racmon
2024-08-24 10:57:26
1113文字
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賜物

おじいちゃんになったふたり

 いつかの日に腰に手を当て見上げた憧れのマイホームも、いい具合に経年変化が窺えるようになったこの頃。
 簓と盧笙は月に一度の、日帰り旅行に来ていた。旅行と言っても訪れるのは田舎の方の別宅で、まったく贅沢な話だが、綺麗な空気を吸いにくるのが一番の目的だ。
 まだ太陽も見えないうちから起き出して、それぞれに身支度をし、合図も無しに二人同時に玄関へ向かう。そんな習慣がついてからもう随分と経つ。今さら特別なことでもないが、だからといって惰性というわけでもない。長く生活を共にする中で、ときどき違う景色に互いを見ることで、いつまでも青い気分を味わえた。彼らなりの工夫が、円満な関係の秘訣である。
 しかし体力の衰えには抗えない。その別宅を購入してしばらくの間は、それは大変に元気が良かった。あの頃の二人といえば、精根尽き果てるまでよく腰を振ったものだった。生活感が染みつき、同じ柔軟剤をまとった穏やかな日常から解き放たれると、一転して野生的な本能に突き動かされた。そのため旅程を延長して滞在することもしばしばあった。快楽に溺れる幸せを貪っていた。
 ところが近頃幸せを感じることといったらこうだ。たとえば、天気のいい朝にカーテンを開けた時、眩しい日差しに目をなくす表情を見た時。また、一緒に掛かった医者から、揃って生活習慣を褒められた時など。それを他人が聞いたとき、目を輝かせて羨むかと言えばそうではないだろう。
 今もまた、声をあげて笑う簓と盧笙に、何か良いことでもあったのかと庭の塀越しから声をかけた人がいた。二人よりも一回りほど若く見える。
「別に、たいしたことやないんです」
「そうほんまに、ほんまにしょうもないねん」
 そう言ってまたくすくすと肩を揺らす二人を見ると、俄然関心を掻き立てられる。
「いや、もう何十年も一緒にいて、せやのにはじめて知ったことがあって」
「そう、ついさっき。なんとなくお互いの手のひら見てたら、俺ら異様に生命線長くて」
 そう言ってまた笑い出す。相手の反応がイマイチであることも含めて、二人は面白そうにした。
「手首まで続いてるし、しかも盧笙なんかめっちゃくっきりシワなってて」
「俺ぁお前ほど風邪もひかんから当然やわな」
 そういうもんですか、と返された言葉に「そうなんちゃうかなあ」と声を揃えた。
「せやから言うたやろ、しょうもないって」
「庭先でやかましぃしてすいません」
 少し我に返ったのか、恥ずかしそうに顔を見合わせた。互いを小突く仕草には年季の入った気安さが滲む。
 通りがかりに訊ねた人は、二人との笑いの深度こそ違えど、縁側に肩を寄せて座るその様子にこの上ない幸せを見た。