憂依
2024-09-05 20:31:48
2066文字
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指輪の話(エドぐだ♀)

弊カルデアのエド高ぐだ♀前提、イド後の小話。
本当はこの後にモン伯召喚後の話もあるんだけどそっちがうまくかけないのでとりあえずこれだけ。

コマンドコード、というものがある。
サーヴァントに刻印することで攻撃の際に恩恵を得ることができる強化方法で、各サーヴァントに最大五つまで強化効果を刻印することができるという代物だ。
……なのだが、立香はそんな戦力を強化する手段を持て余し、ほとんど宝の持ち腐れ状態になっていた。
単純な話だ。コマンドコードというシステムが産み出された当初、その運用にはそれなりのリソースが必要だった。刻印をつけるにも外すにも専用の道具が必要で、肝心の道具は数えるほどしかない。コマンドコード自体も量産品から一品物まで効果も含めて色々あったが数が少なく、「一度つけると外せない」「他のサーヴァントに付け替える事ができない」のが当初の仕様だった。
それゆえ、立香は性格上コマンドコードをサーヴァントにつけることをほどんどできなかった。今ではそれらの点も改良されているが、最初の頃の印象故か、立香はコマンドカードをその後もあまり活用することはなかった。ということだ。


――――さて。

今、彼女の目の前には一人のサーヴァントが立っていた。
いつものように水着の霊基を身に纏った男、巌窟王エドモン・ダンテス。
けれど、彼は巌窟王であって巌窟王ではない。
彼を含めたアヴェンジャー達はつい先日、このカルデアから退去し、いなくなってしまっている。今カルデアにいるのは、彼らの残した戦力としての影だけだ。
目の前にいるのは、焼き付いた言葉を繰り返すのみの存在。普段立香が簡易召喚で呼び出すサーヴァントが常時カルデアにいるようなものだろう。という認識で立香は考えている。
影である彼らは話しかければ返事をするときはあるものの、その回答は画一的で、決められた同じ言葉を繰り返すゲームのNPCのようだ。
触れられはする、言葉も交わせる。抱きしめる事もできる。けれど、

(やっぱり、本物じゃないんだよね……

影であるゆえに、彼らは基本的に何かをされなければ反応することはない。つまり、能動的に行動することはほとんどない。

(昨日、事前に焼き付けたとかいう言葉を聞かされた時はまた泣いちゃったし……。あ、やば。今も考えただけでちょっと泣きそう)

不満も、文句も、悪態も、未練も、悲嘆も、憤怒も。多くのことを投げつけて、それでも最後は何とか笑顔で彼らを見送ったけれども。
胸の中にぽっかりと穴が開いたような喪失感は今もなお、残り続けている。
例え記憶が薄れ、何もかもが思い出となり、いつかはそれすらも忘れてしまったとしても、事実だけは決して消えない。
立香は死ぬまで巌窟王を想い続ける。だから、この感傷も死ぬまでなくなることはないだろう。

(まあ、本人みたいなものが目の前にいて、意識するなって言うほうが無理なんだけど)

はあ、と小さく息を吐く。
百面相をする立香に対し、巌窟王はやはり何も口にしないし、なにかをすることはない。
ただ、静かに立香を見つめ続けている。

……………………


――――だから、それはふとした思い付きの、単なる衝動的な行動だった。


そっと、物言わぬ巌窟王の左手を取る。
立香の手には、指輪が一つ握られていた。
それはバディ・リングというコマンドコードの一つ。金色の指輪の形をした刻印は敵からのデバフが少しだけ通じにくくなるという効果がある。ただそれだけの、ささやかな効果の刻印だ。
今重要なのは、これが指輪の形をしているという事。
この刻印が作成されたとき、指輪という形状ゆえに立香に想いを寄せるガチ勢がこぞって自分に刻印を付与するように押しかけてきたことがあった。それもあって、立香はこの指輪ごとコマンドコード自体を使用しないように封印していた。

……封印していたのだけれど。
胸に空いた空洞を少しでも埋められないかと、立香は指輪を手にしていた。
オープナーで刻印を付与するための下準備をし、包帯の撒かれた左手の薬指にそっと金色のバディリングを刻印する。
日本の結婚式のように、薬指に指輪をはめる行為。
けれど、ここは厳かな式場でもなければ、将来を誓う神父もいない。
ごっこ遊びにすら程遠い、何一つ意味のない自己満足だ。
何一つ変わらない己の心内に、我に返って大きくため息を吐いた。

…………はぁ。なにしてるんだろうなあ、わたし」

立香は背中からベッドに倒れ込むと、うなだれて、自嘲する。
指輪をはめたところで巌窟王は何もリアクションをしない。こういう時の反応は影たる彼に刻まれていないからだ。それが無性に、虚しさを募らせる。

(わかってる。こんなことしたって、何にも変わりやしないのに)

両腕で顔を覆いながら、立香は己のバカさ加減に辟易とした。
ただ指輪の形をしているだけの刻印に、それ以外の意味を勝手に見出して、もはや意識のない影に己の執着を押し付けるだけの、あさましい感情だ。
自己嫌悪に枕に顔をうずめながら、立香は己の行動を後悔し、それでも。
巌窟王から刻印を外すということはできなかった。