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井見
2022-05-29 22:15:50
8861文字
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その他二次
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スターマイン
すばせかFRやったときの衝動と祈りの幻覚をせっかくなので整えたやつです
おまえは、いつも笑っている。
口元を不敵に歪めながら、おまえは俺を眺めている。常に人を小馬鹿にしているような口元で、なのに目つきは厳格な審判みたいに冷たくて、真正面から向けられるとぞわりと鳥肌が立つ。
どんな大事な時であっても、おまえはその顔をしていた。真剣なんだか、ふざけているんだかわからない顔。
そしてやっぱり同じ顔で、まるで明日の遊びの約束を取り付けるような本当に軽い調子で、おまえは最後のゲームを始めた。まだ俺は、何も言えていないのに。
さっさと銃を構えて俺に狙いを定めながら、あとは十数えるだけのおまえを見て、俺はようやく我に返った。震える足と手をなんとか動かして、地面に落ちている銃を拾う。それからぱたぱた零れる涙を見ないふりして、引き金に指をかけて、おまえに銃口を向ける。
その間も、おまえはずっと俺を見つめてくるから、俺だってどうしてもおまえの目を見てしまう。青色みたいな、紫色みたいな不思議な色の目は、こんな薄暗い場所だとよくわからない。日の当たる場所の方で見た方が、多分もっときれいだ。もっときれいなのに。
やらなきゃいけない。でもできない。できるわけがない。目をかたく閉じてみたって、何も変わらないけれど。俺の手はかたかたと震えながら、重力に負けて降りていく。
そして、音が鳴る。
ぱん。
おまえは、いつも笑っている。
*
最初に耳に入ってきたのは、自分の荒い息の音だった。それから心臓の音が追いかけてくる。
瞬きを一つする。
「夢、か
……
」
目に入るのは、いつもの天井、いつもの壁、いつものベッド。
あの交差点ではない。
当たり前だ。ここで寝たのだから、ここで起きるはずだ。そう冷静に整理する頭と、まだあの時が焼きついたままの心が喧嘩して、ぐるりと視界が回る。思わず頭を抱えると、手が汗でびっしょりと濡れた。取りこぼした水滴も、額をつたって、火照った頭を必死に冷やそうとしている。着ていたシャツもすっかり体に張り付いてしまっていて気持ち悪い。
俺は息を大きく吸って、ゆっくりと吐いた。
胸がばくばくと鳴っている。
手が震える。
まだ夢の感覚が残っている。
ちゃんとわかってるんだ。あれは夢で、ここは現実。
それでも、感情はホンモノだから。
もう一度、目を瞑って、肺の底から深呼吸する。たまった唾をごくりと飲み込んだ頃、窓の外から数度の破裂音が聞こえて、俺の心臓は再び跳ねる。少し慌ててカーテンの隙間から窓の外を覗くと、建物と建物の間から光がちらちらと輝いているのが見えた。
「花火
……
か」
そういえば今日は花火大会だった。街から貰ったカレンダーにも大きく書かれているというのに、すっかり忘れていた。花火大会というイベントが霞むくらい、俺にとって今日は大事な日だった。
ゲームが終わってRGに帰されてからも、たくさんのバッジはそのまま手元に残った。UGでもなければゲーム中でもないここでは、もちろんいくら握っても何も起こらない。有効に使うならせいぜいマブスラに励むのが精一杯だろうけど、俺はとてもそんな気にはなれなかった。バッジを見るとどうしてもあのゲームを思い出してしまうから、鍵付きの箱の中に大事に入れて、引き出しの奥へと隠すように仕舞い込んだ。
ただ今日は、あれからぴったり一年だったから。俺は何となく、そのバッジを出して眺めていた。一つ一つに思い出があって、それを懐かしがっているうちに寝こけてしまったらしい。ベッドの上から床にかけて、箱から溢れ散乱するバッジがその証拠だ。
そこまで頭を整理してから、起きてからも握りしめていた右手に気づいた。
汗でじっとりとしたその手をゆっくりと開く。思った通り、今まで握り込んでいたのは、黒地に白のドクロマークが描かれたバッジ。壊されてしまった一つ目ではなく、いつの間にか俺が持っていた
——
持たされていた、二つ目の死神のバッジだった。
たくさんのバッジが俺の助けになってくれたけど、その中でもこの二つ目の参加者用バッジは、特別だ。これが無ければ指揮者との戦いで間違いなく負けていたし、何より
——
死神のゲーム、いや、あいつとのゲームに参加したことの証のようだとも、俺は思っている。
「
……
何してんだろ、あいつ
……
」
結局あいつは、待ち合わせ場所に来なかった。きっと知ってるくせに来なかったんだと、俺は思う。
みんなで会うって、言ったのに。
次の日も、その次の日も、同じ時間で待ってみた。けれどやっぱり、あいつは来なかった。そのまま引き下がるのが悔しくて、時間が取れた日は必ず探した。来ないとわかっていても、探さずにはいられなかった。それでも段々と、日常の忙しさにも負けて、足が遠のいていき
——
気がつけば、今日で一年。
手の中で死神のバッジを弄んでいる内に、どーん、と窓の外で花火が上がった。耳を澄ましてみると、人の賑わいが聞こえてくる。誰かが笑っている。誰かが怒ってもいるようだ。それでも誰かが、花火の輝きと轟音に喜んでいる。せっかくだし、外に出て気分を切り替えようか。一人で閉じこもって考えているとどんどん暗い気持ちになってくる。俺は立ち上がると同時に、少し迷ってから、バッジをポケットの中にしまった。
親はちょうど仕事で、家には誰もいない。いってきます、と電気を消した暗がりに呼びかけてから、ドアを出て鍵を閉める。振り返ると、また花火がもう一発上がった。
*
慣れ親しんだ渋谷の街も、この賑わいに染まっているとまるで全く別の場所のようだった。俺はうっかり耳元に手を伸ばす。一年経っても、ヘッドフォンが無いことにまだ慣れない。目的を失った手をポケットに突っ込んで、歩くのに専念する。
ひゅるる、と花火の上がる音がすると、人の流れは急にゆっくりになる。俺も少し傍に寄り、立ち止まって見上げてみる。
昔の俺は、花火も嫌いだった。花火の時期はだいたい暑いし、それなのに人が大勢群がって余計に不快だ。少し外出するだけでも人の波をかいくぐらなきゃいけなくなるし、何度も何度もドンドンとうるさい。部屋にこもってヘッドフォンに流れる音量を最大にしても、花火の轟音は容赦なく突き抜けてくる。それが俺は何より嫌だった。
今は
——
大好きってほどじゃないけど、悪くないな、くらいには思う。色んな人が色んな思いで見上げる音と光。
ただ花火の打ち上がる音は、どうしても苦手のままだった。いや、苦手になった、と言う方が正確かもしれない。
花火が上がるたび、心臓を震わせるような深い振動が、思い出も揺さぶる。
耳にまで鳴り響く自分の鼓動。
真剣に軽く、ひんやりと甘い、問いかける声。
手放したいほど冷たい銃の重さ。
答えの見えない眼差し。
俺はポケットに入れたままのバッジを、壊れるくらい強く握りしめた。手元に残った、唯一のあいつの痕跡。
前に向き直って、人混みをかき分けて進む。足は自然と、何度も訪れた場所へと向かおうとしていた。俺はそれをわかっていながら、抵抗しなかった。
歩き慣れた道は、深く考えなくても進むことができる。もうこの道は数えきれないほど往復した。あいつは俺よりこの街に詳しいくらいだったから、どの道もあいつの通ったことのある道なのかもしれない。
あいつも多分同じ街に住んでいると言っていいはずだけど、あれから当然一度も出会ったことは無い。シキやビイト、ライムとはそれぞればったり出くわしたことが何度かあるのに。
きっとあいつは、俺を避けているんじゃないか。そう考えることもある。あいつが普段どこで何をしているのか知らないけれど、UGに引きこもられていたらまず会えない。あっちは俺をわかるのに、俺はあっちをわからない。いかにもあいつがやりそうな手口。
はあ、と俺は深く息を吐いた。ポケットの中で、バッジをくるりと回す。
そもそも仮に会えたとして、それでどうするの、とあいつの声で聴こえてくる。一発殴る? それも悪くない。でもやりたいのは、それじゃない気がする。とにかく、会えたらわかると思う。頭の中のあいつに、そう言い返す。ごちゃごちゃ言う前に出てこいよ、と。
*
階段を一段ずつ上っていく。ここからでももう見えるくらいに大きく見事な、宇田川町のグラフィティ。俺が大好きな場所で、俺のゲームが始まった場所だ。そしてあいつに、初めて会った
——
会っていた場所。
ゲームの最後に返された記憶は、今も鮮明に残っている。一つの銃声と同時に視界が傾いて真っ暗になる、あの感覚。ここに来るたびそれをほんの少しだけ思い出して、息が止まりそうになる。それでもここは、いや、それがあるからこそここは、やっぱり俺の大切な場所の一つだった。
これだけ近づいても、話し声は聞こえない。今日はみんな花火に夢中で、グラフィティを見に来ている物好きは俺以外いないようだった。
——
いや、誰かいる。
俺は目を疑った。
ふわっと柔らかそうな、暗い金色の髪。
少し大きめの、それでいて高そうなシャツとズボン。
俺と同じくらいの年の男が、グラフィティをじっと見つめている。
嘘だろ、と思った。そんな見た目の奴なんて、俺は一人しか知らない。冗談みたいにそっくりな奴なのかもしれない。ポケットから少しはみ出たオレンジ色まで似せなくたっていいのに。
俺は一歩踏み出して、唾を飲み込む。
口に出したら、夢から覚めるみたいに、たちまち消えてしまいそうだ。それでも俺は、確かめたかった。震えそうになる声で、今までずっと考えてきた名前を音にする。
「
……
ヨシュア
……
?」
俺の声に、そいつはゆっくりと振り返った。
ああ、その目だ。その目の色。七日間俺の隣にいた、夢の中でも何度も見た、不思議な色の目。その目を持っている奴は、やっぱり一人だけだ。
ヨシュア、と俺はもう一度繰り返した。続きの言葉が見つからなかった。何を言えばいいのかわからなかった。ヨシュアだ。ヨシュアがいる。それを受け止めるので、俺の頭はいっぱいいっぱいだった。目の前のヨシュアも、あの時は饒舌だったくせに、なぜか何も言わない。珍しく微笑みも浮かんでいない。もしかしたら驚いているのかもしれない。驚きたいのはこっちなのに。
そうして俺たちは固まりながら見つめ合っていた。三回くらい息を吸って吐くと、何度目かの花火が上がった。色とりどりの光が俺たちを照らしてから、ほんの少し遅れて、どん、と花火の音が心臓を揺らす。
「
……
あの時、みたいだね」
ヨシュアが先に口を開いた。
「久しぶり、ネク君」
ヨシュアは笑っていた。でもそれはあの時みたいな怖い笑顔じゃなかった。転んだちいさい子をなだめるみたいな、困ったような優しい笑顔だった。それを見て、俺はなんだか泣きそうになってしまった。たぶん、腹が立ちすぎて。
「
……
なんで
……
なんでだよ! なんでここにいるんだ! なんで
……
」
言葉がめちゃくちゃなまま流れ出ていく。心の準備ができていなかった。だってここで会うなんて。ここは約束の場所じゃない。
「
……
待ち合わせ場所
……
間違えてるぞ」
俺がようやく絞り出した言葉に、ヨシュアは答えなかった。でも、素知らぬ顔して「なんのこと」とも言わなかった。ヨシュアは曖昧な笑顔のまま、じっと黙っていた。答えないということが、答えだった。
やっぱり約束はわかってるんだ。それなのにヨシュアは来なかったんだ。
俺は、馬鹿野郎と呟く。
「おまえ、全然来ないから
……
探してたんだ。ずっと。おまえのこと、考えてた」
ほら、と俺はポケットの中のバッジを取り出す。あのゲームの象徴、もう一つの死神のバッジ。ここに来るまで握り込んでいたから、すっかり温くなっていた。ヨシュアは少し目を見開いて、また驚いたような顔をした。
「あれから一年だ。おまえ、待ち合わせの時間も、間違えてる」
ヨシュアから目を離さないように気をつけながら、溢れそうな涙を拭う。一瞬でも目を逸らしたら、ヨシュアはどこかにいなくなってしまいそうに思えた。まばたき一つだってしてやる気はなかった。でもヨシュアは、逆に目を伏せた。
どうしてそんな顔をするんだろう。全部あの時みたいなのに、その笑顔だけはあの時みたいじゃない。俺は困った。あの時みたいにふてぶてしい顔で笑ってくれていたら、俺は殴りかかったりでもできたかもしれないのに。そんな顔は卑怯だ。そんな顔をされると、俺は。
「なんで、どうして来なかったんだよ」
そう言うと、とうとう涙が溢れた。声が震えて、ところどころつっかえてしまう。その間も涙はぱたぱたと落ちていくけど、俺は構わずヨシュアを見ていた。そしてヨシュアも俺を見ていた。ヨシュアはいつもそうだった。俺が言葉を探している時、ヨシュアは俺を待っている。
「
……
俺はあの場所で、みんなに、友達に会いたかった。みんなでどうでもいい話をして、渋谷を歩きたかった。でもおまえは来なかった!
……
来てくれなかった。
なんでだよ。
……
おまえも
……
ヨシュアも、俺の大事な、友達、なのに」
こみ上げてくる嗚咽をどうにか飲み込む。
ヨシュアは俺に答える代わりに、ゆっくりと俺に歩み寄った。あの七日間の距離くらいに近づくと、俺の顔に手を伸ばす。少しひんやりとした指が、俺の目元を撫でた。そして、囁くように言う。
「ネク君、変な顔」
涙が出るのも、その言葉を聞くのも、あの時から一年ぶりだった。
「全部おまえのせいだろ」
「フフ
……
そうだね。僕のせい」
両目を拭いたいけど、目を離したくない。ヨシュアがどこかに行かないように、俺に触れていない方の手首を掴んだ。だけど実際に掴むと、ヨシュアの体温がじんわりと手に伝わってきて、俺は驚く。俺からもさわれるんだ。それは当たり前のことのはずなのに、ヨシュアがここにいるんだ、という実感が本当に湧いてきて、目を拭うのを忘れた。そのまま俺は、ヨシュアの手首をぎゅっと握る。
「
……
会いたかった
……
」
噛み締めるように繰り返すと、『会ってどうするの』という問いの答えがすんなりとわかった。
会ってどうするのも何も、俺は会いたかったんだ。もう一度会いたかった。声を聞きたかった。名前を呼んでほしかった。それだけだったんだ。
ヨシュアは俺に掴まれるがままにしていた。こんなに強く掴んでいたら跡がついてしまうかもしれないけれど、こいつにはそれくらいでいいんじゃないかな、と思った。掴みどころのない奴なんだから、掴んだ跡くらい付いていればいい。
少ししてヨシュアは、口元でくすりと笑った。
「ネク君、背、伸びたね。成長期かな?」
そう言われて、俺も気づく。あの時はほんの少し俺より上にあったはずのヨシュアの目は、今やほとんど同じ高さになっていた。夜が始まる時みたいな色の目が、俺のすぐ側で俺を見ている。
「おまえは全然変わってないな」
「僕の成長期はもう終わっちゃったからね」
「
……
なら、おまえの身長追い越すかな」
「うーん、それはまだ難しいんじゃない?」
目元に触れていたヨシュアの手が、俺の頭の上に移動した。これ以上伸びないようにとでも言うのか、ぽんぽんと叩かれる。うっとしいはずだけど、今はまあいい。
そのまま何度か軽く叩かれていると、ふとヨシュアの手は俺の頭上でするりと横へ動いた。そしてほんの数回だけ、優しく左右を往復する。
あれ、この動きって。俺がそう思うと同時に、ヨシュアは手を下ろしてしまった。
「もうそろそろ、最後の花火でしょ」
俺から視線を外して、ヨシュアは空を見上げた。確かにさっきの花火を境にちょっと静かになっている。これから来るフィナーレの準備をしているんだろう。
「だからね、戻らなくっちゃ。僕、絶賛サボり中なんだよね。花火の間なら、みんな花火に夢中でバレないかなって思ってたんだけど
……
ネク君もちゃんと花火見なよね」
「それは
……
おまえもだろ」
ヨシュアもわざわざこんな日に、時間を作ってまでここに来ている。それはやっぱり、俺と同じ理由なんじゃないかと思った。
懐かしくて、大切で
——
もう一度会えたら、と。
「なら、花火が終わるまでは、いろよ」
まだもう少しだけ、一緒にいたかった。
「終わったら、離してくれる?」
「
……
終わるまでは、離さないからな」
俺はヨシュアの手首をぎゅっと掴み直す。
まるでそれが合図だったかのように、一つ目の光が尾を引きながら、ひゅるる、と空へ上がった。
「タイミングぴったりだね」
終わりが始まる。次々と上がる大きな花火が、空を埋め尽くしていく。そしてあふれるような金色が、空から地面へ、ゆっくりと広がって落ちていった。
ヨシュアは花火をじっと見つめていた。ヨシュアは何を思ってるんだろう。こいつにも、花火はきれいだななんて感情があるんだろうか? そりゃあるか。俺にもあるんだから。
花火は明るくてきれいだ。俺もそう思う。でもしんなりと消えていく光の筋や、ぱらぱらと散っていく音はいつだってさびしい。
「それを趣って言うんだよ、ネク君」
「は? おまっ
……
心
……
」
まさか読まれた? 反射的に口を隠したけど、多分何も喋っていないはずだ。
「やだなー、全部顔に書いてあるじゃない」
ヨシュアはやれやれと肩をすくめた。明らかに言葉が足りていないのに、会話が繋がっている。やっぱり心読んでるだろ、と思うが、自分の表情にも自信が無い。もしかしたら本当にわかりやすいのかも。
そんな余計なことを考えている間に、再び花火が競うように上がり始めた。ヨシュアはまた花火に視線を向ける。俺は花火じゃなくて、ヨシュアの横顔を覗いた。
花火のかけらがヨシュアの目の中に映りこんでいる。あの時と同じくらいここは薄暗いけど、あの時と違ってすごくきれいだと思った。もう少しだけ見ていたいけれど、花火が全部消えたら、それも終わってしまう。この時間も、終わってしまう。
「ねえネク君、さびしい?」
顔は上げたまま、その目だけを俺に向けて、ヨシュアは尋ねてくる。
本当に全部顔に書いてあるなら、わざわざ聞いてくるなんて意地悪じゃないか。でもこいつはそういう奴だった。ヨシュアは素直じゃないから。
きっとヨシュアは自分では言えないんだろう。だから俺は、代わりに言ってやる。
「
……
さびしいよ」
さびしいに決まってる。花火の光が空に溶けていくのも、音が風に流されていくのも
——
今この時が終わっていくのも。
そしてちょうど花火の音がすべて遠のいて、辺りは優しいくらい静かになった。俺たち以外の音が無くなる。光の粉がきらきらと輝いて、ゆっくりと消えていく。
もう、これでおしまい。
「でも、花火は来年もやるだろ」
俺は、ヨシュアの手首をそっと離した。
「俺も待ってるから。来年も。約束の場所で、約束の時間で。みんなと一緒に、おまえを待ってる。
……
もしまたおまえがまた場所も時間も間違えても、絶対見つける。絶対迎えに行くからな」
もう会えないかもしれなくても、再会の約束はできる。そして俺は決意する。ヨシュアがどれだけ姿をくらませようと、何度だって会って驚かせてやるのだと。
「約束だ、ヨシュア」
そしてもう一度、ヨシュアの目を真っ直ぐに見つめる。もう涙は出てこなかった。ようやく俺はちゃんと笑って、ヨシュアの名前を呼ぶことができた。
一方でヨシュアの顔からは微笑みが消えた。これは驚いてる顔だ。会った時もこの顔をしていた。ならこいつも顔に書いてあるじゃないか。
ヨシュアは思い出したように微笑み直すと、一歩、二歩と後ろに下がって俺から距離を取った。
「
……
ネク君」
眠くなるような優しい声だった。同時に視界がぼんやりと揺らいで傾いた。もう終わりか、と思う。ひどい奴だ。
もう少しだけ俺にくれたっていいじゃないか。でも言いたいことは全部言えたと思う。
ヨシュアの姿が、うっすらと消えていく。寝る直前みたいに頭が重くなる。それでも俺は、ヨシュアを探した。
ぼんやりとした視界の中で、くぐもった音の中で、ヨシュアの口が、少しだけ動いているのが見えた。何かを言っている。なんだろう。多分五文字だ。『ねくくん』でも、『ごめんね』とかでもない。
ああ、そっか。
俺はゆるくなっていく思考をどうにか働かせて、ようやくぴったりの言葉を思い付いた。
ありがとう、か。
それくらい、直接言えよ。
俺の意識は、そこで途切れた。
*
俺は目を見開く。
「
……
夢
……
?」
目に入るのは、いつもの天井、いつもの壁、いつものベッド。
強烈なデジャヴ。
でも、俺の足には靴がはまっていた。ポケットを探ると、バッジも入っている。
夢じゃない。予想通り、あれからあいつに移動させられたんだろう。
やっぱりヨシュアはどうしたってずるい。
都合が悪いとすぐにごまかすし、話題を変えるし。約束だって言っても、約束だねと返してはくれない。別れの言葉も、お礼の言葉もちゃんと言わない。それじゃわからないだろ、と思う。いや、わかってるんだけど。俺はヨシュアの口からちゃんと聞きたい。
ポケットの中の参加者バッジを取り出して、また強く握り込んだ。
ヨシュアは、きっとまた来ないだろう。もちろん来てくれたら嬉しいけど、俺がそう思ってる限り多分来ない。だから来年も、俺はヨシュアを探すだろう。でも今日、会えたんだ。なら、次があってもおかしくはない。
「待ってろよ、ヨシュア」
必ずまた、もう一度。
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