芹沢亀吉
2023-08-13 14:49:42
1353文字
Public 怪奇
 

投石

暴虐なナルシストかつ軍国主義者な楠木武が恥をかく物語の通算107話目。

 最近大阪府和泉市の信太山駐屯地付近において夜な夜な口髭を生やした全裸男が徘徊し、道行く人に石を投げつけるという通り魔のような都市伝説が広まりつつある。実際その全裸男に石をぶつけられたと被害を訴える者が何人もいるとはいえ和泉警察署は取り合わない。

 8月のある日の夜、和泉市在住の芹沢亀吉せりざわかめきちが夕食後の散歩のため外を歩いていると、例の全裸男即ち信太山駐屯地に所属し日頃から部下への理不尽な暴行を絶やさない楠木武くすのきたけし一等陸佐に遭遇した。

「貴様芹沢亀吉ではないか!ネット上で自衛隊はおろか恐れ多くも天皇陛下まで批判する反日非国民め!ここで会ったが100年目だ!この楠木は楠木正成公の末裔、そしてダビデ王の生まれ変わりとして夜な夜な駐屯地周辺を巡り貴様のような反日共に裁きを加えている!」

 所謂「日ユ同祖論」を真に受けている楠木は自分をダビデ王の生まれ変わりと信じ、夜な夜なミケランジェロのダビデ像と全く同じ格好、即ち全裸で信太山駐屯地周辺を徘徊し「裁き」と称し道行く人に石をぶつけていたのだ。聖書に造詣が深い方なら楠木が投石器により巨人ゴリアテを倒す少年ダビデという旧約聖書の一節を真似ているのはもうお判りと思われる。いずれにせよ楠木がやっているのは単なる露出魔、そして通り魔だが。

「嬉しいぞ、やっと薄汚い反日非国民である貴様の眉間に我が石を叩き込む日が来たのだからな。おっと芹沢、通報しても無駄だ!サツはこの楠木の味方だからな!グハハハハ!」

 ここまで読まれた方なら大阪府警が現役自衛官である楠木の犯罪行為を表沙汰にしたくない日本政府の意向を忖度し楠木の通り魔行為を隠蔽し続けてきたのはもうお気付きであろう。それにしても楠木の笑い声はいつ聞いても下品過ぎる。

 すると楠木の目の前にミケランジェロのダビデ像の霊が現れた。

「遠い東の国に私を騙り人々に石を投げつける無礼者がいると聞いてな。なるほど貴様か。それにしてもなんだその弛んだ身体は?そんな身体で私を騙るなど無礼とは思わんのか?」

「この楠木を愚弄するとは無礼千万!芹沢亀吉をやる前にまずは貴様を成敗する!」

 逆上しダビデ像の霊めがけて石を投げつけた楠木ではあるものの、霊体に石が当たる筈も無くそのまますり抜け闇夜へと消えていく。

「ど、どこだ!?俺の石をどこにやった!?」

「遠い東の国のゴリアテよ、そんなに石を返して欲しいなら今すぐ返してやろう。」

 ダビデ像の霊がそう言うと先程楠木が投げた石が闇夜から飛び出し楠木の眉間を砕いた。この楠木の最期は旧約聖書に記されているゴリアテの末路によく似ている。違いがあるとすればゴリアテが少年ダビデの投げた石により倒されたのに対し、楠木は自ら投げた石により絶命した点ぐらいか。

「さてゴリアテを片付けたから私はフィレンツェのアカデミア美術館へと帰らせて貰う。このゴリアテの悪事に関しては私の方で世間に公表しておくよ。」

 そう言い残してダビデ像の霊は姿を消し、芹沢はポカンとした表情である。後日全裸姿の楠木が民間人に石を投げつける様子を映した動画がインターネット上に出回り、楠木の犯罪行為を隠蔽し続けた大阪府警に非難が殺到しましたとさ。(終)