ミイ
2024-09-08 10:57:10
7483文字
Public エアリーズ政府 広報担当
 

ユキノ・クリサント回顧録(没ver.)

舞-乙HiME Zwei 第2幕の准将と大統領の絆があまりにもすごすぎたので、ドラマCDを意識しながら書いてみました。
書き終わった後に「アーミテージ准将はユキノをサポートするためにオトメになった」という情報をいただき、1から書き直そうというと思ったのでこちらは没バージョンになります。妄想ばかりなので、あたたかい目で見ていただけると幸いです。

 もう、三月になりますね。
 だいぶ暖かくなってきた窓の外を眺めていれば、上品なノックの音と共に、執務室のドアが開いた。

「大統領閣下、次の会合の資料です」
「ありがとうございます、ボーマン中将」
「何か、考え事ですか?」
「ええ。もうすぐ、ガルデローベでマイスターの任命式がありますから……少し……思い出してしまって」

 CDドラマ 舞-乙HiME
 ミス・マリアは見てた 
 vol.2 ボーナストラック 
 ユキノ・クリサント回顧録!

 私がハルカちゃんと出会ったのは、まだ小学校に上がる前のことだった。私の家は代々、エアリーズで政治家を輩出していて、人脈を広げるため、強いものにするため、たびたびパーティーを開いていて……そこに、お父様と一緒に来ていたのがハルカちゃん。同じくらいの年の子なんてそう多くはなくて、自分から声はかけれなかったけど、大人の人たちにも堂々と自己紹介をしているハルカちゃんを、こっそり見つめていた。時々ドレスの裾を踏んじゃって、転びそうになるのは、すごくハラハラしたなぁ。くるくる表情が変わって、大きな声で笑って。根暗な私とは全然違う眩しくてキラキラした人。

 かっこいいなぁって見つめていれば宝石みたいな瞳が突然、私を映して。お父様の後ろに隠れてばかりだった私を……ハルカちゃんが、温かい手で引っ張り出してくれたの。
「あなた、ここのいえのこなの? わたし、ハルカ・アーミテージ。あなたは?」
「わ、わたし…………キノ・……サント」
「はあ? キノコ?」 
「ユ、ユキノ! ……ユキノ・クリサント……
「なぁんだ。あなた、おっきなこえでるじゃない」
 ニッと歯を見せて笑ってくれたハルカちゃんを、私はまるで、太陽みたいな人だって、思った。

 あの頃、ハルカちゃんとはいろんなおうちのパーティーで一緒になることが多かった。引っ込み思案でうまく挨拶できない私と違って、堂々と胸を張って挨拶してるハルカちゃんはかっこよくて、わたしの憧れだった。

 だけど、お互いの家を行き来するくらい仲良くなったら、ハルカちゃんのいろんなところが見えてきたの。丁寧で上品な仕草をしようとしているのにいろんなものを落としちゃったり、言い間違いが多かったり。時々おっちょこちょいで、ハルカちゃんの方が年上なのに、目が離せなくて。

「いくわよ、ユキノ!」

 ハルカちゃんに名前を呼んでもらえるのが、手を引いてもらえるのが、すごく……嬉しかった。

 私たちの関係性が少し変わったのはあの日、だと思う。すごく興奮した様子のハルカちゃんが、私の部屋のドアを勢いよく開けて、吹っ飛ばしてしまった日だった。

「ユキノ! 私、オトメになる!」
「お、オトメ? ハルカちゃん、急にどうしたの?」
「急にも牛乳もないわよ! 決めたの。私、オトメになって、エアリーズを守る。世界一のオトメになるの!」

 呆然としている私の前で仁王立ちになって、テレビの中で見る、正義の味方のようなポーズを決めているハルカちゃん。

 オトメ。この世界の人なら誰でも知ってる存在。王族や要人の警護やアドバイザーを担う、超人的な力を持つ人たちのことだ。見目麗しい人も多くて、社交界の花とも言われている。そういえば今日、ハルカちゃんのお父さんはヘキサゴンに行くって言っていたっけ。もしかしたら、ハルカちゃんも一緒に行って、そこでエアリーズのオトメに会ったのかもしれない。影響されやすいハルカちゃんのことだから、あり得なくはないと思う。

 相手が誰であっても対等に自分の思っていることをまっすぐにぶつけて、間違ってることは間違ってるってはっきり言えるハルカちゃん。うまく自分の気持ちを伝えられないでいる私を、いつだって守ってくれた。

……いつもごめんね、ハルカちゃん」
「ユキノはわるくない。なんにもわるくないのにあやまるくせはなおしなさい!」

 昔から、卑屈になってしまう私を、すぐに怒ってくれた。勢いで危ないことをしようとするハルカちゃんを、私が怒ることもあったけれど。そして。

「わたしのとなりにいるんだから、シャキッとしなさい! ユキノ!」

 常に背筋を伸ばして凛と前を向いて、私の手を引いてくれていた。


 ハルカちゃんはずっと、私のヒーローだった。


 そんなハルカちゃんが、オトメに。

 ……いつか、そうなるんだろうなって心のどこかで思っていた。こんなに眩しい、太陽みたいなハルカちゃんはきっと、私の手の届かないところに行ってしまう。そしてみんなの太陽になるんだろうなぁって。

 ハルカちゃんは、一度決めたことは絶対に、何があっても最後までやり遂げる。だから、今の私ができることは。

「私、応援するね。ハルカちゃん」

 ハルカちゃんの足手纏いにならないように、夢を見つけたハルカちゃんの背中を押せるように、笑って見送ること。そう、思っていたのだけど……

「何言ってるの? ユキノもなるのよ。オトメに」
「ええっ!?」
「約束したでしょ? 私たち二人で、この国を、みんなの笑顔を守るんだって」
「で、でも…………
「やるったらやるの! こうなりゃ修行よ! 気合い入れに走ってくるわ! あ、これ、オトメになるには指輪がいるって聞いたから、家にあったのを持ってきたわ! ユキノ、持ってて!」
「わわっ!? ハ、ハルカちゃーん!?」

 壊れたドアはそのまま。びゅんって風のように走って行ったハルカちゃんを見送って、私は小さく、息を吐き出した。手のひらの中の、オレンジ色の宝石がはまったリング。今まであまり縁のなかったそれを見つめながら、私はぽつりとつぶやいた。

「オトメ、かぁ。でもハルカちゃん、オトメがするのはピアスの方だと思うんだけど……

 オトメがしてるのはピアスで、あれは特別な宝石って聞いたけど、ハルカちゃん知らないのかなぁ。指輪は……たぶん、マスターがするもの、だと思う。

 ハルカちゃんのお家のなら、大事だろうし高価なものだろうし。お母様にもらった宝石箱にそっと仕舞い込む。ハルカちゃんが帰ってきたら渡そうと思って待っていたら、ハルカちゃんのお母さんから連絡があった。走り込みに行ったハルカちゃんはそのまま気合いでお家まで帰って、すぐに寝てしまったとのこと。ここから結構離れてるはずだけど……やっぱりハルカちゃんはすごいなぁ。

 夜寝る前に、自分なりにオトメ、のことを調べてみたけれど……やっぱり私には、なれそうにない。

 そもそも、オトメになるにはガルデローベというヴィントブルームにある学園に入学しなきゃいけない。そもそも倍率は普通の学校とは比べ物にならないくらいに高い。

 入学基準は容姿を含む能力と、可能性のみ。座学だけじゃなく、舞闘に料理なんかも。入学できたとしても、ニ年生のパールに上がれるのは半分だけ。

 ハルカちゃんはおっちょこちょいは多いけれど、みんなに愛されるかっこよさと可愛さがある。勉強も頑張っているし、運動神経も抜群。十分、国の象徴ともなるオトメの素質があると思う。だけど……私は?

 少し勉強ができるくらいで、ハルカちゃんにくっついているだけの、何もできない存在。ハルカちゃんみたいに可愛くもないし、運動は大の苦手。ハルカちゃんはああ言ってくれたけれど、私がオトメになるなんて……無理、だよね。

 ガルデローベに入るには、すごく難しい試験を受けなきゃいけないって聞いた。入れたとしても、授業や試験はすごく厳しいって。ハルカちゃんのことだからもう今日から対策を始めて、万全にして試験に臨むはず。今までみたいに遊べなくなるかもしれない。じゃあ、私は? 私は……どうしたらいいのかな。

 ずっと、ハルカちゃんの後を追ってきた。ハルカちゃんに手を引いてもらってここまできた。だけど、ハルカちゃんにその手を離されてしまったら。私、どうしたらいいんだろう。
 
 ◇◇◇
 
……マスター? そっか。マイスターオトメには、マスターがいるんだ」

 ハルカちゃんが毎日オトメになるための修行に明け暮れている間(筋トレの比重が多いような気がしたけれど)私は私で、オトメについて調べていた。マイスターオトメは、マスターと命を共にする。オトメが傷付けばマスターも傷つき、マスターが傷付けばオトメも傷つく。つまり、契約をすれば、文字通り一心同体になる。その人の刃となり盾となり、ハルカちゃんはその人と一緒に国を守る。いつか、ハルカちゃんがマイスターオトメになった時、そんな存在が現れる。そう考えただけで……涙が止まらなくなった。仕方がないって、思う。オトメはそういう存在だから。だけど、だけど……一度溢れ出したら、止めることはできなかった。

 いやだ。いやだ。いやだ。……私のハルカちゃんを、とらないで。

 ずっと、一緒にいたの。これからもずっと一緒だって思ってたのに。

 この国の人たちがみんな笑顔でいられるように、二人で守ろうって、ハルカちゃんと、約束したのに。何もできずに、ハルカちゃんが他の人とその約束を叶えていくのを見ているだけなんて……そんなの、そんなの無理。

 …………………………二人で、守る?

 そう。マイスターオトメには、マスターが必要。契約を交わした二人は、命を共にして、目的を同じくして戦うことができる。マスターの意思は、オトメの意思。オトメはマスターの望みを叶えるために、その手となり足となる。もちろん、大切なものを守ることだって。

「これ、だ」

 目の前が一気に、開けた気がした。

 初めてだったの。自分で、心の底からやりたいことができたのは。

 ハルカちゃん、待ってて。私、頑張るから。もう、あなたの後ろじゃない。絶対にあなたの隣に胸を張って立てるようになるよ。


 できる、できないじゃない。


 やるんだよね、ハルカちゃん。

 ハルカちゃんにはハルカちゃんの夢を叶えてほしい。私はハルカちゃんの隣で、ハルカちゃんとの約束を叶えたい。そして、私をずっと守ってくれていたハルカちゃんを、今度は私が守りたい。

 ……こうしてる暇はない。ハルカちゃんがガルデローベに入学するまで後何年ある? 私は間に合う? ハルカちゃんがオトメになったら。……おっちょこちょいなところはあるけれど、きっと他国も自国のオトメにと願うかもしれない。その人たちに負けないように、私も、ハルカちゃんを迎えに行ける力を、地位を、確かなものにしなければ。

「お父様。……教えてほしいことがあるの」

 絶対に約束、守るからね、ハルカちゃん。
 
 ◇◇◇
 
「さあユキノ! 今日も特訓よ! ガルデローベに入ったら料理も自分たちで……ってどうしたの? ユキノ」
……ハルカちゃんごめんなさい。私は、オトメにならない」
「どうして? 二人で守るって約束したじゃない!」
「うん。でもハルカちゃん。もしもオトメになれたとして、私たち二人共、この国のオトメになれるとは限らないんだよ」
「そう、なの?」
「うん。一緒に入学してオトメになっても別々の国に行っちゃって……何かあった時にハルカちゃんと戦うなんて、私はそんなこと、できない。……そもそも私じゃ、試験で落ちちゃうと思うんだけど……でも、ね。やりたいことが、できたんだ」
「ユキノの、やりたいこと?」
「うん」
「あのね、ハルカちゃん。ハルカちゃんがオトメになったら……私が、ハルカちゃんのマスターになる」
「マスター?」
「やっぱり知らなかったんだね……ハルカちゃん、オトメは一人で戦えないんだよ? 認証してくれるマスターがいないと」
「そうなの!?」
「それに、そのマスターとハルカちゃんは、契約を結んだら、命を分け合うことになるの。マスターが傷付いたら、ハルカちゃんが傷つく。ハルカちゃんが傷付いたら、マスターも傷つく」
…………
「ありがとう、ハルカちゃん」
「え?」
「初めて会った時からずっと、私の手を引いてくれて」
「ユキノ?」
「でももう、大丈夫だよ。見つけたから。私がなりたいもの」
「ユキノ……
「ガルデローベでは、三月になったらマイスターの叙任式があるんだって。その時に、マスターとオトメが契約するの。だからその時、ね。私は絶対、マスターとしてハルカちゃんを迎えに行くよ。そして二人で、エアリーズを守ろう?」

 ハルカちゃんのこんな顔、初めて見たなぁ。少しは返せたかな。私が今まで、ハルカちゃんから受け取ってきたもの。

……わかったわ。私は絶対パールNo.1で卒業するから、その時ちゃんと、マスターとして迎えにきなさいよ?」
……ユキノ・クリサント。あなたが私の、マスターになりなさい。ユキノにだったら、私の全部、預けてもいい」
「うん。ありがとう、ハルカちゃん」
「じゃあ、競争よ? どっちが先に、夢を叶えるか」
「ふふ。二人で、じゃないの?」
「そ、そうだったわね! じゃあ、もう一回約束。ユキノ。私たち二人で、この国を、みんなの笑顔を守るわよ!」
「うん、ハルカちゃん!」

 それから、ハルカちゃんはオトメになるために。そして私はお父様について、政治家になるための勉強を始めた。一緒にいられる時間は前より少し減ってしまったけれど、ハルカちゃんも頑張ってるって思ったら、いくらでも頑張れた。

 私が飛び級でヴィントブルーム大学に上がって二年が経った時、受験基準を満たしたハルカちゃんがついに、オトメ養成学校、ガルデローベに合格した。

「やっとユキノに追いついたわ! これでまた、約束に一歩近づいたわね!」
「うん、ハルカちゃん」
「てかあんたの話、エアリーズでもよく聞いてたわよ? 学生の身で、もう政界入りするんですって?」
「うん。うちは年齢制限がないし……早いに越したことはないからね。油断はしてないし、大丈夫だよ」
「ユキノのそこに関しては心配してないけど……なんかあったら私にすぐ言いなさいよ? 大学でもよ? ユキノに何かする奴がいたらぎったんぎったんにしてやるんだから!」
「ふふ。オトメのハルカちゃんがそんなことしたら外交問題になっちゃうから、お手柔らかにね」

 寮への引っ越しを兼ねてエアリーズからヴィント市にやって来たハルカちゃんと久しぶりに会って話をした。電話が使えるようになってからは何度か話をしていたけれど、直接話すのは久しぶりで、ちょっとだけ緊張してしまった。だけど……ハルカちゃんが約束を覚えてくれていて、すごく嬉しかった。同じ目標に向かって、ハルカちゃんも頑張ってる。そう思うだけで、私はなんでもできる気がした。

 ヴィントブルーム大学は、政治家を志す人が多くて、話題や議題には困らない。時々エアリーズに帰ったり、他国にお邪魔したりしながら縦と横の人脈を、少しずつ手に入れていった。信頼できる人たちと作った諜報機関はすでに成果を上げ始めている。……なぜか構成員が、全員メガネなのが気になるけれど。そして、お父様の力を借りつつ、学生ながらも政治家としての道を歩み始めてついに、ヴィントブルーム大学を卒業する年の三月、つまりはハルカちゃんがガルデローベを卒業する、その時を迎えた。


「ハルカちゃん、本当にいいの?」
「いいもなにも、そういう約束でしょ? 何よ今更。怖気付いたの?」
「そういうわけじゃないけど……
「今のところ、ユキノ以外には申し入れは全部断ったし……五柱の試しもあのぶぶ漬け女が選ばれたから、そう言ったしがらきはないわよ」
「しがらみだよハルカちゃん……。あの、ね」
「ええ」
「これから私は、政治家として、国政に関わっていくことになる。その中で、ハルカちゃんには大変なことを背負わせてしまうかもしれないの。……もしかしたら、大切な人たちと、戦うことになるかもしれない」
「誰だろうとやってやるわよ! あのぶぶ漬け女にも負けないんだから! ……というか、そういうことにならないように私たちが頑張るんでしょーが!」
「そう、だね」

 太陽みたいに眩しい笑顔。やっぱりハルカちゃんは、私のヒーロー。そして今度は私が、私を守ってくれるハルカちゃんを守るんだ。

……じゃあ、本番までもう少しだから練習しよう? ハルカちゃん、発表会の時とか、いっつも本番は緊張してガチガチになっちゃってたし」
「だ、誰がよ! …………って、それ」
「ハルカちゃんがオトメになるって言った日に持ってきてくれた指輪だよ。本物のGEMじゃないけど……今日はこれを使ってもいい?」
「ええ、もちろん」

 ハルカちゃんが差し出してくれた手に、指輪を乗せて、すぅ、と深く息をひとつ吸って、吐き出した。

「ただいまより、マイスターの叙任式を行います」

「珠洲の黄玉、マイスター、ハルカ・アーミテージ。私、ユキノ・クリサントを主人とし、この身を守り、命を共にし、オトメとして己の全てを捧げることを誓うならば、汝の授かりしその契約の石を主人へと捧げよ」

 ハルカちゃんはしっかりとした瞳で私を見つめて、私の手を取り、そっと指輪を嵌めてくれる。指輪が止まって、視線を上げた時、自然と二人の視線が絡まった。

「二人で一緒に、夢を叶えようね、ハルカちゃん」
「ええ、ユキノ!」
 
 ◇◇◇
 
「結局ハルカちゃん、叙任式の日ガッチガチで……指輪を嵌めようとしたらぐしゃって潰しちゃって……修理する間、延期になっちゃったんだよね。それで、次の時は立会人を減らして……
「だーっ! その話はもういいのよ。てか私を呼んでおいてそんな話するなんていい度胸じゃないユキノ? そもそも護衛任務についてって聞いてたけど? ちょっとボーマン中将笑いすぎよ! たれついてんじゃないの!?」
「たるんでるんじゃないの、だよ。ハルカちゃん。えっと、護衛任務は本当。今から国内の見回りなの。……よろしくね、准将」
……まったくもう、しょうがないわねぇ」
 愛する我が国。エアリーズの国民、みんなの笑顔を守る。それはハルカちゃんも、例外じゃない。幼いあの頃にした約束を、私はこの命が尽きるまで果たし続ける。他の誰でもない、世界で一番大切な、私のヒーローの隣で。