いを
2024-08-31 23:07:37
2022文字
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ワードパレットまとめ5

ワードパレットお借りしております。
それぞれフォロワーさんのお子さんお借りしています。

いとし濁世(刀神/菊司と定之さん)

「菊司サン、これ」
 定之の声に振り返る。色んなものでぎゅうぎゅう詰めの部屋の角に、植木鉢に植えられた、場違いなランがにゅっと突き出ていた。
「あ、それね。兄にもらったんだ。でも俺の部屋にはやっぱ似合わないなあって」
 膝をおって、じっくりと土の上を見ている定之のとなりに座る。緑色のふわふわとしたものが土に敷き詰められていた。
「これは、水苔。こうやって、土の上に置いておくといいんだって」
「水苔」
「そう。苔っていえば無性生殖できるみたいだね。遺伝子情報がぜーんぶ同じのクローンってやつ」
 つぶやきながら水苔を指先でつつこうとする。こうしたら胞子が指について、指から苔が出てくるんだろうかと思うと少し怖くなったのでやめた。
 浮いた手で、近くに置きっぱなしだった本を持ち上げようとして、それもやめた。
 その指を定之の、太陽の色みたいな髪に差し入れる。
 指先に絡めるなら、胞子じゃなくてこっちがいい。
「?」
 不思議そうにこちらを見た定之のほおに指を滑らせた。
 菊司はあいまいに笑って、そっと手を下ろす。そのまま抱きよせてしまいたい気持ちにはなったけれど、今はなんとなく堪えた。
「あ、そうだ。水持ってこなきゃだったね。ちょっと待ってて」
 外は暑かったから、と言い訳のように呟いて冷蔵庫の中を眺める。ミネラルウォーターがちょうど2本あった。
「定之くん、はいこれ。なんか……外国のいい水らしいよ。これももらいものだけど……
「ドイツって書いてある」
「へぇ。ドイツって水有名なんかな」
 ペットボトルを受け取った定之はぎゅっとキャップを捻り、口をつける。布に覆われた喉が動いているのだろうかと考えると、なぜか劣情を抱いてしまった。
 思わずかぶりを振ってミネラルウォーターで喉を潤し、机に置く。エアコンの室外機の唸り声がここまで聞こえてくる。壁が薄いからだろうか。
……
 ふと思い起こした。
 ということは、夜のあれも聞こえてたりするんだろうか。角部屋なので、ある一定の位置にいる住人に。
「定之くん」
「?」
「ご、ごめんね……?」
 なにが、と訴えかけている目だった。直接言われたこともないから、大丈夫だと思いたい。
……苔の話に戻るけどさ……無性生殖ってことは単独で増えるってことじゃない? 人間もいつかそうなるのかな」
「性別がいらなくなるっていうこと?」
「うん。俺たちが死んだずーっとあとだろうけどね。でもそんなことになったら、人間っていう種は地球にはいないかも。ははは」
 なんてね、と笑い、定之のつむじにほおを当てる。髪の毛がほおに触れる感覚が愛しい。
「俺たちなんかこうやってくっついてても、なーんにもならないのにね」
 でもそれでいい。なんにもならなくたっていい。今はくっついていられるだけで十分だ。


きみの酸素は花のよう(ブツメツフツマ/公紲さんと無告)

 外は暗い。バスの窓に自分の顔と、となりに座っている公紲の寝顔がうつっていた。外が暗いから、バスの窓がいくら曇っていてもよく見える。
 薄い水色の花が無告の肩口あたりにくっついていることに気付いた。
 がたんとバスが揺れると、公紲の頭も揺れて無告の肩にこめかみがあたった。
……
 それを視界の隅で見て、ふとくちびるをゆるめる。
 運転手に気付かれないよう公紲の手にそっと触れた。自分のものよりはあたたかい体温。席は後部座席で、ほかに乗客はいない。
 ゆっくりと彼の指に自分の指を絡めた。これが人間の体温であると分かる。生々しい体温は、すくなくとも無告の心を慰めた。
「無告くん……?」
 いまだはっきりと輪郭の保たない声に、「はい」と答える。
 ぼんやりとした目の色がまっすぐ無告を見つめていた。
「寝ていましたか」
「そうですね。数分ですが」
 ぴたりと公紲の体が固まる。手を握っていたからだろうか。指をほどこうとそっと離そうとすると、その白い指が追い縋るように再び握られた。
「きっと見えません」
 耳もとで囁く公紲の言葉に、つと息を詰める。
「無告くんから、ですよ」
 紫色の髪が、バスの照明できれいに輝いた。目を伏せ、ふたたびくちびるをゆるめる。
「あ」
 薄い水色の花びらが重ねられた手の上におちる。
「どこかでつけてきてしまったんでしょう」
「おみやげですね」
 ふとほほえんだ公紲の二の腕あたりを見て、無告も笑った。
 そこにも、ちいさな花がくっついている。これは薄い紫色の花びらだった。
 反対の腕でそれを取ると、水色の花びらのとなりに置く。
 それはとても美しいグラデーションだった。
 公紲の目がうかがっようにこちらを見つめていた。首をかたむけると、彼がそっとキスを落とす。
 その瞬間、手の力がわずかに強まったのを無告はこの先、きっと忘れないだろうと信じている。