わらびもち
2024-09-06 00:00:35
1132文字
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ひとりしゃべり

黒田さん誕生日おめでとう

VOIDげんみ‪✕‬
自探索者が喋ってるだけ

ピッ ピッ ピッ

規則的な機械音が響く部屋。
ベッドに眠る男性──黒田矢代は、今日も変わらず穏やかな顔で眠っている。

カタンと控えめな、しかし静かな病室に響く音を立ててベッドのすぐ脇に天城遥が座る。

「矢代さん。」

かける声は存外穏やかで、以前のように哀しみだけを湛えた声音ではない。

「誕生日おめでとう。これ、今年のプレゼント。」

サイドテーブルに置かれたのは、今は珍しいアナログの時計だ。

「ヤシロさんは……自分の選択に自信がなかったみたいだけど。私はね、ヤシロさんが私を救ってくれて、優しくしてくれて……全部嬉しかったよ。今でも変わらない、大事な思い出なんだ。」

サヤサヤと木の葉の揺れる音が聞こえる。先程開けた窓から秋風が吹き込む。

「私を気遣って、時計ですら全部アナログで……結構不便な生活させてたなって思う。でもそんなヤシロさんの気持ちが、私は嬉しかった。」

「ヤシロさん、犯罪の片棒を担いでしまったことが私にバレて、日常が壊れたらーって書いてたけど、私きっとヤシロさんより凄いことやってるよ。」

そう言って遥はイタズラを告発する子どものように笑う。そして声を潜めて言う。そんなことをしなくても誰もいないこと、そして盗聴器の類がないことも確認しているのだが。

「あのね、イッサさんとゲンさん、スパローにいるの。今でもたまに会うんだよ、EMCを追い詰めるのは一人じゃ出来ないから。ね、悪いでしょ?」

笑みは崩さない。しかし瞳が少し揺れる。

「でもヤシロさんはきっと私の事嫌いにはならないよ。私がそうだから。危ないことしてるって叱るかもしれないけど。」

9月になり、日の入りが少しずつ早くなってきている。夕焼けに染まり始めた窓の外を見ながら続ける。

「危ないって言えば、最近変なことによく巻き込まれるんだよね。邪神がどうのとか、世界がどうのとか。……誰かを守る、かっこいい警察。憧れたがらね、邪神からだって守ってみせるよ。」

憧れは子どもの幻想とは違ったけれど。

「そういえばイツが最近おかしいんだよね……。急に味噌汁作り始めたと思ったら、なんか落ち着きなかったり……。変なことに巻き込まれすぎてるからかな……。今まで逃げてたせいで機械のことは全然詳しくないけど、ちゃんと勉強して、イツの不調もなんとか出来るようにしないと。レイトさんが不在の時困るし。」

館内放送が面会時間の終了を告げる。遥は長居しちゃった、と立ち上がり帰り支度を手早く済ませる。

「ねえ、ヤシロさん。私ちゃんと幸せだよ。だから安心して帰ってきてよ。待ってるから。」

扉の閉じる音。
病室には、変わらぬ機械音と共に秒針の音が鳴っていた。