kaede
2024-09-07 11:34:11
3843文字
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危うく死にそうになることして一彩くんにこっぴどく叱られる燐音くんとニキのはなし

一彩くん愛され燐一・ニキひいのやつ
⚠️頭からっぽにして読んでください
⚠️イベスト(迷い子バラッド・瞬祭礼)の内容を含みます=タイトル部分のことがわかってればOKです

「ヒナは?」
「ひなたくんは地方ロケのお仕事で明日の夕方まで帰ってこないよ。あと今はひなたくんは関係ないよね」
 食い気味に俺の質問に答えた一彩はにこやかに笑っていたが、その声には不気味なほど抑揚がない。
「いやァ、留守の間に人様の部屋に勝手に居座るのは良くねェだろ、って思ってよォ」
「兄さんを部屋に呼ぶ許可は取ってあるから、その点は心配しなくて大丈夫だよ。というか普段からそんなこと気にしてないよね、兄さんは」
「いやァ……
「僕、この部屋の住人なんすけど、許可とかそんな話、聞いてないっすよ……
 馬鹿、今は何を言っても全部裏目に出ることくらい、俺っちを見てりゃわかンだろニキきゅん!
「椎名さんに許可を取る必要があるかな? それとも椎名さんは未だに現状がまったく理解できていないのかな?」
 柔らかな笑顔とはちぐはぐな冷たい目に見下ろされたニキは、俺の隣であえなく撃沈した。
「ごめんなさい……
 ソファに並んで座った俺たちの前で仁王立ちをしている一彩が怒っていることは、誰が見たって明らかだった。しかもこれは、相当のやつだ。ガチギレだ。
 この子が生まれた時からずっと世話をして見守ってきた俺でも、ここまでキレてる一彩を見たことは滅多にない。この子は基本的に自分に向けられた悪意の類の精神攻撃には妙に鈍感で、怒りの沸点が異様に高いから、本気で怒るということがほとんどないからだ。
 じゃあどういう時にガチギレするのかというと。

「二人とも事の重大さがまだわかっていないようだから、もう一度言うけど。椎名さんは自ら断食、兄さんは自ら箱に閉じこもって、危うく死にかけたよね。どうして命を粗末にするようなことをするのかな?」

 自分ではなく、他の誰かのために怒る時だ。

「椎名さんは演技のためだからまだしも……だからって肯定はしないけど、兄さんに至っては行動が意味不明すぎるよ。万一出られなくなったら、とか考えなかったの?」
「いやァ……すぐ見つけてもらえると思ってたし」
「いつもの兄さんならそんな杜撰な計画を立てたりしないはずだよ。兄さんともあろう人が、そんなにHiMERUさんとこはくさんの人気が妬ましかったの?」
「違ェよ、ハブられてンのが面白くなかっただけだっつの」
「つまり除け者にされて寂しくて、どうにかして構ってもらいたかった、ということ?」
「燐音くん、そんなこと思ってたんすか? なはは〜、結構かわいいとこありますよね」
「うるせェ」
「否定はしないんすね」
「ニキ、てめェだってコケにされてたんだぞ。何、他人事みてェな顔してンだ」
「兄さん、椎名さん」
「ハイッ!」
「はいっ!」
 見事にハモった俺とニキの返事の先の目が、俺たちを見下ろす。
「二人とも、全然反省してないみたいだね」
 一彩はもう、笑っていなかった。
「でも弟さん、僕の方は仕方がないって言ってましたよね?」
 おい、ニキきゅんよォ。
「理解はするけど肯定はしないと言ったんだよ」
「はは……そうっすか……
 一彩にあっさり言い負かされたニキが、乾いた笑いをこぼす。
 ニキ、おめェはホント学習しねェな。こういう時は変に言い返さないで、頭を下げて、向こうの気が済むまでただひたすら従順に相手の言うことを黙って聞くンだよ。
「大体、兄さんたちは自分の命を何だと思ってるの? 簡単に賭けていいものじゃないんだよ? 死んだらそれで終わり、代わりはないんだよ? 残されたみんなが悲しむとは思わないの? 僕は……ぼく……っ、兄さんたちは馬鹿だよ。馬鹿、馬鹿、ばかっ! どうして、ぼくをっ」
「一彩、お前……
「弟さん……
 突然、語彙力が小学生並みに低下した一彩を見上げて、面食らった。隣でニキも、同じ反応をした気配を感じる。

「どうしてっ、ぼくがいるのにっ、ぼくを、おいていかないでよっ」

 一彩が、泣いていた。
 ガキみたいにぼろぼろ涙をこぼして。

 さすがに、自分の軽率さを恥じずにはいられなかった。一彩の言う通りだ。つくづく馬鹿なことをした。俺は馬鹿だ。
 俺のためにここまで泣いてくれる愛しい弟を、愚かにも置いていこうとしていたのだから。
 ニキも、おおむね俺と同じことを考えているのだろう。泣いている一彩を見て、申し訳なさそうな顔をして……いや、それだけじゃねェな。
「おい、人の弟の泣き顔見て、キュン♡とかしてんじゃねェぞ」
「燐音くんだってデレデレじゃないすか」
「デレデレなんてしてねェだろ。たまんねェ〜!ってなってるだけだ」
「同じっすよそんなの」
「ふたりとも、ちゃんと反省っ、してるのっ!?」
「してますっ! なァ、ニキ!」
「はいっ、それはもう、ものすごく!」
 ボソボソ言い合いしていたのが、真面目に話を聞いてないように見えたんだろう。納得できないらしく、泣きながらもじっと睨め付けてくる。
 それがまたかわいくて、俺たちの男心をくすぐっているとも知らないで。
 ……ってのは半分冗談として、本当に真面目に、反省している。それを知ってもらいたくて、一彩の手を取る。拒まれることも覚悟していたが、一彩が俺の手を振り払うことはなかった。
……おいで、一彩」
 かつてはよく言っていた、今は言わなくなってしまった言葉で一彩を呼ぶと、一彩はびっくりしたのが目をぱちぱちと瞬かせたあと、万有引力に従うように、俺の胸に飛び込んだ。
 ゆるく抱きしめて、頭を撫でる。
「ごめんな、一彩。お兄ちゃん、もう二度とあんな馬鹿な真似しないから。ずっと一彩のそばにいるからな」
「ほんとう?」
「本当だよ」
「にいさん……
「一彩……
「あのー、僕もちゃんと謝りたいんで、こっちに来てくれませんか? 一彩くん」
「今いいところなんだから邪魔すンじゃねェよ。つか、どさくさにまぎれて下の名前で呼んでンじゃねェよ。行かなくていいかンな? 一彩」
 と引き留めてはみたものの、一彩を傷つけたという罪の半分はニキ持ちだ。当然、謝罪がほしい一彩は、あっけなく俺から離れて、ニキに縋りついた。
 ニキが一彩の涙を拭う。……俺がやるはずだったのによ。
「ごめんなさい、一彩くん。僕が馬鹿でした。君っていう大事な子がいるのに命を捨てかねない真似しちゃって……。お詫びにこれからはいつでも、それこそ毎日、一彩くんの食べたいものをつくってあげますからね」
「ほんとう?」
「おい、どさくさにまぎれてプロポーズしてンじゃねェよ」
「別にそんなつもりなかったんですけど、それもいいっすね。将来は一緒に暮らしましょうか、一彩くん♪」
「一彩、お兄ちゃんと一生ずっと一緒に暮らそうな!」
 一彩が、きょとんとした顔で俺とニキを交互に見る。
 そして、ぽつりと呟いた。
「二人とも、ずっと僕と一緒にいてくれるの?」
 俺とニキは互いに顔を見合わせる。回答の最終確認をするみたいに。
 間違えンなよ、ニキきゅん。

「もちろん」
「もちろんっす!」

 ニキから奪い返した一彩は俺の腕の中で、地球一面を花畑にしたって敵わないくらいにキラッキラの笑顔を咲かせた。

「っつーことで、仲直りのチューしようぜェ?」
 ん〜、と顔を近づけた俺の口が、塞がれる。
「別に僕たちは仲違いをしているわけではないよね。論点をすり替えるなんて、兄さんは本当に反省しているのかな」
 しまった。間違えた。
「してるしてる!! うっかり間違っただけっしょ!」
 慌てて釈明したが、その脊髄反射的な物言いが良くなかったらしい。一彩の顔からは花畑が消え失せていて、無慈悲な瞳が俺を刺す。
「二度繰り返されたら、とてもじゃないけど誠意を感じないよ」
「してるって! マジで!」
「弟さん、楽しんでますよね」
 ニキ馬鹿おめェはマジで学習しねェな今はマジレスするとこじゃねェンだよ!
「椎名さんも連帯責任だね」
 ほら見ろ。図星を刺された弟くんがお冠だ。
「え!? 僕はちゃんと反省してますよ!?」
……まあ、反省はしてることは信じるよ。兄さんも。さっきは疑ってごめんね」
 弟くん、ニキにばっか甘くねェ?
 とは思いつつも、怒りのオーラが弱まって結果的に俺も許してもらえたからまァ、今回は不問にしとくっしょ。
「ありがとうございます! だったら僕とはチューしても」
「何でそうなるンだよ! だったらお兄ちゃんともしていいよな?」
「だからこれは罰だよ」
「え?」
「え?」
 一彩のにっこり笑顔に既視感がありすぎて、つい黙って……というか黙らされてしまった俺たちに、一彩は満足げに目を細める。
「一ヶ月……と言いたいところだけど、今回は特別に一週間でいいよ」
「何が」
「何がっすか?」
「キスをお預けする期間だよ」
 そう宣言して俺たちの間に座った一彩は、俺とニキを同時に独り占めできるのがよっぽど嬉しいのか、妙に楽しそうにしていた。かわいいなオイ。
 それを見て、お前が一ヶ月も我慢できないだけだろ、と口に出すなんて馬鹿な真似はもちろん、しなかった。
 ニキおめェももう余計な口出しすんなよ。黙ってろ。わかったか? わかったな。よし。


 それからきっかり一週間、もう離さないと言わんばかりに甘えてくる食べ頃の一彩にしっかりお預けを喰らい、俺とニキはもう金輪際、一彩をガチギレさせる軽率な行動はすまいと心に誓った。