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豆炭々炬燵
5252文字
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アンデッドアンラック
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【フィル風】人と番
ノリと勢いで誤魔化してるオメガバースもの。フィル風🚀☄️編。
不運はいつだってこっちの事なんか気にせずにやって来る。
大好きな両親の死を切っ掛けに私は誰にも触れてはいけないんだって思い知った。親しければ親しいほど、仲が良ければ良いほど、好きの気持ちが大きければ大きいほど、私に触れてしまった相手を傷付けてしまう。
誰も傷つけたくなくて引き籠っていたある日、何の前触れもなく私の体に変化が訪れた。
言う事を利かない熱くて苦しい感覚が体の内側を引っ掻き回し、訳の分からない強迫観念に苛まれベッドの中で藻掻き続けた。息の仕方を忘れ、ありもしない幻覚をかき集め、お腹の疼きと寂しさに呻き蹲る。
ひたすら台風が通り過ぎるのを待ち、やっと落ち着いた頃には散々眠れなかった眠気に意識を飛ばした。たっぷり寝たつもりでも全然寝れていなかったらしく、スマホに表示された時刻を見て溜息を吐き。自分に降り掛かった風邪とは似つかない症状を検索した。
四角い世界に映し出された検索結果にスマホを掴んでいた手が震えた。
「Ω? ヒート
…
?」
知識としては知っていた第三の性。俄かに信じ難い表示される文章を読み続けるにつれ確信の色が濃くなっていく。
美容室にでさえ行けないこの体を、どうやって検査が出来ようか。
幸いにもネット注文可能な抑制剤を購入出来たので、どうか違いますようにと念じ周期が分かるアプリの予測を頼りに抑制剤を飲んだ。
はじめはたまたまだって強がった。二度目にもしかしてと疑った。三度目で私は膝を抱えて泣いた。
「どうして
…
っ、なんでよりによって
…
っ」
誰にも触れてはいけないこの体は、あろう事かαを引き寄せてしまう体質だった。まるで今の私の気持ちを代弁しているかのような浅ましさに涙が止まらない。声を押し殺して泣き続け、身体中の水分が涙になる前に夜が明けた。
赤く腫れぼったい目元を擦って、ベッド下に積み上げられた【君に伝われ】の単行本たちを見下ろす。
嗚呼、なんて卑しいのだろう。嫌で恐ろしい体質が増え死にたい気持ちが風船のように膨らんでるというのに最終話を見るまで死ねない気持ちが風船を萎ませる。
「
…
おかしいね
……
。死にたいのに死にたくないに縋ってる
……
」
生きていてはいけない自分の存在を自嘲的に嗤い、その声は途轍もなく乾いていて弱々しかった。
不意に背中を掠めてくる黒い指先を無視して、抑制剤を欠かす事無く服用して、推し漫画の最後を読むまで生き続けた。
生きる糧だった最終巻を読み終えた私の心はとても晴れ晴れしていた。この世に一切の未練無し。大好きな漫画の最終話と一緒に自分もここらで終わらせる覚悟を決めていた私の前に──、運命の人が現れた。
鮮烈すぎる出会いに私の目と心は知らず焦がされていた。
その後アンディと一緒に組織に正式加入した際、第三の性を調べてもらったら案の定【Ω】だった。分かり切っていた検査結果が書かれた用紙を持ち気落ちしていれば、知らない間に後ろから覗いていたアンディにひょいと用紙を取られてしまった。
あっという間に私じゃ届かない位置まで逃げていく用紙を目で追い、検査結果を眺める青い目から目を逸らし俯いた。
その内バレる事だって、自分に言い聞かせ身を縮こませ両手を胸の前でキュッと握る。
頭上から「お前、Ωなのか」なんて淡々とした声が落ちてきたので小さく頷いた。
「いいねぇ!! 体の相性も抜群じゃねえか」
「あい、しょう
…
?」
「俺はαだぜ」
アンディが真っ白な歯を覗かせ笑う姿に私は体中の熱が顔に総動員された。
思わずこの場から逃げ出したくなる感情が鼓動を速め、頭の隅でまだくっきりとしない”もしも”が私の心を忙しなくさせる。
それからというもの、如何いうわけか引き籠り生活から一変して息つく間もない日々を送っていた所為か私はついうっかり抑制剤を服用し忘れてしまっていたのをニコさんに指摘され漸く気付き、何故服用し忘れても平気だったのかというのをヒートが来なくなっていたのを自覚して自分自身驚いた。
アンディとはキスをした。でも、番にはなっていない。そもそも運命の人、番だというのを私が勝手に思っているだけでアンディは私のことをそう思っていないのかもしれない。
「でも、いいんだ。番にならなくたって私はアンディの事が──」
どれだけ月日が過ぎようが、この気持ちは変わらない。
私はアークに乗った後も以前ヒートはただの一回も訪れやしなかった。
まだボクの身体が生身だった頃にお母さんたちはありとあらゆる検査をした。事細かに記録されたデータは、ボクも見させてもらってその内容の全てを知っている。
宇宙ステーションでは、風子お姉さんたちは宇宙服に身を包み匂いそのものを嗅ぐことが出来なかった。
地球に降り立った瞬間、わっと色んな匂いがした。賑やかで嗅いだことのない沢山の匂いの中、薄っすらと香り立つずっと嗅いでいたい匂いの先に風子お姉さんがいた。
『運命の、つがい?』
古代遺物になった身体でもαの体質を引き継いでいるみたい。ボクの感情とは関係なく本能が彼女を運命の番だって手を引っ張って呼んでいた。
だけど、古代遺物≪託す者≫の記憶を見たボクは風子お姉さんが望む運命の相手か誰なのかを知っている。ずっと強く固い絆で結ばれた相手が誰なのかをボクは知っている。
決して風子お姉さんは伸ばしたボクの手を取ってはくれない。だけど、それで伸ばすのを止めるのは違うと思うんだ。
αはΩが発するフェロモンに逆らえない。引き寄せられ身を焦がす情動に突き動かされるらしいけど、ボクの体質と風子お姉さんの体質は他の典型的な関係性に当てはまらないみたい。
風子お姉さんは何故かヒートがずっと訪れていない。ボクもまた悪戯にΩのフェロモンに誘引される事やラットが起こるという事態に陥っていない。良くも悪くも普通の、片思いしている状態だった。
『──風子お姉さん』
無事任務達成して組織に帰還する途中、目に留まった白くて丸い可愛い花に彼女の面影を見た。辺り一面に咲き誇る花。白い絨毯が風になでられ、みんな楽しそうに揺れている。その中の一輪をそっと摘まさせてもらって組織に戻った。
お昼ご飯を食べるのをそっちのけで組織内を探し回る。監視カメラのシステムを覗き込んで逐一彼女の情報を集め追い掛ければ、やっと会いたかった背中を視界に捉えた。
ボクの気配を察知してくれて振り返った風子お姉さんの顔がぱあって華やいだ。
「フィルくん!! おかえり~、任務お疲れさま」
「私にくれるの?」
「ありがとう!!」
両手で掴んでいた小さな花を差し出すと、風子お姉さんは笑みを深め受け取ってくれた。
胸の奥は相変わらず静かなまま。でも、ボクに目線を合わせるため腰を屈めにこやかに笑ってくれる姿をまた見たいと思った。
それからボクは任務先で綺麗な物素敵な物を見付け風子お姉さんに贈った。
河原で見付けた透き通った青い石。
波打ち際で見付けてと輝いていた赤い貝殻。
他にも沢山贈ってそのどれも風子お姉さんは喜んで受け取ってくれた。この間は「フィルくんから貰った宝物、綺麗に飾ってあるんだよ。今度見に来てね」と部屋に遊びに行ってもいいお誘いを受けた。
『男の人が女の人の部屋に行く時、イケてる恰好をするもんだぜってショーンお兄さんが言ってた』
イケてる恰好がよく分からなかったから、ボクは風子お姉さん達に初めて会った恰好で行く事にした。
襟付きシャツに蝶ネクタイ、長ズボンにサスペンダー。黒手袋とピカピカの革靴。どうしてか分からないけど、この時はこの恰好がいいと思った。
今朝方、風子お姉さん例のチケットを一枚もぎったのを渡してある。だから、今日一日はボクが風子お姉さんを独り占め出来るんだ。おすすめの映画とおいしいクッキーがいっぱいの缶も持った。準備は万端。蝶ネクタイがズレていないか確認してボクは風子お姉さんの部屋のチャイムを鳴らした。
『
………
』
中からの反応はない。おかしい、生体反応は部屋の中にあるのに風子お姉さんが出て来てくれない。
ボクは扉のロックを開錠して中に入れば、ベッドの上でボクが今まで贈ったものを抱え苦しそうに横たわっている風子お姉さんがいた。
「アンディ
…
、アンディ
…
」
愛おしい人の名前を呼ぶ声は映画のワンシーンで良く聞いたものだった。
本当にこっちの気なんてお構いなくやって来る、って強がっていられないみたい。
私の慢心が招いた事もあって、随分久しぶりなヒートに奥歯を噛み締める。とんだじゃじゃ馬な情動の手綱を引き、念のため常備していた抑制剤が入っているナイトテーブルに手を伸ばす。
震える指先が取っ手を何度か掠め、やっと掴んだその時──。
「あっ」
急にアンディの声と姿が脳内に割り込んだ。瞬間、溢れ返る情緒の波に視界が揺れ遠いところにいる彼の姿を探した。ループ後の世界で再会した時には何も無かったのに、どうして、なんで、そう冷静に考える自分を押し退け私は彼の思い出を匂いを探し出した。
「ない、ない。何処にもないっ」
一度破壊され再生した地球に彼が存在した形跡は何ひとつ残ってはいない。普段の私だったら分かる事が分からず混乱状態のまま部屋中のものをひっくり返して、ありもしない物を探しては嘆いた。
そして、部屋の一角フィルくんに今まで貰った宝物を飾っているところに目が釘付けになり、半ば反射的に宝物たちをかき集め自分の身体ごとベッドに沈み身を丸めた。殆ど匂いのしない、何ならアンディの匂いじゃないのにフィルくんから貰った宝物たちが私の何かを慰め癒していくと同時に罪悪感が募っていく。
フィルくんから貰った宝物越しにアンディを見るなんて、どっちにも酷いことしてる。甘ったるい疼きに視界と意識が朦朧していれば、ぼやけた視界に何かが入り込み横切っていった。
それが何なのか上手く回らない頭で考える間もなく、口の中に何かが押し込められ冷たい液体が口腔内に流れ込んでくる。溺れない程度の水量を喉を鳴らして飲み込み、頭を上げられたと思ったら少し高い場所に下ろされた。
「(頭、誰か撫でてくれてる
…
?)」
両親やアンディとも違う、小さな手。優しく優しく撫でてくれる手。
「(この手、好きだな
……
)」
暴れていた熱が収まって今度は眠気が襲ってくる。とんだ波状攻撃に為す術なく、私は重くなり出した瞼を閉じた。
部屋に漂う風子お姉さんの濃い匂い。恐らく突発的なヒートに見舞われてしまい、抑制剤を飲む余裕もなくベッドの上に蹲り熱に魘されているってすぐに分かった。
ほんの僅かに開いていたナイトテーブルの引き出しを開ければ、見慣れない薬の箱がボクを見上げていた。多分ニコおじさんが処方した抑制剤のはず。ボクは冷蔵庫を勝手に開け水のペットボトルを掴んで戻るなり、風子お姉さんの口に抑制剤、水の順番で彼女の口に押し込んだ。咽ないよう慎重に、抑制剤を飲んだのを確認してぐったりしている彼女の頭をボクの膝の上に乗せる。
今日ほど露出部位が少ない服装を選んで良かったと思う日はない。何の躊躇いもなく風子お姉さんの頭を撫でていると、唇だけで彼女が何か呟いた。唇の動きを読み何を呟いたのか文字に起こした途端、ボクの手が勝手に止まってしまった。
なんでか分からない状況に呆然としている間に風子お姉さんが目を覚ました。
「フィル、くん
…
? あ、そっかチケット
……
。抑制剤飲ませてくれて、ありがとう
…
」
『風子お姉さん、ボクの手好き?』
「
……
?」
『いっぱいよしよししたら、もっと好きになってくれる?』
「フィルくん?」
『番になって、くれる?』
ボクの声は風子お姉さんに届かない。
でも、彼女の頭を抱き寄せ黒い手袋越しに頭を撫でた途端、瞬く間に彼女の顔が紅潮していった。それどころか慌てた様子でやんわりボクから離れようとしてくる。駄目だよ風子お姉さん。まだゆっくり休まなきゃ。
「ひょわ~
……
」
有無を言わさず起き上がろうとしていた風子お姉さんを寝かせて、赤いニット帽子越しに何度もキスしたら膝を緩く体の内側に折り曲げ両手で顔を隠しちゃった。ふるふる小さく揺れ隠しきれていない肌の紅さを見下ろす。
ボク、風子お姉さんの気持ちちょっとだけ分かる。運命の人の物がないからボクが贈った──αの匂いが付着しているボクの贈り物を集め求めちゃったのにいけない気持ちになっちゃって、それが恥かしくてどうしようもないのに、ボクのよしよしする手が好きなんだよね? 可愛い可愛い風子お姉さん。
でも心配しないで。無理やり番にはならない。アナタから番になろうって言ってくれるまでずっといい子で待ってる。
風子お姉さんの運命の人はアンディさんだけど、風子お姉さんの運命の番はボクだって思いたいから。
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