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Public まほやく
 

恋人が可愛すぎて全く話を聞いていなかった(ということは別になかった)(パラロイオーカイ)


※ パラロイボスカドストの内容にミリ触れている



 ベーコンチキンサンドとやらの話をしている。
 署内でブームになって、昼休憩のときには店内がシティポリスの同僚で埋まるのだとか、フライドチキン屋がやっている割にトッピングがカスタマイズできてレタスとトマトを入れるとヘルシーだとか、でもハッシュドポテトとチェダーチーズを入れてジャンクにするのも捨て難いんだよなとか、その上にソースも選べてデフォルトのバーベキューソースからハバネロソースに変更すると味が締まっていいだとか、そもそも具の順番をどうするかまで指定できるからそれで署内には派閥ができている、それで何が変わるのかと思うかもしれないが全然違うんだ、ベーコンを端にするのが俺は好きだなとか、ボスは追加料金を払ってチキンをダブルにしている、本当に好きなんだなとか。
 話に合わせて、くるくると回る人差し指。ところどころ挟まれる思い出し笑い。きっと明日の昼食を夢見て、無意識に生唾を飲み込み、上下した喉仏。好きなものの話を好きな相手に話すのが楽しくてしかたがないという様子で、光を吸い込み、きらきらと輝く金の瞳。ときどき甘えるように上目遣いになる。
 腕の中の、その話と、その声の響きと、その表情と、その仕草を、ぜんぶ同時に聞いて、ぜんぶ同時に見ていた。何ひとつ聞き逃さないし、見逃さない。自分にはそれができる。全知全能のアシストロイドなので。
 こんなに一方的に話し続けるなんて、酔っ払っているときみたいだと思うけれど、酔っ払っていないのは知っている。ひさしぶりに会って、ひさしぶりに抱き合ったあとだから、興奮しているようだ。
 夜だけれど陽だまりでひなたぼっこをしているような気分になって、目を細める。ふと、カインの言葉が止まる。

「ごめん、俺ばっか話してたな」

 おまえの話も聞かせてくれよ。それこそ、今回の旅で何が美味かったとかさ。
 申し訳なさそうに眉尻が下がったあと、にかっと歯を見せて笑ったが、別に構わなかった。構うとすれば、もうずっと、左胸のインジケーターランプがいつ点灯してしまうか気が気ではないことぐらいだ。

「全然聞いてなかったからいいよ。きみの話って本当に変わり映えがしなくて退屈」

 それでもそんなふうに言ったのは、たぶん、終盤に出てきた名前が気に食わなかったからだ。それから、彼が自分のいない日常を謳歌していることも。

「おまえなあ……

 呆れた顔を向けられて、それがちょっぴり怒ったようなので、少し溜飲が下がった。

……そういえば、大きな運河の通っている街に行ったとき、屋台が出ていて名物とかいう貝のトマトスープを売っていたんだけど、辛さを足したいならこれを掛けるといいって渡されたのが、タバスコじゃなくてハバネロソースだった」

 流行ってるんだね、ハバネロソース。突き返したけど。そう言うと、カインがぱちぱちと瞬きをして、「なんだ……」と言いかけた。言いかけたけれど途中で口を噤んで、微笑んだ。

「なに?」
「いや……おまえって、俺の話を聞いているのかいないのか、わからないな。前に全部記録できるって言ってたし、そもそもそういうふうに考えるのがナンセンスなのか?」

 そんなことはない。たしかに自分が知覚した情報はすべてデータとして記録されているけれど、特定のデータをカルディアシステムが取り上げ、フィードバックループが発生することで、自意識が構築されていくのだ。
 だけど、そうは言わなかった。たぶん難しくてカインには理解できないだろうし、やっぱり気に入らなかった。恋人同士になっても、自分の「特別」の重さと彼の「特別」の重さが釣り合わないことが。

……きみの話なんて、聞いてなかったけど」

 話が退屈だったからじゃなくて、くるくる変わる表情がかわいすぎて、聞いてなかった……って言ったらどうする?
 本当は、その言葉にじわじわと赤く染まる頬も、「ずるい」とうめくように言った声も、全部ひとつ残らず見ているし、聞いている。