ニシナ
2024-08-30 00:36:04
1659文字
Public チョイダリ
 

嵐の前の夜(チョイダリ/カズリコ)

「待って!行かないで!」
#この台詞から妄想するなら
https://shindanmaker.com/681121

※この中に出てくる二人は付き合ってません。

「待って!行かないで!」

思わずカズイの服を掴む。
「行かないでって……どーすんだよ」
カズイは少し困ったような顔をしてわたしを見る。

……ごめん、でも……
「怖いなら一緒に実家帰ればいいんじゃね? 台風直撃すんの夜からなんだろ?」

カズイの言葉はもっともだけど、そうできない理由もある。

「だって、次の日バイトのシフト入ってるから……
「それだって、店開くかどうかわかんねーって言ってたじゃん」
そんなことだろうと思ったけど、とカズイは息を吐く。

「台風がこっちくるって、俺が様子見に来なかったらどうするつもりだったんだよ」
……その時は、ゼミ室に避難するつもりだった……
「女がひとりで、か? ねーちゃん、考え甘すぎ」

カズイは諦めたように部屋の中に戻ると、背負っていた鞄を下ろして床に座る。

「そういう事なら、かーちゃんに連絡するから」

ポケットからスマホを取り出して、手早くメールを打ち始めた。
……わたしから言ったほうがいいよね、電話しよっか?」
「いや。メールでいいよ。来る前にかーちゃんからねーちゃんが怖がってたら泊ってこいって言われてるし」

バレてんだよ、とカズイは画面から目を離さずに笑う。
たしかに、子供のころから台風の日は夜眠れなくて怖い思いをしていた。

……それにさ、何となくそんな気がしてた。昔からねーちゃん雷とか風が強い日とか苦手だし。手つないでてあげるから一緒に寝ようって言ってたのも、本当は自分が怖かったんだろ?」

幼いころ、そういって小さな弟と手をつないで2人で布団にくるまったことがある。
自分はお姉さんだから弟を守らなきゃいけないという気持ちももちろんあったけど、
本当は自分が怖くて、カズイにしがみついていたのだ。

……バレてたの?」
「なんとなくな。だってねーちゃん、窓が揺れるたびに俺の手めちゃめちゃ握ってきたじゃん」
「そうだったっけ……

大型の台風が住んでいるところを直撃するというニュースをスマホで見たときは、もう大人だから大丈夫だと思っていた。
備蓄品もそれなりにあるし、住んでいるマンションはそれなりに頑丈そうに見えるし。
けれど、カズイが家からいろいろもって来てくれると知って、急に不安になってしまって、顔を見て離れたくないと思ってしまったたのだ。

「カズイ、私のベッド使っていいからね」
「いいって、床で。家から持ってきた布団あんだろ?」
「あるけど、遠慮しないでいいよ」

いてくれるだけで助かるんだし、と言うとカズイはスマホから顔を上げた。
「んじゃ、一緒に寝てやろうか。昔みたいに手つないで」
「えっ……

……冗談に決まってんだろ~? ねーちゃんいくつになったんだよ」
「そ、そうだよ! わたしもう大人なんだからね?」
「大人があんな必死で「いかないで!」って頼みこむかって」

クックックと面白そうにカズイが笑う。
からかわれたのだと知り、わたしは急に恥ずかしくなる。

「カズイだって、怖い映画見てひとりでトイレいけなくなっても知らないんだから!」
「へーへー お互いにな!」
…………お布団出してくる!」

口論もいつの間にか勝てなくなって、わたしは客用布団を取りに部屋を出る。
すると、カズイもいつの間にかついてきて
「そういうのは弟にさせとけばいいんだよ」
と布団を軽々しく持ち上げていってしまった。

……ありがと」
「どういたしまして。つか、俺一人増えたら食い物足らないんじゃね?」
「それは大丈夫。もともと買い込んであるから……あ、でも着替えとかないね。どうしよっか。買いに行く?」
「んー、そうだな。来る途中コンビニあったから行くか」
「一緒に行くよ。それくらいは出させて」
「へーへー。ついでに菓子も買っていこーぜ。台風ならどーせ夜うるさくて寝れねーだろうし」
「いいかも」

いつでもそばにいてくれる、頼れる義弟。
彼のおかげで怖かった台風が、少しだけ楽しみになった。