椿
2024-08-29 23:00:04
8312文字
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キスはどこにしますか?

瀬轟軽めのお話:心操くんがA組編入してしばらく経ったくらいの話

視点:心操くん
出演:瀬轟、心操くん、芦戸ちゃん、葉隠ちゃん、峰田くん(すぐ巻かれちゃう)
タイトル通りのお話です

ところで心操くん、寮での部屋割りどこになったんでしょうかね?
場所によってわくわく度が違う。

是枝さまよりこちらのイラスト頂きました!ありがとうございます!大変嬉しい~!
https://privatter.me/page/66d328aed8013
お風呂上がりの剥き立て卵みたいな無防備な轟くんの表情と戸惑い赤面する瀬呂くんの尊さをご覧ください!


Q.心理テストです。
好きな人が魔法にかけられて眠りについています。
目覚めさせるには、あなたがキスをしなければいけません。
顔に一カ所、身体に一カ所。
それぞれどこにキスをしますか?

「瀬呂ならどこにするー? 答えよ!」
「答えよ!」
「いきなりなんの話?」
「結構当たるよ!」
 風呂上がりの峰田&瀬呂コンビをつかまえて、芦戸と葉隠がタブレット端末を手に大騒ぎをしている。先ほど同じく風呂上がりに「心操をよく知るために」と他の心理テストも付き合わされかけていたため、ターゲットが移って正直ほっとした。
 ちなみに俺の答えは「鼻先」と「肉球」。
「それって猫じゃん!」と二人には猛攻撃を受けた。だから「犬かもよ」と答えておいた。
 説明を受けた峰田は早速「オッパ」と大変な形相で言い出したので最後まで単語を言えず瀬呂にぐるぐる巻きにされた。対処が早い。手慣れてる。毎度のことなんだな。
 プロテインを作ると言い、その場を離れ、飲みながら遠巻きに眺めることにした。
 瀬呂は「あたらないでしょー」と笑いながらもアゴに手をやり視線が左上を向いた。あれは、実在の人物を思い浮かべてる。眼球の動きでわかる。なるほど、瀬呂って好きな奴いるんだな。
「いいからいいから!」
「瀬呂はどこなの?」
 女子ふたりにガン詰めされて瀬呂は口を開いた。
「んー……身体だったら、そうだな、手のひらかな」
「なんかイメージと違う!」
「ギャップの男って言ってよそこはさあ」
 瀬呂が軽く笑いつつふざけた調子で返す。
「ね、ね、選んだ理由は? 理由は?」
「うーん……相手にとって大切な場所そうだから、かな」
「うわあ! ガチっぽい!」
「瀬呂が言うとなんか生々しい! きゃー!」
「なんでよ!」
 手のひらと肉球、広義の意味で同じだと思うけど。反応がこうも違うの興味深いな。
「それで、顔は? どこにする?」
「そうねえ……
 しばらく考える素振りを見せているけど、アレはなんも考えてない。前もって答えを持っているときにする仕草だ。
「まぶたかな……?」 
 と迷った挙げ句を装って、左手の人差し指で左のまぶたに触れた。
「アッ、やっぱガチ臭い」
「ガチ臭いって何よ」
「やあだー、そおなんだーへえー! 瀬呂がねえ! 理由は?」
「えー、ちょっと勿体ぶらずに結果を教えてちょうだいよ、早く」
 文句を言った瀬呂がソファに乗り上げた芦戸に腕を叩かれてる。
「瀬呂こそ勿体ぶらないでよ! 理由!」
 瀬呂がソファの背後からタブレットを覗き込む。近いな。
 まあでも基本、A組は男女区別なく距離が近いしみんなグイグイ来る。最初こそ戸惑うがそのうち慣れる……だろう。慣れるか? プロテインを飲み込む。
「理由ねえ……もし、目が覚めないまま悪夢を見ているなら、癒やしたいから? とか……なんつって」
「ヤダロマンチック」
「俺こう見えて結構ロマンチストよ?」
「意外~!」
「鼻水噴き出して笑うタイプの男だと思ってた~!」
「まあ、間違っちゃないけども!」
 間違ってないんだ。
「じゃーん! ではでは! 答えを発表します!」
 葉隠がタブレットを掲げる。
「あなたの恋が始まるとき! 何がきっかけ? キスの場所でわかっちゃいます!」
「えー……なにそれほんとかなあ」
 瀬呂は疑っているように見せてその実、結構楽しみに待っているっぽい。
「まずは『手のひら』を選んだあなた!」
「はい」
 ソファの背に肘を乗っけてだるそうに瀬呂は手を上げる。
「『懇願』タイプです!」
……懇願?」
 瀬呂が首をひねる。
「お願いってこと? ん? どういう意味? 土下座から始まる恋?」
 いやな恋だな。
「まあまあ落ち着いて。えーと『相手に自分が何かを望んだとき、恋が始まります。たとえば友だちになって欲しい、内面をもっと知りたい、自分を知って欲しい、相手の好きなものを教えて欲しいなど』」
 そうそう、抱っこしたいとか肉球もっと触りたいとか、好きな魚なんだろうとか、もっと近寄って遊びたいとか。当たらずとも遠からず。
「それって、恋全般に言えるんじゃない?」
 瀬呂が不服そうに言う。芦戸が「チッチッチッ」と人差し指を動かす。
「一目惚れはどう説明するのかね、君ぃ」
「優しくされたら好きになっちゃう場合は?」
「助けてくれた人を一気に好きになる場合だってあるでしょ」
「うーん、まあ言われてみればそうだけどさあ」
 女子の怒濤の問いに瀬呂は怯むことなく頷いて受け止めている。
「だって、俺、好きな相手に何かして欲しいって望むことなんておこがましくて怖くて出来ないよ。それって俺を好きになって、とか、愛してくれ、とか色々含むだろ」
 瀬呂が割と真剣な面持ちで答える。やっぱA組ってなんだかんだ根が真面目で素直だな。
「そんな自分勝手な気持ちで恋に落ちるのちがくね?」
「そうかな? たとえば相手の幸せを願うのも懇願じゃない?」
 葉隠が言う。
「どうか幸せになって欲しい、笑っていて欲しい、泣かないで欲しいとかさ」
……アッ」
 と声を発したきり瀬呂が唐突に言葉を詰まらせた。どうやら思い当たる節があるらしい。片手で口を覆い唸った。
……なるほど?」
「ほらほらー!当たってるでしょ? でしょ?」
「う、うーん、まあ、そうねえ……
 瀬呂がしどろもどろになっている。
「それから、まぶた! まぶたを選んだアナタ! ズバリ~……『憧れ』! 憧れが高じて恋に落ちます!」
「憧れ……
 瀬呂がぼそっと呟く。
「瀬呂って憧れて『幸せになって欲しい』って相手に望むの? それで恋に落ちるの? それってもう……!」
「な、なんだよ!」
 瀬呂が慌て出す。
「アイドルにガチ恋だ!」
「ガチ恋は付き合いたいとかみたいだから、どっちかというと推しの幸せ願う感じじゃない? 崇拝系!」
「それそれ! 夜空に輝く星? 高嶺の花? きゃー! 確かにロマンチスト!」
「ちょ……! やめてくれよ……!」
 きゃっきゃと無邪気にはしゃぐ女子の言葉に、瀬呂はさっきよりますます顔を赤くして両手でとうとう顔を覆ってしまった。いいようにからかわれてるな。
「女子の前だからってピュアを擬態すんじゃねえぞ! オイラ知ってるからな! こいつかなりスケベだぞ! オイラのコレクション」
 どうやって復活したのか峰田が吼えるが、再び瀬呂に即巻かれてしまった。動作がかなり早い。同じような形状のテープ・布系を扱う身としては教わるべき点が多そうだ。なかなか飲みきれないプロテインをちびちび舐めながら思う。
「おっ、なんかすげえ盛り上がってんな」
 濡れた髪の滴を拭いながら、轟焦凍が風呂場から出てきてキッチンでだらだらしている俺に声をかける。同じクラスになってわかったことだけど、轟はイメージとは違って案外話しかけてくるし、声をかけやすい。
 それ、マズいだろと俺のプロテインを指差して、もっと美味いのあるぞ、コレとかコレはどうだ? と軽く雑談をする。色々教えてくれるのはありがたい。
「なあ、ところでなんの話してんだあれ」
 少し眉を寄せて轟焦凍は水を一息に飲んだ。
「心理テストだって。芦戸と葉隠に瀬呂が質問攻めにあってる感じ?」
「心理テスト?」
 首を傾けて尋ねてくる。
「心理テストってやつであんな騒ぎになってるのか? なんでだ? どんな話なんだ?」
 迷ったが、轟がいけば瀬呂は女子のターゲットからは外れるだろう。女子も喜ぶだろうし。
「まあ、俺が説明するよりやった方が早いんじゃないか?」
「そうだな、ありがとう」
 頷いて轟が女子の群れに突っ込んでいく。
「心理テストやってんだって?」
 轟の声に反応したのか瀬呂が顔から手を外して確認した。
「俺もその心理テストやりてえ」
「え……
「どんなテストなんだ? 教えてくれ、瀬呂」
 うわーいやった! と喜ぶ女子の声に紛れて瀬呂がおろおろし始めた。さっきよりさらに顔は真っ赤だし、挙動不審になっている。
「瀬呂、なんでそんな顔赤いんだ?」
「なんでもないです、気にしないで」
「気になるだろ」
 瀬呂は顔を再び塞いで背を丸めている。
「瀬呂?」
 轟が瀬呂を覗き込む。なんだあれ、頭から湯気出そうだぞ。
「あーっ! 俺、レポートまだだったわ!」
 瀬呂の言葉にレポートなんてあったか? と首をひねる。思ったのも束の間、峰田を引っ張り上げると小脇に抱えて「んじゃ!」と瀬呂はエレベーターへ消えた。
「ああー! 逃げられた!」
「まいっか! 轟きたし! じゃあ質問です!」
「お、おう」
 勢いに早速飲まれてる。同じ質問をされ、轟が首をひねる。
「これ、魔法にかけられたのは本人の望みか? それとも巻き込まれたのか? 本人の望みなら寝かせて見守るって言う手も有りじゃねえか?」
「えーそこなの?」
「見守っちゃうの?」
「とりあえず、白雪姫とか眠り姫みたいに、呪いをかけられたって思ってよ」
 芦戸が補足する。轟は拳を握り込んだ。
「じゃあ、呪いをかけた奴ぶん殴りにいく方がよくねえか? 舐めた真似すんじゃねえって」
 ヒーローなのか輩なのかわかんないな。
「轟くん物騒!」
「根源を絶つのは基本だろ」
「まあそうだけど! そうじゃなくて! 轟はキスどこにするのって話デショ!」
「キス試す前に、とりあえず殴ってみたらその呪いとやらも解けるかもしれねえだろ」
「とりあえずそこから離れようか!」
「さっさと答えて!」
 はたから見てみると、瀬呂は真っ当に話して女子を楽しませてたんだなとわかる。猫とか犬で逃げ切った俺とか、今からそいつを殴りに行こうぜって言う轟相手じゃ「そうじゃない」ってなるよな。やいのやいの言われて轟はようやく口を開いた。
「わかった。口と肘」
 轟がぶっきらぼうに言い切った。
 肘。口はともかく特殊な場所だな。俺には思いつかない場所だ。
「肘?! 理由は? なんで?」
 興奮した様子の芦戸が身を乗り出す。轟は「お」と言ったきり腕を組んだ。ガードのポーズ。何か悟られたくないと見た。そして右下に視線を走らせる。あれは、体感した記憶を思い浮かべてる。実際興味があって誰かの肘に触ったことがあるのだろうか? ゆっくりと左下に視線が移動した。何かすごい考えている様子が窺える。左利きはこれが逆になるとも言われている。轟が両利きだったとしても、考える順番と思い出す順番が入れ替わるだけだ。
……やっぱり肘はやめておく。胸にする」
 熟考して答えを即物的な方に切り替えた。
「胸かあ」
「正直に答えてくれて嬉しいけど、峰田と同じなんだあ……意外」
「峰田と同じなのか? へえ」
 ちょっと驚いたような表情を見せる。そして何かに気づいたようだ。頬を少しばかり赤らめた。
「ちげえ、俺が言いたかったのは胸っつーか、心臓のあたりだな。心臓の上の皮膚にキスしてえ。峰田と多分違う」
「急に重めの答えがきた」
「でもそっちのが轟くんぽくてよかった」
 女子が文字通り胸をなで下ろしている。
「理由は理由は?」
 轟は頷いた。
「その人が生きてるって感じたいのと、目覚めさせる場所として相応しいのと、そんな場所にキス出来ることはこの先ないだろうから、そこ」
 轟の言葉に芦戸は目をキラキラさせて、葉隠は見えないけど多分、胸の前で手をぎゅっと握ってる。
「いやあ……そういうの聞きたかったんだよねえ、三奈ちゃん」
「うんうんいいねえいいねえ」
 うっとりしながら頷き合ってる。
「目が覚めて、轟から心臓の上に口付けられてたら、心臓止まっちゃうかもねえ」
 うっとりした表情の女子とは打って変わって轟の顔が青ざめる。
「俺がトドメを刺しちまう……?」
「ちがうちがう!」
「もー!」
 女子ふたりは吹き出したあと大笑いをしている。俺も口からちょっとだけプロテイン零した。あれ素なのか。轟って真面目なのにちょっと抜けてるよな。
「口の理由は?」
「好きな相手なんだろ? じゃあ、キスをそいつと出来る最初で最後のチャンスだなと。意識ねえのがいやだけどだったら口にする」
 芦戸が両手で口を覆い悲鳴を押し殺している。
「やだあ……ピュアじゃん……
「なんか、轟くんは好きな相手と結ばれないって前提なんだね?」
 葉隠に言われて轟はきょとんとした顔を見せた。
「そうか?」
「うん、そういう感じを受けたよ」
 腕を組み目をつぶり「んー」と考えている。
……で、これで何がわかるんだ?」
「あなたの恋が始まるとき! 何がきっかけ? キスの場所でわかっちゃいます!」
 ジャーンと葉隠が口で言う。轟は無言で見守っている。
「胸を選んだアナタ!」
「おっ、俺か」
「心臓に一番近い場所と言うことで……なんとあなたは『所有欲』『独占欲』! それを感じたときに恋に落ちやすいタイプです! また、情欲が高まる気分になる相手と恋に落ちやすいのです! ムラムラしてるときは要注意!」
 結構エグいのきたな。しかも轟理由に『心臓の皮膚の上』って言ってるから反論しようがない。
「欲まみれか、なるほどな」
 素直にあっさり受け入れている。
「ムラムラはわかんねえけど、独占欲はわかる」
「わかっちゃうのお?!」
「もしかして、束縛系彼氏?!」
「そうかもしれねえ、あんまり他の奴と近づいて欲しくねえ……って思うかもしれねえ」
 素直に頷いて結果を受け入れている。
「え? たとえばたとえば?」
……他の奴と気軽にハグしたり、肩組んだり、とか……あれ、俺なんかすげえ恥ずかしいこと言ってねえか?」
「言ってない言ってない! 大丈夫大丈夫!」
「普通のことだよ!」
「そうか、よかった」
 大丈夫か? 全然大丈夫じゃなくて誘導されてるように見えるけど? 
「彼氏が他の子とハグしたら私なら溶かすと思う」
 どこの何を溶かすのか、と思ったが想像しないようにする。芦戸の攻撃キツそうだな。
「付き合ってなくったって、好きな人が別の人とハグしてるの見たら悲しいよ! 泣いちゃうし引きずる!」
……そう思っても、いいのか」
「いいんだよー!」
 ふたりに励まされて、轟は頷いた。
「じゃあ俺は、そう思う相手に恋に落ちちまうってことか、なるほどな」
 やけにスッキリした表情で轟は納得している。
「そうそう、そういう話よ! じゃあ次は口ね! 唇を選んだアナタ! アナタはズバリ……『セクシーさ』を感じた相手に恋に落ちやすいタイプです!」
「セクシー?」
「色気に弱いってことかな! 意外だね、轟くん、選んだどっちのパーツにもお色気要素が含まれてるね!」
「それはちょっと……わかんねーな。セクシーってどういうとき思うんだ?」
 なんか小学校二年生みたいな質問してるな。
「セクシーの基準って人によるよね……たとえば、匂いが良いとか、髪をかき上げる仕草とか」
「あとは汗とかかなあ? 乱れた胸元に流れる汗とか」
「ヤダ、それはセクシーすぎる!」
 きゃー! と悲鳴を上げて女子は嬉しそうにはしゃいでる。轟はぼんやり考えている様子に見えるが急にハッと目が輝いた。
「じゃあ……たとえばだが。いつもゆるい服を着てる奴が身体の線がわかる服を着たときに感じる気持ちとか、そういうのであってるか」
「あってる! あってるっていうかわかってんじゃん!」
「いつも見えないうなじとか、おでことか見えたときとかは……
「あ、なんかほのかなセクシー! 轟、なかなか通だね!」
 俺もそれは良いな、と思うけど妙に具体的すぎるな。
「これがセクシーか……
 なんか、素直なこどもに妙な知識与えてるみたいになってるな。
 ようやくプロテインも飲み終わった。歯磨いてそろそろ寝るか。
「ところで、肘選んだ場合、なんだったんだ?」
 轟が尋ねている。シェイカーをザブザブ洗いながら耳だけ傾ける。
「肘はなくってね、腕ならあるよ。肘から二の腕にかけての範囲」
 轟は頷く。
「肘から腕を選んだアナタ! それはズバリ……!『所有欲!』タイプです!」
「そっち選んでも所有欲じゃねえか、笑えるな」
 轟は愉快そうに声を上げる。
「なんで肘なの?」
「俺との違いを確かめてえって思っただけなんだけどな」
 轟が呟く。
「肘で自分との違い確かめるの? おもろいこというね、轟」
 芦戸の質問に、轟は曖昧に首を振った。
「だって、骨の形状が」
 つるっと泡でシェイカーが滑りシンクの端に結構な勢いで跳ね飛んだ。カツンカコンと小さくない音が響いた。
「ごめん、手滑った」
 俺が謝るといいよいいよーだいじょうぶよーと女子が手を振る。
 不意に轟が立ち上がる。
「わりい、調子に乗って、喋りすぎて、疲れたみてえだ、寝る」
 轟がぶつ切りに言葉を発し手をあげてエレベーターへ向かう。
「みんなおやすみ」
 轟がこちらに向いて手を上げたので、シェイカーを落としたまま泡だらけの手をぎこちなく上げる。
「おやすみ」
「おやすみー!」
「楽しかったよ、お休み!」
 女子ふたりも相当満足したようだ。何より。

 

 キスをしたい場所の心理は、海外劇作家の創作が元になっている。いつかレポートで読んだことがあった。それが派生してこんな心理テストが出来たんだろう。
 心理テストはどこかの創作だろうけど、遊びを通して聞きたい答えを誘導するテクニックは何かに使えるなと考える。バーナム効果も思い出す。
 それでも、と歯を磨きながら反省をする。
 自分の個性を有効に使うため、独学でプロファイリングや行動心理学を学んでいる。本や研究レポートを読むくらいで付け焼き刃だけど、いずれ犯罪率減少に役立てたいと思っている。
 でも、今夜ばかりはクラスメート相手には封印したい気持ちになった。
 幸い女子ふたりには『まだ』気づかれていないようだったけど、アレじゃ時間の問題だな。ヒントが散りばめられている。もちろん、瀬呂のあとに轟が心理テストに答えたから確信が持てたんだけど。おそらく俺がまだA組に馴染んでないからこそ客観的にわかったのかもしれない。
 瀬呂は轟に対してあまりに挙動不審だった。瀬呂の心理テストへの興味を見れば、クラスメートの答えを聞きたいはずなのに、さっさと退散した。からかわれて恥ずかしがるにしては少しばかり不自然だった。あれは「すごく聞きたい」「でもやっぱり聞きたくない」「とても恥ずかしい」が混ざって衝動的に行動している。
 轟は肘の答えを引っ込めたのがかなり印象的だった。あれ、話せば話すだけぼろが出るから引っ込めたんだろう。でも話してるうちにまさにストッパーが外れた。

 口をすすいで、ついでに顔も洗った。少しだけさっぱりした心地になってほっとする。
 瀬呂も轟もお互い気持ちに気づいてなさそうだ。一緒につるむところをあまり見たこともない。思えば不思議な組み合わせだ。
 そういえば、部屋が隣同士だったと不意に思い出す。
 一年間もあれば何かしらあってお互い好意を寄せ合うようになったんだろうか。
 もしくは、落ち着いた今だからこそなのか。でも結構拗れてると思うのは気のせいか。
 高嶺の花に幸せを願う。まったく行動するつもりがない瀬呂と、所有欲と独占欲、おまけに性欲を感じている轟。
 いや。もう考えるのも分析もやめておこう。あんまり首を突っ込まないように気をつけたい。巻き込まれたりするのはごめんだ。
 知られたくないようだったからさっきも焦って助け船出したけど、余計なお世話だったかもな。
 甘酸っぱいって言うか、酸っぱい。青いレモンを囓ったみたいだ。


 ひとしきり反省して明日の朝には忘れようと思っていたが甘かった。
 轟焦凍は、あの晩心理テストで何を思い決意したか知る由もないが寮内で瀬呂範太に誰が見ても特別に甘えるようになり距離がゼロに近づいた。瀬呂は最初こそ戸惑っていたけど、ごく普通に轟を受け入れた。今、あの心理テストをしたら違う答えが返ってくるのかもしれないが別に知りたくないし知らないでいた方が幸せだ。
 人の恋路に首突っ込む奴は馬に蹴られると相場は決まっている。

 その後俺も軽めに巻き込まれるのだがあまり思い出したくない話だ。
 ただ、丸く収まったとだけ言っておく。