雪貴
2024-08-30 01:04:30
665文字
Public RotR
 

柔い白磁に泥む影

黒船より以前の主♂片♀で短い話
ほんの僅かですが性行為の匂わせがあります

 まっさらな新雪を土足で踏み躙る暴挙に、心の臓がどくどくと痛む。
 項の和毛、頸椎のなだらかな窪み、しなう背筋。細い首筋も華奢な腕も真っ直ぐに伸びた脚も、何もかもが己とは違う生き物に見えて、酷く鳩尾が落ち着かない。
 僅かに浮いた肋も、呼吸に合わせて上下する薄くて柔い腹も、少し力を入れれば呆気なく損なわれてしまいそうなのに、見た目に反して力強い肢体は、汗で滑るのも構わずに僅かも離すまいと絡み付いてくる。
 ──お前以外の誰にも触れられたくないのに。
 ──知らぬ誰かに散らされるなど真っ平御免だ。
 気丈な片割れが微かに浮かべた涙と縋り付く小さな掌に、柄にも無く動揺してしまった。
 低い位置にある旋毛も、丸くて形の良い頭も、震える長い睫毛も、ふっくりとした薄紅の頬も、片割れの総てがこの世の何よりもかなしく見えて、奥底に仕舞い込んだ男としてのさがが蓋を開けて顔を出し、晒された白磁の喉元に噛み付いた。
 荒い呼吸をそのままに、同じ色をした瞳を覗き込む。潤む視界に互いを焼き付け、それと同時に思い知る。
 自分達はどこまでも『個』であり、『男』と『女』で、『無二』なのだと。
 実感してしまった。
 正しく身を持って。
 重なる身体とは裏腹にひとつも掠める事の無い心をくうに留め置き、どちらともなく息をく。
 ──我らは二人で一対、それを忘れるな。
 口にしたのはどちらだったのか、どちらもだったのか、定かではない。
 ただこの日、互いに立つ瀬に圧倒的な亀裂が入ったのだと、後の世で思い知ることとなる。