浮き流し
2024-08-25 13:28:11
13242文字
Public イチ松
 

籠る熱さに花を添えて(イチ松)

・pixivと同じものです

2024,08,06イチ松ウェブオンリーを記念して
イチの家で花火をする話💋💋🎆
花火中に出張るモブがいます
雰囲気えろあり

 夏休みになった。
 インターハイも終わりお盆に入るため、殆どすべての寮生が帰省する。大体の衣類は実家にあるから、遠征よりも少ない荷物で済む。しかし、松本のリュックには随分と多くの余裕が見られる。
「あれ、荷物それだけ?少なくない?」
「ああ。持って帰るものもないし、1泊するだけの予定だから」
 松本はほら完璧だ、と印の付いたチェックリストを見せる。
「えっ、実家帰るの楽しみにしてなかったっけ」
 松本は愛犬もいるし親に会いたいとよく言っていた印象がある。一之倉の疑問に、松本は顔を曇らせる。
「そうなんだけど、帰って来なくていいって言われた。今じいさんの世話が大変で、面倒見れないからって。だから実家は顔見るぐらいで、友達の所で泊まって戻ろうと思う」
 別に子供じゃないから放ってくれていいし、じいさんも元気らしいんだけど滅多に会えないから。そう呟く松本に、一之倉が思わず口を開く。
「なら、その後俺ん家来ない?」
「え、いや……なんでだ?」
 言い訳のように思いついた考えを口にしながら、1番の願いを引っ張り出す。
「寮戻ってもご飯ないし、他の人も……、まあ……うん。そういう建前もあるけど、一緒にいたいなって」
……それは嬉しいけど、こんな時期だとイチノの親が迷惑じゃないか?」
「それは大丈夫。ウチ親が駆け落ちしたから、みんなが言う親戚に会うとか本家に行く?みたいな行事ないんだよね。だから松本が来てくれるの、喜ぶと思うよ」

   ◇・◇・◇・◇・◇

 松本は一度石川に帰省し、次の日秋田へ戻ってきた。当初最低限の荷物でスカスカだったリュックは、さらに2日間の宿泊道具と地元からのお土産で膨らんでいる。
 改札を出てすぐのところに、一之倉が手を挙げて待っていた。
「やあ、お疲れ様」
「ああ、2日ぶり。言ってくれればイチノの最寄りまで行ったのに」
「いいの。オレが松本と少しでも長くいたかったから」
 一之倉は松本を見つめて目を細める。松本の心臓が跳ね上がる。さり気なく恋人らしいことを口にする一之倉の可愛さと格好良さに、松本は自分の拳を握りしめる。せめて長袖の時ならこっそり手を繋げたのに。松本が歯痒く思っていると、勘違いした一之倉がもう少しで休めるからと背中を叩く。
「電車とバスを乗り継ぐんだけど、どこか寄りたいところとかある?家着いたらすぐ夕食だから、できれば食べ物以外で」
「そうだな……消耗品は持ってきたしお土産もあるし、特に大丈夫かな」
「分かった。電車は1番奥のホーム、自販機側出発。けどまだ20分程あるし、涼しいところで待とうか」
 一之倉が買っておいた切符を渡し、待合室へと向かう。
 田舎にしては長めの電車に乗り、4つ目の駅で降りるとそこは無人駅だ。切符を料金箱に入れ改札を抜けると、こぢんまりとした駅舎が迎えてくれる。空調はないものの、炙られそうな日光が遮られるだけで、外よりもほんの少し涼しく感じる。
……外は暑いし、中で座って待とうか」
 駅舎の中も外も、自分達以外に人はいない。ふたりだけの閉ざされた空間に、暑さとは違う汗が噴き出す。年季の入った腰掛けに座ると、重ねようとした手がみっともなく震える。ここに来るまでと同じように、隣に座っているだけ。ただそれだけなのに、息が上がり胸が苦しくなる。
 一度ぎこちなく手を握り、腕を巻きつけるように組み直す。絡めた腕や指が、しっとりと火照った肌に吸い付く。たった2日離れていただけなのに、その感覚が懐かしくて待ち遠しくなる。自分の知らない話がある。相手のいつもの香りに、知らない匂いが混ざっている。それが余計に、長い間会ってなかったように錯覚する。
 こんなところで……なんて、いつもなら気にする松本も、この時ばかりはお腹を空かせた肉食獣のよう。防犯カメラは分からなかったけど、あったとしても見せ付けてやればいい。
 絡めた手をそのままに、どちらともなく見つめ合い顔を近付ける。いつもなら伏せる目は、一瞬たりとも見逃したくて、お互いを見つめたまま唇を重ねる。唇を食むのもそこそこに、舌を差し入れて相手の口腔に水分を求める。ヘビみたいにぬるぬると絡めると鳥肌が立ち、唾液も涙も溢れて溺れそうになる。それでも、喉が乾いて欲しくて仕方がない。息継ぎをするのも惜しいぐらい、必死になって粘液を擦り合わせる。
 バスの時刻が近付くまでの間、蝉の求愛も耳に入らないぐらい、2人の宇宙に浸る。


 バス停に立つと眩しさが目に刺さる。西日に背を向けると、白い月が現れる。
「月が明るくなってきたな」
「"だって星がきれいだから"」
 一之倉の唐突な言葉に、松本は月じゃ……?と疑問符を浮かべる。
「天体観測かなにかのキャッチフレーズだってさ」
「一緒に見ませんかってことか。いいな」
「他の意味が強すぎる”月が綺麗”よりも言いやすいよね」
 松本は唇を結んだと思ったら、気負ったように口を開く。
「いや、イチノ相手なら、……ぁいしてるの意味でも言える」
「あんま言えてないじゃん」
 一之倉は喉を震わせ笑い、目尻だけを緩めたまま松本に告げてみせる。
「オレは言えるよ。"だってこんなに好きだから"みのる、愛してる」
 それはずるい……。松本が西日色に染まった顔を背ける。
「じゃあ、言いやすい誘い文句考えてみてよ」
 松本は困惑しながらも、律儀にう~ん……と考え出す。
……じゃあ、"こんなに夏がアツいから"?」
「イベントとかでアツイから一緒に出掛けようって?」
「あと、だから涼みに行きたいって意味」
「家に連れ込む気満々じゃん」
「正直クーラーが効いてるなら、どこでも行くし入れてほしい」
 時刻表よりも少し遅れてバスが来た。人が少ない割に冷房が強く、火照った体が急速に冷やされる。ただバスに揺られる時間は短く、体に熱が籠ったまま目的地に着いてしまった。

 一之倉の家は、一軒家が立ち並ぶ中にあった。2階建てアパートの1階に玄関があり、リビングでは一之倉のお母さんが出迎えてくれる。
「松本くんいらっしゃい!よく来たね」
「お世話になります」
「夕飯はあと最後の仕上げだけだから、ちょっと待っててちょうだい」
 一之倉が部屋に行くと告げると、布団をリビングと一之倉の部屋のどちらにするかと質問される。
「ならイチ……さ、さとしくんの部屋に泊まらせてください」

 階段を上がり一之倉が部屋へと案内すると、松本は物珍しそうに部屋の中を見回す。一之倉はそんな松本の背中に額をくっ付け、そっと凭れ掛かる。
……松本のさとし呼び、ぎこちなくてちょっと照れた」
「仕方ねえだろ!名前で呼ぶの、そういう時だけじゃねえか!変なこと口走ってないかきっ、緊張……したんだよ」
 跳ね回る心臓に負けないように、松本の声も小声ながらも張っていく。一之倉の腕が胸の方に回ると、松本の言葉が変に途切れて震える。背中越しに違うリズムの、しかし同じく大きな鼓動が早鐘を打って伝わる。
「分かってる。だから不意打ちでビビったの」
 一之倉の掠れた低音が、背骨を伝って松本の頭に響く。これまでだって多くはできてないものの、駅で燻って消えなかった熱はすぐに反応する。高くなった体温と汗でぬるつく肌、脚に感じる硬さを持ったもの。後ろからの行為を連想して、緊張と期待が胸をよぎる。松本の視線がベッドと床の来客用布団を彷徨う。
……っ!」
 ただここで、夕食はすぐにできるという、一之倉の母の言葉を思い出す。ここへ来る時歩いたうだるような暑さに、吐くほど走る練習。なるべく気持ちが萎えそうなことを連想する。今ここで、盛るわけにはいかない。甘く纏わりつくような空気を払拭しようと、松本が大きく深呼吸をする。それを見て、一之倉も自分に言い聞かせるように呟く。
「あんまり干渉はしてこないと思うけど、付き合ってること……言ってないから」
 だから……今は我慢。欲の浮かぶ据わった目を、窓の方へと背ける。
……暑いし、扇風機点けようか」

 そう間を置かずして夕食に呼ばれた。
「リビングにいればよかったのに。さとしの部屋暑くてごめんね」
 熱中症になってない!?心配された2人は、内心とても慌てることとなった。


 夕食を終えるとカーテンに映る西日が翳ってきた。リビングで涼んでいると、一之倉が外へ行こうと提案をする。
「松本、これしない?」
 一之倉が得意そうに、大きな袋を掲げて見せる。
「サプラ〜イズ」
「えっ花火。どうしたんだ?」
 両手で抱えるぐらいのものは、手持ち花火のバラエティパックだ。
「あると楽しいかと思って用意したんだ。松本、こういうの好きでしょ」
「ああ嬉しい。だけど、近所迷惑じゃないか……?」
 木造の家屋が密集する住宅街で育った松にとって、花火は川原か広い敷地の家でするイメージがある。一之倉の家の周囲には古い家屋が多く、地図アプリで確認した際にも川は見られなかった。
「大丈夫。町内に小さい公園があって、みんなそこでやるんだ。実際昨日も誰かやってたみたい」
 だから晩ご飯早めにしてもらったんだ。
 前もって計画されていたらしい小さな花火大会に、ありがたく参加させて貰う。

 バケツやチャッカマンなどの花火セットを確認し、近所の公園へと向かう。今はほとんど広場なんだけど。と言う場所は、スプリング遊具が2台と砂場、ベンチがあるだけの開けた場所だ。周囲はガードレールのような低い柵に囲まれ、近づくだけで敷地全体が見渡せる。
 真ん中より少し端に拠点を作り、花火の準備を進める。一之倉がバケツに水を汲んで戻ってくると、松本は取り出した花火をより分けては千切っていた。
「なにしてんの」
「ここの長い紙は保護のためだから、取った方火が付きやすいんだ」
 別に破壊してるわけじゃないぞ。そう説明する松本ではあるが、一之倉が気になったのはそちらではない。別々の袋に入っていた花火は、几帳面にも似たような種類ごとに並べられている。
「いや並んでる方。実習室の工具並べてあるやつじゃん」
 見覚えありすぎてなんかイヤ。一之倉の苦笑を気にせず松本は胸を張る。
「この方が種類が分かりやすいし使いやすいだろ?」
 複雑な気持ちで花火を眺める一之倉に、松本が2本の筒を見せる。
「噴き出し花火は最初と最後、どっちがいい?」
「うーん、じゃあ最初?花火大会記念の祝砲、みたいな」

 公園の真ん中に花火の筒を置く。慎重に火を付けると、導火線がバチバチと音を立て燃え始める。爆発してしまわないか、あらぬ方向に飛んでしまわないかと緊張が走るものの、心配は杞憂に終わる。何本もの光の塊が空高く打ち上がると、焼ける音とともに白く太いアーチが架かる。後を追う星屑が、少しずつ空へと吸い込まれていく。花火大会の打ち上げ花火ほど音は響かないものの、至近距離ゆえの勢いと熱を間近に感じられる。
「うわ……近いと迫力すごいね」
「多分、スターマインの下のやつだよな」
「ね。ちゃんと見られることないから新鮮」
 もう1つの筒に火を付けると導火線が弾け、すぐさまガスバーナーのような炎が噴き出す。真っ直ぐ立ち上がる火柱が、堰を切ったように勢いを増す。バチバチと弾けた火薬と熱が、着火後すぐ距離を取ったはずの松本に襲い掛かる。少し離れた一之倉の元に、松本がおっかなびっくり避難してくる。
「だ……大丈夫なやつか……?!」
「多分。燃えてはないし。見て、綺麗だよ」
 一之倉が指す方を振り返ると、至近距離でみたよりも花火が大きく噴き出している。火柱に見えたものはキラキラしたオレンジ色の束で、低くなっては再び高く燃え盛るを繰り返す。そしてその周りでは、背丈よりも高く広い範囲に小さなキラキラが弾け飛ぶ。激しく点いては消える光がイルミネーションのようで、とっくに過ぎ去った冬の街中デートを連想させる。
……ああ、綺麗だな」
 光の割に煙は少なく、その空間が薄い白になっては薄暗さが戻る。残された煙と火薬の匂いが、余韻と花火への気持ちを盛り上げる。

 ババババババ!!!
 白い竹ぼうきの花火は火花と音が力強く、手に暴れるような振動が伝わる。生えている草も燃やしてしまいそうなほど大きく噴き出す。水流を強めたホースの先を潰したみたいな、強く不規則な衝撃が手に伝わる。
 他にもススキのようなもの、途中で色が変化するもの。手持ち花火に火を付けては、鮮やかな炎を目に焼き付ける。
「リアカー無きK村ってあったよな」
……炎色反応?」
「打ち上げの花火と大きさ全然違うのに、すごいよな」
「メカニズムは同じだろうけど、こんなきれいなのよく考えたなって思うよね」
 鮮やかな光と充満する火薬の匂いが、花火をしているという実感を強くする。
「楽しいね。これ連想してれば溶接も楽しくなるかも」
「なら飛び散るのが花火ならもっと楽しいかもな」
「いや、その時は溶接部しか見てないから別に」
「そうか……

 元気な挨拶とともに、近所の小学生3人がやってくる。
「にーちゃんたちなにやってるんだ?!」
「まぜて~!」
 別の友達宅から帰る途中に、花火の音を聞きつけたようだ。
「ああ、いいよ。けど親が良いって言ったらね」
「でも残りこれだけだから、あんまりできないぞ?」
「なら持ってくるよ!俺ん家花火めっちゃあるんだ!」
 電話で確認を取ると快諾されたらしく、1人がちょっと行ってくると自転車で走り去る。友達2人がキヨスクん家、夏はいつでも花火パーティできるんだ!と自慢をする。
「俺のとーちゃん、サトシと大人といるなら8時ぐらいまで良いってさ」
「おい、俺らまだ大人じゃないぞ」
 戸惑う松本に、小学生2人は驚く。
「えっ、にーちゃん達そんなでかいのに大人じゃないの?」
「キセイって結婚した大人が帰ってくるやつじゃないのか?おまえら普段見ないぞ?」
「年上におまえらって言うな。高校の寮に住んでんの」
 一之倉が松本を指して補足する。こっちは初めて来たオレの友達、むしろ知ってたらすごいよ。
「コーコーセーも大人みたいなもんじゃね?」
「学校に住むの楽しい!?」
「そんな楽しいもんじゃねえぞ?」
「オバケとか出る!?」
「残念。オバケは出ないけど、もっと怖い先生がいるよ」
 しばらくすると、キヨスクが花火を2袋持って戻ってきた。小学生3人が意気揚々と封を開けていく。取り出した花火が山になるのを見て、松本が無言で口を開閉する。全てを出し終えるとそれぞれが花火を持ち、一斉に火を付ける。
「じゃあ、花火大会の始まり~!」

 人数が多くなると、燃える花火も上がる煙も多くなる。風があってもずっと、火薬の匂いが立ち込める。暗さが増し種類も雑多にあるため、それがどんな花火か分からない。花火から火を拝借されると、すぐ隣から勢いの違う光が生まれる。自分の花火が終わってもまだ、誰かの花火が賑やかな音を立てる。
 2人きりとはまた違う楽しさに、心が沸き立つ。

「痛て」
 一之倉が呟いた時、噴き出すススキの周りに線香花火のようなパチパチが弾けていた。隣の松本が心配するも、一之倉は神妙な顔をして左腕をさする。腕に飛んだ火花が、ちょっとした痛痒さを伝える。
「はは、普段の実習ほど熱くないや」
 松本は一之倉の教科書にあった、溶接作業の写真を思い浮かべる。確か宇宙空間での活動や、汚染地帯で捜索活動でもしてそうと思った格好だ。
「子供も遊ぶもので、そんな危ないのダメだろ……

 小さいながらもやたらと力強い音がする。花火には違いないが、今までしてきた花火では聞かない音だ。松本が周囲を見回すと、ショータが線香花火を束にして火を付け、キヨスクが花火を振り回していた。
「ウワッ!なにやってんだ!」
「センコー花火、地味で面白くないだろ。だからまとめてファイヤー!」
「危ねえ!ホラ、キヨスクも腕は体の前!手足出てんだから火傷するぞ」
 一之倉は、松本が加わってより騒がしくなった3人を見る。深津相手も小さい子相手も、騒がしいのが変わらない。バスケ以外でも見せていたように、既にいいお兄さんのようだ。きっと将来いいお父さんになるんだろうなと、暖かな気持ちになる。
 次に松本は、離れて花火置き場で佇むサトシに声を掛ける。サトシは持ち手のない丸い紐のようなものを摘まみ、不思議そうにしていた。
「それ動きが面白いぞ。サトシ、しっかり見てろよ〜!」
 松本は丸い花火を離れたところに持っていくと、注意を引いて火を付ける。丸い光るものがぐるぐる高速回転し、放射線状に火花をまき散らす。
「ヒッ速!」
 しばらく周囲と回り続けると、唐突に閃光を放ち弾けて消える。
「すごいだろ?ほら、二人に見せてやろうぜ」
 松本は悪戯っ子の笑みでサトシに囁く。サトシがチャッカマンとねずみ花火を持って離れると、遠くでショータとキヨスクの悲鳴が上がる。
「ギャア!こっち来るな!」
「なにコレ!?」

 子供以上に楽しんでる松本を見て、一之倉は愛しく思う。ただ、笑みは硬く口元で結ばれ、浮かぶ表情は今ひとつ晴れない。松本に呼ばれたと思った名前が、違う人を指すものだったからだ。
 恋人の「さとし」は滅多に呼んでくれないのに、その「サトシ」は簡単に言うんだ。
 同じクラスの松本俊樹を呼ぶ時、別に松本稔を重ねたりはしない。果物が実るって言葉の並びに、わざわざ稔を意識したりしない。他に意味なんてない、それは解ってるのに。一之倉は唇を歪めて自嘲する。ぼんやりする思考の向こうで、光が音を立てて消えていく。

 松本はねずみ花火をバケツに入れると、拠点に戻りがてら一之倉の様子を窺う。一之倉が暗闇の中、ぼんやりと花火に照らされている。一之倉を放置してしまっていたものの、花火自体を楽しんでくれてるようだった。斜め下に噴き出す太いススキの合間に、いくつもの大きな星が溢れ落ちる。一之倉の静かなほほ笑みに、見られてよかったなと思う。
 ただそれと同時に、なぜか焦燥感に襲われる。毎日会ってるんだ、どこぞの恋人みたいに年に1回の逢瀬なんてことはない。それに、一之倉は並の男子より遥かに力強い。一之倉が本気出せば深津でも苦労するぐらい、微動だにしなくなる。だけど、目を伏せてキラキラ輝く表情と現れては消える流れ星に、一之倉も消えてしまうんじゃないか。言いようもなく不安になってしまう。
 イチノ。松本が呼びかける前に、立ち上がった一之倉が声を張る。
「暗いけど帰らなくていいの?」
「え〜!もっとやりたい」
「あ、母さんから連絡きてる……いいかげん帰らないと」
 小学生3人組が自分たちの持ってきたものを片付け、帰る準備をする。
「そしたら、こっちの処理お願いしてもいいですか?」
「ああ。残りやっとくから、気を付けて帰るんだぞ」
「またね」

 残った一之倉と松本は、当初より少し多くなった線香花火をする。他の手持ち花火とは火花が燃える様子や匂いが、また違った雰囲気を醸し出す。
「他と比べたら寂しいけど、締めって感じするよな」
「そう?オレはこの粘り強さ好きだね」
 火種を落とさないよう、小さな炎を遮らないよう、内緒話をするように声を潜めて話す。さっきまでの賑やかさは鳴りを潜め、落ち着いた空気が流れる。
「思ってたより大きく弾けるんだな」
「なんか、意外と腕が長いんだね」
 線香花火は細い光ながら四方八方に枝葉を伸ばし、元気に弾けては空間を力強く焦がす。ヒゲのように光が緩やかに流れ、一際明るい丸が赤く大きく膨らむ。火の玉が色の違う液体となってぐるぐる流れ、雫が生き物のように震える。
 もう少し、いや意外と長い。そう思っていると唐突に終わりを迎える。赤の恒星が幹から飛び立つと、地面に激突しては無念の音を立てて消える。 隣の残念そうな声を残し、異空間の静寂に包まれる。耳を澄ませてみれば、遠くから涼しげな虫の音が聞こえる。

 最後の線香花火に火を付けていると、松本が呟く。
「イチノ、ありがとな。気、遣ってくれて」
……なんのこと?」
 松本は弾け始めた短い光を見つめながら、穏やかに言葉を乗せる。
「帰省に誘ってくれたの、無理すると思ったからだろ?じいさんのこと以外でも」
 最初は知らぬ顔を見せた一之倉も、鼻から短く息を漏らす。
……バレてた?」
「確信したのはイチノが花火用意してたから。イチノ、花火あんまりしたことないって言ってただろ」
「なんで覚えてるの」
 花火の話なんて去年したかどうかなのに。苦笑する一之倉に、松本が好きな人の話なら覚えてると当たり前のように胸を張る。
「好きなヤツを楽しませてやりたいし、他で花火してもオレを思い出してほしいって思ったから」
 一之倉は目を見開いて松本の方を見る。突然の呼吸の乱れと向いた振動で、花火の軸が振れる。しがみ付いていた火の玉が離れ、音を立てて消えてしまう。
「あっ…………そういうの、小出しにするのやめてよ」
 去年の夏前なら、互いに告白の選択肢すらなかった時期だ。普段言わないくせに、重いんだよ……。俯き顔を押さえぼやく一之倉に、松本はしたり顔を見せる。
「言ってただろ、俺は重いって」

 半丸だった月も厚い雲に隠れてしまえば、雲より高いところを照らすだけ。ランタンとロウソクの火が、肝試しのように足元を照らす。
 ……よかった。一之倉は目線だけで確認し、こっそりと息を吐く。
「沈んでるとは思わないけど、ずっと張り詰めてたし、根詰めないかちょっと心配してた」
 それは……心配かけた。松本は言葉だけで謝る。
「今までだって研究して対策して、それでもギリギリだった試合なんていくらでもある。沢北が抜けるのはでかいし、オレに沢北の代わりが務まるとは思えねえ。ただ、あいつだって戦術のひとつだろ。沢北がいないから楽だなんて言わせねえ」
 それに悔しいけど、三井はスリーもフェイクも上手かった。間近で体感したからには、できるだけモノにしてえ。松本は語気を強め闘志を燃やす。とっくの昔に消えた儚い火なんかよりも、熱く先を見据えている。
……そう。頼りにしてる。オレももっと相手に当たりにいくし、戻りを早く、プレッシャーかける。でかい奴でもできるだけ自由はパスを通させない。」
 一之倉は松本の方を向いて眼を鋭く光らせる。
「でも、無理するようなら引っ叩いてもやめさせるから」
「ああ、頼む。イチノもな」
 一之倉は一度頷くと、明るい声色でさっき思ってたんだけどさ。と話題を変える。
「花火をより長く保ってた方が1つお願いできる。って考えてたんだけど、して欲しいこととかある?」
 でもな、言わなかったしね。揶揄うように言えば、松本が前のめりで即答する。
「いいのか!?なら今度国体の自由時間、オレと一緒にいてほしい」
 一之倉は少し拍子抜けしたように単語を繰り返す。
「国体の自由時間?10月じゃん。夏祭りとかじゃなくていいの?」
「ああ。夏祭りは同じクラスの田辺と行くんだろ?だから、その後の国体。佐賀の街でイチノを独り占めさせてほしい」
 できれば一緒に行きたいけど、先客がいるだろと口を尖らせる。夏休み前に隣のクラスから、借りいっぱい返すから奢らせてくれ!と大声が聞こえてきた。そして実家の楽器を触らせてもらうことを条件に、一之倉が渋々承諾したのもしっかり伝わってきていた。一之倉は田辺め……と苦虫を嚙み潰して眉を歪める。まだ断る気があったから松本に伝えてなかったのに、全部筒抜けだった。
 一之倉は深いため息を吐いて気持ちを切り替える。
「わかった、国体ね。エスコートさせてよ」
「よし。じゃあ、片付けるか」

 空気は蒸し暑くとも、風が吹けば若干の涼しさを感じられる。秋のような虫の音を聞きながら、花火の後始末をする。
「ちゃんと全部水に浸けておかないとな」
「火が燻ってると火事になっちゃうもんね」
 松本が花火をしていた場所に何度か水を撒き、一之倉が未使用のものや放置したままのものがないか確認をする。ロウソクの火を消すと、ランタンの光以外闇に沈んでしまう。
離れた光を目指して歩こうとする松本を、一之倉が正面から勢いよく抱きしめる。
「!?」
 火薬と虫除けスプレーの香り。いつものイチノからはすることのない匂いに、松本は一瞬体を硬直させる。一之倉は左手で松本の後頭部を引き寄せ、強引に唇を重ねる。
「イチ、……?!」
「なんか寂しくなって。……ねえ、いいでしょ」
 何度も触れるだけのキスを落とす。
「んっ……イチノっ」
 松本が合間に一之倉を呼ぶも、一之倉は拗ねたように唇に吸い付く。
「なまえ呼んで」
「?」
「さとしって、さっきの子には呼んでた」
……うん、さとし」
「もっと」
「さとし」
「ん、みのる……
 喰んでは可愛らしい音を立てて唇が離れる。何度も角度を変え、柔らかな感触を味わう。ようやく離れた時には声も瞳も甘く蕩け、はちみつのようにお互いを見つめる。
「さとし、好きだ……
「うん、オレも好き……

 一之倉が再び口付けると今度は舌で唇をなぞり、舌先を浅く差し入れちろちろと遊ばせる。唾液を飲み込むのに合わせ舌を大きく侵入させると、歯列や舌の裏頬の裏口の中隅々までも舐め回す。マーキングするように粘液を塗っていると、焦れたように松本が薄い舌を伸ばし、絡ませてくる。吸い付き追いかけてくる熱くぬるついたものに、体が熱く湿り気を帯びる。粘膜が擦れるたびぞくぞくと快感が襲う。水音や漏れる吐息が大きく響き、沸騰する頭が思考を焼く。
 一度口を離すと銀糸の橋が架かり、美味しそうに色付いた目元や唇から目が離せなくなる。息が整わないうちにまた吸い寄せられ、息をするのも忘れて咥内を貪り合う。快感と酸欠で、閉じた瞳に膜が張る。無意識に腰を揺らし、昂ったものを擦り付ける。
 松本の後頭部にあった一之倉の手が、耳をなぞり穴に差し入れ首へと降りて行く。上顎のざらついたところをなぞり、舌を擦り絡め、上がる吐息ごと吸い上げる。弱いところに触れるたび、甘くくぐもった吐息が漏れる。生まれた快感が、バチバチと全身に電気を走らせる。どろどろに溶けた頭がもう、気持ちいいことしか考えられなくなる。遠慮なんてない互いの手が、腰を這い回り尻を揉みしだく。もっと大きな快感を得たい。
 前も触ってほしい……。そう言おうとした松本が突然両腕を前に突き出す。
「ぁ、とし、だめだ……っ!」
 快感に溶けた弱々しいものではあるものの、唐突な拒絶に不意を突かれる。一之倉が驚いたままでいると、前屈みになった松本がもぞもぞ股間を押さえて距離を取る。その挙動に合点がいく。一之倉だって、同じ現象が起きてるのだから。
 松本が首を振って、散らばった理性を手繰り寄せる。今いるのは公園で、この公園は外から丸見えだ。車通りも少ないし街灯も薄暗いとはいえ、人が来れば流石にバレる。そもそも屋外で致すことはできない。
 ただここで終わらせる気なんてない一之倉が、距離を詰めると松本の胸元を掴み引き寄せる。
「家で続き、しない?」
 声は、余裕を欠き欲が滲み出ている。その手は明確な意図を持って、股の付け根の辺りをゆっくりと撫で回す。一之倉の誘う仕草に、松本の体が震える。
「い……イチノの両親が……、世話になるのに……
 松本は申し訳なさそうに目を泳がせる。そんな松本の逡巡だって殆ど体裁から来るものだ。一之倉が耳元で掠れた低音を耳に流し込む。
「あのアパート、意外と壁厚いんだよ」
 それにウチの親、夕飯後は部屋に籠るんだ。
松本が生唾を飲み込む。一之倉の囁きが、松本の理性を1枚づつ剥がしていく。
 寮とは違って、常に部屋の外を気にしなくていい。それに隣の部屋は物置状態だ。ベッドだと響くけど、今日は布団がある。朝さえちゃんと起きれれば多分気付かれない。魅力的な文句に、考える素振りを見せた松本は短く告げる。
「早く戻ろう」
 花火が浸かったバケツを乱暴に掴むと、早足で家へ戻ろうとする。一之倉はそんな松本を見て笑みを深くする。あれでいて、松本は結構快感に忠実だ。
 ウチの親2人とも、明日仕事なんだよね。
挙動不審になるだろうから、まだ松本には言っていない。朝親を見送ってからは、誰にも邪魔されない自由な密室ができる。なんなら夕食を食べてから寮に戻っても、多分殆ど人はいない。
 家に帰ってからの予定に心膨らませていると、荒げた松本の鋭い声が飛ぶ。
「早く行くぞ!」
 一之倉が着いて来ないことに気付き焦れたようだ。元々助平ではあったけど、育てたのは一之倉に違いない。求めるてくれる熱心さ加減に、一之倉の独占欲が満たされる。
「今行くよ!」
 一之倉の部屋には濡らすものも指や息子に着けるものも、用意はしてある。このまま、できないこともない。
だけど、今2人でお風呂に入れないから、そこは我慢しないと。そう計算して、松本の元に走り出す。
 一度口を離すと銀糸の橋が架かり、美味しそうに色付いた目元や唇から目が離せなくなる。息が整わないうちにまた吸い寄せられ、息をするのも忘れて咥内を貪り合う。快感と酸欠で、閉じた瞳に膜が張る。無意識に腰を揺らし、昂ったものを擦り付ける。
 松本の後頭部にあった一之倉の手が、耳をなぞり穴に差し入れ首へと降りて行く。上顎のざらついたところをなぞり、舌を擦り絡め、上がる吐息ごと吸い上げる。弱いところに触れるたび、甘くくぐもった吐息が漏れる。生まれた快感が、バチバチと全身に電気を走らせる。どろどろに溶けた頭がもう、気持ちいいことしか考えられなくなる。遠慮なんてない互いの手が、腰を這い回り尻を揉みしだく。もっと大きな快感を得たい。
 前も触ってほしい……。そう言おうとした松本が突然両腕を前に突き出す。
「ぁ、とし、だめだ……っ!」
 快感に溶けた弱々しいものではあるものの、唐突な拒絶に不意を突かれる。一之倉が驚いたままでいると、前屈みになった松本がもぞもぞ股間を押さえて距離を取る。その挙動に合点がいく。一之倉だって、同じ現象が起きてるのだから。
 松本が首を振って、散らばった理性を手繰り寄せる。今いるのは公園で、この公園は外から丸見えだ。車通りも少ないし街灯も薄暗いとはいえ、人が来れば流石にバレる。そもそも屋外で致すことはできない。
 ただここで終わらせる気なんてない一之倉が、距離を詰めて松本の胸元を掴み引き寄せる。
「家で続き、しない?」
 声は、余裕を欠き欲が滲み出ている。その手は明確な意図を持って、股の付け根の辺りをゆっくりと撫で回す。一之倉の誘う仕草に、松本の体が震える。
「い……イチノの両親が……、世話になるのに……
 松本は申し訳なさそうに目を泳がせる。そんな松本の逡巡だって殆ど体裁から来るものだ。一之倉が耳元で掠れた低音を耳に流し込む。
「あのアパート、意外と壁厚いんだよ」
 それにウチの親、夕飯後は部屋に籠るんだ。
松本が生唾を飲み込む。一之倉の囁きが、松本の理性を1枚づつ剥がしていく。
 寮とは違って、常に部屋の外を気にしなくていい。それに隣の部屋は物置状態だ。ベッドだと響くけど、今日は布団がある。
 松本は考える素振りを見せるも短く告げる。
「早く戻ろう」
 花火が浸かったバケツを乱暴に掴むと、早足で家へ戻ろうとする。一之倉はそんな松本を見て笑みを深くする。あれでいて、松本は結構快感に忠実だ。
 ウチの親2人とも、明日仕事なんだよね。
挙動不審になるだろうから、まだ松本には言っていない。朝親を見送ってからは、誰にも邪魔されない自由な密室ができる。なんなら夕食を食べてから寮に戻っても、多分殆ど人はいない。
 家に帰ってからの予定に心膨らませていると、荒げた松本の鋭い声が飛ぶ。
「早く行くぞ!」
 一之倉が着いて来ないことに気付き、焦れたようだ。元々助平ではあったけど、育てたのは一之倉に違いない。求めるてくれる熱心さ加減に、一之倉の独占欲が満たされる。
「今行くよ!」
 一之倉の部屋には濡らすものも指や息子に着けるものも、用意はしてある。このまま、できないこともない。
だけど、今2人でお風呂に入れないから、そこは我慢しないと。そう計算して、松本の元に走り出す。