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楓花
2024-08-24 00:22:53
Public
GD/真矢うさ 小説
欲しいのは、ひとつだけ
バレンタインの話。
※まだ付き合う前
「また今月の寮長引き受けたの?」
寮長室に入るなり開口一番発した言葉に、振り返った宇崎さんが僅かに首を傾げた。
「また、って今年初めてだけど」
「ここのとこ、ずっと2月の寮長って宇崎さんだよね?」
「お前、よく覚えてんな」
俺を見る目が、驚いたように見開かれる。でも、そんなの気づかないわけがない。
2月の寮長は他の月に比べて忙しい。寮長の仕事に郵便物の仕分けがあるが、2月はバレンタインの影響でその数が比べ物にならないくらい多いからだ。
「薄々そうじゃないかと思ってたけど、率先して引き受けてるよね?」
「いーんだよ、荷物のチェックも結構楽しいし」
俺がよくないの!って声を大にして言いたくなったけど、ぐっと飲み込む。
当の本人は本当に苦だとは思っていない。それが、どれだけ面倒で大変な仕事でも。
もどかしいけど、それが宇崎さんだ。そして、そんな宇崎さんだから自分は好きになった。
(しょうがないなあ)
小さなため息ひとつ吐いて、うず高く積まれた荷物の前に腰を下ろす。
まだバレンタインには少し早いのに、一体どこまで増えるんだろう。
「俺も手伝う」
「いいよ、お前も疲れてるだろ」
「時間かかるでしょ。いいから手伝う」
せっかく定時に仕事終わらせたのに、宇崎さんと過ごす時間が減るのが嫌だ。だから、これは自分のためでもある。
結局は、一緒にいられればなんだっていいのだ。
「
……
じゃあ、こっちが隊長宛で、こっちが西脇行きな。あとは
――
」
構わず荷物を手に取る俺に折れる形で、宇崎さんが指示を出す。
こうして見ると改めて思うけど、やっぱり隊長と西脇さんは断トツで多いな。
高級チョコの包装紙やチョコじゃなさそうなのも多くあるし、送り主の本気度が垣間見える。
対照的に、本木とかのは可愛らしい包みだったりするんだよな。小さい男の子からのもあったり。うん、確かに結構面白い。
宇崎さん宛てのもあった。
売店のお姉さんとかかな? あとは議員秘書あたりも多い。多大なストレスに晒される中で、あの癒しオーラにやられるのはわかるけど。
本人自覚ないけど、密かに人気あって困る。
宇崎さんの目に入らないうちにさっさと背後へ追いやる。あとで俺のと纏めて深津あたりに持って行くか。
「やっぱり外警と室班は多いね。表に出る仕事は大変だねー」
「お前も学生の時はめちゃくちゃ貰ってたんだろ」
「うーん、でもよく女子同士で揉めたりしてめんどくさいから断ってたよ」
「うわー、これだからモテる男は」
「そうでもないよ。そもそも本命から貰えないなら意味ないし」
「
……
まさか、本命から貰ったことないのか?」
意外だって顔してるけど、宇崎さんのことだからね?
正直今までバレンタインなんてどうでもいいと思ってたけど、今は貰えたらいいな、なんて本気で思う。
「お前みたいに格好良いやつでも、そんなもんなんだなあ」
「
……
俺、格好良い?」
「うん、格好良いし優しいし。俺が女だったら絶対惚れる!」
やばい、どうしよう。励ますように力説する宇崎さんが可愛すぎて、顔が緩むのが抑えられない。
女の子じゃなくても、今すぐ好きになってくれていいんだよ?なんて、言ったらどんな顔するんだろ。
「じゃ、宇崎さんちょうだい」
「なんでだよ。いらねーだろ、俺からなんて」
いるよ。いる。めちゃくちゃ欲しい。むしろ宇崎さんの愛しかいらないのに。
どうやったら伝わるんだろう。いっそ、俺もチョコレート買って渡してみようかな。
*** ***
「終わったー!」
「こっちも終わったよ」
綺麗に整理されたプレゼントの前で、宇崎さんが感慨深げに両手を挙げる。
さすがに二人でやると早い。と言っても、明日もまた更に増えるんだろうけど。
「あれ、それは?」
「あ、こっちは全部俺のだったから」
「そっか。やっぱお前も多いなー」
うん、宇崎さんのも入ってるからね。とは絶対言えない。
俺の背後を覗き込むように身を乗り出した宇崎さんの視線に入らないように、素早く段ボールを閉じる。
「あー、腹減った!」
「じゃあ一緒に食堂行こうよ」
「そうだな」
二人して立ち上がる。
隔離したチョコは後で取りにくればいいか。送り主の詳細な情報も確認しときたいし、色々忙しい。
先に寮長室を出る宇崎さんの背中を追いながら不穏な事をツラツラと考えていると、ふいに宇崎さんが振り返った。
「そういや1個残ってたんだ。やるよ」
そう言って、ポケットから何か取り出してこちらに投げてくる。
反射的にキャッチして、掌を開くとそれはキャンディ型に包まれた一粒チョコだった。
「いいの?」
「いや、こっちこそ。ありがとな」
うわ、めちゃくちゃ嬉しい。思いがけなく貰ったけど、これバレンタインって勝手に思っていいかな。
好きな人から貰うチョコって、かなり特別だ。なんだか食べるのが勿体ない気がする。
手の中の小さな包みを眺めながら、この上ない幸福感で満たされた。
やっぱり、この人を誰にも渡したくないな。
潰れてしまわないように大切にポケットにしまって、改めて決意を新たにする。
覚悟しててよ。
そのうち絶対、宇崎さん自身をもらうからね?
――
後日、宇崎さんの元を訪れた深津が申し訳なさそうにチョコを返却してくることになるのだが、それはまた別の話だ。
「あの、これこの間、真矢さんから貰ったんですけど、宇崎さんのも混じってたみたいで」
「えっ?
……
おい、真矢ーっ!!」
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