しゃどやま
2024-09-08 21:43:30
1546文字
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【モクチェズ】きこえますか

モクチェズ版ワンドロワンライ「動画」より。
なんかこう……伝われ!! おじさんの愛!! 伝われ!!

ワンドロライ 「動画」

 私は動画を再生した。ヘッドホンは付けない。この部屋には私とモクマさんしかおらず、盗聴の危険性も排除してあるのだから。
 質の悪いカメラで採られた音が、スピーカーから発せられる。
「イエーイ、彼氏くん、見てる?」
 同じ部屋のソファに座り、スルメでホウジ茶を飲んでいたモクマさんは、ビクッと肩を震わせて振り返る。ガラの悪い男の声が急に響いたので、驚くのも当然だろう。男はニヤついた顔で言う。
「今からキミの彼女は俺とデートしちゃいまーす」
 モクマさんが立ち上がり、対面に座った私の後ろに回り込む。タブレットを覗き込むことになんの躊躇もない私の恋人、モクマ・エンドウ。
「なにこれ……?」
「寝取られビデオレターです。次のターゲットの弱みなのですよ」
「なにそれ……?」
 目を丸くしたままのモクマさん。私は口元に指をやり、妖艶に微笑む。
「スワッピング趣味と言うべきか、それよりもっと精神的な繋がりを重視しているといいますか……自分の恋人が別な相手と恋に落ちることへ興奮する方々のための映像です」
……へ?」
 言葉の意味はわかるが、意味がわからない――そんな表情で、モクマさんは首を傾げる。特殊なフェチズムには本当に造詣が浅い。私の体にあれほどの無体を働いておきながら、彼はわりと光の住人なのだ。
「居るのですよ、自分が大切に思っているものを奪われ踏みにじられることにしか興奮できない方々が」
「そ、そのあとどうなるの? 動画では」
「どうとも。一人さみしく恋人を奪われた主人公が涙を流して終わります」
「えぇ……
 想像してしまったのか、面白いほど青ざめる。マフィアの傭兵へ勧誘する裏サイトを見ておきながら、フェチビデオはあまり見ていないようだ。
 私はニンマリと笑みを浮かべ、モクマさんに体ごと振り返る。
「モクマさん」
「嫌な予感! 駄目駄目!」
「冗談です。私が他の相手に心を許すなどありえないこと」
「よかった……
 胸を撫で下ろすモクマさん。大袈裟な反応が愉快でならない。クスクスと笑いながら、タブレットに向き直る。
「けれど、イメージ・プレイとしては愉快なのでは? 他に心があるあなたを籠絡するシチュエーションなど、そそられますねェ」
 嘘だ。不貞をする人間は嫌いだ。それは恋人への裏切りだ。同時に私は、全てをかなぐり捨ててまで手に入れたい濁った情熱を知っている。
 モクマさんは呆れたように弱った声を出す。
「やめてよ、人妻モノだってあんまり観ないんだから」
「あんまり?」
……おじさん失言した?」

 ふと、私の口が勝手に動いた。精神の意図しない、つぶやきが生まれる。
……しかし、ねェ。あなたは……
 私の歯切れの悪い言葉に、モクマさんが低く返す。私の肩に、穏やかな手を置きながら。
「身を引くタイプに見えたって?」
 頷きながら、その手に手を重ねる。考えながら、ゆっくりと言葉を口にする。
「最初はね。ところがあなたは……今や私を失うことを恐れている」
 恐れている。拒否したいと思っている。来世が約束されていようと。それは、執着し続けた私が抱く感情で、逃避していた彼の抱く感情とは思い難かった。
 私の指を、彼の指が弄ぶ。命綱のように組み直す。握り返して、言った。
――もはや全身あなたのものであるというのに」
 浅いため息を、モクマさんは吐いた。言葉にできない感情を、息に変える。
 ソファに座る私の背後から、私を抱きしめる。暖かい香りがした。
「ごめんな、チェズレイ。俺は、好きな人を大事にしたいよ」
「可愛らしい人ですね」
 私は微笑み、近くなった彼の頬に頬を寄せる。
 モクマさんは、困ったように笑った。