西尾六朗
2024-09-06 20:28:32
1414文字
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紅葉、鳥居、黒狐の面

京まふの!和装狐ダンテスと!ぐだちゃの!イド風味雰囲気パラレルエドぐだ♀です!!

 気が付いたら薄暗い道に立っていた。

 確かに鳥居の連なる道を歩いていたはずなのに、前を行く音楽教師とクラスメイトの背中を眺めていたはずなのに、立香の周囲にはそのどれもがない。
 ぬかるみの道を歩くような粘つく不快感が足にまとわりついている。
 錆臭い、生暖かい臭いがどこからかしている不快な場所だ。恐ろしいものがすぐ近くに潜んでいるような、危ういが空気漂っている。

(どこだ、ここ)

 立ち尽くす立香の目の前に、ぼう、と金色の灯が浮かんだ。

「道を外れたな」

 灯――ではなく、金色の瞳をした狐が言った。
 身体が真っ黒で、右目が赤く左目がまばゆい金色をしている。あちこちがゆらゆら、陽炎のように揺らいでいる。

 きみは、と問おうとして、声が出ないことに立香は気が付いた。
 のどがひゅっと変な音を立てるばかりで、上手に音を吐き出せない。はっとして首を押さえると、狐は鼻を鳴らした。

「此処はそういう場所だ。おまえが如何に眩き星であろうとも、光なくしては輝けまい。故に」

 くい、と、手を引かれた。
 誰と思って視線を下ろす。黒手袋の男の手に、手を引かれている。
 先導するのは金目の狐。手の先は見えない。手首から先が闇に溶けて、誰かも分からない。
 ただ漠然とした安心を感じたのは確かで、もの言えぬ立香は従った。

「それでいい」

 狐なのか男なのか分からない声が言う。
 無言の案内が続く。曖昧な、眠たいような、ぼんやりとした気持ちのまま、立香は歩く。
 過ぎる景色に幻を見た気がした。見慣れた街並みの気もしたし、まったく目にしたことのない異世界じみた風景や、宇宙を孕んだ巨木を見た。
 そのどれもに目を奪われることは許さないと、手はきつく立香を結んでいる。

 解けたのはいつだったろうか。
 あ、と思った時、とん、と背中を押されて。

「もう、迷い込むな」

 突き放す口調で、優しく――促されて。

 咄嗟に立香は振り返った。奈落に落ちるような、昇るような不思議な感覚。
 手を伸ばす。煙に触れる。温かい、冷たい、遠い。寂しい。

「きみも一緒に」
「いいや」

 俺は、行けない。

 はっきりとした拒絶の癖に、泣きたいくらいに優しい声だった。

立香は目を開く。背中にどんと誰かがぶつかって、何してんの前見て歩きなさいな、とクラスメイトに怒られた。
 目の前には音楽教師。記憶のとおりの鳥居の道を歩いている。

(夢だったんだろうか)

 それにしては、妙にリアルだった。
 謎の現象に立香は眉間に皺をよせ、時計を見てみる。一分も経過していない。
 ただ、その腕には見たことのないものが嵌っていた。
 黒と緑と、純白の石のブレスレット。煙草の匂いがかすかに染みついたそれが、あの出会いが夢でなかったことを――

 一緒に行けないと苦笑いした男がいたことを、確かに物語っていた。




「まあねえ、行けないってんならこっちが行けばいいだけの話だったからさ」

 と、数年前の思い出話を締めくくって、立香は言った。
 赤い袴の巫女装束。稲荷の鳥居に寄りかかって、少しだけ色あせたブレスレットを撫でる表情は笑顔だ。
 傍らで、左側に皹が入った黒狐の面をした男が特徴的な笑いを漏らす。まったくおまえは、と低い声で男は言い――

「敵わんな、実に」

 そう、まんざらでもなさそうな声で、言った。