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溶けかけ。
2024-08-27 23:05:04
1091文字
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ほぼ日刊
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心音
自然界でクジラや象の心拍数が遅く、小動物ほど速い、という話を聞いて、長命種のヌヴィレットや水神時代のフリーナは心音が遅かったのではないか?という発想から出来たお話です。
「いつもそれやってるけど楽しい?」
フリーナがヌヴィレットの頭を撫でた。彼は今、彼女の胸に顔を埋めて
――
正確には耳を澄ませて、心臓の鼓動を聞いていた。
「ふむ。楽しい、楽しくないという問題ではないな」
「ふぅん」
それきり、フリーナは興味を失ったかのように、読みかけの本に視線を戻した。これが彼らの日常になりつつあるのだ。
とくん、とくん、と一定のリズムで脈打つ心音は時計のようだ、とヌヴィレットは思った。
いつか訪れる死までのカウトダウンをする時計
――
そんな言葉が頭を過ぎり、その考えを振り払った。
「早いだろう?」
不意にフリーナの声が落ちてきた。その声音はどこか寂しそうでもあった。ヌヴィレットが顔を上げれば彼女が形のいい眉を八の字に曲げてこちらを見ていた。
「昔、キミと心臓の聴き比べをしたことがあったよね」とフリーナ切り出した。ヌヴィレットも頷く。
「確か、寿命が短い生き物ほど一分間の心拍数が多い、というのを検証してみたいと君が言い出したのではなかったかね?」
フリーナが瞠目する。次いで「覚えていたんだ」と感心したように言った。
「忘れるはずもない。仕事中に急にやって来たと思ったら、服を剥かれ、聴診器を押し当てられたのだから」
「アハハ
……
そうだっけ
……
?
――
キミの鼓動は遅かった」
「君の鼓動もな」
「そうだったね
……
ねぇ、ヌヴィレット。今は」
どうだい? とフリーナが再び問いかけた。その顔は先程とは違い、どこか切羽詰まったような切実なものであった。
「
……
速くなった。普通の人間と同じように」
「そっか」
ぽつりと溢したフリーナの表情は、嬉しさと悲しさを綯い交ぜにしたような複雑なものだった。
「君と共に同じ時を歩めなくなったことはとても残念に思っている」
ヌヴィレットが言えば「そうだろうね」とフリーナも同意を示した。
「だが、今の君の心音も私は好ましく思っている。寧ろ、君がここまで必死に努力を重ねてきた故の報賞のようなものだと思えば誇らしいものだ」
彼の言葉にフリーナが笑う。今にも泣き出しそうな、それでも心からの笑みで。
「心音一つでそんな風に言うの、キミくらいだよ」
フリーナが鼻を啜る。
「それは幸甚だ。君の心音の変化を知っているのが私だけということであるのだから」
ヌヴィレットの強気な発言にフリーナは思わず噴き出した。
「ふはっ
……
じゃあ、たくさん聞かせてあげなくちゃ。
――
この心臓が止まるまで。僕の心音は変化し続けるんだからさ」
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