rikuru
2024-08-24 17:00:04
1970文字
Public グレシル
 

ふたりで、しあわせ

グレシル/コテージで二人/イチャイチャ甘め/ちょい捏造有り

 天と地の境目はどこに当たるのか。皆目見当もつかない……は言い過ぎだが、それに匹敵するくらい美しい蒼が支配を極めていた。穏やかに降り注ぐ光や頬を撫でる風とのコントラストは、筆舌に尽くし難いもので。
 最早芸術の域へと到達し、人の手では作り出すのは容易ではない……女神による創作と言っても過言ではないかと思われた。されど人々の大半はこの美しさに見向きもせず、当たり前にあるものだと只々通り過ぎるのみだった。

 さて……物語は海が見える町の一角から始まる。領主邸から近い一等地のコテージにて、かの美しさに心を奪われている人物が存在した。
 青を基調とし気品を引き立たせつつも質の高い清楚な服装に、造り物の花々が縫われたエレガントハットを身に纏った、美しき世界的スター。
 その背後には簡素だか上質な服装に、これまた質の良いサングラスを胸元に飾っている大国の将軍の2人の姿があった。ベランダの手摺に腕を置いて自然の美を堪能している恋人(本人曰くいずれ妻になるとの事)へと向ける双眸の奥には、愛する者を慈しむ暖かな炎が宿っている。周囲に誰もいない、完全に彼等だけの特別な空間。極上と言う言葉がピッタリ当てはまるのは言うまでもなかった。
 ちなみにセッティングから何から全てを用意をしたのは、ロトゼタシアNo. 1超絶有能執事ランキングトップ(殿堂入り)と名高い某執事だとか。何それ?などと深く考えずに、へーそうなんだ、とサラッと流しましょう。


「あぁ……良い風……。潮の香り……。素敵な景色……。もう100点満点ね!何もかもが最高だわ♡」
「この荘厳な景観を独占しつつ2人だけで過ごす、は加算しないのか?」


 強要とも取れる言葉を投げかける男の胸に巣食うのは、セリフにも登場していた独占ーーーーではなく、只々純粋な疑問で。繰り返しになるが『2人だけ』という要素が、空気も雰囲気も思考も何もかもがプラスの方へと動いた結果だと思われた。
 そうだったわ!と、美しさに捉われていた麗人の心が動き出す。愛する人との5つ星を軽く超えた最最最高級リゾートの評価はーーーー。


「フフ♡そうね♡……じゃあ、プラス100点!……でいかがかしらん?」
「素晴らしい評価だ」


 愛する者の中で絶景と同じグレードだという事実は、男にとって満たされる判断の様で。眉間に皺の寄った表情には、薄らと喜びの感情が滲み出ていた。素直に喜べば良いのだが、自らの体勢を崩したくない意図があるらしい。とどのつまり、好きな人の前ではカッコいい自分でいたいだけである。


「お気に召したみたいで嬉しいわ♡」


 そんな男の心の内は青の麗人には伝わらなかった。常日頃から他者への思い遣りや気配りを出来る限り欠かさない良妻賢母で有名なのだが(どの辺りにそう言われているかは考えるまでもない)、センサーが反応せずにスルーしてしまう事もある様だ。鋭さと天然、どちらも天性の素質なのだろう。


「あぁ……


 気分の高揚が頂点へと達したのか、足音を立てずに愛する者の元へと向かう。穏やかで慈愛に満ちた、可憐な花の幻を背景に只々にこやかに佇む佳人の姿が視界全体に広がり、あと一歩の所で歩みを止めた。警戒心など一切無い、輝きに満ちた笑みで迎え入れた麗人に、高揚感だけではなく幸福感も生まれ膨れ上がる感覚。男の口元が自然と三日月の形へと変わり、歴戦を駆け抜けた証とも言える傷が複数存在する逞しい腕が、ゆるりと伸びた。


「キャッ!も、もぅ……!」


 この瞬間に必要無い、と無骨な手が帽子を外し足元へと手放す。刹那、青に包まれた美しい肢体が男の胸へするりと収まる。それは力尽くではなく、無理強いもなく、愛おしみ、優しく包み込むもので。白鼠の瞳が微かに揺れる。驚きと気恥ずかしさを隠すことが出来ず、赤い唇から零れ落ちるがーーーー拒絶は、無かった。


「俺達だけなんだ……良いだろう?」


 低音のーーーーグレイグの囁きが、佳人のーーーーシルビアの心に纏わりつき『否定は認めない』という言葉の裏に潜む思いと共に、奥底へと入り込んでいく。耳に帯びた熱は声を使わない返事となり、微かに触れる男の唇へと伝えられた。肯定の意を確信した途端、背中に回る逞しい腕がゆっくりと腰へと下がる。しかしそれより下には向かうことはなく。重なり繋がる事より、抱きしめて味わう事を優先にしたようだ。腰に腕が回った瞬間、少しだけ反応を見せたが嫌がることは無かった。


……はい」


 身を委ね、幸せを共に享受するという意思が含まれている言の葉が、男の耳から脳へと伝わる。
 さぁ、2人だけの特別な時間を、贅沢に余すことなく使い切ろう。人も、自然も、彼等の間を邪魔する事はないのだから。