楓花
2024-08-24 00:35:29
Public GD/真矢うさ 小説
 

Trick or Treat!

ハロウインのお話





10月に入れば、街はハロウイン一色。オレンジと黒の配色に彩られた店先で、かぼちゃやコウモリなどをあしらった様々な限定商品がいたる所で目に入る。
そんな中、出かけた先で宇崎と真矢も思い出したようにジャック・オ・ランタンの形のクッキーをひとつ手に取った。

「そっか、もうすぐハロウインだなー」
「毎年万尋さんの誕生日の方に気がいっちゃって、忘れそうになるんだよね」
「忘れたらヤバイことになるぞ」
「あー・・・」

宇崎の言いたいことを察して、真矢は同情的な視線を寄せた。
ハロウインはある意味DGにとって特別なイベントだ。特に、遭遇するなり笑顔でトリック・オア・トリートと声をかけるDG随一の甘味王に、差し出すお菓子を持ち合わせていなかった時の絶望感は饒舌に尽くしがたい。被害にあった誰もが悪戯の内容を口にしたがらないことも相まって、今ではハロウインに菓子携帯必須は隊の重要事項として伝えられている。

いつかのハロウインが脳裏に蘇り、宇崎も苦い表情を浮かべた。



***   ***



「Trick or Treat」

その日、部屋を出て暫くして出くわした人物と挨拶を交わした後、続けられた言葉に宇崎は一瞬固まった。
いつも以上に上機嫌のクロウ。差し出された手。そして今日は10月31日。そのことに宇崎はそこで初めて思い当たり、サーッと一気に青ざめる。

(ハロウイン、今日だった・・・!!)

慌ててポケットを確認するが、入れた覚えのないものが出てくるはずもない。

「ないの?」
「ごめん、クロ。用意してたんだけど、部屋に忘れて──」

取ってくる、と踵を返したところで服の裾を掴まれる。

「いや、髪いじらせてくれたらいいよ」
「え?」

振り返れば変わらず笑顔のクロウ。
え、そんなことでいいの? クロウが仕掛ける悪戯と言えば、どんな目に遭うか口にするのも憚れるものだと想像していただけに、若干拍子抜けしてしまう。

「でも俺、髪短いけど」

髪を弄りたいならアレクの方がいいのでは、と思ってそう言えば、「いや、多分宇崎の方が似合うよ」とさらりと返される。俺の方が似合うって何だろう。不思議に思ったが、そんなことで悪戯を免れるならまぁいいか。今日休みだし、と深く考えずに宇崎は了承した。






「万尋さん!」
「あー真矢」

それから少しして、バタバタと慌てたように真矢が追いかけてきた。

「どうかした?」
「お菓子忘れていったから・・・」
「あーありがと。でも、ちょっと遅かったかな」
「うん・・・そうみたいだね」

チラリと宇崎の頭へ視線をやった後、真矢は同情とも何ともつかない複雑な表情を浮かべた。

「でも、髪ちょっと弄られただけで許してもらえたから」

良かったよーと暢気に笑えば、真矢の目が驚いたように見開かれる。

「気づいてないの?」
「何が?」
「凄く可愛いことになってるけど・・・」

可愛い? ・・・髪型が?
確かに何やら細かいことしてたような気はしてた。でも短いしそこまで変わったことにならないだろうと思って油断してたけど、もしかして何かおかしなことになってるんだろうか。
宇崎は、通路を仕切るガラスに近づいてうっすら映る自分の姿を確認した。

「うわあああ!! 何だよこれー!!」

そこに見えたのは、宇崎の頭にしっかりとつけられた白いうさぎの耳。宇崎が動くたび頭上でピョコピョコ揺れる。しかもどうやってるのか、耳の根元を髪でがっちり編み込まれているようで全く解くことができない。

(え、まさか俺、今日一日このままなの? )

思わず真矢の顔を仰ぎ見るが、真矢は少し宇崎の頭に触れた後、申し訳なさそうに静かに首を振った。

「ごめん、これは俺にも解けない・・・」

どうやったのか全く構造がわからないし、切るわけにもいかず。
まさかがいよいよ現実味を帯びてきて、宇崎は真矢を見上げたままフルフルと震えた。

「ク、クロォォォォ──!!」
「あ、万尋さん! 待って!!」

次の瞬間、猛ダッシュで走り去る宇崎の後を、今度は真矢が青い顔で追いかけた。




***   ***



「あれは恥ずかしかった・・・」
「万尋さん・・・」

あれから必死でクロウを探したがなかなか見つからず、結果的に結構な隊員にあの姿を晒す羽目になってしまった。しかも、途中で強制的に真矢に部屋に連れ戻されたうえ、何故かその時には真矢の機嫌がすこぶる悪くなってしまっていて、宥めるのに苦労したのだ。なんでだよ。

あれは本当に苦い思い出だ。おかげで毎年この時期は妙な緊張感が伴うようになってしまった。あんな目にはもう二度と遭いたくはない。



「トリック・オア・トリート!」

その時、ふいにマイクを通した大きな声が通りに響いた。

(・・・なんだ、パレードか)

賑やかな音楽とともに、目の前を様々な衣装に身を包んだ人の集団がゆっくり歩いてくる。そういえば今日はハロウインパレードがあるとチラシに書いてあったっけ。
クロウのことを考えていたから、必要以上に驚いてしまった。

「びっくりしたー」
「うん、俺も」

思わず顔を見合わせて笑い合う。
魔女に吸血鬼にオオカミ男と、凝ったものからネタに走ったものまで沿道に手を振りながら通り過ぎていくモンスター達。この時期だけのお祭り騒ぎは、見ている分には結構楽しいものだ。
手を振りかえしつつパレードの波を暫く眺めて、今年のハロウインは楽しく過ごせたらいいなーとぼんやり思う。

「よし、お菓子買って帰るか」
「そうだね」

当日を平穏無事に迎えるには、まずはマジックアイテムの入手から。二人は同時に頷きあって、早速かぼちゃ型のクッキーを手に店内に足を踏み入れた。




──ハロウイン当日、今年はクロウの配るお菓子によって再び一騒動起きることになるとは、この時はまだ誰も知らない。




お菓子の準備は忘れずに。
Happy Halloween!!