楓花
2024-08-24 00:32:50
Public GD/真矢うさ 小説
 

だから夏は嫌い

冬と違って、夏はベタベタ出来ないよなあと思って書いた話




寮の空調が壊れた。

とはいえ幸い全館ではなく一部の部屋のみだった為、該当の部屋の隊員は別の場所へ待避することが出来たが、それでも早急に対応する必要があることには変わりない。
夜になっても気温が下がりきらない今年の猛暑は、空調なしで過ごすには命に関わる暑さだ。
間の悪いことに、この暑さのせいか門や他の箇所も故障が複数重なり、圧倒的に人手が足りなかった。

「今日の最高気温、38度だろ」
「さっき外気温40度超えてたって」
「この暑さで機器系統故障連発してるらしいぞ」
「あー、それで整備班がバタバタしてんのか」
「俺、ちょっと前に真矢さん見かけたけど、何か殺気だってた」

通りすがりの隊員の会話が耳に入り、あーやっぱりと少し気が重くなる。
真矢の機嫌が悪いのは今朝からだ。正確に言えば昨日の夜からだが。

宇崎は今日は休みだったが、真矢は日勤で。だから昨夜自然と伸びてきた手を宇崎はやんわりと拒否した。
この異常とも言える酷暑の中で、睡眠不足の状態で仕事に出るのは支障があるだろう。そう慮ってのことだったが、なら1回だけと食い下がる真矢に「でも、お前しつこいし」とつい口にしてしまったのが良くなかった。
更には暫くベッドも別にしようと提案したことで、ますます機嫌を損ねてしまったのだ。



「うわ、あっつ」

屋上の扉を開け一歩外に出た瞬間に、じりじりと焼け付くような熱が肌を焼く。息苦しい程の暑さ。そんな中で、真矢は黙々とひとり作業している。
宇崎は極力普段のトーンを心がけながら声をかけた。

「どんな感じ?」
「んー、そこまで深刻じゃないから、何とかなりそう」
「そっか、良かった」

答えながらも手は止めない。それでも交わした普通のやりとりに宇崎は心持ちホッとした。真剣な表情の真矢をじっと見ていると、その額からポタポタと大粒の汗が流れて落ちる。

「真矢、ちょっとこっち向いて」
「? わ、冷たい」
「タオル濡らしてきた」

振り向いた真矢の額に押しつけたタオルが、上昇しきった体温をクールダウンさせる。
ひんやりとした感触に、あー気持ちいーと幾分か和らいだ真矢の声。汗を拭ってすっきりしたところで、宇崎は手にしていたペットボトルを手渡した。

「とりあえず経口補水液持ってきたから。一旦、水分とれよ」
「うん」

作業を止めて座り込んだ真矢の隣で、持ち込んだ扇風機を真矢へと向けた。

「大分違う?」
「うん、助かる」

「──まだ、怒ってる?」

思い切って訊ねた宇崎に、真矢は半分ほど水分を口にした後やんわりと首を振った。諦め半分といった顔をして、ずっと怒ってるなんて無理だよと苦く笑う。
めちゃくちゃ好きだから。だからしょうがない。それでもやっぱり納得できないこともあるけど、とそう言って。

「あー早く夏終わらないかなー」
「何だよ急に」
「くっつくと嫌がられるし」
「それは、さすがに暑いだろ」
「ベッドも別って言うし」
「それも熟睡出来ないだろうから」
「万尋さん抱いて寝る方が安眠出来るよ」
「そんなわけねーだろ」

ホントなのになーとぼやく真矢の表情はすっかり元通りだ。それを見て宇崎も漸く安心する。

……次の休みは好きなだけしていいから」

小さく、本当に聞き取れないくらいに小さく呟けば、ホント!? と真矢の顔が一気に輝いた。コロッと一変した様子に何だかちょっと笑ってしまう。

「よし、俺も手伝うから早く終わらせよう」
「ありがとー」

休憩を終え、作業を再開する。
真矢も素直に不具合箇所の説明を始めた。一人よりも二人の方が作業も早い。この分だと、数時間程度で復旧できるだろう。


記録的に暑かった今年の夏も、もうすぐ終わる。
9月になればすぐに真矢の誕生日だ。その頃には涼しくなっているといい。
人前でベタベタくっつかれるのは少し困るけど、今の数歩の距離がほんのちょっとだけ寂しい気もするのは、内緒の話だから。