ニシナ
2024-08-31 13:30:55
1645文字
Public チョイダリ
 

おっきなペンペンぬいぐるみ(チョイダリ/スバリコ)



[『おっきなペンペンぬいぐるみ』ゲームセンターに入荷してるよ!]
彼女からLIMEが来たのは水曜の夕方の事だった。
[友達とケーキバイキングに行った帰りに偶然見かけたの]
[大きくて、すっっごく可愛いくて、苦手だけど頑張ったんだ]
[スバルくんも絶対取りに行った方がいいよ]
こちらの返答も待たずに、次々と送られてくるメッセージ。
最後のメッセージにはゲットしたであろうペンペンのドアップの写真付きだ。
それほどまでに、アヤセは興奮しているのだろう。
 
気持ちはわかる。
あんな大きなペンペンが手に入ると思うだけで今すぐゼミ室から飛び出したい。
[帰りにチェックしてみる]
[わざわざありがとな]
友達といるのなら、あまりやり取りを長引かせても良くないだろう。
手短に返事をしてから、また研究に戻ることにする。
……もっとも、今すぐにでも帰りたい気持ちの方が強くて研究なんか手につかないんだろうけど。
[あの後、ゲーセン行けた?]
22時過ぎ、またアヤセからのLIME通知。
俺がペンペンを取れたかどうか気にしてくれているんだろうか。
[いや、無理だった]
研究自体はそんなにかからなかったけど、帰りにあいつに声を掛けられたから。
「リコちゃんが誰かと出かけてるっぽいんだけど灰崎くんどこ行ったか知らない?」
俺が知っていたらそれはそれで問題になることはわかっているので、知らないと一言。そこで終わればよかったものの、結局夕食まで一緒に過ごしてきてしまった。
[それならちょうどよかった、あのね……]

     *     *     *     

「ごめんね、わざわざ呼び出しちゃって」
……別に。こっちこそ悪かったな」
約束のほぼ5分前に現れたアヤセと合流した俺は、人目を避けるようにカフェの奥にあるテーブル席へ移動する。
「それで、これが例の……なんだけど」
……確かにデカいな」
「うん、でもふわっふわのもふもふでね、すごく抱き心地がいいんだよ」
アヤセは興奮が抑えきれない様子で語り出す。
「最初はちょっとだけ~、って思うんだけど、一度抱きしめたら離れられないくらい
手触りが気持ちいいの。絶対スバルくんも気に入ると思うよ」
……そんなに大事なもの、いいのかよ」
うっとりと語る様子に少し申し訳なくなると、アヤセはぶんぶんと首を振った。
「いいの。っていうか、LIMEでも話したけど、弟が同じの取ってくれたんだよね」
アヤセの弟はクレーンゲームが得意で、彼女がペンペンを好きだと知っていたので、入荷したその日にゲームセンターで手に入れていたらしい。
「週末に取りに行く約束になってるんだけど、家に2匹もいたらちょっと大きすぎるかなぁって思ってたから……だから、もらってくれると助かるよ」
「そういうことなら、有り難くもらっとく。今度なんか礼するから」
「礼なんていいよ~、わたしこそ、もらってくれてありがとうだもん」
俺がペンペン好きを隠していることを知っている彼女は、見えないようにわざわざ
包んでから大きな紙袋に入れてくれたのだ。
それから他愛のない話をしつつ、いつかちゃんとお返しはしよう、と思いつつ過ごす。
家に帰って厳重に包まれたペンペンを開封すると、愛らしいビジュアルと共に一緒にいた彼女の香りがふわりと漂う。
……そうか、お前、アヤセの家にいたんだよな」
当然のことを呟いて、それから「抱きしめると離せない」と言っていたアヤセのことを思い出す。
「本当にふわふわだから、家に帰ったらまず、ぎゅーって抱きしめてみてね!」
アヤセは別れ際にもそう言っていた。
「これを……抱きしめるのか……?」
ふわりと漂う彼女の残り香は、自分の家には存在しないはずのもの。
ペンペンにいくらかの罪悪感を抱きつつ、それでも約束は守らなければと己に言い聞かせてぎゅっと抱きしめてみる。

言われた通りの感触と、思いもよらぬ付加価値に動悸がおかしくなりそうだった。