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明らか
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小説
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夏の思い出
1125の師弟が蝉を取りに行く話。微妙にテルくんのおまけ漫画と繋がってます。
「霊幻師匠、こんにちは」
「お、来たな。茂夫くん」
小学五年生の夏休み、師匠と出会った最初の年。あの頃の僕は小学校が休みに入ると、ほとんどの時間を相談所で過ごしていた。照りつける太陽。湿気を含んだじっとりとした空気。汗でTシャツが肌に張り付く感触が不快ではあったけど、相談所へと向かう足取りは不思議と軽かったのを覚えている。
その頃の相談所はほとんどお客さんが来てなくて、僕は受付の机に夏休みの宿題を広げながら、時々師匠に勉強を教えてもらったりして過ごしていた。
「茂夫くん、毎日来てもらって助かってるけど、友達とどっか遊びに行かなくていいのか?」
僕は首を横に振る。
師匠は口に指を当てて少し考えると、学校とか近所によく遊ぶ子とかいないの?と聞いてきた。
「律とはよく遊ぶけど
……
あんまりいない」
「律って?」
「弟です」
ふーん弟いんの、と師匠は言った。
師匠は口に指を当てたまましばらく考えると、
「そういや出張除霊の依頼が来てたんだった。これは大変な仕事だからな〜。子供のお前には難しいかもしれんが、いい修行になるだろう。茂夫くん、俺についてこい」
そう言って師匠は表の看板を裏返し、僕らは相談所を後にした。
着いた先は近所の林で、蝉の鳴き声が辺り一帯に響き渡っていた。
「呪われた蝉を捕まえて除霊して欲しいという依頼だ。この数の中から探し出して捕まえるのは至難の業だが、俺のアシストさえあればお前にもきっとできるだろう」
僕は100円ショップで師匠が買ってくれた虫かごと虫取り網を持って木の幹に止まっている蝉に狙いを定める。
「師匠、あの蝉から何も感じないんですけど
……
」
「あ〜、それはお前の感知能力が低いんだろうな。俺にはビンビン感じるぞ。あいつは呪われた蝉だ」
僕にはわからないものも師匠にはわかるんだ。師匠はすごいな。
僕は止まっている蝉に近づき、汗ばむ手で構えた網を思いっきり振り下ろす。ガッと幹に当たったものの、蝉はジジジッと大きな音を立ててどこかへ飛んでいってしまった。
「あっ
……
」
「振り下ろす力が強すぎたな。もっとそ〜っと息を潜めて、背中から網を被せてみろ」
師匠の言う通り、僕は別の場所に止まっていた蝉に今度はゆっくりと近づいていく。そのまま網を被せようとしたところ、またしても蝉はジジジッと空へ飛び立ってしまった。
「蝉に気配を悟られたな。静かに、息を殺して、それでいて素早くだ」
いい線いってるぞ。あともう少し!
僕は師匠のアドバイスを頼りに網をグッと持ち直し、次の蝉に狙いを定める。
静かに、息を殺して、素早く
――――
パッと振り下ろすと、蝉が網の中に収まった。
「やったな茂夫!捕まえたぞ!」
後ろで見ていた師匠がそう叫ぶと、僕の頭をわしゃわしゃと撫でてくれた。初めて自分で捕まえた蝉が嬉しくて、僕はすっかり誇らしい気持ちになっていた。
網の中から蝉を掴み、師匠が虫かごへと入れてくれる。
「1人でよくやったな。大したもんだぞ」
「でも師匠、さっき逃がした呪われた蝉と違うような
……
」
「ンンン、呪いっていうのは移るもんなんだよ。お前には見えないだろうがさっきの蝉の呪いが今はこっちの蝉に移ったんだ。だから今はコイツが呪われた蝉なの」
そう言うと師匠は、また同じ依頼が来るかもしれんから今の感覚を覚えておけと、僕に蝉取りを続けさせた。僕たちが林から帰る頃には虫かごに新たな蝉が数匹入っていた。
「今日はよくやったな。ほれ、報酬」
帰りに師匠はコンビニでスイカ型の棒アイスを買ってくれた。
「お父さんとお母さんと律に見せたら蝉は林に返してやれ。短い命なんだ。自由に飛び回ってる方が蝉も幸せだろ」
僕は虫かごの蝉を見つめながら師匠の話に頷く。
「でも師匠、この蝉の呪いを除霊しなくちゃ
……
」
「ん?それならお前が修行している間に俺がしといてやったぞ」
もうその蝉は呪われてないから大丈夫だ。
師匠にそう言われて僕はびっくりした。全然気づかなかった。いつの間に除霊したんだろう。
「じゃあな茂夫くん。おつかれさん」
「あの、モブです」
「?」
僕は勇気を出して師匠に声をかける。
「茂夫だからみんなにモブって呼ばれてます」
夕日をバックに立っている師匠を見上げた。
逆光で師匠の表情はよくわからなかったけれど、僕からはとても眩しく見えた。
「
……
じゃ、よろしくな、モブ」
「よろしくお願いします、霊幻師匠」
◆◇◆
あの時買ってもらった虫かごをそっと手に取る。
師匠がしてくれたことの本当の意味を知るのは、僕がもう少し大きくなってからだった。
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