楓花
2024-08-24 00:25:20
Public GD/真矢うさ 小説
 

ハンドクリーム

買い物に行った先で宇崎さんが本人無自覚でセクハラされる話



“感動の保湿力!乾燥するこの時期に“
“ホワイトデーにもオススメです”

賑やかなポップが並ぶ店内をなんとなく眺めていると、そんな文字が目に入ってきた。
売れ筋なのか、目立つ場所にずらりと並べられたハンドクリームの数々に、こんなに種類があるのかと少し驚く。

(真矢に買ってやろうかなあ)

整備の仕事をしていると、やはり手が荒れやすい。冬場は特に乾燥からパックリ割れて血が滲むこともよくある話だ。
時期的にホワイトデーが近いからか、纏めてオススメされているポップの説明を見て結構いいかもと思ったものの、その値段に驚いた。

(うわっ、高い)

1本で3000円ちかくする。比較的安いのでも1800円とか。
普段500円もしないものを使っている身としては考えられない金額だ。
自分のためなら絶対買わない。でもプレゼントとしてならありえない金額でもないし・・・。

「ハンドクリームですか?」

陳列棚の前で暫く考え込んでいると、不意に声をかけられた。
振り返ると、店員だろうかニコニコと笑顔を浮かべた男性がすぐ側に立っていた。

「こちらプレゼントにも人気なんですよ」

そう言って”TESTER”と書かれたものを手に取り、宜しければと促してくる。何となく断りづらくて手を出すと、突然その手を掴まれた。

「えっ?」
「凄くのびるので少量で大丈夫なんですよ」

言葉の通り少量を宇崎の手の甲に置いたあと、丁寧に塗り込められる。
さすがに恥ずかしくて咄嗟に手を引こうとしたが、思いのほかしっかりと手を包まれていて外れない。

「あの、」
「浸透がいいからベタつかなくて、すぐサラサラになるでしょう?」

さらりと撫でられて困惑する。それよりも離して欲しい。が、振り払うのも失礼だし、どうすることも出来ずに続くセールストークをただ黙って聞いていた。

「香りも良いのでかなり好評で──」

その時、不意に伸びてきた腕に手を取られ引っ張られた。
バランスを崩したところを背後からぎゅっと抱き込むように包まれて、いつもなら人前でと怒るところだけど今は少しホッとする。

「ほんとだ、いい香りだね」

真矢は宇崎の腕を持ち上げて顔に近づけた後、そう言って甲に軽く口付けた。
遠くの方からキャーと小さく歓声が上がる。

「でも、いつものがいいかな」

宇崎にではなく何故か真っ直ぐ店員を見て真矢が言うと、彼は慌てたように軽く頭を下げた後、足早に立ち去った。

「なにセクハラされてんの?」
「セクハラって、俺もあの人も男だぞ」
「必要以上にやたらベタベタ触られてたでしょ」
「確かに、いきなり塗られたのは驚いたけど・・・」

こんな平凡な顔の、しかも男にセクハラなんてするか?
頑張って売ろうとしてただけと考えるのが自然な気がする。

「石川やドクターならまだしも、俺だし」
「わかってない」

不機嫌な顔のまま、真矢は宇崎の手を引いてさっさと歩き出した。
慌てて真矢について店を出る。

「そういえば、もう外でああいうのやめろよ」
「ああいうの?」
「キス! もう暫くあの店行けない」
「行かなくていいよ」

ピタリと歩みを止め、真矢が振り返る。
少し背を屈め近づいた顔が、真剣で少し怖い。思わず一歩、宇崎は後ろへ引いた。

「もう絶対、ひとりで買い物来ないでよ」