芹沢亀吉
2023-08-04 00:07:41
3058文字
Public 菊タブー
 

予言

2022年12月6日にTwitterに投稿した暴虐な軍国主義者、楠木武が恥をかく物語の通算75話目を一部記述を改めPrivatter+にも投稿してみた。

 かの聖徳太子には自身が見た未来即ち予言を『未来記』なる書物に書き記したという伝承がある。この書物が実在したか否かは現在においても謎に包まれているものの、平安時代の中頃から鎌倉時代、丁度聖徳太子信仰が広まった時期に探し求める人が後を絶たなかったという。

 鎌倉幕府の滅亡から南北朝時代の動乱について記された『太平記』には四天王寺(※現在の大阪市天王寺区にある聖徳太子ゆかりの寺院)を訪れ『未来記』を読んだ人物について記されている。その人物とは後醍醐天皇の忠臣として名高い楠木正成である。

「人王九十五代に当たって、天下一たび乱れて主安からず。この時東魚来たりて四海を呑む。日、西天に没すること三百七十余箇日、西鳥来たりて東魚を食す。」

 『未来記』のこの記述を正成は「西国の者が東国政権を倒す」と解釈し鎌倉幕府の崩壊を確信したという。

「正成がこの書を読んだとされるのが西暦でいうところの1332年、翌年鎌倉幕府が滅びます。もっとも鎌倉幕府を滅ぼした新田義貞は東国武将で『未来記』の「西鳥来たりて東魚を食す」の記述にはそぐわないです。」

 芹沢亀吉せりざわかめきちの解説を聞きアラン・ジョナはなるほどと頷いた。

「ノストラダムスの大予言にも同じことが言えるが結局後世の人達が抽象的かつ観念的な文体に無駄な意味付けをしているだけだよ。まあ芹沢君もその辺りは承知しているだろうが。」

「楠木正成自体後世の脚色が多く、聖徳太子の予言を信じた逸話も眉唾物です。」

「楠木正成がどのような人物だったのかを正確に知るのは困難だろう。だがその楠木正成の末裔であるコイツは間違いなく腐れ外道だ。」

 そう言ってジョナが睨みつけた楠木武くすのきたけし一等陸佐は既に息絶えている。そしてジョナと芹沢の目の前には沖縄の守護神、キングシーサーが佇む。

 芹沢が手にしている一冊の書物は生前の楠木が予言の書と称していて代々楠木家に伝わっていたという。

「こんな胡散臭い書物の内容を真に受けて沖縄に自衛官を集めて決起、楠木武の暴挙でどれだけ犠牲者が出たのでしょうか。」

 芹沢の両目に強い怒りが宿る。

 『楠木黙須之霊言集くすのきだますのれいげんしゅう』、名前からして胡散臭いこの書物は楠木正成が聖徳太子の『未来記』を書き写し楠木家に代々伝わってきた、らしい。

「琉球戻りて半世紀、大楠公が末裔再び皇軍の威光を取り戻す。」

 『楠木黙須之霊言集』のこの記述を楠木は1972年の沖縄日本復帰から丁度50年目に大楠公、即ち楠木正成の末裔である自分が決起し沖縄を制圧すると解釈し、自衛官達を集め本当に決起したのだ。

 三島由紀夫を熱烈に崇拝する楠木はその三島が結成し彼の自決と共に消滅した政治結社「楯の会」を密かに復活させ、自衛官の大多数を会員にしていた。全てはこのインチキ臭い予言通り沖縄で決起するためだ。

 折しも広池一雄ひろいけかずお総理ら政府与党の面々は軍拡を策動し楠木の決起を歓迎していた。なし崩し的に改憲を進めるきっかけになると考えたからだ。また楠木は在日アメリカ軍と取引しアメリカ軍の海外派兵への協力を進める代わりに決起への支持を取り付けていた。

 国際的な反政府活動を行っているジョナは内通者からの情報により楠木の決起を知り地元案内人の芹沢を伴い沖縄に来ていて、楠木の号令により決起し沖縄の人達に危害を加える自衛隊の非道さを見かねて地元民と協力し守護神キングシーサーの封印を解いたのである。

 目覚めたキングシーサーはあっという間に自衛隊は勿論在日アメリカ軍も片付けた。部下達を見捨て逃亡を企てた楠木がキングシーサーが蹴飛ばしたオスプレイのブレードにより胴体を切断された今、『楠木黙須之霊言集』に記されていた怪しげな予言は完全に外れたと断じて構わない。

 仰向け状態の楠木は両目を見開いたままピクリとも動かず、胴体の切断面からどす黒い血肉が溢れ出る。そんな楠木を容赦なく踏み潰したキングシーサーはジョナと芹沢には全く危害を加えず元々眠っていた洞窟へと帰っていった。

「こちら藤崎志保ふじさきしほ、たった今東京が陥落しました。」

 無線によりジョナにそう伝えたのは現在ジョナと共に反政府活動を行っている元陸上自衛官の藤崎だ。楠木の号令により自衛隊の大多数が沖縄に集結した隙を突き、在日外国人を中心とする人達が決起し東京を陥落させたのである。

 驚くべきことに機動隊員や楠木の号令に応じなかった自衛官の中には決起に参加した者が少なくない。ジョナ達があらかじめ内通者を作っていたのが功を奏したと言えよう。

「芹沢君、この国は滅んだ。これから新しい国が出来るのだろうがどのような国になるか見せて貰うよ。」

「在日外国人達を蔑ろにし続けてきた日本政府がその在日外国人達により打倒、結局日本政府の連中は新田氏を蔑ろにし続けた鎌倉幕府が新田義貞に打倒された歴史から何も学ばなかったわけですよ。」

 そう言った芹沢は『楠木黙須之霊言集』を焚き火の中に放り込んだ。

 その頃東京では皇居が在日外国人を主体とした群衆に占拠され、在日外国人を含む一般庶民から巻き上げた税金を私物化し贅沢三昧していた皇族達は全員日比谷公園内に吊るされカラスがその目玉をつつく。

 靖国神社や明治神宮の境内では最近まで在日外国人排斥を訴えていた腐れ外道共が遺体になり転がっている。皇族全員が日比谷公園内で吊るされているのをネット上に拡散すれば排外主義者の大多数が勝手に自決するという藤崎の読みが見事的中したのだ。

 改憲に繋げるため楠木の暴挙を後押しした広池総理は皇族全員が日比谷公園内に吊るされたと知った途端に自ら舌を噛み切り命を絶った。主君に殉じる武士道精神とやらは結局自分の命を粗末にする愚考に過ぎないことを広池も排外主義者達も全くわかっていない。

 大手町を歩いている藤崎の目の前に矢口蘭堂やぐちらんどうが現れた。この内閣官房副長官は髪の毛も服も乱れよく見ると喉にガラス片が刺さっている。そんな矢口の背後に寝転がっている赤坂秀樹あかさかひでき首相補佐官は両目を見開いたまま息絶えていて、どうやらこの2人は皇族全滅を知った途端に自暴自棄になり殺し合ったようだ。

 喉にガラス片が刺さっている矢口は声が出ず口をパクパクさせながら藤崎に何か言おうとしている。

「苦しいか?今楽にしてやる。」

 そう言った藤崎は矢口の眉間に銃弾を撃ち込んだ。仰向けに倒れ込んだ矢口は赤坂同様両目を見開いたまま絶命し、付近には矢口の脳が飛び散っている。

 藤崎は知っている、矢口が平然と約束を破る腐れ外道であることを。仮にこの矢口がアメリカ大統領特使からホワイトハウスの機密情報を預かったなら、約束を破って世界中にばら撒いた上悪びれもせず「約束は破ったが後悔は無い」と言うだろう。

 途端に藤崎が目を見張ったのは矢口の遺体から白い靄のようなものが飛び出し巨大な炎に飲み込まれる光景が一瞬だけ見えたからだ。実を言うとジョナと芹沢も楠木の遺体で同じ現象を確認していてどうやら矢口も楠木も魂を火車かしゃに喰い滅ぼされたようだ。

 皇居を占拠した群衆が『インターナショナル』を歌う。性別も肌の色も違う人達が集まりようやく成し遂げられた市民革命、さて最近まで日本国だったこの列島はこれからどのような歴史を歩むのだろうか。(終)