삐약さん翻訳
2024-08-27 16:00:00
8157文字
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小片 2





6.



 ジェイムス、知っていますか? 私があなたに恋をした理由です。これはあなたにも恥ずかしくて言えなかったのだけど……、私はあなたの笑顔に惹かれたんです。ひどく暑い夏の日、照りつける日差しはそれこそ人を殺せそうだった。あまりに暑くて意識が朦朧とするほどなのに、私がいちばん好きなバニラアイスクリームを片手に笑顔で私へ向かってくるあなたに、そのとき私はすべてを奪われてしまいました。暑さに溶け出すアイスクリームを早く食べろと手渡し、あなたは隣に腰かけて日傘を差しかけてくれた。ちょうど、母が幼い私に作ってくれた素朴なパイの味を忘れられないように、私はあの日食べた甘いバニラアイスクリームの味を忘れることができません。もちろん、あなたの微笑みも一緒に。



 熱い太陽の下で見たあの穏やかな笑みがどんなに瞼にちらついたことか。ベッドに横たわり、何度も虚空を撫でました。赤みを帯びたあなたの頬を、流れる汗を、あちこち乱れてしまった金色の髪を。それももう叶わないけれど。私が原因不明の病に冒されたあと、あなたの笑顔を見ることはできなくなりました。すべて私のせいです。そうでしょう? 病気は私を苦しめると同時にあなたさえも蝕んでいったから。私もそんなことは望まなかった。私の愛するすべてを傷つけたくなかったのに、それとは裏腹に、私は誰よりも愛するあなたに取り返しのつかない傷痕を残しました。あなたにしてしまったすべてを後悔しています、ジェイムス。あなたが優しい声で私をメアリーと呼び、私の大好きな花と詩集を買ってきてくれたにもかかわらず、私はあなたに早く出て行けと言葉を投げつけた。本当に、どうしてあんなことを。



 ジェイムス、私は。私は、自分が大嫌いでした。



 いつだって温かくて心惹かれるあなただから、隣にいる自分がみすぼらしく思えたものです。顔は病気で醜く、ひどくなる一方なのに、あなたはそんな私の面倒を見ては、なんとしても助けるのだと3年もの長い時間を私に費やして。あなたが好きだったけど、馬鹿だと思いました。あなたが私ではない別の人のところに通っていれば、いっそそうであったなら、私がここまで生きたいと願うことはなかったのに。私に冷たく接してくれたら、あなたをこれ以上苦しめず静かに死んでいけたのに。……おかしな逆恨みでしょう。自分でもわかっています。この苦悩をどこで晴らしていいかわからず、何も悪くないあなたに八つ当たりをし、また、自傷し、喚き散らして……



 ああ、ジェイムス。あなたの笑顔をもう一度だけ見たかった。美しく静かなあの場所で、あなたともう一度だけゆっくり過ごしたかった。



 あなたは私を殺したと嘆くだろうけれど、これでよかったのです。愛するあなたの手で死を迎えたのだから。私は、あなたを恨んだりしません。



 ジェイムス、私は。



 あなたのおかげで幸せでした。











7.



 サイレンの音は身に馴染むほど聞き飽きていた。初めて聞いた者はこの音はなんなのかと不安を隠せずにいたが、ジェイムスは違った。人の心にまで深く入り込み、引きずり出すような音のサイレン。最悪だったが、とてつもなく最悪とまではいかなかった。

 ジェイムスはしばらく続いた目眩にふらつき、近くの草むらに胃の中身を吐き出す。こらえようとしたものの罪悪感に耐え切れず、何でも構わずひたすら吐いた。何も食べていないせいで酸っぱい胃酸だけが食道を焼いてせり上がってくる。胃酸の混じった唾を四回ほど吐き、やっとのことで胃が落ち着いた。体の芯が揺すぶられ続ける。まともな精神でこの場所を歩き回ることも許さず、死を催促する。ジェイムスは一度目を閉じた。そして、力を振り絞って開く。



「シェリル……

「ねえ、なんだってここまでするの?」



 いつしか口の中には苦々しい胃酸の味ではなく、生臭い血の匂いが漂っていた。ジェイムスはそこでようやく気付いた。サイレンに馴染んだのではない、死に馴染んだのだということに。



「私は、こんなの望んでなんかない」

「これで出られるだろう?」

「なんで父さんもあなたも、なんで、みんな私の目の前で死ぬのよ」

「私がしくじったんだ」

「一緒に出られるじゃない、行こうよ」

「シェリル、これ……



 ジェイムスは懐に大事にしまっていたメアリーの手紙をシェリルに託した。私が死んで君を思い出せなかったら、生き返った私にこの手紙を渡してくれという頼みだった。シェリルは慣れた手つきで手紙を受け取った。まるで何度も経験してきたかのように。ジェイムスはその姿にかろうじて笑ってみせる。



「シビルも、あなたも……。なんだって私をここまで助けようとするのよ」

「あの人は正義感の塊だったから」

「あなたは警察でもないのに」

「罪滅ぼしだ」

……

「シェリル、すまない。私は君を自分の罪滅ぼしに付き合わせているんだ。だから……、振り返らず、逃げろ。どうせ私は何度だってこういうことをしてきたんだ」



 瞼が徐々に落ちていくのは、どうやらもう死が近いようだった。シェリルは少し躊躇してから自分を置いて脱出した。少し楽な姿勢に体を横たえ、静かになる時間を待つ。溜め息をついて彼女の名前を呼ぶ。メアリー。私は父親には向かない人間らしい。ローラも、シェリルも、みんな涙を見せて私の前から去っていくから。











8.



 あなたに泣いてほしくないんです。



 些細な言い合いから出た言葉にジェイムスは口を噤んだ。傍目にはただ一通の手紙から始まった言い合いだから、そんなことで諍うなと言うかもしれない。だが、ジェイムスにとっては大事だったのだ。メアリーが自分に書いてくれた手紙を胸に抱いていることが、生きていく上でどれほど力になっているか。他の人にはわからなかった。ジェイムス自身も知らなかった。それが同時に、自分にとってどれほど毒になっているかを。

 ジェイムスはレオンの視線から逃げた。執拗に追ってくる青い瞳の強さが恐ろしかったからだ。



「俺が気付いてないとでも思いましたか? あなたが隠れて泣いているのを、それこそ数え切れないほど目にしました。奥さんが書いた手紙を握りしめたまま、です。いっそ正直に話してください。ここで泣いたからってあなたにとやかく言う人間はいません。内側に抱え込んでばかりいて、それで何かが解決しますか? メアリーさんがこんな姿を喜ぶとでも?」

「それが唯一の形見なんだ。メアリーが遺した、メアリーが遺していた……

「ああ、そうですか。ならなぜ、手紙に文章の一つもないんでしょうね」



 手紙を奪うようにひったくり、改めて注意深く読んでみる。彼の言うとおり手紙には何も書かれていなかった。まるで、サイレントヒルにいたときのように。



「そんなはずはない。確かに書いてあったんだ。君が消したとかじゃ」

「本気で言ってますか?」

「私は……



 メアリーを失い、ジェイムスも生きる意欲を失って久しかった。サイレントヒルに行ったのもそうだ。アンジェラには決してそんなことないと断言したものの、メアリーのもとを訪れてから心のどこかで認めていた。結局私は、死にに行くのだと。言葉の続かないジェイムスにレオンはふたたび手紙をさらうと、破り捨てるようなそぶりを見せた。駄目だ。大急ぎで止めに入った手を掴まえ、彼が口を開く。



「破ってしまおうかと、そうも思いました。ですが、誰かが大事にしているものをそんなふうに扱うべきではないでしょう。礼儀にも反することです。だから黙っていました。だからこそ、見守り続けているのがもどかしかったんです。あなたはいつだって何も書かれていない手紙を抱きしめ、メアリーさんの名前を呼んで泣いていた。それが俺にどう見えたかわかりますか?」

「異常だっただろう、さぞかし」

……とても言い表せない罪責感と憐憫でした。人ひとりが抱えるには大きすぎるほどの。どうしてそれを共有しようとしないんですか。警官では、こんなとき役に立ちませんか?」



 ジェイムスは俯いた。サイレントヒルで己が見た真実は誰にも明かせないものだった。それがたとえ、目の前でやる気に満ちあふれている新米の警官だったとしても。

 彼はレオンに背を向けた。手紙すらレオンの手に残したままだった。何も答えたくないと言わんばかりに、言葉もなく足早に逃げるように。レオンは手紙をそっと撫でた。俺はまだ、彼の信頼に足る人間ではないのだろうか。











9.



 サイレントヒルというのはどんな場所なんですか。



 気を失っていたジェイムスは彼の言葉にしばし首を巡らせた。ふかふかのベッド。ミッドウィッチ小学校にはない柔らかさだった。



「頭が痛い」

「ええ、無理もありません。階段から転げ落ちたんですから」

「だけど、もう歩けると思う」

「休んでいてください。どのみち、ここでは特にすることもないから」



 額に載せられたタオルが冷たくて心地よかった。ジェイムスは理由のない安らぎを感じつつ、ふたたび目を瞑った。頬を撫でる手がくすぐったい。自分がこうしてもらうのはいつぶりだろう。



「熱も出ていますね。総合病院の類はないんですが」

「その……もう行ったほうがいい?」

「そう聞こえましたか? ……儀式で不注意なあなたが少し憎らしいと言いたいんです」

「鼻血も出ていた気がする」

「ええ」

「儀式、誰と一緒だっただろう。思い出せなくて」

「いまさら気にしてどうするんですか。回復に専念してください」



 小さな時計の秒針がチク、タク、チク、タク、と一定の速さで時を刻む。その音すらなかったら、あまり親交のないレオンと息詰まるような時間を過ごさねばならなかっただろう。ジェイムスはふいに体を起こしてベッドに座った。彼がびくっと体を跳ねさせる。攻撃でもされると思ったようだ。



「サイレントヒルは正直、町としてさほど面白いところじゃない。ただ自分が誰とその場所を楽しんだかが大事なのであって」

「よほど大切そうに話す割には評価が低いですね。シェリルさんも似たようなことを言っていた気がしますが。本当にそんなに見どころがないんですか?」

「遊園地が一つあることはあった。そこで売っているウサギのマスコットがなかなか恐ろしい見た目をしていて。いつだったかリージョンという殺人鬼が着ていた、あのウサギのマスコットだ」

「遊園地にそんなものが売られてるんですか?」

「意外と人気があったんだ。なぜかはわからない。私とメアリーはあまり気に入らなかったから。遊園地はすごく騒がしくて、混み合っていて、頭に響くほどだった。湖が本当にきれいだったよ。私が小さなボートをゆっくり漕いだんだ。降り注いだ日差しがダイヤモンドみたいにきらめきながら肌に落ちて、メアリーの茶色の髪によく似合っていた。強くもなく、かといって弱すぎるわけでもない日差しが。涼しくて気持ちよかった。君にも見せられたらいいのに。レイクビューホテルも素晴らしかったよ。名前の通り、ホテルからの眺めが最高だったんだ。朝に夜に、いつ見ても美しかった。トルーカ湖で人が蟻のように小さく動き回るのを見ていると自然に笑みがこぼれたりもして。ああ、あのホテルで出てきた朝食のアイスクリームが美味しかったな。アイスクリーム自体そんなに好きではなかったんだけど、控えめな甘さがよかった。特にメアリーが気に入っていっぱい買っていたよ。しばらくはそれを食べるせいで食事が入らなくて大変だった、子どもみたいに」

「こんなに口数の多い方とは知りませんでした」



 レオンの言葉にジェイムスはハッとして口を噤んだ。わきまえもせず喋りすぎたようだった。誰が喜ぶだろう。よく知りもしない人間がうるさく騒ぐことなど。レオンが薄く微笑んで言葉を続けた。



「初めて見ます。そんなに幸せそうな顔」

「申し訳ない……黙っていようか」

「いいえ、俺は。あなたが笑っていると嬉しいみたいです」



 彼の言葉を最後に、ジェイムスは特に何も言わなかった。初めに顔を合わせたときと似た静寂だったが、それでもそのときほどのぎこちなさはなかった。疲れた目を閉じて睡眠をとることにする。頬をくすぐる手つきがふたたび感じられた。











10.



 今回もまた通り過ぎていくだろう。



 カーテンの内側に身を潜め、もう信じてもいない神に主の祈りを唱えながら、ジェイムスは冷たい汗を流した。きいぃ、きぎっ。奇怪な金属音。耳が聞き疲れたのか一音階低く聞こえる。苦しく呼吸していたジェイムスは自分の前を通り過ぎる何かに息さえも止めた。まさか、聞こえたはずはない。足音は一度ぴたりと立ち止まると、また前へと進んでいった。ふう、と息をつき、カーテンを引いて外に出る。

 病院でやるべきことがまだ残っていた。だからこそ逃げるわけにはいかなかった。乱雑に散らばったタイプライターの紙のうち、番号が書かれた紙を丁寧に畳んでポケットへしまう。黄色い鉄製のドアを開けてマリアのところへ行かねばならない。一人残った彼女が恐ろしさに震えているだろう。だが一つ、気になることがある。屋上で見たあの日記。あの日記に書かれていた筆跡はよく見知ったものだった。不安に唇を噛んでドアを開ける。



……ああ、そんな」



 奴がいまだに前を見張って立ちはだかっていた。後ずさり? 意味がない。奴はこちらの首を掴むと、頼りない病院のベッドに勢いよく押しつけた。息ができず、じたばたもがいて手首を引っかく。意にも介さないというように徐々に首が絞められていく。酸素が足りなくなるというのは、こういう気分なのか。ジェイムスは最後の景色になるであろう天井を見ながら咳きこんだ。いきなり大量の酸素が喉に流れ込んできて、咳を誘う。

 三角形の金属頭からは憤った牡牛のような、しゅうしゅうという音が聞こえていた。そもそもこれに声帯など存在するのか? 抵抗しないジェイムスに気分をよくしたのか、首を絞める手が遠ざかる。そうして膨れ上がった下半身を扱きながらその存在を知らしめた。それを受け入れるだなんて正気の沙汰じゃない。逃げようとしたジェイムスの腰を大きな両手ががっしり掴む。痣はもちろん、骨が砕けないことを願うばかりだった。



「い、いたい」



 すでに彼は与えられるだろう苦痛がわかっていた。抵抗は無意味だ。ただ、その苦痛をどうすれば少しでも和らげられるか、それを考えるよりほかなかった。

 彼はぎゅっと目を瞑ってメアリーのことだけを考えた。君に会えるというなら、これぐらいのこと。



「メアリー、メアリー、メアリー、メア、リー……



 ジェイムスは涙をこらえた。病院を出ることはできなかった。逃げるわけにいかなかった。メアリーが、マリアがまだ、自分を待っていたのだから。











11.



「そういえば、君はいくつだっけ」

「21歳です」

……クレアさんは?」

「19歳だと聞いてます」



 ああ、なんてことだ。シェリルと同じ年頃だなんて。



 レオンの呑気な返事にジェイムスはしばし頭を抱えた。いくらなんでも若すぎる。17歳のシェリルは教団によって父親を失い、彼らの生み出した間抜けな神を殺した。そうだ、シェリルはまだ幼かった。ならば彼らは? 21歳、やっと警察学校を卒業した新米の警官で、19歳と言えばまだ大学に在籍しているようなもの。ゾンビが押し寄せる事態を乗り越えようやく生き残った人たちだ。つまり、彼らは。あまりにも幼かった。



「ところで、どうして急にそんなことを?」

「人生というのはどうしてこんなに不公平なのか、と思って」

「いったい何の、あ……。たしかシェリルさんは高校生でしたね」

「たまに、神とかいう存在が憎くならないか?」



 ジェイムスはそれとなく、レオンに問いかける。29歳にもなった自分が21歳の青年に訊くような質問ではなかったが、メアリーが病気になったあと、ジェイムスは篤く信じていた神を捨てた。正確に言うなら神が自分たちを捨てたのだろう。あれほど一心に祈りを捧げても、かの全能の力はこんなつまらない病気一つさえ退けてくださらなかったのだから。特にシェリルなどは神について話すことを嫌っていた。もう一度その名前を口にしようものなら拳を覚悟しておけと言わんばかりの表情まで浮かべた。あの子はわけのわからぬ教理で成り立った教団に父親を奪われ、自分がその神になるところだったのだ。シェリルはまれに、ジェイムスの懐に潜りこんで父親を求めて泣いた。いつも堂々と気丈に振る舞ってはいても、間違いなく幼い少女だった。



「憎まないはずないでしょう」

「そうだろうな、やっぱり」

「もともと神は信じていません。神がいるなら、世の中がこんなにも雑然としているわけがない。少なくとも俺が警官になった動機はそうです。神がいないから警察がいるんだと。神のようなあやふやな存在より、法のように確かな存在のほうがむしろ神じゃないのかと不敬に考えたりもしました。ですが……こうして連れてこられてみると、神ではなく悪魔を信じるようになりましたね」

……

「あなたは、信じますか?」



 すでに神を捨てて久しい。

 ジェイムスは首を振った。寂しげに笑って、不治の病さえ取り除けない神がどうして神であろうかと静かに語る。26歳、メアリーが3年ものあいだ患ったから。29歳の自分には神という存在はあまりに遠く、荒唐無稽にしか思えなかった。家にあった十字架も、聖書も、メアリーが死んでからはすべて捨ててしまった。もう何を信じていいかわからず、そうすると自分さえも信じられなくなった。



「俺は神より人との絆を信じますよ」

「そうなのか。きっと警官は天職だっただろうな。もしも、その、君の世界が無事だったら」

「クレアと俺を見てください。あなたが思うように、理不尽な年齢かもしれません。だけど俺たちはあそこから生きて脱出しました。もちろん、そこには犠牲もありました。ですが生き延びたことだけでも価値があります。アンブレラの筆舌に尽くしがたい悪行を知り、神を恨んでは銃を頭に押し当てて撃ってしまおうかと、幾度となく考えもしました。そうしたら確実に楽になれますから。結局しませんでした。クレアは俺を待つでしょう。そしてクレアに信頼を寄せて生き延びた子どもも、俺のことを待つでしょうから。だから、がむしゃらに生き延びました。絆というのは神より立派な存在だと俺は思いますし、これから先も考えは変わりません」

「そう、……そうだな。君はまだ若いのに、大人びた考え方をする」

「必ずしもみんな大人である必要がありますか? 俺は……少なくともそうは思いません。大人だって泣いてもいいし、甘えたって構わないでしょう。年齢なんてただ時間の流れに従って積み重なるものです。こだわる必要はありません。それにたぶん、俺は……

「うん」



 ためらっていた彼はジェイムスの肩に頭をもたせかけた。人との絆か。ジェイムスは深い思考に沈んだ。



「あなたに甘えているのかも、しれません」

「疲れているようだけど」

「ええ……



 彼の名前を呼び、返事がないのを確認して彼を寝かせる。焚き火に小さな木をくべた。ぐっすり眠っている他の人たちのために薪を静かに継ぎ足す。これも絆といえば絆なのか? 一つずつ試していけば大丈夫だろうと、ジェイムスは自身の手帳に何やら書き散らしながら火に当たった。