삐약さん翻訳
2024-09-03 16:00:00
9837文字
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小片 4





18.



 寝床がひどいのは誰しも同じだろう。生命力なんて欠片もない、プラスチックでできたような雑草の上で寝るのは、当然ながら心地のよい寝床になるはずもなかった。それでも一つだけいい点を挙げるとするなら、草むらに虫がいないことぐらい。なるべくガサガサ音を立てずに焚き火の周辺から離れようとする。誰もが寝不足に苦しむなか、緩んだ表情で目を閉じているのを邪魔したくはなかったから。



「どこか……行かれるんですか」

「起こしましたか。申し訳ない」

「あ、違うんです。謝る必要は」



 かすれきった声が自分を呼び止める。ほんの少し、人の輪から外れて考えを整理したかっただけだった。他人には打ち明けにくいあれこれが脳内でぐるぐると渦巻いて、一向に眠気が訪れてこないのだ。みんな薄い毛布をかぶったまま眠っていた。シーッ、とジェイムスは口に人差し指を当て、静かにするよう彼に促す。わかったと、彼はようやく開いた目で頷いた。

 レオンは少し伸びた髪を整えながら、ジェイムスのそばにそろそろと近付いてきた。警官だから、市民の安全を守ろうとでも? こんな場所で何の意味が。内心でぼやいたジェイムスは苦笑を隠せなかった。私みたいなものを守る必要などないのに。



「来なくても平気ですよ」

「万が一ということもありますから」



 彼は漠然とした返事をして、ただ言葉もなく同じ速度で隣を歩く。こちらがつまらない人間だということを知っているからだろう。ぎゅう、とジェイムスはわざと強く雑草を踏みつけた。潰れる気配などまるでなく、元通りにぴょんと立ち上がる。ここでは、そうだな。ある意味では仮想空間と同じことだから。新鮮な風に当たりたいのに。頭が相変わらずズキズキした。自分にもっとも必要なのは息がつける空間だった。



「最近、よく眠れていないように見えますけど。少し寝ては起き、また少し寝ては起き」

「はい、どうにも……そんな感じみたいです」

「戻って寝直したらどうですか。私はその、少し歩いたら戻るから」

「誰にだってひっつき虫なわけじゃありません、俺は」

「ならもっと問題でしょう。私が君の睡眠を邪魔してるってことだ」

「俺は別に、邪魔なんて思いませんけど」

……ここで休みますか」



 この木はあちらにある木とまったく同じ模様だ。どうも、この場所を造った奴はあまり創意に富んでいないらしい。ジェイムスは木に背中を預けて静かに座る。レオンも倣うように隣へ座った。風がそよそよと丁度いい具合に吹いているが、自然な風ではなかった。うつらうつらと、隣でまどろむ影が目に入る。ジェイムスは彼の髪の毛を梳いた。柔らかく指の合間からこぼれ落ちていく。



「こっちに来てからですか? つまり、不寝番のような。音に敏感になったというか」

「警官、ですから。もともと寝起きのいい人間じゃないんです。でも、交代するときは交代して人々を守らないといけませんから。──話が違うと思うでしょう? 俺はいつも、あなたにちゃんと休めと口うるさく言っているのに。すみません。俺がこんな、矛盾した人間で」

「少し自分に厳しすぎるんじゃ」

「どうでしょうね」



 硬いサポーターが巻かれた己の膝に顔をつける。どう見ても、君は自分を追い込みすぎてる。だからもう少し力を抜いてもいいんじゃないか、と。ジェイムスは彼に堂々と言ってやる勇気がなかった。自分が言ってほしい言葉を他人に言うのは、ひどく無責任な気がして。



「ジェイムスさんも寝ていないのでは? 少なくとも俺は寝たり起きたりの繰り返しですけど、あなたは……眠っているところを見たことない気がします」

「私と寝ますか」

……びっくりしますよ、たまにあなたの言うことを聞いていると。俺以外にもそう言ってるんですか? 誤解という誤解が片っ端から生じそうですね」

「君の言葉を借りるなら、私だって誰にでもそうするわけじゃない。信じられる人だから言うんです。私も疲れてきたから。頭が痛くて」

「腕枕でもしてあげましょうか」

「いや、それは遠慮します」



 彼が軽口を叩いてぷふっと笑いながら、その言葉が出るのを待っていたかのように隣に寝転ぶ。少なからず疲れていたようだ。時折こうした幼い姿を見ると、彼の年齢が身に迫ってくる。21歳が経験するには辛すぎる人生ではなかろうか。ジェイムスは口の中のやわい肉を噛んだ。

 「来てください、隣に」。レオンに腕を掴んで引っ張られ、及び腰のまま寝そべる姿勢になってしまう。ここまで近くで眠ろうという話ではなかったのだが。彼がそう望むのなら。耳元で静かな吐息が聞こえる。誰かと眠るのはあまりに久しぶりで、ただひたすらこそばゆかった。



「寝て起きたら戻ってるだろう。焚き火の近くに。そのとき、みんながこの姿を見たらどう言い訳するべきか」

「──二人とも、人の温もりが必要だったと言っておけば」

「どう聞いてもおかしいでしょう」

「ええ。どんな言い訳をしてもおかしく聞こえます。だから、何も考えずに眠りましょう。あなたが何を考えようと俺は、いい夢が見られそうなんです」

「本当にこの状態で寝ようと?」



 返事はなかった。こちらがなんと文句を言おうがすべて無視するつもりのようだ。ジェイムスは静かに目を瞑っている彼を見つめ、諦めて背中を叩いてやった。硬い防弾服越しでは柔らかい人間の背を叩いている気がしなかったが、これが相当心地よかったのか、彼が鼻声を出しながらもぞもぞと懐に収まる。少し大胆になって、親が幼い子にするように額へおやすみのキスを落としてみる。もし自分に子どもがいたら同じようにしてやったのだろうとジェイムスは思った。



「寝るときはお願いしてもいいですか? その……毎日、こうやって……

「眠すぎて何を言っているかわかってないでしょう?」

「ええ、ええ……



 数秒のあいだ呟いて声が完全に途切れる。眠れないまま何日過ごしたのか、ずいぶん深く寝入っているようだった。ようやく自分も目を閉じる。ズキズキしていた頭痛が少し緩和されたらしい。新鮮な空気を望んでいたが、こうして誰かを抱きしめるのもかなり効果があるらしかった。おそらく彼が言った通り、今後もこの眠り方が続くんじゃないだろうか?









19.



 こんな奇癖には興味が湧かない。しかもなんだ、こんなものまである。棘でできた縄?



「痛いって言ってるだろう。ほどいてくれたって損はないじゃないか」



 腕はすでに引っかき傷だらけだった。ふつりと溢れだした血が互いに合わさって流れていく。ひりひりする感覚が四方から押し寄せ、大きな苦痛となって迫ってくる。ジェイムスは目の前でグルグル唸っている鉄の塊に話しかけた。こういう拷問がお前の趣味か? まるで変態だな、と。



「私が苦しむのを見て楽しいか? そうでないなら、いったい何が何だかわからないな。もちろん、お前は処刑人かつ拷問官だから。私が痛がるのをさぞ面白がってるんだろう」



 だが私たちもそろそろ、そういうことはやめ時ではないか。苦痛に飼いならされた獣はより大きな刺激を求める。ジェイムスは常になく不敵に笑ってみせた。悪いが、もうお前の望む苦痛の呻き声は聞かせてやれない。死ぬほど苦しいのであれば死ねばいいのだ。どうせ生き返るのに耐えたところでいいことなどない。



「いつだって首を絞めては殺し、こうして棘で腕を締め上げては切り落とし。お前は加減というものを知らないな。私の考えでは、他にもっといい方法があるのに。とりあえずほどいてくれないか? おかしな真似はしない、本当に」



 怪訝そうに首を傾げていたが、結局ほどいてくれる。上手く丸め込みさえすれば何だって聞いてくれるのだ。あるいは、それも必然かもしれない。お前は私で、私はお前なのだから。ジェイムスはひりひりする腕をさすりながら三角頭の前に膝をつき、めいっぱい膨らんだそこに顔をすり寄せて別の方法を提案した。お前も望み、私も望む、いいこと。



「これがしたくて私を追い回していたんじゃないのか? いつもこうして勃たせているのを、私が気付かなかったとでも?」

「───」

「狂ってる? ああ、狂ってるさ。馬鹿げてるだろう。死んだ妻から手紙をもらって、銃もなくむやみに走り回ったことからが。とっくに狂ってた証拠じゃないか。こんなふうにしておいて逃げ出すつもりか? 臆病者」



 奴の息遣い(呼吸するわけないが一応人間の基準ではそう聞こえた)が荒くなり、手首をがしりと強く掴む。ところで、初めてだから優しくしてもらえないか? 安い娼婦のようにさえずるジェイムスの顔を釜の蓋ほどもある手で掴み、長い舌をひらめかせる。向こう見ずに言っておいて冷や汗が出た。期待感? そんなものでは一切ない。まもなく己に押し寄せる恐怖、また別の苦痛に対する緊張感だった。











20.



Day 1.

 何かしら書いてみようかと思って、ポケットにしばらく入れっぱなしだった手帳とボールペンを取り出してみる。ポケットに色々ゴミを入れて忘れてしまうせいで、洗濯するたびメアリーは私を叱ったものだ。あなたによく似合うジャケットなのに、駄目になったら悲しくないのかと。

 ところで、1日目と書いてもいいのだろうか? ここでは時間の概念なんて存在しないのに。何もしないまま果てしなく静かな時間を送るよりはいいのだろうけど。今日は、何もなかった。いつも同じように過ぎ、いつも同じように消える。少し変わったこと? シェリルは年の近い子と話す合間に、時々むずかって私のところへ来ることがあった。今日がそうだった。どうも、すり切れた心を私で回復したがっているようだった。つまり、父親がいないことの。私は彼女の父親と似たような雰囲気があるらしい。積極的にではなくても、彼女なりに私のそばをうろつきながら軽い冗談を言ったりして私を笑わせようと頑張っていた。笑うのには慣れていない。それでも口の端を上げて笑うと、ちらちら寄越していた視線は安心したように止まった。明日はどんなことが私を待っているだろう。



Day 2.

 いまさらのように思い出したのだが、この手帳には私が事務員として働いていたころのことが書かれていた。仕事ができるほうでも、できないほうでもなかった。私はどこまでも平凡な働き手だった。ただ、会社では都合のいい人間という烙印を押されて、上司の八つ当たり先に使われてもいた。そんな日は昨日のシェリルがしていたようにメアリーに泣きついたものだけれど。もはや想像することも、望むこともできない日常だ。



Day 3.

 みんなが各々の世界で食べたいちばん美味しいものについて語り合っていた。もちろん私はその輪から外れていた。なんというか私は、人を興醒めさせてしまうところのある人間だから。

 いちばん美味しかったのは何だろう。メアリーが作ってくれたキャロットケーキが思い浮かぶ。メアリーは料理が上手かった。派手な飾りつけをする料理人ではなかったが、素朴で品のいい料理が本当に上手だった。生クリームはくどくてあまり食べられない。そんな私のためにあっさりしたキャロットケーキを作ってくれたのだが、上にちょこんと乗っていたチョコレートのニンジンを見て大笑いしてしまった。だって、そうだろう。私なんかのために一生懸命ちまちまと作っているのを想像したら。愛おしかったのだ。メアリーの作ってくれた料理はどれも、私にとっていちばん美味しかった食べ物だ。舌はもう覚えていないが、私の記憶はそう言っている。

 ここにもケーキがあることはあるが。あれはクリームが多すぎてしつこく、一口食べたらそれ以上食べられなかった。残ったケーキをどうしたものか。



Day 4.

 なぜクリームが嫌いかって? 口の中でまったく溶けて消えていかないから。

 血の味もそうだ。口の中で濃く存在感を残したまま消えていかない。あの、ふざけた金属頭のあいつ。またこうして私だけを生かすなんて。体こそ回復し、あの日死んだ人の記憶は抹消される。知らないだろう。私と儀式を共にした人たちは。私が卑怯に一人で生き延びたことを。誰にも話したくないし、こうして生き延びたくもなかった。どうしてあいつに会うと事が正常に運ばないんだ?



Day 5.

 以前から私はよく察しが悪いと言われるほうだった。人の気持ちを察する能力は生まれつき備わっていなければならないのか?

 今日、レオンの表情が冴えなかったのでどうしたのか訊いてみた。彼はひとしきり黙っていたが、何でもないと言ってその場を立ち去った。私が間違えたのだろうか。察しが悪いぶん、人に迷惑をかけているのかもしれないから。しかし、いったい何なのか見当がつかない。彼が何でもないと言うからには私とは関係ないことなのだろう。差し出がましい干渉になるだろうか。



Day 6.

 フェリックスが前に話をしてくれた。最近ぐっと仲良くなった気でいるが実際はそうでない。ただ、ここの生存者たちの中で妻がいるのは私たちだけだったから。ああ、それを仲良くなったと表現するのか?

 愛する人が妊娠したのだと、彼女がとても心配で一日一日が血の気も引く気分だという。私には、何もありはしないのに。彼が羨ましかった。羨ましいあまり嫉妬に似た感情がこみ上げてくる。だがすべては私の過ちだ。誰かを妬む資格はない。心配がありありと見える彼の表情に、肩を叩きながら小さな応援を送った。元の世界に、戻れたらいいなと。私は……ああ、よくわからない。



Day 7.

 *枕で窒息。*



Day 8.

 妙に歪みだしている感覚がある。状況がよくなかった。



Day 9.

 何が起こっている?



Day 10.

 ここにもっとも長くいるメグが、よくある不具合だからとみんなを落ち着かせる。意識がこんなにごちゃごちゃ入り乱れているのに。どうしてそこまで冷静でいられるんだろう。ひょっとすると、ここに長くいればいるほど感情を失うのかもしれない。数人の無表情。冷え冷えと感じられるほどだった。寝て起きればいまあったことは忘れているだろうとジェイクが受け流す。なら、君たちはどうしてそれを覚えているのかと。訊いてみたかった。



Day 11.

 10日目の私は何を経験したんだ? なんだか、生存者たちの仲がよそよそしく見える。



Day 12.

 うーん。睡眠時間が増えている気がする。眠っても眠っても、体がすっきりしなくて疲れている。湿気が充満した場所で寝て起きたような気分。清々しくなかった。

 レオンが今日に限って落ち着かないようだった。大丈夫かと肩に手を乗せると仰け反るほど驚いて手を振り払われる。すると本人のほうがさらに驚いてしきりに謝罪を繰り返した。こういう扱いには慣れているから、特に傷つきはしなかった。



Day 13.

 体が、ひどく痛い。



Day 14.

 狂っているなんて言葉じゃ足りないのでは?



Day 15.

 1日目から欠かさず日記を書いているが、7日と14日はなぜかボールペンでがしがしと線が引かれていて内容がわからない。

 そういえば首と頭に包帯が巻かれていた。クローデットがあなたの傷が酷かったのだと、治療をしておいたと言ってくれた。私に怪我をするようなことがあったのか? ありがとうと応えると彼女が気恥ずかしそうに笑った。優しい人だ。



Day 16.

 首を絞められて喜んでいるのか?



Day 17.

 ケイトと結衣がグレンベールから酒をくすねてきたという。懐が酒瓶で溢れかえっている。酒はよく飲むが好きなほうではないので断った。シェリルは慣れた様子で受け取って飲んでいた。未成年なのに飲んじゃダメだろうと言うと、説教臭いと言い返された。私が……おかしいのか? 未成年じゃないか。



Day 17.

 待ってください。同じ日が繰り返すはずありませんよね?



Day 18.

 体がひりひりして目が覚めた。特に手首のあたりがズキズキして目覚めたのだが、袖をまくってみても何の痕跡もなかった。免疫力が落ちているのか? レオンが横でいつから見守っていたのか、真っ赤に充血した目でこちらを見下ろしていた。悲鳴をぐっとこらえ、彼になぜそうしているのかと尋ねてみた。彼は何も答えずにいたが、私を抱いてそのまま隣に倒れ込んだ。そうして寝てしまった。彼もシェリルのように父親の懐が恋しかったのか? 悪夢が怖いと言うのが恥ずかしかったのだろう。



Day 19.

 お前が嫌いだ、ピラミッド頭の野郎め。

 こんな仕方で馬鹿にするなら私を殺せというのに。



Day 20.

 なぜか奴に会うと数日は気分が優れなかった。妙に弄ぶような態度に加えて、私を待っていたかのように愚直に突っ立っている姿。庇護意識の塊だった。

 ファーストキスってどんな気分? もじもじしていたシェリルがそう尋ねる。ああ、思春期の女の子だな。私は特に何も感じなかったと言うと嘘つき呼ばわりされた。実際のところ思い出せない。あまりに遠すぎる記憶で。それはもうドキドキしたよと答えてやると、ようやく望んだ返事を聞けたというようにローリーのほうへ向かう。思春期の女の子というのは。



Day 21.

 俺はいつもあなたの初めてになれるだろうか?



Day 22.

 日が進むほど日記が短くなるようだ。私はいつもこういうところでは怠惰な人間だから。だけど、妙に気が咎める。

 今日は腹があまりに痛くて動けなかった。アダムとクローデットがひどく心配していろんな薬と毛布を持ってきてくれたけれど。これはとても身に余る扱いだ。私が断ると二人は落ち込んだ顔をしたが、それほど酷くはなかったのだ。本当に。じっと横になっていれば平気だった。じっと横になってさえいれば。そうして呑気に目を瞑っていると、誰かがそばに近付いてきて腹をさすってくれた。小さいころ、母親が食あたりを起こした子どもの腹をさすってやるように。手つきは柔らかかったが、不思議に馴染みがありながらも、ひりひりと痛かった。



Day 23.

 これがいい友情の始まりになると信じています。

 友情? 私がこんなことを書いたのか。友情か。私には特に親しいと呼べるような友達がいなかった。極めて限られた人間関係は私の社会性を失わせる一方だった。ふむ。もう少し活発な子に生まれればよかったのだけど。



Day 24.

 何か……最近おかしい。



Day 25.

 あなたの初めてになれて嬉しいのだと言う。何が初めてなんだ? 夢うつつに聞いた声だけれど。相変わらず腹は痛かったが、数日前よりは幾分ましだ。かえって痛みに慣らされているようで嫌だった。腹をそっと押してみると、うっと空えずきが出る。驚いて口を押さえた。見ていたシェリルがつわりかと最低な冗談を言った。そんなわけないだろう。その言葉にレオンがこちらを見つめた。そうして首を傾げながら、何かあったのかというジェスチャーをする。何もなかった。……たぶん。



Day 26.

 妙に脱力感を感じる。体がぐったりと伸びて、筋肉に力が入らない。そのせいで発電機を立て続けに爆発させ、デイビッドにしっかりしろと怒られてしまった。私もデイビッドのように運動すれば筋肉がつくだろうか。ともあれ、生きて出られたからよかった。リージョンという殺人鬼だったが、私たちと談笑しているうちにそのまま終わってしまった。それが彼らなりの反抗らしい。酷い拷問に遭うだろうとクエンティンが言った。だが、それは自分の知ったことではないと冷笑的に付け加えてもいた。最近……みんな、こんなに現実的だったか?



Day 27.

 実に可愛らしい人形劇ではないか。



Day 28.

 無理がたたって熱を出したようだ。体に力が入らずもう幾日。わざと人のいない場所へ出向き、大の字に寝転んで空を見上げた。星が本当に多かった。そして、またしてもレオンがどう探し出したのか、私の隣へ来て言葉もなく寝転んだ。あたかも暗黙のルールのように、何も言わずに星を数える。数えているうちに眠くなって目を瞑った。すると憂鬱な気分が突然こみ上げてきて、こうして眠ったまま死ねたらいいと思った。



Day 29.

 どう考えてもこれはおかしい。



Day 30.

 なんてことだ、もう30日も日記を書いた。自分を祝うために隅に小さく爆竹の絵を描いてみる。やっほう!(日記の中ぐらい明るく振る舞ってみたかった。)

 私の体に何か異変が起きているのは……図々しいのを承知で特定するに、彼のせいに違いなかった。何日か彼の横で寝ようとすると決まって体の調子がよくなかった。けれど、私が彼にそう問いただせるわけがない。ああ、こんなときぐらい、シェリルのように恐いもの知らずの少女だったら。あ、いや……。彼のせいではないだろう。あんなに誠実な人が、たかが私のような好感も持てない人間の体をどうこうするメリットなどない。きっと違う。



Day 31.

 *(紙が乱暴に引き裂かれている。理由は不明。)*



Day 32.

 信じていたのに。



Day 33.

 どうやら彼は、私の想像よりはるかに腐った人間らしい。



Day 34.

 誰かに打ち明けられるわけがない。そんなことできない。誰が私の言葉を信じるっていうんだ。



Day 35.

 彼はこれが何べんも繰り返されたと思っているのか。



Day 36.

 *ここにいるのは何度も死を経験した人たちだ。どうして狂っていないと思った? ジェイムス・サンダーランド。この汚らわしい人間め。*



Day 37.

 みんな知っているのに知らないふりをしていたのか? みんな、知っていたのか?

 単刀直入に訊こう。



Day 38.

 *誰も死から逃れられない。*



Day 39.

 私が黙っていればいいのか? 私がおかしいのか?



Day 40.

 ……



Day 41.

 ……



Day 42.

 ……



Day 43.

 ……



Day 44.

 ……



Day 45.

 ……



Day 46.

 私がおかしいんだな。いつだってそうだったように。



Day 47.

 人を頼みにするなという言葉が思い浮かぶ。だけど、こんな世界に落ちてきて何を頼みにすればいいのだろう? ここで親密に触れ合えるものは人肌ぐらいなものだろうけど。

 彼はこれをささやかな保護だと呼んだ。すぐ泣きそうになりながら悪かったと、どうか突き放さないでくれと言う。嘘をついた、恐かったのだと言う。こうしてばれると思わなかったのか? 賢い彼が? あんまり辛そうに泣き続けるものだから、結局その件に関してはうやむやになった。いったい何が恐いのかと問えば、あなたを愛するようになったのが恐いと。……ああ、頭がぐちゃぐちゃだ。もうそういうことにして流してしまおう。ひょっとして、儀式で死んだら記憶がすべて消されたりしないだろうか。



Day 48.

 *どうか死なないでください、どうか。*



Day 49.

 真っ赤な四角い小紙。壁にぎっしり満ちたあなたの狂気。







 (手帳がひとまとめに引き裂かれている。手帳はすぐ燃え尽きて消えると、ほとんど新品同然に変わる。)







Day 1.

 ポケットに手帳があったので、いくつか文章を書きつけてみようと思う。

 ……