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澄ひろえ
2020-05-06 16:59:43
5442文字
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生まれ落ちた意味
ほぼククール視点。やや暗いです。最後はちょっとハッピーになりますが・・・。PS2版準拠。誕生日に対するククールとエイトの思い。2ページ目はあとがきです。
1
2
新しい街に着いて、俺たち4人は迷う事無く真っ先に宿屋へ向かった。
時は既に夕暮れ、部屋が取れないと街の外で野宿となりかねない。ここにたどり着くまでに多くの魔物と戦って、体力魔力共に消耗している状態でそれだけは避けたかった。
「何とか4人部屋が取れて良かったね」
滑り込みぎりぎりで確保出来た宿屋の一室で荷物を下ろしながらエイトが言った。
「さっさとメシを食いに行くでがすよ。もう腹ぺこでがす」
「そうだね。僕もお腹すいたよ。荷物置いたらみんなで・・・」
「あー、ワリィ。俺パスな」
エイトの言葉を遮り、俺は言った。3人の目線が一斉に俺を見る。
「ククール!酒場に行くつもりなのね。どうして・・・」
俺の言葉にゼシカが詰め寄ってくる。腰に手を当てて上目遣いで見られても全然怖くねーよゼシカちゃん。
「どうしてって、別にもう自由行動だろ?4人で固まって移動する必要ねーじゃん?」
「・・・まぁ、ククールの言う事にも一理あるかな」
珍しくエイトが賛同する。多少訝しく思ったが・・・。
「お、話分かるじゃんエイト。じゃ、そういう事で」
ゼシカの突き刺さるような視線を背中に受けながら、俺はヒラヒラと手を振って宿の部屋を出た。
・・・別に4人で一緒にいるのが嫌って訳じゃない。ただ、ここ数日メンタルが不調なのが自分でも分かってた。
それをみんなに悟られるのが嫌だったんだ。
「ちょっと、エイト。どういうつもり?」
ゼシカは腕組みをして、エイトを横目で見る。ヤンガスも不思議そうな顔でエイトを見ていた。
「んー・・・。ククールいなくなるなら丁度良かったかなって・・・で、二人に相談があるんだけど」
ほわわんとした表情を少し引き締めてエイトが言った。
さて、酒場は・・・と。俺は辺りを見回す。とは言え、初めて来た街だ。どこにあるかは歩いて探すしかない。ま、夜まで少し時間はあるさ。俺は足を進めた。
夕餉の時間時だからかあちこちの民家から家庭料理の良いにおいが漂ってくる。
と、一件の民家の光景に俺は足を止めてしまった。
窓から見えるのは・・・色とりどりの色紙で飾り付けられた部屋。小さな子供が椅子に座っている。テーブルの上には数本の火の灯った蝋燭が刺さった大きなケーキ、たくさんのご馳走。そして、家族であろう人達が歌うハッピーバースデーの歌。
・・・誕生日か。
誕生日
――
1年に1度、己が産まれた事をみんなから祝福される日。
だけど、俺は・・・。
「疫病神め」
「お前さえ産まれてこなければ、誰も不幸になぞならなかった」
呪いのように何度も繰り返し言われた言葉が頭に蘇る。
俺の誕生は一つの家族を不幸にして壊してしまった。たった一人生き残ったアイツは俺の事を恨んでいる・・・。
そんな俺が、産まれた事を祝福されるなんて・・・赦されるわけ無い。
俺は明るい笑い声が聞こえる民家から目をそらし、再び歩き出した。やがて見えてくる酒場の看板。
・・・今夜は深酒になるかな。俺はふうっとため息を吐いた。
案の定、次の日は二日酔いだった。頭がガンガンして気持ち悪い。最悪だ。
ゼシカの怒鳴り声が頭に響く。ああもう、悪かったからもうちょい音量下げてくれねーかな・・・。
「・・・で、今日の予定は?」
痛む頭を押さえながら俺はエイトに問いかける。
「今日は久々の街だし、足りない物の買い出しと錬金をメインにしようと思うんだ。だから、ククールは休んでて良いよ」
「・・・は?」
俺の口から間の抜けた声が出た。なんか、ここまで優しいエイトは逆に気持ち悪いんだが・・・?
「じゃ、僕たち出かけるから。ククール留守番よろしくね。あ、薬はちゃんと飲んでね」
そう言って3人はぞろぞろと部屋を出て行った。カチャリとカギを掛ける音がする。途端に静けさが辺りを包んだ。
やれやれ・・・薬だけは飲んでおくか。体調は戻しておかないと流石にエイトの雷が落ちる。
苦い薬を飲み干し、ベッドに潜り込んだ。やがて薬の効果のせいか睡魔が襲ってくる。そのまま身を任せ、俺は眠りに落ちた。
夢を見た。
まだ、時間が全てを解決してくれる・・・そんな甘い事を信じていた子供の頃の夢。
修道院の庭でオディロ院長に尋ねている小さな俺。
「罪って赦されるんですか?院長」
俺の言葉にオディロ院長は少し眉をひそめ、皺だらけの手でそっと小さな俺の頭を撫でる。
「ククール。神は全てを見ておられるよ。悔い改め、償えばきっと神は赦しを与えたもうよ」
頭を撫でてくれる院長の手は、とても優しく暖かかったけれど。
・・・違うんです、院長。俺が赦して欲しいのは神様じゃない。
それに、産まれた事自体が「罪」ならば、どう償えば良いんですか?院長・・・。
「・・・何て夢見てるんだか」
覚醒した俺はむくりと起き上がり、くしゃりと髪をかき上げる。外を見るともうかなり日が高い。夢見は最悪だったが、薬のお陰で頭痛も吐き気もなくなっていた。
さて、どうするか・・・。髪を梳き、後ろで一つに結わえながら俺はぼんやり考える。留守番を頼まれた以上、勝手に出かけるわけにもいかない。
取りあえず剣の手入れでもするか。そう思ったんだが、
「俺の剣が・・・無い?」
昨夜寝る前に壁に立てかけておいたはずの隼の剣が見当たらない。盗まれたのか?と思ったが、ドアの鍵は掛かったままだったし、窓の鍵も開けられた様子はない。
考えられるのはエイト達が持って行ったって事だが・・・何の為に?
その時、扉をノックする音が聞こえた。うん?みんな帰ってきたのか?
「ククール、起きてる?」
ゼシカの声だった。俺は鍵を開け、扉を開く。
「どう?二日酔いの方は・・・平気?」
部屋の中に入ってきたゼシカは俺の顔をのぞき込む様にして見る。
「ん、まぁ問題ねぇな」
答えながらふと思い当たる。何でゼシカ一人なんだ?買い物した荷物を持っている訳でも無さそうだ。
「ゼシカ、他の二人はどうしたんだよ?」
「不思議な泉に行ってるわ。エイトにククール呼んできてって頼まれたから迎えに来たの」
・・・なんでまたそんな所に。よく分からねぇな。そうだ、分からないって言えば。
「なぁ、ゼシカ。俺の隼の剣どこにあるか知らねぇ?」
「ナイショ」
「はぁ?」
「ねぇ早くルーラしてよ」
・・・ますます分からねぇ。
こうなれば、もうゼシカと一緒に不思議な泉に行くしか選択肢は無さそうだ。
「はいはい了解しましたよ」
俺は肩を竦め、ゼシカと共に宿を出て、不思議な泉へとルーラで飛んだ。
不思議な泉に着いた俺は目を丸くした。
・・・なんだこりゃ。
周りの木々は色紙で作った花で飾られ、簡易に作られたテーブルの上にはたくさんの食べ物。それにワインやジュース。
「兄貴ー貰って来たでがすよー」
「おっけー。じゃあテーブルの上に置いといて」
ヤンガスは大きな箱をテーブルの上に置く。馬の姿から人間に戻ったミーティア姫がそっと箱の蓋を取った。
「まぁ素敵ですわ!」
姫様が感嘆の声を上げる。現れたのはクリームと果物がたくさん乗った手作り感満載のケーキ。ケーキには蝋燭が刺さっていて、その蝋燭の数は・・・。
おい、ちょっと待ってくれ。これは・・・何で・・・。
「これは・・・一体どういう事だ?」
俺の呟きを無視して、ゼシカが声を上げる。
「みんなー!ククール連れてきたわよー!」
「ありがとうゼシカ。それじゃそろそろ始めようか」
エイトがパンと手を叩く。俺の意向を無視して進む事にイライラする。我慢出来なくなって、俺は叫んだ。
「おい、これは一体何なんだよ!」
「何って、ククールの誕生日パーティだけど?」
しれっと言ったエイトに俺のイライラはさらに募っていく。
「何で、お前ら俺の産まれた日知ってるんだよ!?」
「前にドニの町の人に聞いたんだ。この料理もケーキもドニの町の人が用意してくれたんだよ。あ、飾りは王様や姫様が作って下さったんだよ」
「ミーティア達はここから動けませんから。これくらいしか・・・」
・・・頭が痛くなってきた。確かにドニの町の人間なら俺の産まれた日を知っている。だからって・・・。
「いつ、俺がしてくれって頼んだんだよ!こんな事!俺は・・・別に」
俺の声に辺りがシン・・・と静まり返る。仲間達に何て事言ってるんだという気持ちもあったが、それでも叫ばずにはいられなかった。
脳裏にアイツの影がちらつく。俺は俯いて歯を食いしばった。強く手を握り締めたせいか、革の手袋がギュッ・・・と音を立てた。
こんな事・・・赦されるわけ無い。産まれた事で人を不幸にした俺が、産まれた事を祝福されるなんて。
「・・・ねぇ、ククール。僕たちもお兄さんとの確執は知ってるし。それにドニの町の人に聞いたよ。いつも、遊びに来るククールがこの時期だけは、ぱったり来なくなるって事も」
エイトの言葉にドキリとする。そう、この時期だけはドニの町に行く事は避けていた。
行けば必ず言われるだろう。「誕生日おめでとう」と。それを聞くのが嫌で、俺は・・・逃げていたんだ。
「でもね、ククール。誕生日って産まれた事をお祝いするって意味だけじゃないんだよ?」
「え・・・?」
顔は俯いたままだったが、自分の体からすっと力が抜けるのが分かった。
「今日この日まで無事生きてくれた事を感謝するって事。僕たちの戦いはまさに命懸けだ。いつ、誰かが命を落とすかもしれない。だからさ」
エイトは近づいてきて、ポンと俺の肩に手を置く。
「お祝いさせてよ。生きててくれてありがとう、って。そして、これからもお祝いさせてよ。あ、これはもちろんみんなもだけどね」
俺は顔を上げた。照れくさそうに笑うエイトと目が合う。
「兄貴!あっしの誕生日も祝ってくれるでがすか!くうぅー感激でがす!」
「うん、素敵な提案ね!旅が終わってもみんなでやりましょう!」
「ミーティアも是非参加させて頂きたいですわ」
「お前ら・・・」
こみ上げてくる何かを必死に押さえながら俺はかろうじてそう呟くのが精一杯で。
その時、空気を読まずにチーンと錬金釜の音が鳴った。若干興をそがれる。
「お、完成したようじゃな」
それまで沈黙を守っていたトロデ王が錬金釜に近寄り、蓋を開ける。中から出てきたのは。
「俺の隼の剣・・・?」
だが、少し違う。グリップの所が青から赤に色が変わっている。
「これは、隼の剣・改と言ってな。普通の隼の剣よりも切れ味が鋭くなっとるんじゃ」
「それともう一つこれを」
エイトが取り出したのは一つの指輪。女神があしらわれた銀色に輝く指輪。
「女神の指輪。装備した人の魔力を回復させる効果があるんだって」
俺はトロデ王から剣をエイトから指輪を受け取る。
「はい、誕生日プレゼント。みんなで決めたんだよ」
「ククールには攻撃も回復も頑張って貰わないといけないでがすからねぇ」
「みんなを守って貰わないとね。頼りにしてるんだから」
「ククールさん責任重大ですわね」
「まぁそれだけ、みなの信頼も厚いというものじゃ」
「・・・」
俺はくるりとみんなから背を向けた。もう、こみ上げてくるものを抑えきれなかったから。目を何度も拭って瞬きをする。
「・・・仕方ねぇなぁ・・・お前らの命まとめて面倒見てやるよ。絶対誰も死なせねぇ。そうしなきゃみんなの誕生日祝えないもんな」
「うん、これからも頼むよ。ククール」
エイトの声に俺は振り返った。目が赤いのはバレバレだろう。でも、それでも良かった。みんな笑顔だった。俺も笑った。
「さ、ご飯冷めちゃうからパーティ始めよう。・・・と、その前に。ゼシカ蝋燭に火を点けて」
「わかったわ・・・面倒くさいから一気に点けていい?」
「やめるでがす!ケーキが消し炭になるでがすよー!」
「冗談よ。冗談っ」
「お前が言うと冗談に聞こえねーんだよなぁ・・・」
全ての蝋燭に火が灯る。続いて始まるハッピーバースデーの歌。歌が終わると俺は一気に蝋燭の火を吹き消した。
次々に発せられる拍手と「おめでとう」の言葉。不思議な事に全く嫌だとは思わなかった。
産まれてきて良かった。
生きてきて良かった。
この、どうしようもなくお節介な奴らの命を預かる。それが俺の使命。
俺の産まれてきた意味は、生きる意味は・・・ここにある。
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