風にはためくシーツを取り込んでいく。午前中はよく晴れていたから朝干した洗濯物はもうすっかり乾いていた。強くなってきた風の中に少し湿った匂いを感じて手を早める。まだ空の様子は変わりないけれど、たぶん天気が変わるまでにそう時間はかからないだろう。山の天気は変わりやすく、ハテノは山と言ってもいい程度には標高が高い。
大物のシーツやタオルは俺、他の服はゼルダ、と暗黙の裡に手分けしていたからものの数分で作業は終わる。洗濯物を放り込んだ籠をゼルダに預けて物干し用のロープを回収し終わる頃にはもうとっくに彼女は家の中だ。早く戻ってしまうのを手伝おうと木から降りると、予想に反して彼女はまだ庭に残っていた。
籠の前に立ったまま取り込んだ洗濯物を一つ手に取り、目の前に広げてしげしげと観察しながら何かを考えているようなそぶりを見せる彼女は、どうやら俺の下着に好奇心を刺激されているようだった。
既に何度も見ているはずだし、今更何がそんなに気になるのだろう。というか、村のはずれとはいえ一応外ではあるのだから、女の人が男物の下着を広げてまじまじ観察するのはちょっとどうかと思う。
「なにしてるの」
彼女に近寄り声をかける。早く入ろうよ、と続けようとしたところで思ったよりも彼女の眼差しが真剣な色をしていることに気付いた。
「以前から思ってはいたのですが」
大真面目な顔を俺に向けた彼女は、またすぐに手の中の黒い下着に視線を戻す。緩んだ前の部分の紐を少し引っ張り、外れたバックルを指先で確認してからやっぱり、と感想を漏らす。
「この下着……かなり脱ぎにくいのでは?」
どう考えても脱ぐまでにとても時間のかかる構造ですよね、とあまりにもしみじみ言うから、なんだかおかしくなってしまった。つい笑いが零れて、不思議そうな翠と目が合う。
「ゼルダのと比べたら、そりゃ脱ぎにくいだろうけど……その方が動きやすいんだよ」
何故か下着一枚で試練に放り込まれることが多かったから、脱げにくくて丈夫な、保持力の高い下着を選ぶのがすっかり習慣になってしまっていた。魔王を倒した今となってはそこまで激しい戦闘をすることはなくなったとはいえ、今も魔物の討伐やゼルダの護衛は請け負っている。そういう都合上、動きやすい服装は仕事柄必須ともいえた。
「慣れればそんなにかからないしね」
ゼルダの手から下着を受け取って籠に放り込む。抱えて家へと向かえば、ゼルダもようやく外であることを思い出したのか俺についてきた。
「そうなんですか?」
彼女はなおも俺の下着事情に興味津々なようで無邪気に食いついてくる。そんな様子におかしさを堪えながら籠を抱えていない方の手を玄関扉に伸ばすと、横からゼルダの手が扉を開いた。礼を言って家の中へと入り、衣類棚とシーツのある二階にそのまま向かう。
「編み上げを解くのって、結構かかりそうですけど」
そんな感想を聞きながらベッドの横に籠を置く。ゼルダの白い指先が編み上げられた紐を引いて少しずつ解いていくのを想像したら、確かにきちんと解こうとするとかなり面倒だろうなと思った。
「バックル外して、結び目を解いたら布地を引っ張るんだよ。そしたら緩むから」
ちょっと雑だけど、と付け加えると彼女はいまいち飲み込めていないような顔をしていた。こういう時、ゼルダが一国の姫君であることを実感する。俺がついしてしまうような粗野なふるまいが思いもつかない程度には、彼女は丁寧に暮らしてきたし、そういう風に育てられてきたのだと思う。
そんな人にこんなこと教えていいのかな、と思わなくもない。けれど、さっきのやや不埒な想像が脳裏に残ったままだったから、俺もつい好奇心に駆られてしまった。
「……やってみる?」
あえて取り込んだばかりの下着ではなく、自分のベルトに触れながら訊いたのは間違いなく下心だった。ちらと俺の手を見たゼルダはきっと俺の誘いを理解しているんだろう。ほんの少し恥らうように目を伏せて頷いた顔は、無性にかわいかった。
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