ハレ
2024-09-01 10:07:05
1458文字
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(仮題)あなたに会いたい

蔵出し習作。リンゼルみは果てしなく薄いです。

「いって...!」

横から魔物に不意打ちを喰らって、予期せぬ方向に吹っ飛んで木に肩を強打してしまった。打った部分を押さえてずるずると木を滑り落ちたが、痛みを逃す暇さえない。間髪入れずに自分の上に影ができて、覆い被さるようにして突っ込んできた魔物を力の限り蹴っ飛ばして、その反動でなんとか立ち上がる。魔物がバランスを崩した隙に、ヤツが落とした木の棒を拾って何度も打ち付ければ、魔物は生き絶え角と牙を残して消えた。

「やった...」

へた、とその場に腰をつく。情けなく呆然とつぶやいた声は空に消えていった。長く息を吐くと、思い出したように木に打ちつけた肩が痛んだ。
目が覚めて「ここは魔物のいる世界なんだ」と知ってから、少し調子に乗りすぎた。自分だけの力で結構倒せるもんだから、戦う必要のない魔物にも喰ってかかって倒して回っていた。もしこの世界におれ以外の人間が残っているなら、魔物は一匹でも少ないに越したことはないだろう、と大義名分を掲げたつもりで、要は弱いものいじめに興じていた。考え方と態度を改めなければ(とはいえ、まぁ、やっぱり魔物はいない方がいいだろうとは思うけど)。

重い腰を上げ、何に使うのかもわからない、そもそも役に立つのかもわからない魔物の残骸を、機械的に拾ってポーチに突っ込む。なんせ一銭も持ってないのだ。いつかどこかで何かの役に立つことを祈りながら、こうしてあれこれ拾って歩いている。
魔物が持っていたのが木の棒だったからよかったけれど、あれがトゲのついた棍棒だったりしたら大怪我じゃすまないところだった。大怪我したらどうなるんだろう。大怪我ってするのかな。当たり前だよな。やっぱり、気をつけなくちゃ。

まだどこか現実味のないこの世界のことを、どう捉えていいのか測りかねている。
「100年前に滅びたこの国の王」と名乗った彼の人のことをおれはこれっぽっちも覚えていなかった。実際のところ、自分の名前だって覚束ない。姿の見えない女の人と、王(と名乗った男)がおれを「リンク」と呼んだから、もしかしたらおれはリンクという名前なのかもしれない、と思うだけだ。実感はないし、現実味もない。
そもそも100年間も眠らされていたって、そこからもう疑わしい。100年もすれば人間なんてとっくに白骨化してるはずだ。風化して失くなってたっておかしくない。おれが寝かされていたあの洞窟みたいなところに秘密があるなんて、そんな都合のいいことあるもんか。物語じゃあるまいし。

王(あくまでそう名乗った男)の話は、真に迫っていた。おれ相手に、あんな大それた嘘をつく必要もない。目が覚めてからこの短い期間に手に入れたちょっとした情報と照らし合わせてみても、辻褄が合わないこともない。だから心のどこかでは「本当なんだろう」と思う自分がいるのも事実だった。
100年間、寝かされていたという身体はとても重い。けれど、不思議と心は軽かった。
そして「会いたい」と思う強い気持ちがあった。でも、それが誰に対する気持ちなのか、わからない。

何があるんだろう。何に出会うんだろう。
おれは一体、何者なんだろう。
走り出せば、わかるのだろうか。

おれは何かに追い立てられるように、カカリコという村を目指して飛び出した。そして村を目指すその途中で魔物に襲われる旅人を助けた時、


「君は常に背中になにかを庇うように闘うんだね。そういう仕事の人?」


そう指摘され、あるはずのない記憶の中で誰かの笑顔がぼやけて揺れた。