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みそ
2024-08-27 17:44:31
5816文字
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30年後ロナドラ
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本日の予定:家族の送迎(30年後ロナドラ)
結婚して17年になる年後ロドのドが、クソ能力学会関係で一肌脱いだ話/本編同様、当たり前にドの趣味活動の事把握してるし手伝いもするロ
作中登場する生物に具体的なモデルはいませんが、そういうこともあるかも、あったらいいなくらいで、ふわっとお読みいただければ幸いです。
――
『クソ能力学会』員、吸血鬼の力で絶滅種再発見に寄与
そんな見出しが新聞の片隅に躍ってからの一週間、ロナルドは、電話を取ったり掛けたりせわしなくしながら、ロナルドの知らない相手と時に真剣に、時に呆れたように話し込む相棒の姿を何度となく見ることになった。
何があったのか一行で説明するならば、見出しにちなんで吸血鬼関連の困りごとが発生したため、ロナルド吸血鬼退治事務所から適任であるドラルクが解決に乗り出した、となるだろうか。
事務所の日常風景と言えばその通りだが、今回はドラルクの趣味活動方面のプチトラブルである。
クソ能力で絶滅種再発見とは、一体どいういうことか。ドラルクがロナルドに説明して聞かせたのはこういう話だった。
まず、今から十年程前、ドラルクが審査員として参加するのが最早恒例となった件のクソ能力学会の場で、『幼いころに耳にしたある音を、正確に再生する能力』という発表があった。ごく平均的なおじさんといった外見の男性吸血鬼の喉から、秋の虫の奏でるような、澄んだ音が出るのである。
それがまあ、本当に『それだけ』であった。音色にバリエーションは無く、絵面としてのインパクトに欠け、背景情報も頼りない。幼いころというのは60年か70年前、おそらく生き物の声だと思うが、聴いた場所が日本だったか海外だったか覚えていない、という具合に。よって、その場では、絵面が地味&情報が曖昧過ぎてクソ度は比較的高く見えるが、音そのものは大変美しくヒーリングミュージックに活かせそう、なんて講評に落ち着いたそうだ。
音色が美しいという部分を嬉しく思った学会員はその後、自分の喉から出る音を撮ってSNSにアップした。けれどもまあ、おじさんの喉からなんかきれいな音が鳴るだけの謎動画である。面白いと感じ人も居たようではあるが、広くウケるものではない。すぐさま、アップした本人にすら動画の存在は忘れられてしまった。
ところが、である。去年になって、偶然その動画を開いた廃墟愛好家が、音に聞き覚えがあると言い出した。彼がその動画に音を聴いた場所を添えてSNSでシェアすると、地名に引っかかったのだろう、その地にかつてあった集落出身だという吸血鬼がこう証言した。
『これはある種のカエルの声で、確かに村でこの音を聴いていた。懐かしい。でも当時から決まったいくつかの池にしかいなかったので、1960年台に絶滅したと聞いた時は却って納得したくらいだ』と。
廃墟愛好家は前年にその声を、まさにその集落跡地で聴いていたため証言に驚いたという。すぐさま知人のカエル研究者に協力を仰ぎ、欧州某国のその地に赴いた。そして情報提供者の吸血鬼から教わったいくつかの水辺で、研究者と共に学会員の動画の音を流して歩いた。研究者にはこれまでの知見から、ある種予感があったのだという。
すると、調査開始からわずか3日目にして、森の奥から同じ鳴き声が、張り合うように返って来たではないか。学会員の喉から出た謎の音の正体は、半世紀以上前に地球上から絶滅したとされていたカエルがつがいを求めて鳴く、その声色だったのだそうだ。
言うほどクソ能力関係あった? ここまで聞いて、ロナルドはちょっとだけ思った。学会員ご本人は現地にすら行ってないし、調査にあたっての動画の利用は事後承諾だったとさえ言うし。ドラルクは、そんな相棒の思考を正しく読み取ったのだろう。
「遠因って言葉があるでしょゴリラくん。見出しだって『寄与』って書いてあるから嘘じゃない」
ギリギリ嘘は言っていない、を信条に書きものをしている身である。そういわれてしまえば返す言葉もない。
ともかく、たかがカエル、けれども驚きの再発見には違いない。生息域から遠く離れた日本の
――
そのカエルには和名すら付いていない
――
いち市民である吸血鬼の記憶に刻まれていた音が、絶滅したとされていた生物の再発見に繋がり、しかもそもそものきっかけが『クソ能力学会』だった、というのも世間の耳目を集めた。当然、ヒマをしていたらしいマスコミがちょうど良いとばかりに寄ってきて、実は素晴らしい能力の持ち主を秘匿しているのでは、会員たちと連絡を取ってよいか、などと言い始めたものだから、会長と口が回るドラルクが『そういうこともあるかもしれないが、そういうのを期待してやってる会じゃないんで』ということを説明せざるを得なくなり、ドラルクは一週間、方々への連絡やら打ち合わせ、それから本番の会見と、喋り通しになっていたのだった。
「! ヌヌヌヌヌン!」
「ドラ公、ジョン、お疲れ」
そういう事態だったためロナルドは今日、送迎係という形でドラルクに力を貸している。ジョンから頼まれた通り、会見場の正面、送迎用駐車場に車を付けるとタイミングよく一人と一玉が歩いてくる。
助手席へ回りドアを開けて促せば、ドラルクは素直にそれに従った。スーツをまとう、普段はどこもかしこもまっすぐにピンと伸びている手足が、車内に収まった途端ぐにゃっとだらしなく力を抜く。驚かせないよう静かにドアを閉め、運転席に戻ってからまともに顔を見れば、暗がりだということを差し引いても目元はひどく落ちくぼみ、顔色も悪い。
「おー疲れてんな
……
いっぺん死んどくか?」
「フン、すっかりお優しくなっちゃって手も上げられない男がどう殺してくれるって?」
「えー、一昨日の夜」
「おいこらこの場でその先を言ってみろ破廉恥男、ビンタで死ぬぞ! 私が!」
「それでいいぜ」
この日のためにわざわざ車を手配した家族相手にこの態度、だが茶飯事である。ロナルドとて腹も立たない。子猫をあやすがごとく適当にあしらえば、ドラルクはムオーッっと憤り、勢い込んでロナルドの方を向いたその拍子に、多分肩か腰がピキッとなったのだろう。あっという間に塵と化す。
塵の積もる音すら、今夜は重く鈍い。腕から取り落とされたジョンがお腹を打ち付けてしまう前にロナルドはひょいと手を伸ばし、砂山の上にそっと着地させてやった。
ドラルクが、ロナルドの関与がなくとも日に何度も死ぬのは今も変わらない。『ロナルド由来の死因』
――
ロナルドが身体を張っているのを見ての爆笑死、ついさっきのような売り言葉に買い言葉の拍子の筋ピキ死、テレビから流れてきたホラー音声に驚いたロナルドにつられビックリ死
――
みたいなものも、昔と同じだ。
ただ、言葉に詰まったロナルドが拳に訴える、これはなくなった。ドラルクの言う『お優しくなっちゃって手も上げられない』とはまったくその通りで、ロナルドはもう何年も前から、ドラルクのしょうもないイタズラや煽り揶揄いに自発的な暴力では応じなくなった。関係も関係であるから触れ合うことにはすっかり慣れてしまって、不意打ちだろうと鼻をつまむとか、悪戯の制裁として繰り出すデコピンくらいじゃドラルクが死ななくなったというのもあるのだが。
「ヌヌヌヌヌヌ、ヌイヌーヌ?」
「ああジョン、ありがとう」
復活が遅いようならそのままジョンにお守りを任せ車を出すつもりでロナルドはいたのだが、ドラルクは思いのほかスムーズにその姿を取り戻した。眉間を揉み、心を落ち着かせるように自身の一つに束ねた長い髪を何度か撫で付け、ふうと息を吐く。そしてロナルドの方を見もせず、ひょいっと肩にもたれ掛かってくるのだ。デスリセットで足りないほど疲れてはいるが、胸につかえているものがあって帰る前にちょっと話したい、そんな風に。
「ハァまったく。ねぇジョンさん見た? 今日お集りの皆さんどもさあ? 何だね、普段はクソ能力だって指差すクセにだぞ? ちょーっといいカンジの事があると途端に揉み手なんぞしよる!! なぁーにが能力持ち吸血鬼の紹介制サロンじゃ、クソ能力学会て書いてあるだろ舐めとんのか」
「ヌ、ヌ
……
!」
「居酒屋で管巻いてるオッサン」
ロナルドもネット配信で会見の様子を見守っていたから、質疑応答の内容まで知っている。
あの場でドラルクは『長年コミュニティの発展にご尽力くださっているドラルク先生』と、文字面だけなら素晴らしい紹介に釣り合う紳士の態度で、会長の発言を助け、時に補足をし、あるいは長命の吸血鬼というただそれだけの理由で、生きているうちに再発見は何度もありそうかなんて問われては、専門外のためわかりません、と答え続けていた。まあ我々クソ能力学会ですからな、という断りは五度も言っていた。
『これまで何の役にも立たないとされてきたものがふと世間の役に立ち、俄かに脚光を浴びる
……
というのは世の常であります。しかし我々クソ能力学会の会員も、何十年も世間から忘れ去られていたカエルも、いずれも同じようにただそこに居たのです。特別世間の役に立たず、人目に付くことさえなくとも。クソ能力学会は学会と掲げてこそおりますが、あくまで一般吸血鬼の皆さんのための小さな会であります。これから先も、これまでと変わらない理念のもと続いていきます』
会長の言葉である。そしてドラルクの嘆きの所以だ。
ロナルドが出会った頃のドラルクは、他人からの畏怖や賞賛を浴びられるとなればみるみるうちに浮足立つ、調子のいいところのある男だった。少なくともロナルドからはそう見えていたし、事実そのせいでバカみたいな芝居を打たされた日だってあった。しかし今では、いつ何時であっても軽薄に振舞うというわけではないことを、遊び半分で己のテリトリーを乱そうとする相手には全力で対峙する男だということを知っている。
日々のささいな喧嘩といった瞬間的な怒りならば続かない男だが、本気でムカつけばこうなのだ。正面からぶちあたって疲れて不貞腐れ、会見の間も控室でずっと待ってくれていた使い魔の腹毛を吸い、迎えに来たパートナーにぴったりひっついて、ぶつくさと文句を言い続けている。
ロナルドは、口先ではオッサンなどと揶揄しながらも、気を抜けば年甲斐もなくニマニマと波打ってしまいそうな口元を引き締めるのに忙しい。
二人が籍を入れてから、今年で17年だ。付き合いを始めてからだと20年。距離近いって皆から言われるんだけど別に違和感無えんだよな、最近なんか目が合うことが増えたな、煽りにムカついて踏み込んだら壁ドンみたいになっちゃったドウシヨウ
……
そんなことを10年もだもだと続けた結果、世間でいうところの恋人という枠に互いを収めることに了承、という流れで始まったお付き合いだった。
スタート地点こそそんな風だったが、互いに好き合っていることはどうやら確定、しょうもない喧嘩は絶えないが経過も順調。あっという間にこの生活が何年も続いていく未来しか思い描けなくなったロナルドが、結婚という選択肢を視野に入れたのは当然の流れとも言えた。幸いにも、制度上の縛りはなくなって久しいことであるし。
ただ一点、ドラルクの呑気さがロナルドには怖かった。お付き合いは良くても結婚はねぇ、君なら今からでも軌道修正できるだろ。当時のドラルクは、そんなことを言い出してもまだどうにかなると思っている空気がゼロではなかったのだ。伊達に十年超同居していない。互いの考えていそうなことの的中率はまあまあ高かった。
そんなわけでロナルドは、土下座と泣き落とし、愛の手紙の音読とバラの花束、そして夜景が見えるレストランにド派手なスーツというフルセットでもドラルクが首を縦に振ってくれなかった時は、奴がこの世で五本の指に入る程には嫌っており、しかしそれを前に逃げるのかと煽れば青筋を立てながら引き受けるであろう『責任』の二文字で迫ってやろうと考えた。
ただまあ、結果的には、ロナルドが強いる前にドラルクがその言葉を口にした。そうなるように仕向けたのだ。
退治人らしく敵を分析し、手札を増やす。そしてあらゆる伝手を頼み、言葉を重ねて誠意を見せ、時には涙さえ使って味方を作った。ロナルドが両手の指では足りない年数共に暮らした中でドラルクの姿から学んだ、『使えるもんはなんでも使え』精神の通りに。
あの日。
ドラルクが、家を訪れ、これから先の暮らしについて考えたことはあるかとやんわり尋ねる父親相手にごにょごにょと言い連ねていた言い訳の、その一つ。
「そりゃあ私にも、彼の人生の責任の一端の一兆分の一くらいは
……
ある、かもしれないですけれども
……
」
その瞬間を、廊下で聞き耳を立てていたロナルドは逃さなかった。
「今責任あるっつった!? 言ったよな!? おい言質取ったかんな!! ジョンと親父さん証人な!」
その日まで、苦労してドラルクとジョン、それから自分に関するあらゆる外堀を埋め立てて、勢い余ってスーパー堤防くらいの高さの囲いを築き上げていたロナルドである。それはもう鬼の首を捕ったと言わんばかりに大いにはしゃぎ、己が息子の幸せのためでもあると協力してくれていたドラウスがドン引きしているのを気にも留めず、ドラルクに婚姻届を突きつけ詰め寄って。そうして手に入れたのだ。吸血鬼の首、ではなく、心臓に連なるともいわれる左手薬指を。
結婚を決めた日がそういう有様だったので、往生際の悪い伴侶は今なお年に3回か4回、年上の自分が責任を取ってやったのだ、とか、哀れに思って絆されてやったのだ、とかいう謎から目線を繰り出してくる。そんな相手が、家の外であるにも関わらずこうして甘えきった態度を許してくれるのだから、ロナルドは幸福の坩堝の内で息継ぎをするのに必死だ。
「ほら、帰るぜ。スーパーとか明日でいいだろ?」
そんなことはおくびにも出さず、理解のある風を装って声をかけるのだが。
うんともピスとも返事がないのを是と受け取ってロナルドは、引き寄せていた身体をゆっくりと助手席に納めてシートベルトを締めてやり、眠りに落ちてもいいよう程良い角度にシートをリクライニングさせ、ジョンには薄いブランケットを手渡して。
こうやって甲斐甲斐しくすればするほど年上の配偶者の顔が赤らんでどんどんそっぽを向いていくのが、ロナルドは嬉しい。
いつだって好きなことにだけ全力な男がその輪に自分をこうして関わらせてくれる、それと同じくらいに。
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