ユウキ
2024-08-28 02:36:46
10644文字
Public ストグラ二次創作
 

とある夏の、花火大会の夜

姫の楽しかった日常の一場面のリクエストより、花火大会。


※これは二次創作作品です。閲覧には注意を要します。
※注意書きをよく読んでからお楽しみください。


姫の幸せだったころの日常が書きたいとリクエストを募ったところ
素敵なお題を頂いたので書いてみた。


※注意※
・二次創作です
・姫の設定は、一観測者の勝手な推測&妄想でできています
・登場する人物も勝手な創作です
・なにひとつ公式ではないことをしっかりとご理解頂いてからお読みください。
・ほんのり、ブロマンスかもしれない。







―――――――――――――――――――――――――

とある夏の、花火大会の夜



 白いタープテントのずらりと立ち並ぶ、その一番奥の奥。
 大きく厳つい毛筆体で書かれた「天鳥協会」のテントの下は、「差し入れ」と称された大量の酒瓶で埋め尽くされていた。
 三台連結の広いスペースには、手前に受付用のテーブル。
 その後ろには、「これから酒を飲みます」と言わんばかりにセッティングされた、座敷が広がっている。
 テーブルにはこれでもかと用意されたつまみ。既に空になった瓶が床にまで転がり、それと一緒に出来上がった体の男たちが数名だべっている。
 混沌を極めた宴会スペースの、さらにその奥。
 一角だけ、綺麗に整えられた空間があった。
 まるで線を引くように周りの乱雑さから離れた、異空間。
 床シートの上に敷かれた和織の敷物。仕立ての良い座布団。
 お膳に乗せられた切子のグラス。
 この仮設のテントの中でも、そこに座る人間に敬意を払うよう整えられているのが分かる、一番隅の特等席だ。
 そこには今、三人の人影があった。
 商店街を纏める長の老夫婦と、我らが「姫」の姿だ。
 この古き良き街並みを残す街を、裏から支える「天鳥組」。
 いわゆる極道だが、古くから街の荒事を引き受けて来た意味もあり、街の住民達からは暗黙の了解で慕われている。
 天鳥カグヤ。通称「姫」が、天鳥組の頭となりこの地を裏で支えるようになってから数年。組として祭りごとを裏側から助力する機会も増えた。
 イツキは三人が談笑する様子を、遠巻きに見守る。
 この街の半グレだったイツキは、姫に拾われその門を叩き、今では天鳥組の一員として立派に姫の補佐を務めるまでになっている。
 「姫」はすごい。
 先代が手を出し渋った事業にも果敢に挑み成果をあげ、親組織である「天照会」からも、目を掛けられるまでになってきている。
 姫はとんでもなく頭が切れて、その上強く、恐ろしい。
 そして何というかとても「キレイな人」だと、イツキは思う。
 手入れなど特にしてなさそうなのに艶々の長い黒髪。
 先代の姉御によく似た、整った女顔。長い睫毛。
 黙って澄ましてさえいれば、昔話のお姫様のようにすら見える美形だ。
 細身のアンダーリムの眼鏡までかけてインテリっぽいのに、その実バリバリの武闘派。
 あんなに細身なのに馬鹿力で、その力はどこから出ているのか毎度疑問に思うほど腕っぷしが強い。
 イツキは半グレの時、このキレイな姫に散々しばかれ叩きのめされて以降、姫に惚れ込んでこの組にいる。
 今、その補佐を任されていることが、とても光栄だ。
 イツキはビールのグラスを片手に宴の場から姫を見る。
 今挨拶に来ているのは、商店街の会長の老夫婦だ。
 これで何組目だろうか。
 花火大会の関係者が、代わる代わる姫の所に挨拶をしに来ていた。
 今日の花火大会にも、我ら「天鳥組」は巨額の出資をしている。
 そう大きくはない街だが、この出資のおかげか協賛企業も増え、年々集客も上がっている。街の発展にもつながるしとてもいいことだ、とイツキは思う。
 動く金が大きい分関係者も増え、こちらがソレと知っていても助力を感謝する人々は後を絶えない。
 表向き「天鳥協会」として出資しているので、普段礼を言えない街の人々がここぞとばかりに「姫」に礼を言いに来るのだ。
 姫はその挨拶を全て笑顔で迎えて、その都度酒だのなんだのを受け取るものだから、テントの下が酒瓶だらけになる。
 そのご相伴に与れるのだから、イツキたちもいい身分ではあると思う。


 老夫婦が帰り、ようやく来客も落ち着いたようだ。
 姫は大きく伸びをすると、急に後ろにバタリと倒れる。
 長い黒髪がバサッと上等な敷物の上に広がった。
「あー、ベビーカステラ食べたぁい……
 心底疲れたような声を発する姫。
 大勢の人に次々会って、気疲れしたのだろう。
「買ってきます」
 すかさずイツキは立ち上がった。
「ああ、ええよ。自分で行くわ。座ってんのもちょっと飽きたわ、さすがに」
 姫はそう言って寝転んだまま伸びをすると、ムクッと起き上がった。
 イツキは姫の下駄を揃えて置く。
「ん、ありがとな」
 姫はニコッと笑って下駄をつっかけると、タープテントの列を喧騒の方に向かって歩き出す。
 イツキはテントの中で酒盛りをしている男たちを見た。
 はしゃいでいたアオイと目が合う。
 無言で目配せすると、アオイもすぐ立ち上がり靴を履いた。
 アオイもまた、自分と同じような経緯でこの組に入った、いわば同僚みたいなものだ。
 最近はこうして姫の警護によく一緒に当たっている。
 ご機嫌に歩いていく姫の後を追って、二人も歩き出した。


※ ※ ※


 花火の打ち上げまであと小一時間ほど。
 会場は盛況を極め、街の外から来た見物客も随分増えたようだ。
 立ち並ぶ屋台の半数は、天鳥組の者がやっている。
 残りの半分もほとんどが、姫と交渉して入った関連業者だ。
 いわば、ほぼ身内で作り上げた祭りの会場。
 小さな街のこと。その警護に当たるのも、我が組の使命でもある。
 いつものように紺色の着流しを纏い、鼈甲のかんざしで髪をゆるくまとめ上げた姫の姿は、この浴衣姿の多い祭り会場でも 異彩を放っていた。
 おまけにぴったり後ろにお付きが二名もついているのだから、目立つことこの上ない。
 街の人間は姫を見ると笑顔で会釈をする。
 みな、姫が何者であるかを知っているからだ。
 だが、外からの客はそれが分からない。
 遠巻きに姫を見て頬を染める者、異質な空気を感じ取って離れる者、様々だ。
 姫だけだったら、恐らくは頬を染める者ばかりなのだろう、とイツキは思う。
 この姫は、とにかく非常にモテる。
 美形だからというだけでなく、漂わせる雰囲気がある種の人々を惹きつけるらしい。
 老若男女問わず、さまざまな人々から好意を向けられているのを、イツキはいままで散々目撃してきた。
 でも当の姫はまったくそれに気付いていないのだから罪な人だと思う。


 人の波を縫って目当ての屋台までゆっくり歩いていると、前から楽し気な笑い声と共に若い女性客の集団が歩いてきた。
―――こっち、もっとよく見えそうだよ、早く―――
 すれ違いざま、先頭の一人が急に方向転換して走り出す。
「っ!」
 肝が冷えた。
 慌てて姫の前に体を入れようとするが間に合わず、女が姫にぶつかる。
 鈍い衝突音。
「おっと」
―――キャッ!」
 上がる女の悲鳴。
 姫、と声を上げようとして、片手で「黙れ」と制される。
「大丈夫かい、お嬢さん? よそ見は危ないな」
 姫は優しい声色で、受け止めた女に微笑みかける。
「ごめんなさい! ありがとうございま、…………
 姫の顔にくぎ付けになっている女。
「あーあ。またやってるわ。姫ってばホントにもう……
 聞こえないような小声で、アオイがボヤいた。
 姫はご丁寧にも花火の良く見えるスポットを女に教えてやって、「じゃあ花火楽しんで」と颯爽とその場を後にする。
 残された女の熱い視線になんてまるで気付かないまま。
 ほんと、罪作りな人だ、とイツキも思う。
 しばらく、人混みをそのまま歩き続けた。
……姫、すみませんでした」
 女たちから離れたあと、イツキは姫の背中に向かって頭を下げる。
「ええよ。あんな殺気もなんもない娘、警戒せんでも」
「ですが」
「ええって。……ほら、オマエもそない気ぃ張りすぎんと、楽しめ?」
 姫がニカッと笑う。
「はい……
イツキは頭を掻いた。
 ―――まったく、この姫は。


※ ※ ※


 屋台をあちこち冷やかしながら、目当てのベビーカステラ屋へとようやく到着した。
「ん-、いい匂いだ。調子はどうだい、ペイさん」
「ああ、姫さん、いらっしゃい! 大盛況でこちとら大忙しよ」
 ペイさんは運輸の方でお世話になっているトラックドライバーだ。
 今回どうしても屋台の人手が足りず、ペイさんも急きょ借り出されたのだが、楽しそうに仕事をしているようなのでなによりだ。
「ペイさん、ちょっと」
「はいはい?」
 姫がベビーカステラの屋台の裏にペイさんを連れ出す。
 姫の姿を視界に収めつつ、イツキはそれとなく辺りに気を配った。
 姫はペイさんに何かの紙の切れ端を渡す。
 ペイさんは一瞬だけ眼光を鋭くし、すぐ温和な笑顔に戻った。
 なにやら、取引があったようだ。
 でも、自分のような下っ端はそれに介入することは許されない。
 介入したことで姫に不都合が起きてはならないのだ。
 自分はただ、姫の身の安全を守るのみ。
―――よし、と。じゃあペイさん、カステラでももらおうかな」
「お? お買い上げで? 毎度!」
「ん。そうだな、いくつもらうか……
 姫は顎に手を当て少し考える。
「ん-、わからん。適当にみつくろっちゃって。あいつらに食わせる分」
「はいよ、ちょっと待ってくださいね。いま丁度数出ちゃったとこで。お時間あります?」
「あるある。なんぼでも待つよ」
「じゃあちょっと待っとってください、焼きたての美味いのご用意しますわ」
 ペイさんはそう言って、手慣れた手つきで生地を型に流し込む。
「うん、ありがと。焼きたてって美味いんよなぁ」
 姫は嬉しそうに「ふふふ」と笑う。
 こうしてみると、本当にどこかの育ちのいいボンボンのように見える。
 姫が穏やかに笑っている姿を見ていると、まるで平和の象徴のようだと思うのは、やはり荒くれ稼業のせいなのだろうか。


 ベビーカステラが焼き上がるまで、のんびりペイさんと姫とアオイの会話を聞いていると、不意に異質な叫び声が耳に届いた気がした。
―――……めてくださ……―――
 声の方に顔を向ける。
 姫もそれに気付いたようで、和やかなムードが一瞬で消え去った。
「ペイさん、ちょっとすまんね。見てくる」
「おや。お気をつけて」
 姫が踵を返す。
 アオイが一足早く駆け出した。
 イツキは姫に付き、その背を警戒しつつ走る。
 叫び声は射的の屋台で起きていたようだ。
 酔っぱらった客が、店番の女性に絡んでいる。
「ちょっとちょっと、おとうさん? なに暴れてんの?」 
 一足先に着いたアオイが、酔っ払いに声を掛けている。
「うるせぇ! この店イカサマや! 全然弾当たらん!」
 どうやら射的が外れ続けてクレームを付けているようだ。
 女性店員に掴みかかっている。
「とりあえずその人離そっか? 泣いちゃってるよ、可哀想に」
 アオイの優しい説得にも酔っ払いは応じない。
「ああ!? うるせえ、関係ねぇヤツがしゃしゃってくんな!」
 酔っ払い客の叫びに、ざわざわと不安そうに遠巻きに人の輪ができる。
―――関係ねぇヤツ、ねぇ?」
 その輪の中に、いつものように姫がスッと入っていく。
 突如割って入った美形に、周囲の輪がざわめいた。
「あ? なんだテメェ!!」
「わしはこの辺りを見させてもらってる、天鳥カグヤってぇもんだが。アンタは?」
「あ、姫さんや! 姫さんが来てくれた!」
 取り巻く周囲の輪から、誰ともなく次々と声が上る。
 姫さんが来てくれたなら、もう大丈夫。
 そう言わんばかりに周りの警戒の輪が崩れていく。
……姫ってなんじゃ、……ッ!」
 酔っ払いの赤い顔から、急にサッと色が引いた。
 姫が台の上に置いてあった射的の銃を片手に持ち、その銃口を酔っ払いの額に押し当てたのだ。
……とりあえず、その手ェ、放そうか?」
 静かなのに、恐ろしいほど迫力のある声。
 気圧された酔っ払いはヒッと情けない悲鳴を上げ、慌てて女性の服を放す。
 アオイが離れた女性を背後に匿った。
「怖かったね、もう大丈夫。うちの姫がきてくれたからね」
「はい……
 慰め役はアオイが適任だから任せることにして、イツキは姫の背後に立ち周囲に目を配る。姫の登場により、今のところ混乱は収束したようだ。
「さておとうさん。なんや文句あんなら、わしが代わりに聞こか?」
 姫は静かな口調で、口元に笑みすら湛えている。
 けれど、その眼光は鋭すぎて、視線が相手に突き刺さりまくっている。
 ―――銃口を突きつけたまま言うセリフじゃないと思います、姫。
 明らかに引き攣った顔で震えだす酔っ払いが逆に気の毒になってきた。
「す、す、す、すみまっ、すみませんでした!!」
 可哀想なほど怯えて酔っ払いが一歩下がる。
 足元がふらついて転げた。
「ああ、悪酔いしすぎだ。……もうおうちへお帰り?」
「は、はいぃぃっ」
 酔っ払いが後ずさりする。
「イツキ、送ってやんな」
「了解」
 姫の命令が出た。
 イツキは転がる酔っ払い客を無言で引きずって、祭りの喧騒からしばし離れる。
 姫は、祭りの雰囲気が壊れるのを良しとはしないのだ。


 酔っ払い客を外に捨ててから、イツキはベビーカステラ屋へと戻った。
 ちょうど焼き上がったのか、あたりは甘い匂いで満ちている。
 大きな袋を二つ抱えた姫とアオイが、イツキの帰りを待っていた。
「イツキ、ご苦労だったね」
 労わる様な声に、小さく頭を下げる。
 無言で姫に手を差し出し、抱えている袋を両方とも預かる。
 射的屋の景品らしい。
「あの後あの店でちょっと遊んだら、姫ってば大物撃ちとっちゃってさ」
「狙えば当たるもんだな」
 ふふ、と姫が笑う。
「あと、こっちは助けてくれたお礼だって」
 見れば、アオイも同じように大きな袋を抱えている。
 ―――またやってるわ、この二人。
 また女性ファン増やしたんだろ。
 そう思ったが、いつものことなので敢えてイツキは口には出さない。
「はい、お待たせしました姫さん。ベビーカステラ、用意できましたよ!」
 ペイさんからこれまた大きな袋に入れられたベビーカステラが渡される。
 姫はそれを嬉しそうに受け取ると、おもむろに一つ口に放り込んだ。
「うっま! やっぱ焼き立ては違うなぁ!」
「でしょう?」
 褒められて嬉しそうなペイさん。
 姫に関わると、みんな姫のことが好きになってしまう。
 ほんと、この人は。
 和やかな光景を黙って見ていると、姫がパッとこちらを向いた。
「ほら、お前らも喰ってみ。美味いぞ」
 袋ごと差し出され、イツキは思わず首を振る。
 両手が塞がっているのだ。
 姫は少し考えた後、ニッと笑った。
「ほら、イツキ。働いたご褒美」
 焼きたてのベビーカステラをつまんで、イツキの口元に差し出す。
…………そんな、餌付けみたいな」
「ええやん! ほら、口開けぇ、な?」
 小首を傾げて言うな。
 そういうことすると妙に可愛いんだから、この人は。
 イツキが困りながら顔を反らそうとすると、問答無用で押し付けられるベビーカステラ。
 抵抗むなしく、餌付けされる。
「あっ、姫ぇ! オレにも! オレにも!」
 アオイが姫に抱き付かん勢いでぴょんぴょんと跳ねる。
「ん-、アオイお前はかわいいなぁ」
「わーい」
 雛鳥のように口を開けるアオイに、姫はご機嫌でベビーカステラを食べさせてやる。
 機嫌の良さそうな姫は、あの恐ろしい眼光をした人と同じ人物にはまるで見えない。
 本当に、姫は不思議な人だ。
 ふと、イツキが腕時計に目をやると、もう打ち上げ開始時間に間もない。
「姫、そろそろ戻りましょう。始まります」
「お、もうそんな時間か。ペイさん、邪魔したね」
「いえいえ、姫さんも花火楽しんで!」
「おう、ありがと!」
 笑顔で送り出してくれるペイさんに一つ頭を下げると、歩き出す姫の後ろについてイツキも歩き出した。


※ ※ ※


 花火大会の開始を告げるアナウンスが聞こえる。
「天鳥協会」のタープテントに戻ると、構成員たちがつぎつぎに「姫さんおかえりなさい!」「姫おかえり!」と声を掛けてくる。
 その声に片手を上げて応えつつ、半分ほどに減ったお土産のベビーカステラの袋を出迎えに押し付けると、姫は先程の定位置に戻った。
 姫が戻るのを待っていたかのように、最初の花火が華を開く。
 続けざまに打ち上がるスターマイン。
 それを眩しそうに見上げる姫の顔は、色とりどりの光に彩られてとてもキレイだと、イツキは思った。
 しばらくの間、無言で花火を見つめる姫。
 後ろではどんちゃん騒ぎが繰り広げられているのに、そこだけ別空間のように静かに思える。
……今年も、きれいだな」
 妙にしんみりした様子で呟く姫の声が耳に届いた。
 この人は、何を思っているのだろう。
 イツキは黙って姫の顔を見つめる。
 その表情から何かを窺おうとしたとき、背後から明るい声が掛かった。
「あれぇ? 姫、しんみりモードっすか?」
 空気を読まないアオイが、姫の静寂を打ち破る。
「あ? しんみりなんてしてたか?」
「してたっす。姫がそんなしんみりした顔してたら、月に帰っちゃいそうでヤダなぁ」
「まぁ月は実家やから、ってあほか」
 楽しそうに笑う姫とアオイ。
 いつもの定番のネタだ。
「そうだ姫、今日まだ写真撮ってないっすよ!」
「そういやそうだな。撮っとくか」
 姫はガバッと立ち上がると、酒宴で盛り上がる組員たちに向かって声を張り上げる。
「お前ら集合!! 写真撮んぞ!!」
「はーい!」 
 姫の号令にグダグダしていた組員たちが急に襟元を正し集まってくる。
 今集まれたのは十二人。
 タイミング的にテキ屋で働いている者もいるから、構成員の半数にも満たないが、全員集まれるのなんて正月か葬式の時だけだ。
 祭りでこれだけ集まっているならまぁ数はいる方だろう。
 アオイがスマホのタイマーをセットして、みんなで集合写真を撮る。
 ちょうどシャッターが切れる瞬間、大きな花火が開いた。
 まるで天鳥組の今後の成長を祝ってでもいるように。


※ ※ ※


 花火もそろそろ終演の時間だ。
 酒宴で騒ぐ者たちの中から潰れるものが出る中、姫は定位置で静かにスマホの画面を見ていた。
 ひたすら飲まされたイツキは騒がしい宴から離れ、姫の側で静かに座る。
……なにを、見てるんですか?」
「ん、イツキか。ほらこれ」
 姫は、先程撮った集合写真を見せてくれた。
「ええ写真やなーって思て。みーんな笑顔で、花火まで映って」
 一人ずつの顔を確認するように拡大しては、ふふ、と笑う姫。
 その頬は、酒のせいなのか心なしか赤い。
「ねぇ、何してんすか、姫ぇ~?」 
 しこたま酒を飲まされたアオイが、イツキの背中にまとわりついてくる。
「お、アオイか。見ろ、お前もいい顔してるぞ」
 姫が見せた画面には、アオイの全開の笑顔が映っている。
「わぁ、いい笑顔してるっすね、オレ!」
「だろ?」
 嬉しそうに姫が笑う。
「ってか姫、オレらの顔いちいち確認してるんっすか?」
「してるよ?」
 アオイが驚いたように目を見開く。
「もしかしなくっても、姫ってオレらこと大好きっすよね!?」
「はあ?」
 何を言うのかとばかりに、怪訝そうに語尾をあげる姫。
「ヒドイ、姫のいけず……
 しゅんとしたアオイの頭を、姫が楽しそうに笑ってワシャワシャと撫でる。
「あほ。逆よ逆。何当たり前のこと言ってんだって」
「姫!?」
「わしは、お前らみーんな、大事やで。家族やもんな」
 姫はそう言って、パチリと片目を瞑った。
「わーん! 姫、オレも姫のこと大好きだよー!!」
 アオイが姫に抱き着く。
「ははは、アオイどうした、酔っぱらったか?」
 姫は笑いながらよしよしと頭を犬を撫でるように撫で続けている。
「かわいいなぁ、アオイは」
 ご機嫌でアオイを撫でる姫。
「お、おいアオイ、飲みすぎだぞ」
 イツキは慌ててアオイを引き剥がそうとした。
 その腕を、姫がガシッと掴む。
「!?」
「ほら、イツキお前も」
 ぎゅう、と姫の腕の中にしまわれて、問答無用に撫でられる。
 これは、姫も相当酔ってるな。
 こうなった姫はもう手が付けられない。恐怖の撫で撫で魔になるのだ。
 そして、それを見て周りの奴らは―――
「あー!! テメェらだけ、ずるい!!」
 どデカい叫び声と共に、ドスドスと足音を立てて集まってくる、強面の男達。
 姫にしがみついていたアオイを剥がしてポイと捨てる。
「俺らも!」
「ははは、いいぞ、来い!」
「姫!!!」
 厳つい大の男たちが、寄ってたかって姫に抱き着き撫でられに行く。
 ―――はぁ、やっぱりこうなった。
 こんなところを、事情を知らん奴らに見られたら面目まる潰れだ。
 そうイツキは思うが、姫の腕の力が強すぎて拘束から逃げ出せず、周りを制御することができない。
 姫は楽しそうに、さながら大型犬のブリーダーよろしく、強面の組員たちをよしよしと撫でている。
 ほんと、こいつら姫のこと好きすぎだろ。
 イツキは拘束されたまま、大きくため息をついた。
 ―――まぁ、俺もだけど。
 よっぱらった組員たちにたかられ、もはや塊となった姫の上体がどんどん傾いていく。
「姫! ずるい! オレも仲間に入れて!」
「ははは、アオイもおいで!」
 組員たちに剥がされて放り出されたアオイが、塊にダイブする。
 楽しそうに笑う姫。
「待て、アオイ、これ以上は、あぶなっ―――
 イツキの制止の声など届かず、アオイが姫に飛びつく。
 ぐらっと傾いて、とうとう耐えられなくなった姫が仰向けにひっくり返った。
 かんざしが衝撃ではずれ、長い黒髪がふぁさりと広がってイツキの顔にかかる。
「ぐぇっ、重っ」
 姫が重さに耐えきれず呻く。
「す、すいません、姫、大丈夫ですか!」
 慌ててどこうとした瞬間、ヒュ~~~~という打ち上げ音が鳴り響いた。
 長い。大玉だ。
 その音に惹きつけられ、身動きすることなくひっくり返ったまま、皆で空を凝視する。
 眼前でパッと華開く、夜空を埋め尽くすほどの大輪の花火。
 「わぁ……
 誰ともなく感嘆の声が上がった。
 姫はその鮮やかな華を、惚けるように見つめている。
 チラリと見た姫の横顔は、赤と黄に彩られて恐ろしいほどキレイだった。
 一瞬見惚れていることに気付き、イツキは慌てて首を振る。
「ははははは、見事な花火だな!」
 みんなに伸し掛かられて、姫がご機嫌そうに笑う。
 口々に、「たまやー!」と大輪の花に声を上げた。
 あまりにも幸せそうな姫の笑みに、イツキはどこか胸をギュッと掴まれるような気がした。
「ふふ、………いい夜だ」
 幸せを噛みしめるように小さく呟く姫の声。
 姫の髪からは、ほのかに白檀の香りがした。
 

※ ※ ※


―――よし、お前ら! 朝まで飲むぞ!」
 姫のご機嫌な声がタープテント内に響く。
 もう花火大会も終わるというのに、まだまだ飲む気でいるらしい。
 姫は団子状態をあっさり解くと、乱雑になった宴席から酒瓶を持って皆の前にドンと置く。
「よっしゃ、飲みたいヤツ、掛かって来い!」
 姫自ら酒を注いでくれる絶好の機会。
 団子になっていた男たちが、我先にと姫の周りに集う。
 姫の周りはいつも人で囲まれていて、笑いが絶えない。
 イツキはそれを眩しいもののように遠巻きに眺める。
 大の男たちがこぞって姫の酌を求める姿は、もう天鳥組の宴席では日常で。
 それは姫が皆から慕われている表れでもあり、またそれこそがこの組の結束力にも繋がっているのだと、イツキは思う。
 そろそろ帰り始める見物客で辺りも騒がしくなってきた。
 イツキは見回りに出ようかと、立ち上がる。
 姫の側には、泥酔した組員たちが沢山転がっている姿が見える。
 これは、今回も同行できそうな者はいなそうだ。
 大体、祭りも最後になるとウワバミの自分くらいしかまともに動ける者はいない。
 イツキは小さくため息をつき、見回りに出ようとする。
―――イツキ」
 姫に呼び止められ、イツキは振り返った。
 笑顔でビールのコップを差し出す姫。
「すまないな、いつも」
 イツキは姫の手からコップを受け取る。
 なみなみと注がれたビールを一息に飲み干して、姫に返した。
 最後の花火が打ちあがる。
 赤い光に照らされた姫の顔は、相変わらずキレイだ。
 閉会のアナウンスが聞こえ始める。
……ああ、今年も無事終わったな」
「そうですね」
 では、とイツキは一礼して姫に背を向ける。
「イツキ、……何かあったら、すぐ呼べよ」
「はい、姫」
 大きく頷き、イツキはしっかりとその任務を受け取る。
 この祭りの治安を守れるのは、今やもう、俺だけかもしれない。
 イツキは強く拳を握りしめると、喧騒の中に身を投じたのだった。

 ―――姫の為に働ける、その喜びを噛みしめながら。


おわり






―――――――――――――――――――――――――
というわけで書きました。楽しかった。
姫の幸せだったころの日常、こんなかんじだったらいいな、という願望小説です。
ブロマンスはただの趣味。

……なお、姫以外このあと全員……

―――――――――――――――――――――――――
☆感想などもらえると泣いて喜んで、次作につながります。
https://marshmallow-qa.com/yuki_mamadesuga