三毛田
2024-08-25 06:19:50
4051文字
Public 穹丹
 

君が無事であることが何よりの土産

穹丹ワンライ
お題:土産、薬味程度の惚気

「たっだいま~! 丹恒、ちゅ~していい?」
「おかえり、穹。着替えはどうした。もう出したのか? 手洗いうがいはしたのか?」
 笑顔を浮かべ、俺を出迎えてくれた丹恒は俺が飛びつくより先に矢継ぎ早に告げて。
 着替えの荷物は部屋に放り投げてきたし、よくよく考えれば埃まみれだ。
「シャワー浴びてきます」
「そうしてくれ。そしたら、好きなことしていい」
「そんなこと、言っていいの?」
 あんなことやこんなこと、ムフフなことまで考えながら、シャワーを浴びて出てくる。
 丹恒は、キンキンに冷えたエナジードリンクの無糖をくれて。
「ありがとう」
「どういたしまして」
 半分ほど飲んで、キャップを閉める。
「抱き着いていい?」
「ああ」
 久しぶりの丹恒は、いい匂いがした。首に顔を埋めて匂いを嗅いでいると、背中の肉をつままれ。
「丹恒先生、お肉つままないで」
「お前が俺の匂いを嗅がなければ問題ない」
「うう……
 俺が丹恒の匂いが好きであるのを知っていて、この仕打ち。
 仕返しにと尻を撫でて腰を撫でて、尾てい骨の辺りを叩いていると、背中に腕が回ってきて。縋りつくような体勢に。
「丹恒痛い、角刺さってる」
 いつの間にか飲月の姿になっていた丹恒は、しっかり俺に抱き着いてきて。だけど、角が顎に刺さってくる。
 勢い良く、グサッとじゃないのはまだ救いだ。
「えっと。お土産があるけど受け取ってもらえる?」
「ああ」
 名残惜しく思いながら離れ、部屋から持ってきた箱を渡す。
「開けていいのか」
「うん。開けていいよ。丹恒のために買ってきたものだから」
 丹恒は嬉しそうに目を細め、包装を剥がしていく。
「これは……なんだ?」
「栞とスノードームってやつ。読み切っちゃったら使わないかもしれないけどさ、どうしても切り上げないといけない時に使えるでしょ? スノードームは、えっとね、バットを持ったアライグマ。別々の依頼で一緒にいられない時に、眺めてくれたらいいなって」
 段々と早口になっていってしまう。
 丹恒が受け取ってくれなかったらどうしようって、ちょっと怖くなってきた。
「栞か。いい柄だな。大切に使わせてもらう。スノードームか……アーカイブで見たことはあったが、実物は初めてだ。中のアライグマも可愛いな」
「俺より?」
「お前が一番だ」
 スノードームをそっと箱に入れ、俺の手を握る。
「ありがとう、穹。どちらもお前だと思って、大切にする」
「うーん……俺もそう思ってほしかったけど、なんだか妬けてきた」
 自分で買ってきて渡したのに、物に対して嫉妬している状態。
 なんて情けないのだろう。
 そう思っていると、ノックの音。
「はーい」
「穹もいたんだ」
「なの。丹恒、なのだけど入ってもらっても?」
「ああ」
 飲月の姿はあまり見られたくないのか、すぐにいつもの姿になって。
「二人で何してたの?」
「俺の買ったお土産渡してた」
「ウチが一番乗りだと思ったのに。これ、ウチと姫子、ヨウおじちゃんからの分!」
「ありがとう、三月」
「穹は、悩んでたの買ったの?」
「あれはあれ。これはこれ。スノードームと栞。しばらく会えない間、俺だと思って大切にしてって渡した」
「ああ。俺も、スノードームを穹だと思って部屋に飾ろうと思っている」
「惚気~」
 惚気はお腹いっぱいだよ~! と言って、早くお土産を開けろと丹恒の隣へ。
「綺麗な細工物だな。流石姫子さんだ。これは三月だな。包装が、お前だとわかる。それならこれはヴェルトさんか。眼鏡拭き?」
「カメラのレンズにも使えるって。ウチも買ってもらった!」
「そうか。ありがとう。後で二人にも直接礼を告げに行く」
「わかった。伝えておくね。パムへのお土産をまだ渡してないから、ウチはラウンジに行くね!」
 紙袋を手に、慌ただしく資料室を出ていくなの。
「穹、三月が何も言わなかったからって、抱きしめるな」
「だって」
 思わず拗ねた声が出て、丹恒の背中にぐりぐり顔を押し付ける。
「次は一緒に行こう」
「約束だよ」
「ああ、約束だ」
 後ろから抱き着くのをやめて、小指を差し出す。一瞬きょとんとしたが、俺が何をしたいのか理解したようでそっと小指を絡めて。
「指切りげんまん。嘘ついたらはりせんぼんのます」
「子供だな」
「子供でいいです」
「機嫌を直せ」
 と言いながら、頬にキスをくれる。
 それだけで機嫌がよくなっちゃうんだから、俺って現金だ。
「頬じゃなくて唇がいいな~」
 駄目? と続けると、俺の頬を乱暴に掴んでからキス。
「そうじゃないってば~!」
 と怒れば、フフッと笑い。
 また子供扱いされたようで、思わず歯ぎしりしてしまう。
「年齢だけで言えば、お前はまだまだ子供だ」
「長命種と一緒にしないでください」
「子供扱いされたくないのなら、もっと落ち着きを持つんだな」
「ぐぬぬぬ……
 唸ると、また微笑ましそうに俺を見て。
「穹」
「なにさ」
「みんなからの土産は、もちろんうれしい。だが、お前からの土産が一番嬉しい」
 俺に抱き着きながら、耳元で。本当に嬉しそうな声を。
 ゆっくりとその声が染み渡って。嬉しくて、でも、なんでだか苦しくて丹恒の肩に額をぐりぐり押し付ける。
 彼は余裕綽綽といった様子で、俺の背中や頭を撫でて。
 懐の広さというか、大人の余裕というか。そういうものをまざまざと見せつけられる。
「丹恒、好き」
「俺も穹が好きだ」
 丹恒からストレートに好意を伝えられると、ドキドキする。まだまだ慣れない。
「穹」
「なに?」
「心臓がドキドキしている。どうしたらいい」
 丹恒も俺と同じだってわかったら、急に冷静になってしまった。
 冷静になったのは心臓だけで、下半身は全くそんなことない。
「丹恒先生、俺の下半身大変なことになりそう」
「爆発しそうということか?」
「もしかしたら、しちゃいそう。駄目?」
……一回だけなら、いいぞ」
「言質はいただきました」
 体を離して、寝床へ。
 本を汚さないよう片付け、体を重ね合わせる。
「久しぶりすぎて、止まれませんでした。ごめんなさい」
 数システム時間、まぐわって。お互いに体力が尽きかける直前で、ギブアップ。
 汗で湿った黒髪を、そっと撫でる。
「きゅう」
 少し掠れた声。
 それすらも愛しくて、キスを何回もする。
 エナジードリンクは、とっくにぬるくなっていて。
「飲み物もってくるから、待ってて」
……もっとお前が欲しい。そう言ったら、困るか」
「あー……数日は、皆休みたいって言って依頼も何も入れる予定はないから、明日以降ね」
 頬にキスをして、立ち上がる。
 タンクトップと下着、ズボンを身に着けて飲み物を取りに資料室を後に。
 事後の丹恒の色気は、何度見てもすさまじく我慢できなくなる。よく自重したな、俺。いや、行為の回数自体は自重していない。
「エナドリと、パムが作ってくれたジュース。喉にいいってさ」
「ん。蜂蜜とジンジャーか?」
 ジュースを一口だけ飲んで、使われている材料を当てて。
「そう。皆、俺たちのこの関係を見てみぬふりしてくれてるよね」
「ありがたいやら、恥ずかしいやらだ。感謝してもしきれない」
 俺もパム特製ジュースを飲む。冷たいそれは、ゆっくりと体を冷やしていってくれて。
……あのね、丹恒」
「どうした」
 彼の細い腰には、俺の手形。肩には歯形に、鬱血痕。肩だけじゃなく、白い背中にも腰にも歯形が残っている。
 俺、どれだけ夢中で丹恒に噛みついていたんだろう。
「歯形とかすごいから、しばらく飲月にならないで欲しいな」
「お前があっちで俺を連れ回さなければいいだろう」
「ハイソウデスネ」
 俺は情けないが、そう答えることしか出来ない。
 どちらの穴からも白が滴っている。
 これは非常にスケベですねえ。
 そうじゃなくて、綺麗にしないとだめじゃん。俺。でも、もうちょっとこのままでもいいなあと最低なこと思ってしまう。
「胸、保湿しないと」
 うつ伏せでいるので、胸の下に手を入れながら軽く揉むと、腕をつねられる。すごい痛いです。
「シャワーを浴びてからでいい」
「歩ける?」
「エナジードリンクを飲んだからな。少しは体力が回復した」
 と、ゆっくり体を起こして。
「わぁ……
 自分でつけたのに、あまりにもすごすぎて真っ赤になってしまう。
 胸も腹も、鎖骨も、歯形と鬱血痕。
 全身余すことなく丹恒に独占欲の証をつけていた。
「これ、見られたら冷やかされちゃう……
「なら、誰もいないかを確認してからにしろ」
「はーい」
 廊下を見て、それからラウンジの方を確認する。パム、姫子、ヴェルトは何かを話し合っているようで、今のところ俺には気づいていない。なのは部屋に戻ったのか、そこにはいなかった。
「丹恒、今なら行ける」
 汚れたシーツで丹恒を包んで、横抱きにしてお風呂へ。
 椅子に座らせて、シーツを洗ってもらっている間に浴槽にお湯をためて。
「洗い終わったぞ」
「じゃあ、出たらランドリーで服と一緒に洗おうか」
「ああ」
「髪を洗わせていただきます」
「ああ、頼んだ」
 シャンプーを手に取り、泡立ててからそっと髪を洗っていく。
 これも久しぶりだ。丹恒の髪の感触は、何度触れてもたまらない。
「後でうなじを噛んでもいい?」
「絶対に服で隠れないからやめろ」
「えー」
 不服申し立てをするも、許可はもらえない。
「穹」
「なぁに?」
「何度でも言うが、お前からの土産が一番嬉しかった。次は、俺がお前に買ってくる」
「次という機会は、俺と一緒に行くので、ありません。ま、その場合はお互いのお土産を選ぶってことでいい?」
「ああ、それでいい」
 声はどこか嬉しそうだ。
 そういうところが可愛くて好きなんだよなぁ。