三毛田
2024-08-26 22:00:23
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31 01. 指先をすり抜けて

31日目 それはまるで悪夢

 あ、丹恒がいる。飲月の姿なのは珍しいな。
「丹」
 手を伸ばして、触れた瞬間。
 指先をすり抜けるように、彼の姿は泡となり消えた。
「っ」
 その泡の一つすら、残らない。跡形もなく消えて。
『ああ、その感情だ。もっと絶望しろ』
 誰の声だかわからないか、耳元で囁いてきて。それと同時に、胸が熱くなる。
「か、は……
 これはきっと星核の声。それとも、壊滅の星神?
 わからない。でも、こんな声が聞こえるのだからこれはきっと夢。
 しかも、悪夢だ。
 丹恒が、俺に気づかないなんて。泡となって消えるなんて。
 あり得ない。信じたくない。
「よし」
 頬を両手で叩く。
 気合を入れないと、どんどん悪い方悪い方へと思考が進むことを知っているから。
 まずはこの悪夢から目覚める方法だ。
 あんな悪趣味なものを見せるんだ。時間経過で目覚める可能性は低いと考えておく。
 とにかくこの空間を把握しておくしかないだろう。
 そう思って歩き出した瞬間、頭上から何かが割れる音。
「へ?」
 降ってくる激流。頬をかすめた槍。
「穹」
 幻聴かな。丹恒が俺を呼ぶ声が聞こえる。
「聞こえているなら返事をしろ」
「はい!」
 いつもとは違う、地を這うような低い声。
 俺の頬に両手を添え、覗き込んでくる瞳は光を帯びていて。
 インナーカラーの入った黒髪が、カーテンのように俺と外界を遮断する。
「た、丹恒先生?」
「お前は、俺の一部だ。俺もまた、お前の一部だ。そういう術をかけたのを忘れたのか」
「それは、その……
 目が右を向くと、丹恒の目もそっちに動いて。
「何故さっさと俺を呼ばない」
「えーと……
 そのことを忘れていたと言ったら、怒られる。でも、忘れていたのは事実。
 人とは違う時間を生きることになるだろう俺たちは、互いが危機に陥った時に相手の元へ向かえる術を体に刻んだ。
 そう。たとえそれが夢の中だったとしても。
 術をかけたととみんなに話した時は、全員にドン引きされたのはいい思い出。
「穹」
 ブチギレ丹恒先生だ。これは、俺に怒っているのか自分に怒っているのか。それとも、夢に引き込んだ相手に怒っているのか。それはわからないけれど、怒っているのは確か。
「ワスレテマシタ」
「正直でよろしい。と、俺が言うと思ったか」
「い、いいえ~」
 目が滅茶苦茶泳ぐ。どうしようかと思ってたら、キスされた。
「穹、好きだ」
「俺も丹恒が好き」
 抱きしめれば抱きしめ返してくれる。
「さあ、夢から覚めろ。待っている」
「うん。もう、覚めるよ」
 悪夢は、終わりだ。