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しゃどやま
2024-09-01 15:53:54
2572文字
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【微モクチェズ】不思議の国の子チェズ
こんなタイトルのアリスパロですがわりと笑えないシリアスです。
むかしむかし
……
ってそんな昔でもないか。ちょっと昔。ある所に、かわいいお坊ちゃんがおりました。本を読んでくれるお母さんの膝に頭をのせて、ウトウトとまどろんで。素敵な午後の時間を過ごしていたんだね。
ハッ、と目がさめた坊ちゃんがお母さんを見上げると、お母さんもスヤスヤ眠っていた。だから坊ちゃんは周囲を見渡して、安全か確認していたんだ。
「遅刻しちゃうよー!」
そこで坊ちゃんが見たのは、二足歩行をする垂れ耳のウサギさんだった。ブラウンの長い耳を揺らして走っていく。奇妙なものをみた坊ちゃんは、追いかけることにした。
「まずいぞ
……
!」
わんわんと泣きながら、ウサギさんは穴に飛び込む。坊ちゃんもためらわず、飛び込んだ。
深い深い穴を落ちていく。浮遊感。チェズレイは死を一瞬思った。報いにしてはあっけない。そう思っていると、重力が弱まるのを感じる。
「
……
?」
チェズレイは首をかしげる。ズボンがしゅるしゅると伸びていく。ふんわりと風船のように膨らむ。サスペンダーが広がり、ワンピースの胸当てになる。リボンタイが白いエプロンに変わった。
着地する頃には、品の良い少年の姿がクラシカルな少女のものになっている。エプロンドレスと大きなリボン。
悪くない。母はよくチェズレイのことを「女の子みたいに可愛い」と言ったものだ。「あなたが女だったらゾッとする」とも。そう思い出しながら、チェズレイはスカートをひるがえし、ウサギを追う。
ブラウンヘアのウサギにはすぐ追いつけた。困った様子で、小さな家の前で焦っている。
「どうしよう、どうしよう」
チェズレイが近寄ると、嬉しそうに顔をあげた。
「君か! 実は困っているんだ、この部屋の鍵を無くして
……
」
そう打ち明けるウサギに、チェズレイは眉をひそめる。誰かと勘違いしているのだろうか。
「君なら開けられるんじゃないか? もしかすると
……
」
信頼と、尊敬の目。きらきらとチェズレイを見上げる。チェズレイは自分の頭に手を伸ばした。
髪飾りのリボンと、額を出すためのヘアピン。ピンを手に取り、小さな手で伸ばす。生き残るためにチェズレイが手に入れた技術の中には、ピッキングがあった。父に命じられて、学生のフリをして潜入し情報を得たこともある。役に立たねば殺される世界で生きている。
手応えが変わり、かちゃん、と音を立てて鍵が外される。ノブを回してみせると、ウサギは飛び上がって喜んだ。
「ありがとう! 本当に助かった
……
!」
感謝するウサギを、疑問に思う。見ず知らずの人間にまっすぐな瞳を向けるウサギは、かつて家にいた犬を思わせた。
花が騒ぐ。聞くに堪えない醜い言葉を。自分に向かって、母に向かって。理解してやる義理もない。チェズレイは、花を積みながら歩いた。
淫売。
身体で取り入った女。
妾の子。
親子そろって媚びるのが上手い。
ガーベラに似た花は、手折られるたび短い悲鳴をあげる。首をもぎながら歩いた。
「テメエ、自分がしてることわかってんのか?」
上から声がする。唸るような声。チェズレイは上を見上げた。
葉の茂る木の上。尖った猫の耳。長い、縞の尾。ふわふわの毛皮を持つ、鋭い瞳の猛獣が居た。
チェズレイは睨みつける。
「んな事思い出してもどうにもならねえだろうが。無駄だろ」
猛獣はニヤリと頬を持ち上げる。チェズレイの様子が無様なのか、木の枝の上で伸びをした。
「ま、ガキはガキらしく助けを待ってろ。オレは可愛がってやらねえぞ」
不愉快。チェズレイは手折った花を捨てて、小道から外れていく。
次にチェズレイがたどり着いたのは、白い薔薇の咲く城だった。どこか見覚えがある、嘘のような白さ。
「やぁ」
見知らぬ男が手をひらりと振る。ペンキに濡れた薔薇の木の隣で。
「らしくない様子だな。俺のことも忘れてしまったのかい、ボス?」
赤くぬらぬらと光る、ペンキで塗られた白い薔薇。息苦しい様子だ。心音が高鳴る。背中に嫌な汗をかく。けれど、チェズレイは近寄っていく。
「賢い子だ。これを贈ろう」
ペンキのバケツから、ブラシを取り出す。真っ赤なペンキを吸った重たいブラシを。
受け取ったチェズレイの手のひらを赤く濡らす。重たい。黒い。硝煙の匂いがする。
「使うといい。楽にしてくれる」
チェズレイは赤い手を、エプロンで拭う。赤い染みが広がった。
「有罪だ」
ぱん。チェズレイは受け取った銃で、トランプを撃つ。
「有罪だ」
ぱん。炸裂音がする。
「有罪だ」
ぱん。知っている。
チェズレイは自分が有罪だと知っている。濁ってしまった。濁ったのに、のうのうと生きている。濁ったら、おしまい、なのに。
「有罪だ」
ぱん。赤い飛沫が散る。
有罪だ。生きているだけで、存在しているだけで母を破滅させた。産まれた時から、有罪だった。
女王が立ち上がる。派手なドレスで、赤く濡れた道を歩いてくる。
これが根源だ。これさえ殺せば終わる。これさえ居なくなれば楽になる。
チェズレイは銃を構える。
「だめだよ」
そう、穏やかな男の声がした。チェズレイの身体が、黒い影に抱きしめられる。大きな手がそっと、銃を奪い取る。
「よく見てごらん」
促されるまま、チェズレイは顔を上げる。向かいに立つ、女王の顔を見る。
「
……
!」
声なき叫びを、小さくひとつ。涼やかな紫の瞳。穏やかな微笑み。淡い色の髪。
チェズレイの母だ。
「嫌いな人を憎んでもいい。でも、大事な人を憎むのは辛いだろう」
手が、チェズレイの肩に置かれる。
「なにより自分を、憎むのは」
瞬きをひとつ。安らかな母の顔は、安らかなチェズレイの顔になる。目に花を咲かせ、愛おしげに見つめる。
「お前が教えてくれたことさ」
影の男を、チェズレイは知っている。後ろを振り返ると、星空が広がった。トランプの城が遠のいていく。にっこり笑う三日月に、チェズレイは手を伸ばした。
ここでお話はおしまい。お前さんは
……
坊ちゃんはお母さんの膝で目覚めて、撫でられてお家に戻るのさ。そしてお前さんも目が覚めて、俺にハグなんかしてくれちゃったり?
悪夢を見てもくじけないお前は、ずっと素敵だよ。
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