梶間
2024-09-03 22:03:50
1261文字
Public カブライ
 

服選び

お互いの着る服を選ぶカブライ

「普段使いの服を新調しましょう」
「え、この今の服で十分だけど」
「ダメです、人に威厳を示すなら普段着ももう少しマシにしましょう」
「そんなもったいない」
「いつまでもただの冒険者気分でいられませんよ。ヤアドさんにある程度選んでもらったんで後はご自分で選んでみてください」
そうカブルーが言うと衣装係の人々が部屋に雪崩れ込むように入室する。煌びやかな布やら服やらを持って、王様にはこれが良いと思います、こちらはどうですかとライオスの周りを忙しなく飛び交う。普段から衣装を選ぶのは彼らに任せきりにしているからその腕を信頼しているライオスだったが、いっぺんにあれこれ言われたので頭痛がしそうになり制止の声を投げかける。
「分かった、分かったけど一人でゆっくり選ばせてほしい」
ライオスがそう言うと見本だけ置いて波が引くように全員退室していった。
「それではごゆっくり。気に入ったものがあれば後で教えてください」
それに合わせてカブルーも退出しようとするが、ライオスは服の裾を掴んでそれを引き止める。
「待ってくれ、君は残ってくれないか」
一人で、とは言ったものの、ライオスは途方もない量に思える布の山を前にして臆していた。
「こんなに多いと一人じゃ選びきれない。君の意見もあると助かるんだが」
一人で選ぶのも良い気晴らしになるだろうと思っていたが、ライオスに頼られると悪い気分はしないカブルーは楽しそうに近くにあった赤い布を手に取る。
「そうですね、あなたは赤が似合いますからこういう深みある色合いはどうですか」
「色は好きかな。手触りも……うん、悪くない」
「後はこっちの黒とか、たまには青とか」
「青色なら君のが似合うんじゃないか。ほら」
「今はあんたの服を選んでるんですよ。それにその生地だと俺には上等すぎます」
「ええ、良い色だと思ったのに」
カブルーは、あなたにはこの色、この形が、とライオスのために布の山からひとつひとつ選び抜いていく。
ライオスは、君にはこれ、あれもいいな、と目にとまったものからカブルーに似合うと思ったものをひたすら手に取っていく。
「「これ!!」」
そうしてお互いに相手に似合う一番はこれだ、と選んだものを突きつけあった。
そこでようやく二人の手が止まる。
「今日はあんたの普段着選びだったんですけど」
「君のを選ぶのが思ったより楽しくて」
二人のそれぞれの言い分が重なり合う。ライオスとカブルーは、お互いの顔を見合わせて耐えきれずに二人で笑い出した。
「自分の選んでくださいよ」
「俺のは君が選んでくれるだろ。なら俺は君のを選んでみたい」
王と臣下はまたそれぞれにああでもない、こうでもないとお互いに服を選び出す。
ライオスは、服に特にこだわりはないつもりだったけれど誰かを想って考えるのは存外に楽しいんだな、と考えを改めた。
自分の選んだ服を身につけたカブルーに、隣にいて欲しい。親友とはこういうものなのだろうか、と己の淡い想いには気付かないままライオスは満たされた一日を過ごした。