市長に 7:16/2024/9/6 まほろば・すさのお」

 正しくは「テルヤ敦彦」なのに、楠木の投稿には「テルヤ淳彦」と誤字がある。ちなみにこの楠木のハンドルネームは「ウヨポネ・ワンネス教団」なる教団が宇宙から飛来した黄金の三頭龍から世界を救う夢を見た際、その名前からして危なそうな教団を率いる自分そっくりの教祖が「まほろば・すさのお」と称していたのに影響されたとか。

 程なくして楠木は自衛隊の秘密部隊に拉致され3日間の監禁生活を余儀なくされた。楠木の誤字投稿は無効票を増やし照屋当選を阻みかねない上、現役自衛官である楠木が特定の立候補者を応援するのは正真正銘の選挙違反、そのため辺野古移設を容認する照屋の当選を願う政府与党は宜野湾市長選が終わるまでの間楠木を拉致監禁することにしたのだ。楠木の選挙違反を阻止するため拉致監禁という犯罪行為に手を染める政府与党も大概邪悪だが。当然ながら武はそのような政府与党の思惑など全く知らず、3日ぶりに帰宅した途端に配偶者久代ひさよを蹴飛ばした。

「久代!貴様!この俺が留守している間に男連れ込んだりしていないだろうな!」

 武は日頃から久代に暴力を振るい続け、そのことを心のどこかで後ろめたく思っているのか事あるごとに彼女に難癖をつける。

「それにしてもこの楠木を拉致したあいつらは何者だ?さてはこの楠木正成公の末裔である俺様を妬む反日テロリスト集団だな!そういえば芹沢せりざわ亀吉かめきち、あいつならこの楠木を拉致するためならず者共を動かしてもおかしくない。こうなったらあの反日非国民に死んでもらおう。」

 楠木はSNS上にて自衛隊は勿論皇室も手厳しく批判する芹沢を一方的に敵視し続け、一民間人に現役自衛官を拉致監禁する力など無いという当たり前のことも分かっていない上、芹沢を拉致監禁の主犯と勝手に決め付け殺害まで企てるのだからどうしようもない。

 翌朝楠木は封筒をポストに投函しほくそ笑んだ。この封筒には毒針が仕込まれ、何も知らない芹沢が封を開ければほぼ確実にあの世行き。無事芹沢の自宅に封筒が届けばの話だが。

「これであの反日非国民もおしまいだ。この楠木を拉致監禁したのをあの世で後悔するがいい。そしてこの楠木は反日非国民を成敗した勇士だ。グハハハハ!」

 朝っぱらからポストの前に立つ口髭を生やした中年男性が下品な声を上げ大笑い、この珍妙な光景を目にした近所の人達がひそひそ話をしているものの、馬鹿笑いに夢中の楠木本人に現在進行形で恥をかいている自覚など無い。

「ご近所の皆様、早朝からお掃除にゴミ捨てとご苦労様です。そんな貴方達に特別サービスとしてこの楠木の全裸をお見せしましょう。あのミケランジェロのダビデ像にも勝るとも劣らない肉体美をご堪能下さい。おっとあっちは冷たい大理石、一方この楠木の肢体は毎日太陽を浴び続けた小麦色故温かみがありましたか。」

 調子に乗った楠木が服も下着も脱ぎ捨て中年太り真っ盛りなブヨブヨ裸体を披露したため近所の人達は悲鳴を上げ、その悲鳴を聞き駆け付けた警官によりナルシストな恥知らずの口髭男は公然わいせつ罪で現行犯逮捕されましたとさ。

 結局楠木は僅かな罰金刑で済み、帰宅したばかりの武に久代が封筒を手渡した。この封筒は先日武が芹沢に送り付けるも書かれた住所が誤字だらけだったため「宛先不明」扱いとなり、局内に保管されていたのを久代が郵便局に足を運び引き取ったばかりだ。そもそも楠木が特定した芹沢の住所はネット掲示板に書かれていたもの故信憑性に乏しく、仮に楠木が正確にその住所を封筒に記していたとしても芹沢本人の自宅に届く可能性はほぼ無い。

「久代!こんなものを俺に手渡すな!自分で処分しておけ!」

 罰金刑に処された苛立ちも相まって、この外道は家庭内暴力に一層力が入る。実のところ武の郵便物が誤字により「宛先不明」扱いされるのは一度や二度では無く、封筒に毒針が仕込まれているなどとは夢にも思っていない久代は無事受取人に届いたか不安になり、郵便局に連絡したところ案の定保管されていたためいつも通り引き取ったのである。

「郵便局の連中も無能だな!芹沢の自宅にこの封筒を配達という簡単なことも出来んとは!」

 苛立つ楠木が力任せに封筒を握り潰したその時、毒針が飛び出し家庭内暴力野郎の右手のひらにチクリと刺さった。

「貴方、しっかりして下さい!貴方!」

 白目を剥き口からブクブク泡を吹く仰向け状態の楠木は心臓の鼓動が止まり、徐々に身体が冷たくなっていく。この暴力主義者は家庭内暴力や封筒への八つ当たりに夢中になりその封筒に毒針を仕込んだのを忘れ、結局自分の身を滅ぼしましたとさ。(終)