スサ
2024-08-28 23:06:28
2955文字
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【鬼水】転生した水木少年を見守って振り回される話(冒頭)

転生なのでお亡くなりになるところから始まります。その後転生した養父を見付けてひそかにストーカーもとい見守り続けていたら、元養父の方からアプローチをかけてくる…みたいなのが見たくてそこだけ書きました。ちょっと考えてたのと変わっちゃったけど。


 あの人の笑った顔が好きだった。あの人の笑顔は何通りもあって、腹の底から大声を出して笑うのも、目を細めて優しく微笑むのも、どうしても抑えきれないと零れるように笑うのも、たしなめるように苦笑するのさえ大好きだった。
 年をとって皺が増えても、目がよく見えなくなっても、変わらず分厚い手で頭を撫でて、鬼太郎、昔から変わらない愛情の詰まった声で呼んでくれるのも、大好きだった。
 ──晩秋の空に白く煙がのぼっていくのをどんな気持ちで見ていたかはよく思い出せない。泣いて引き留めたら、何だかんだであの人は自分には甘かったから、彼岸にいくのをやめて戻ってきてくれやしないかと思ったから、ぐっとこらえて空を見上げていた。

 その子どもを見た時、すぐに「彼」だとわかった。鬼太郎が間違うはずがない。
 生まれ変わった彼は両親らしき男女にそれぞれ手を引っ張り上げられて明るい笑い声を上げていた。遠くから見て、まばたきひとつ出来ずじっと見送って。涙が出た。とめどなく、池を作ってしまいそうなほど。
 その時の気持ちを言葉にすることはとてもできない。一番には嬉しかったと思うけれど、今生ではきっと交わることのないのだろうと悲しくもあった。鬼太郎と呼んで笑いかけてほしかった。抱きしめて、頭を撫でて、いくつになっても甘えん坊だなと言ってほしかった。
 けれどそれは望んではいけないことだとわかっていた。
 近づかなければいいはずだ。
 父に叱られるだろうと思いながら、それでも彼をただ見ていたくて遠くから、時には烏や小さな動物、虫の目を通じて彼を──生まれ変わった水木を見守ることにした。
 少しずつ成長して、体に対して大きすぎるようなランドセルを背負って元気に走る姿に目を細めた。水木さん、僕にもランドセル用意してくれたな、と思うとせつなさもこみ上げたが、キラキラした目で、小さな体いっぱいで命を輝かせている少年の姿を見る喜びに全て上書きされていく。
 結局目玉の父にもばれたけれど、一緒に見守るようになるまで時は要さなかった。ふたりで活発すぎる少年の毎日を見守るのは楽しみだった。変化の乏しい妖怪の日々に、躍動と新鮮な風を吹き込むようだった。
 ──しかし、やはり水木というべきなのか、それとも幽霊族親子の微かな干渉が良くなかったのか、はたまたそういう血筋に生まれたか。水木にはどうも、人ならざるものが見える時があるようだった。見えないまで行かなくても強い妖気に敏感なのか、前世同様鼻血を出す姿が見られることが増えた。
「七つまでは神のうち。呼ばれやすいという時に言うもんじゃが、八つになって逆に引き寄せられるようになったかのか
 むむむ、と小さな体で腕組みするおやじを前に、鬼太郎は気が気でなかった。
「よくわかりませんが、それは危ないということですか」
 そういうことじゃの、とおやじが重々しく頷けば、息子は眉をひそめ考え込む。
「とりあえず烏を見張りにつけるようにします。あとはどうにか何か守りになるようなものを身に着けてもらえるといいんですが」
 真剣な調子の息子は今にも生まれ変わった水木の元に飛び出していきそうだった。おやじは「落ち着け、鬼太郎や」とまずは留める。
「しかし、父さん」
「わしらの影が見えすぎるのもそれはそれで危険にさらすかもしれんじゃろ」
………、それは、そうですが、でも」
「鬼太郎」
「でも父さん、父さんも見てますよね、妖怪絡みがなくたって今の水木のお転婆で危なっかしいことといったら!」
 頭を抱えてしまった鬼太郎に、おやじは心境的には一瞬ぽかんとした。
「昨日ジャングルジムの一番上から飛び降りようとしていたのには肝が冷えましたよ! ほんとに何なんだ子どもって
うむ、まあ、そうじゃの
 なんと言えばいいのかわからない。息子相手にここまで困惑したことはなかったので、おやじも言葉に詰まってしまった。
「鬼太郎は、おとなしかったものなあ
「それはあの人がどこに行くにも抱っこするもんだから
 歩けるようになったら歩いていたが、水木はあれで鬼太郎を甘やかすのが趣味のようなところがあったし、鬼太郎の成長がゆっくりで体が小さかったこともあり、気がつくと抱きかかえられていることも多かった。抱き癖がつくよと水木の母がたしなめても、どうせ今のうちだけさと笑ってとりあわず
 しんみりした気持ちを、鬼太郎は軽く頭をふって追いやった。とにかく、水木の身の安全を守るのが最優先だった。
 その時、鬼太郎も目玉のおやじも気づいていなかったのだ。水木が幽霊族親子の気配に気づき始めていることなど。

 少年は物心つく頃から、おぼろげに「何か」が見えていた。最初は人と見分けがつかなかったのだけれど、段々わかるようになってきた。単純に両親や近所の人達とあまりにかけ離れた見かけをしていたからだ。
 そして、知らないはずなのに、本能的に、そういうものとは距離を開けなければいけないと理解していた。
 ただ、もう少し大きくなると自分をただ見守っている視線に気づくようになった。「そいつ」は慎重で、けして少年に尻尾をつかませることがない。気配は感じられても、近くの見えるところにはけして出てこない。ただ、害意は一切感じなかった。だから「見守られている」と感じる。しかし、ただ見守られているだけというのも、なんだか落ち着かないものだ。
 少年は考えた。
 自分を見守っている何者かは、自分に危ないことがあると最近ジャングルジムの上からジャンプしようとしたら、危ないよ、と耳元で誰かの声がしたギリギリの干渉をしてくる。ということは、つまり、自分が危険な目に遭えば「そいつ」は出てくる可能性が高い。
 そこまでして「そいつ」を引っ張り出したい、会いたいと思うのがどうしてなのか、少年には自分のことなのにさっぱりわからなかった。ただ、わからないけれど、どうしてもその誰かに会いたいくてたまらないと思っていた。
……でもだからってこうなっていいと思ってたわけではないけど
 はは、と少年は口元を引きつらせた。前には谷底の見えない切り立った崖。後ろには野犬の群れ。自分の腕の中には、ふわふわした丸い子犬。山の中で迷子になったという同級生の家の子犬を探しにやってきたら、なんとそこには野犬の群れがいた。鋭い目つきは飼い犬のそれとは全く異なり、もはや別の生き物のようである。
 少年はじりじりと崖の際に追い詰められた。万事休す。
 ぐ、と奥歯を噛みしめ、ぎゅっと目をつぶり、そして、少年は崖を蹴った。「出てこいよ!」と、絞り出した声はひゅうとか細く喉を鳴らした。

……何してるんだ!」
 果たして少年は崖の下に転げ落ちることはなく、誰かの腕に抱き留められていた。そんなに年格好が違うようにも思えない(腕の太さなどからして)けれど、なんだか、うんと年上の人に抱きしめられているような、そんな不思議な感じがした。そして恐る恐る目を開けて、自分を横抱きにしているのが、小学校高学年か中学生くらいの少年だというのがわかった。少年の瞳の片方は、長い前髪に隠れていた。