いを
2024-08-27 21:06:44
772文字
Public 刀神
 

おまえが言うなら、きっと月は満ちている

青嵐

 妙に明るい光が、青白いほおを照らしてうっすらと皮膚を透けさせた。
「私が見る神とあなたがたの見る神はきっと、違います」
 ――違うはずです、と、白髪の男は呟いた。
 文机に一枚の符が置かれている。黒髪の男はそれを見下ろした。
「これは……
「私の血で書いた符です」
「血」
 男の眉間に皺が寄った。血で符を書く。術者ならば、そう珍しくもないだろう。
「強力ですよ。きっとね」
 そういえばここは陽が届かない場所なのになぜか明るい。周りにはなにもないというのに。男はぼんやりとそう考えた。
認識すれば・・・・・さらに効く・・・・・
 着物から枝のように伸びた手首の骨が見えた直後、脳が強烈に揺さぶられるような感覚をおぼえ、男は畳の上に倒れ込んだ。
 ――はたしてそれは本当に畳だっただろうか。ここはどこだっただろう。俺は――
「血とは穢れ。そして生、命の色とにおい」
 体が動かない。
「その血が濃ければ濃いほど集まるものです。あなたのようなものが」
 眼鏡越しの細く赤い目が、細められるのを男は見た。「俺のようなものが?」男は考えようとも、思考することはできなかった。脳がまるで溶けていくようにも感じた。
「あなたはとっくに死んでいて、私に祓われる。そういうありきたりな物語です」
 手が、足が、消えていく。
 じわじわと畳(これはなんだっただろうか?)に溶けていく。一体化し、朽ちていく。
「せめて私の神に祈りましょう。魂が還り、眠る場所で安らかに」
 白髪の男が言う言葉を理解することもなく、黒髪の男は散っていった。
 ――お前の神とは何なのだ。
 その言葉も出せずに。

 雲井青嵐は荒れ果てた部屋から庭を見た。松だけが立派に、まるで龍が天に昇るように伸びている。
 黒い空に、穴が開いたように見える白い月が浮かんでいた。