芹沢亀吉
2023-09-25 01:28:54
8826文字
Public ゴジラ
 

シン・菊水作戦

2023年2月7日~2月12日にかけてTwitterに投稿した暴虐な軍国主義者、楠木武が恥をかく物語の通算85話目の加筆修正版をPrivatter+に投稿してみた。

 広池ひろいけ一雄かずお内閣は軍拡を前提とした増税を強行し、物価高に苦しむ庶民から巻き上げた税金を原資とし三丸みつまる重工じゅうこうに新型空母「機龍きりゅう」を建造させた。

「見よ!この華麗な船体を!これぞ日本の技術!」

 空母完成に立ち会った広池は1人舞い上がっている。

 この新型空母の呼称は映画『ゴジラ×メカゴジラ』本編にて自衛隊が製造開発したメカゴジラの正式名称、3式機龍に因む。防衛庁(当時)が製作協力し「強敵ゴジラを日本国内から排除する勇敢な自衛隊」を描いた同作は広池のお気に入り。多額の税金を投入し建造した空母に広池個人のお気に入り作品に由来する名前を付ける、絵に描いたような公私混同だ。

「総理、例の計画を進めましょうか。」

「私の機龍を檜舞台に立たせるなら早い方がいい。早く進めなさい。」

 そう言った広池の眼鏡がギラリと輝く。

 進水式を終えた空母機龍はそのまま南東に向け移動を開始し、多数の護衛艦や武装ヘリを伴っているあたり戦地に向かうかのような物々しさである。

「さあ、シン・菊水作戦が始まるぞ。」

 画面越しに空母機動部隊を眺める広池の微笑みは邪悪な雰囲気、いや邪悪そのもの。

 折しも沖縄では辺野古への米軍基地移設反対運動が激化していた。広池は「聞く力」などと言いながら沖縄の人々の訴えを全く聞かない姿勢を貫き、シン・菊水作戦と称して空母機龍を主体とした空母機動部隊を沖縄に派遣し辺野古移設反対運動を威圧する腹積もりである。

 辺野古移設反対を訴える人達、即ち時間を作り現地に来ている丸腰の一般人への恫喝のみを目的とし閣議決定により空母機動部隊派遣を強行、この国会無視の暴挙ははっきり言って内閣総辞職もの。広池はそんなに一般人と野党議員が怖いのだろうか。

 コカ・コーラがぶ飲みが癖になっているあたり、最近の広池が内閣支持率低下に相当苛立っているのは火を見るよりも明らか。空母機動部隊が沖縄基地に到着するまで我慢するつもりだったものの結局我慢しきれず全速力でトイレに向け駆け出した。

「ふう、危うく漏らすところだった。」

 トイレを済ませた広池はそろそろ空母機動部隊が沖縄基地に着く頃かと上機嫌である。そんな広池の目の前に秘書が1人駆けてきて血の気の引いた顔でこう叫んだ。

「総理、機龍が沈没しました!空母機動部隊は全滅です!」

 広池はポカンとしている。

 まだ秘書の報告が信じられない広池は画面を観た途端に卒倒した。その画面には海を割ってゴジラが出現し空母機龍は勿論空母機動部隊そのものを叩き潰す様子が映し出されているからだ。

「そ、総理!?しっかりして下さい!」

 同じ頃普天間基地近辺の地下施設内では広池が観て卒倒したのと同じ映像を観ながら口髭を生やした迷彩服姿の男が大笑いし、そのひたすら下品な笑い声が地下施設全域に響き渡る。最早歩く騒音公害と称しても差し支えないこの口髭男は楠木くすのきたけし一等陸佐である。

「グハハハハ!広池ご自慢の空母はもう沈没か!まるでタイタニック号だな!」

 この楠木は極端な軍国主義思想そして国粋主義思想の持ち主故、かねてより広池の軍拡政策を「生温い」とこき下ろしていた。

「楠木正成公の末裔である俺を蔑ろにしシン・菊水作戦などと抜かした挙句これか!ざまあみ、ゴホゴホッ!」

 楠木は笑い過ぎたのが祟り咳き込んでいる。

 太平洋戦争末期に沖縄に来攻する連合国軍に対し旧日本海軍は菊水作戦と称し特攻を強行した。この作戦名は戦前の国定教科書において皇室に殉じた忠臣と持ち上げられている楠木正成の旗印に由来し、楠木が自分を敵視していると秘書達から聞いていた広池はその楠木への当て擦りでシン・菊水作戦と称していたのだ。

 楠木が自分と同じく『ゴジラ×メカゴジラ』を気に入りかねてより海自をライバル視していたことも広池の耳に入っており、無理矢理な増税により庶民から巻き上げたお金を湯水の如く使い海自の空母を新造し「機龍」と命名したのも全て楠木への当て擦りである。

 そのような広池の私情により建造された空母機龍ではあるものの喜界島南東約150kmの海域を航行中に突如浮上したゴジラにより瞬く間に海の藻屑と化した。1965年12月5日、この海域にB43水爆を装着したA-4E攻撃機が水没し、ゴジラはその水爆から核エネルギーを摂取したばかりだったりする。

「広池の機龍は沈んだ。さぁ、俺の機龍のお披露目だ。」

 ほくそ笑む楠木の背後に佇む巨大な機体は『ゴジラ×メカゴジラ』本編に登場するメカゴジラ、即ち3式機龍そのもの。一体楠木はこの機体をどのように入手したのだろうか。

 楠木が密かに自衛隊内部に結成していた政治結社「皇国義勇軍」はアメリカ軍との繋がりが深く、楠木自身バグダッドに派遣された際部下達を率いアメリカ海兵隊と共にファルージャ地区を襲撃し10歳に満たない少女を含む多数の民間人をテロリストと決めつけ虐殺していた。軍中央の命令を無視し暴走した関東軍の再来と言っていい。

 その皇国義勇軍に対しペンタゴンがロズウェルに墜落した円盤の残骸の解析情報を秘密裏に全面開示したのは「イエローモンキー共には到底理解出来まい」という人種差別的偏見に基づく余裕からだ。

 ところが皇国義勇軍に1人天才がいた。名を金子かねこ真嗣しんじという。

 防衛装備庁に所属し防衛装備品の開発を担う金子はロズウェルに墜落した円盤の構造を瞬く間に理解し、楠木の要望通り機龍を設計してみせたのだ。最初は金子を「根暗野郎」呼ばわりしていた癖に彼の非凡な才能を知った途端に「流石この楠木の右腕」などと持ち上げ始めた楠木は無節操の極みだが。

 皇国義勇軍による機龍製造開発には富嶽ふがく重工じゅうこうが関与している。この富嶽重工は三丸重工への対抗意識が凄まじく、丁度皇国義勇軍が防衛省上層部に対抗意識を持つのと同じ構図だ。それ故暴力団との癒着により得た闇資金を機龍完成のため惜しげも無く注ぎ込んでいる。

 皇国義勇軍と富嶽重工による秘密裏の機龍製造開発はすぐに政府与党の知るところとなったものの、特に咎めは無かった。ゴジラを模した形状の巨大ロボット兵器など非現実的過ぎてすぐ頓挫するだろうから勝手にしろというのが当時の政府与党の姿勢である。

 当然ながら機龍製造開発を早くから察知していたペンタゴンではあるものの、それを咎めるどころか援助を惜しまず富嶽重工と防衛省の癒着を追及する野党議員を在日アメリカ軍のMPが国会閉会まで拉致する等隠蔽工作にも余念がない。

 何を隠そうホワイトハウス並びにペンタゴンは皇国義勇軍が機龍が完成させゴジラに深手を負わせるのを期待している。要するに皇国義勇軍をゴジラへの当て馬として利用する腹積もりだ。そしてペンタゴンの情報操作により日本政府は機龍製造開発が早々に頓挫したと思い込んでいる。

 今現在楠木がいる地下施設は在日アメリカ軍の管轄下にあり、機龍の製造開発もこの施設において秘密裏に進められた。

「金子よ、貴様の尊い犠牲により機龍が完成し間もなくゴジラも葬られる。」

 そのように呟く楠木の目線の先には金子の遺影がある。

 機龍の完成が近づくにつれ金子の才能を嫉妬するようになったばかりか、彼が自分に取って代わるつもりではないかと疑念を強めたあたり、楠木は本当に料簡が狭い。そしてペンタゴンもかねてより金子の非凡な才能を危険視し、頃合いを見て消すと秘密裏に決めていたのだ。

 機龍完成が間近に迫ったある日、楠木達がいる地下施設に在日アメリカ軍のMPが押し寄せ金子を連行した。中国に機密情報を売っていた容疑である。MPの凄惨な拷問により変わり果てた姿になった金子と対面しても涙一つ流さないばかりか、自分を脅かす忌々しいのが消えてくれたとほくそ笑む楠木には最早僅かな良心さえ無いのだろう。

 以上が機龍完成までの大まかな経緯である。それではこの巨大ロボット兵器がこの後どうなるか見ていこう。

「機龍完成により真のシン・菊水作戦が始まるぞ、グハハハハ!」

などと下品な声を上げ大笑いする楠木はもうゴジラを倒したつもりでいる。

「楠木一佐、真シン・菊水作戦って言いにくくありませんか?」

湊川みながわまもるニ等陸曹が発言した途端に楠木は眉間に皺を寄せ、その湊川の顔面に拳を叩き込んだ。

「馬鹿者!あくまで作戦名はシン・菊水作戦だ!俺が真の、と言ったのは広池のとは違うという意味だ!」

 楠木に顔面をぶん殴られた湊川は目を回したまま失神し、所謂「星💫💫💫を見ている」状態である。

「軟弱者が!軽部かるべの方がまだマシだったぞ!」

 その軽部孝士たかし一等陸士は楠木の暴行及び湊川の嘲笑に耐えきれず多量の睡眠導入剤を服用し自ら命を絶っていたりする。

乃木のぎ!湊川に水ぶっかけろ!叩き起こすんだ!」

 楠木の命令通り乃木まさる一等陸曹は伸びている湊川にバケツに入れた多量の水を浴びせた。ちなみに今は真冬だが。

「へっくしょん!あ、楠木一佐、おはようございます。」

「出動だ湊川!早く身体を起こせ!」

 意識が戻った直後故身体がよろける湊川に対し楠木は「気合が足りん!」と怒鳴り精神注入棒の一撃をお見舞いし、その様子を眺めながらニヤついている乃木が湊川同様楠木に痛めつけられる軽部を嘲笑していた卑劣漢なのは想像に難くない。

 湊川、乃木そして楠木が機龍に搭乗すると、格納庫の天井が開いた。

「機龍発進!」

 背部及び脚部のロケットブースターを吹かしながら垂直に飛行し始めた機龍、その機内では陸上自衛官が3人前線に赴く高揚感に酔っている。果たしてどうなることやら。

 ところで『ゴジラ×メカゴジラ』本編の3式機龍がバッテリー稼働式故長距離移動出来る推進力が無く現地までAC-3しらさぎなる支援戦闘機に吊り下げられ運搬されるのに対し、楠木らが搭乗している機龍は原子炉を動力とし40000km即ち地球を一周する距離の飛行も可能である。要するにこの機龍は原子力潜水艦や原子力空母同様原子力の兵器利用に他ならず、日本がこれを保有するのは原子力の軍事利用を禁ずる原子力基本法に背く。

 同じ頃沖縄本島最北端にゴジラが上陸した。この一帯にはアメリカ海兵隊の訓練場、キャンプ・ゴンサルベスがある。

「くたばれ化物!」

「俺達の領域に踏み込んで生きて帰れると思うな!」

などと威勢のいい海兵隊員共とはいえゴジラには全く相手にされていない。

 意識を取り戻したばかりの広池はキャンプ・ゴンサルベスにゴジラがいると知り再び卒倒しそうになった。広池自慢の空母機動部隊は既にゴジラに叩き潰され、日米同盟堅持のためアメリカ海兵隊を救出しようにもそのゴジラが相手では自衛隊は何も出来ないからだ。

 すると普天間方面から飛行してきたゴジラ状の巨大ロボット兵器がゴジラと対面する位置に着地した。機龍である。

 広池は画面の中の機龍を指さしながら驚愕の表情を浮かべている。

「あ、あり得ない!あの機体は製造開発が頓挫し破棄された筈!」

「総理!楠木一佐から通信です!」

「今それどころじゃない!後で話すと言え!」

「それが、あの機体に搭乗しているそうでして。」

「何だと!?分かった、回線を繋ぎなさい。」

 オペレーターが機器を操作すると広池の目の前の画面に楠木の顔が映し出された。

「これはこれは広池総理、ご自慢の空母機龍が沈没したようですな。ですがこの楠木の機龍が今からゴジラを葬ります。」

 画面の中の楠木は顔がニヤついている。

「楠木君!君は今自分が何をしてるかわかっているのか!これは暴挙だ!文民統制の原則を踏みにじり総理である私を蔑ろにした暴挙だぞ!」

 途端に楠木は激高した。

「暴挙だと!この国をゴジラの脅威から救うべく立ち上がった俺様に対し何たる言い草!やはり貴様は総理の器ではない!広池よく聞け!ゴジラを葬った暁には貴様を総理の座から引きずり降ろしこの楠木が総理となる!そしてこの国は再び世界に向け輝くのだ!グハハハハ!」

 広池の言う通り独断で機龍を出動させた楠木のやり方は文民統制の原則を踏みにじる暴挙である。更に公然とクーデター宣言をした楠木は完全な危険人物だ。普段国会を無視している癖に良識派ぶり楠木の暴挙を責める広池もはっきり言って卑怯だが。

 この時ゴジラは何故か機龍を睨みつけたまま動かない。現在アメリカ軍の軍用観測気球が沖縄本島周辺をいくつか飛び、中にはゴジラを撮影しているものも。アメリカ軍は中国の気球には過剰反応する癖に自分達は軍用観測気球を複数飛ばすのだから世話がない。

 本性を現した楠木を画面越しに睨む広池に秘書が恐る恐る話しかけた。

「そ、総理、お電話が入っております。」

 後にしろと秘書に言う広池ではあるものの、電話の相手が誰かを知った途端に自ら受話器を手に取っている。

「へ、陛下、いかがなさいましたか?」

 そう、広池に電話をかけたのは清仁きよひと即ち今上天皇だったのだ。

「広池よ、今から楠木を総理とする。」

「へ、陛下、こんな時にご冗談を!」

「朕は冗談など言わぬ。朝敵ゴジラに率先して立ち向かう楠木こそ我が国の総理に相応しい。広池そなたはクビだ。」

 独断で広池にクビを宣告、清仁の行いは内閣の助言と承認を必要とする天皇の国事行為の範疇を逸脱し完全な憲法違反だ。2023年現在沖縄にアメリカ軍基地があるのも1947年9月に当時の天皇が内閣を無視しアメリカ政府高官にアメリカ軍駐留継続を直訴した結果であり、天皇というのはいざとなれば平気で法令を破る。

 広池は閣議決定だけで空母機龍を出動させる等法令を無視した暴挙を繰り返してきた。その広池が法令を無視した清仁の暴挙により失脚というのも皮肉な話だ。法令を無視する広池の暴挙が楠木そして清仁の暴挙の呼び水になっているのは自明だが。

 突然広池が「ギャハハハ!」と大笑いし、服は勿論下着も全て脱ぎ捨て「シン・カズオ200%」と称し裸踊りを始めた。どうやら清仁にクビを宣告され頭の中の何かが壊れたようだ。そんな広池の醜態を画面越しに観た楠木は自分の膝を抓り懸命に笑いを堪えている。

 軽く咳払いをした楠木が画面の向こうの秘書達に広池をつまみ出すよう命じると、早速ガードマン達がやってきて先程まで総理だった男を素っ裸のまま官邸の外に放り出した。広池は全裸だけに真冬の東京はさぞかし寒いだろう。

「陛下、邪魔者はもういません。」

「左様か。楠木よ、そなたを総理に任じた朕に感謝しているなら一刻も早く朝敵ゴジラを討て。」

「畏まりました!乃木!湊川!恐れ多くもこの楠木は天皇陛下から直々に総理の地位を賜った!さあゴジラを滅ぼすぞ!シン・菊水作戦開始だ!」

 楠木の号令を皮切りに機龍は口に相当する箇所を開き光線状の電撃をゴジラに向け発射し、両腕部に装備された二連装型レールガンや背部に搭載されたブースターから発射されたロケットランチャー並びに誘導ミサイルもゴジラを襲う。それでも動こうとしないゴジラは何一つ負傷していないため機龍への反撃など不要と考えているのだろうか。

 ここで湊川並びに乃木の悪い癖が出た。動かないゴジラを愚弄し始めたのである。

「楠木一佐、あのゴジラは軽部と同じ腰抜けですよ。」

「さっき伸びていた湊川同様間抜け面してますわ。」

 突然銃声が鳴り響き、機龍の機内に脳味噌󠄀が弾け飛ぶ。

 我に返った湊川はヘラヘラした顔のまま息絶えている乃木を目にして自分のやったことに気付き、その湊川が右手に持つ9mm拳銃は銃口から一筋の煙が。

「湊川、どう落とし前をつける気だ?」

 湊川はその場で自分の頭を撃ち抜き、再び機龍の機内に人間の脳味噌が飛び散った。

 乃木に続いて湊川が死亡し、現在機龍を操縦しているのは楠木1人。機龍の構造上1人では機体を動かせず、その場に留まったまま搭載兵器を使うしかない。

「湊川め!あれほど汗をかけと言ったのに大恥をかきおって!」

 この楠木は部下をしごく際よく「汗をかけ」と言う。

 部下の仲間割れによりまだゴジラが何もしていないにも拘わらず窮地に立たされ、楠木はかなり苛立っている。

「こうなったら最終兵器を使うまでだ!」

 機龍の最終兵器、アブソリュート・ゼロは絶対零度の光弾を発射し標的を分子レベルで崩壊させる凶悪極まりない兵器だ。

 楠木がゴジラに照準を定めアブソリュート・ゼロを撃とうとした途端に今まで動きを見せなかったゴジラが突然咆哮した。

「今更吠えても遅い!ゴジラ貴様は俺の機龍のアブソリュート・ゼロにより分子レベルで崩壊するのだ!くたばれ!」

 その時である。

 突然機龍が操縦不能になり、楠木の目の前のモニター画面に以下の文字が大きく表示された。

KUTABAREくたばれ KUSUNOKIくすのき!」

 楠木は憤激しモニター画面に精神注入棒を突き刺したものの、依然として機龍は操縦不能のままだ。

 何を隠そうこの機龍の素体には鹿島沖で発見されたゴジラの同族、ダゴンの骨が使われていてゴジラの咆哮に反応しその骨が機龍の制御を奪っていたのである。白骨になってから数億年経ってもダゴンは自我を維持していたのだから驚きだ。まさしく生命の神秘である。

 ここまで書けばゴジラが沖縄本島に上陸したのは普天間近辺の地下に格納されていた機龍に同族ダゴンの骨が使われているのを察知し奪還するために来たのは自明であろう。ゴジラが機龍への攻撃を躊躇っていたのは機体内部のダゴンの骨を傷つけたくなかったからだ。

 ダゴンはたとえ自我を保っていても骨だけの状態では動けない。そのことに気付いたゴジラは自身の咆哮にダゴンが共鳴し機龍の制御を奪うのを手助けしたのである。

「畜生!後はアブソリュート・ゼロを撃つだけでゴジラを倒せるのに!」

などと怒鳴り散らす楠木の要望通り、ダゴンの制御により機龍はアブソリュート・ゼロを発射した。ただし発射口を閉じたまま。

 アブソリュート・ゼロの暴発により機龍の機体全体を絶対零度の光弾が覆い、機内の楠木も全身が凍結している。

 再びゴジラが咆哮したのは文明人に兵器として利用されるぐらいなら消え去りたいというダゴンの切実な要望通り、凍結した機龍の機体共々同族ダゴンの骨を分子レベルで崩壊させるためだ。既に絶命している楠木も機龍の崩壊に巻き込まれ全身が分子レベルで崩壊した。

 ゾウは同族愛が極めて強く、インド等では野生のゾウが仲間を傷付けたり殺したりした人間を復讐のため襲撃する事例が複数ある。後脚の形状がゾウに酷似しているこのゴジラもゾウ同様強い同族愛を持つが故にその同族ダゴンを兵器利用する文明人に対し激しく怒っている。手始めに破れかぶれで総攻撃してきたアメリカ海兵隊並びに皇国義勇軍残党を殲滅した。ゴジラの全身が灼熱化しているのは機龍の機体という牢獄から解放されたダゴンの魂と融合し最強形態と化したからだ。



 数日後、突如東京湾に姿を現したゴジラが竹芝桟橋に上陸し、総理に返り咲いたばかりの広池は「またゴジラか!」と怒鳴り、苛立ち、そして焦りを隠せない。楠木の暴走に便乗し広池にクビを宣告しておきながらその楠木が死亡した途端にクビ宣告を無かったことにするあたり、清仁は余りにも節操が無さ過ぎる。

 自衛隊並びに在日アメリカ軍の集中砲火をものともしないゴジラは再び全身を灼熱化させ2000℃以上の熱波を四方へと放射した。この熱波により日米両軍は瞬く間に壊滅した上都心全域が黒焦げの更地と化し、国会議事堂、総理官邸等日本の中枢を担う施設は皆消し飛んだ。更地と化したのは皇居も例外ではなく清仁は勿論皇族全員が熱波の餌食になっている。一方改憲の妨げになるからと自衛官共に銃口を向けられ都心から強制退去させられた反体制派議員達は皆無事だ。ゴジラ打倒を口実に総理に返り咲いた途端に改憲を打ち出した広池は目障りな議員達を排除するため治安出動を発令したものの、期せずしてその目障りな議員達を安全圏に避難させるため一肌脱ぐ格好に。

 今回ゴジラが東京に襲来したのは沖縄本島において機龍と対峙した際機龍によるゴジラ打倒を切望する清仁の邪念を察知し、その邪念の根源を徹底的に殲滅する必要があると考えたからだ。皇居の敷地内に生息する動物達は皇族共のペット共々ゴジラが襲来する前の日には既に姿を消しており、本能的に危険を察知した模様。

 ゴジラが皇族共を全滅させた上首都機能を完全に破壊し一極集中国家日本を滅亡に追い込むのに費やした時間は竹芝桟橋に上陸後僅か5分足らず、このように記述すれば怒りが臨界に達したゴジラの破壊力の凄まじさが十分過ぎる程に分かる。ゴジラの同族の骨を兵器利用する楠木らの暴挙を清仁が追認した時点で日本政府の滅亡は不可避だったと言えよう。期せずして日本国最後の総理となった広池は熱波を浴び全身が消し飛ぶ直前に日本政府の滅亡を悟りまたもや全裸になったとか。

 ゴジラが皇族を全滅させ日本政府を滅ぼしたのは奇しくも2023年の2月11日、そう建国記念の日とされる日だ。以来この日はゴジラの日とされ、ゴジラの怒りを買い滅ぼされた日本と同じ愚行を繰り返さないと世界中の人々が誓うようになった。(終)