【カミ東】片鱗

東雲さんとカミキリ様が東雲さん馴染みの駄菓子屋に行くお話。

蒼穹の空に秋の雲が広がり始めても、まだまだ現役を謳う夏の気温は凄まじい。
飽きスペースがたんまりある駐車場の片隅に設けられた駐輪場から自転車を押して歩く東雲は額から流れる汗を腕で拭う。被ったキャップの角度を微調整して帽子のツバを摘み遥か頭上を燦々と照らしている太陽に労いの視線を送った。
これで爽やかで爽快な風のひとつやふたつ、吹いてくれれば肌にへばりつくもわっとした不快感も飛んで行くだろうに。さりとて、それも自転車を漕ぐまでの辛抱だ。東雲は自分にそう言い聞かせ大通り沿いに出るまで自転車を押していると、やにわ風鈴の音でも聞こえるかのような涼やかな風が火照った肌を撫でていった。
「どこかお出掛ケ?」
声がした方へ目で追う。暑い中汗ひとつ掻いていない柔らかな白波を煌めかせ吸い込まれそうな程に深く澄んだ水底色の瞳を持つ小柄な少年が佇んでいた。
蝉の大合唱に紛れかき消された足音。他の事に気を取られ察せなかった近付く気配。そもそも不要不急の外出を控えた方がいい気温の中で、ばったり出くわすものだろうか、などという無粋な考え自体思い浮かばない東雲は、猛暑で溶けていた肩で息を吐く。
自転車を押し進めていた足を止め東雲がカミキリと面と向かった瞬間、心なしかカミキリの目が一段と鮮やかさを増した、気がした。
「子供ン時から世話になってる人の様子見がてらツケを払いに行くとこ」
「ツケ
あからさまにカミキリの声のトーンが下がった気がしたがきっとそれも気の所為だろう。
「おっ、そうだ。一緒に行く?」
僕がツケ支払うの?」
「いやいや、させねぇって。カミキリさんも気に入るとこだっからよ」
訝しげな視線を投げかけていたカミキリだったが、俗物塗れではない東雲の破顔一笑に、ふと虚空を見遣って小さく頷いた。
そう来なくっちゃ。東雲は颯爽とサドルに跨りグッと自転車が倒れないよう踏ん張り、カミキリに合わせ少しばかり車体を傾かせる。程なくしてリアキャリアに跨る重みにアスファルトに着いていた足をペダルに掛けかけ──、東雲は上半身を捻って自分が被っていたキャップをカミキリに被せた。
急に被せられツバ越しに目を瞬かせたカミキリの頭をキャップごと東雲が軽く撫で「熱中症対策」と白い歯を見せ目を細める。
「ありがとう」
「んじゃ、しっかり掴んでとけよ」
体を前に戻して今度こそペダルに足を置き強く踏み込んだ東雲だったが、すぐさま急ブレーキを掛けペダルから足を下ろした。何故ならばカミキリの手がほんの気持ちばかりにしかオフショルダーのシャツを掴んでいない上にその力が弱々しかったからだ。
物凄く険しい顔且つ勢いよく振り返った為か東雲を見たカミキリの肩が跳ねあがる。
何か悪い事をしただろうか。窺い見上げる大きな目に東雲は、緩く掴んでいる成長期である男の手を上着から解き片方ずつ自身の腰に回させた。
「このぐらい掴んでねえと危ないっからよ」
……ウン」
小声で答えるカミキリの腕はまだ遠慮がちであるが、先程より大分マシになったので今度こそペダルを踏みこむべく足に力を入れる絶妙なタイミングでカミキリが「待って」と声を掛けた挙句また腕を外してしまい、東雲はいよいよもって息を大きく吸い込んで深く吐いた。
暑さも相まってイライラが募りジト目で振り返るのに合わせ、カミキリがキャップのツバを後ろに向けるように被り直して顔だけじゃなく上半身ぴったり背中にくっ付ける形で東雲の腰に腕を巻きつけた。
殆ど抱き着いているに等しいカミキリの顔色を窺おうにも捻られる可動域の外側にあり、何より同じ方向を向いているお陰で東雲の視界に入る事は無かった。
そう、夏の日差しの所為でなく赤くなったうなじはキャップのツバに隠れ、耳だけには留まらず顔全体を紅潮させたカミキリを東雲は一切知らないのである。
変に力んでいる腰に回されたカミキリの腕を「二人乗りに緊張してっからか」と自己完結した東雲が今度の今度こそ体を前に戻してペダルを強く踏み込んだ。
風が無ければ産み出せばいい。ペダルを回す回数とスピードをぐんぐん上げ、籠った熱を強制的に後方へ押し流す。健全に体を動かすことで肌を伝う汗が風で乾く心地よさ。加え今回に限って背中から齎される涼やかな存在の恩恵を受け普段より大分楽に自転車を漕げていた。
「おひょひょ~! すっずし~! カミキリさんもっとギュッてくっ付いてくれやっ」
「うんっ」
熱が籠らないだけで溜まる疲労感は格段に違う。ラストスパートと云わんばかりにサンダルを履いた東雲の足に力が入り、振り落とされない意味合いも込めて東雲の腰に巻き付けた腕の力を強め僅かにあった隙間を無くすように抱き着くカミキリの目は眇められ口元には薄っすら弧が描かれていた。



趣溢れる路地裏の一角。古き良き平屋の木造建築、瓦屋根の軒下で揺れる氷暖簾がまた風情を一層惹き立てていた。
「ばあちゃーん。元気してるー?」
通行の邪魔にならない少し離れた所に自転車を置いてきた東雲が差し込む日光だけで電気の付いていない薄暗い店内に向かって元気よく声を掛けるも返事は返って来なかった。
「大家サん、ここって?」
「ここ? 駄菓子屋だよ駄菓子屋。私が子供の時からずっと通ってんの」
先に自転車から降りていたカミキリは、隣に来た東雲から視線を戸口も何も無い常時開け放たれている駄菓子屋の店先に向けた。外に置かれたアイスケースの腹の中にはコンビニでも見かける種類の他あまり見かけない物までぎっちり詰められ、店内の真ん中に置かれた腰丈にも満たない大陸は細かく区画ごとに分けられ所狭しと駄菓子たちがお祭り騒ぎをしている。壁に設けられた棚や天井からぶら下がっている玩具や模型の数々にカミキリは興奮気味に店内を見渡しその大きな目を輝かせた。
「ばあちゃーん? おばあちゃーん? いねえな、留守か」
「留守なのにお店やってル?」
「まあ、この店じゃよくあるこった」
慣れた動きで店奥の襖を開け店主の留守を確認した東雲が徐に手をポケットに突っ込み長年人の手や布巾で撫でられ艶めいている随分年季の入ったテーブルの上に小銭を小気味よい音を立て置いた。
その自然な動きに呆気に取られているカミキリの横を通り過ぎた東雲は、さも当たり前のように昔懐かしい駄菓子たちのプレゼンを目で追う。
顎に手を添え、どれにしよっかなと呟き理路整然と並んでいたプラスチック容器の蓋を開け中から丸いカステラが連なった串を一本掴み何の躊躇なく口に咥えた。
「驕るぜ。好きなの選びなよ」
ただし、高い玩具系統は無し。人差し指を指して釘を打つ東雲にカミキリは目を逸らさずただただ無言で頷いた。
端に置かれていた底の浅いカゴに二人揃って食べたい駄菓子を入れていき、軒先から掛かる影だけの涼しさとは到底思えない板張りのベンチに腰を下ろした。
落ち着きなく周囲を見渡すカミキリの目の前にずいっと現れたラムネ瓶。よく冷えた瓶の表面に浮かぶ水滴が太陽光を受け輝き、視線と意識がラムネに向いたのを確認した東雲はカミキリの手に握らせ、自身が持つラムネ瓶を軽く当てた。
「はい、カンパーイ」
固い物同士がかち合う透明な音。時間差でプシュっと空気が抜ける音とビー玉が落ちる音が響き、炭酸弾ける甘くて冷たいラムネを喉を鳴らして飲んだ東雲が身体に染み渡る爽快感に唸り笑う。
それに倣いカミキリがビー玉を透明な海に落とすも溢れる泡を啜り飲み喉を潤した。思っていたより喉が渇いていたらしく、東雲が飲んだ量より一気に下がった水位に口を離したカミキリは冷たい瓶を両手で持ち足を軽く前後に揺らす。
「冷たくてオイしい」
「冷えっ冷えで美味いっしょ。ここの駄菓子屋さ、暑い日は涼しくて寒い日は温かいんだ。電気代馬鹿になんねえから節電しろって毎回言ってんのに聞かなくってよ」
昔の事を懐かしみ思い出しているのか遠くを見つめる東雲の眼差し。それが一体何なのか思い当たる節がカミキリにはあったものの、ちょっとした駄菓子の宴に水を差すほど無粋ではないのでそっと胸の内にしまい込んだ。
カゴの中から気になって入れた駄菓子をどれから食べようか悩む時間さえも心が躍る。手のひらサイズの駄菓子はほんの少しずつを味わえる楽しさに溢れ、しょっぱいもの、甘いもの、辛いもの、酸っぱいもの。どれもこれも如何にもな人工的である味を含め楽しみ、特に当たり付きの物で東雲の一喜一憂する姿にカミキリは微笑んだ。
醤油味の揚げ麵をバリボリ頬張り噛み砕く東雲が持っている容器の蓋には何も書いておらず、カミキリが同じ種類の駄菓子の蓋を開ければこれ見よがしにデカデカ当たりの文字が印字されている。
「えー、またァ~? カミキリさん当たり引く確率エグくね?」
「た、たまたまダよ」
わざとらしく目を逸らすカミキリをジト目で睨みつつ不貞腐れ気味にラムネの残りを煽るも、中身はとっくに枯れ果て一滴も落ちてこない。空瓶の中でビー玉を転がして鳴る音に東雲が顔を益々渋くさせ、フッと纏っていた空気を和らげた。
「今度ばあちゃんがいる時に引き換えてもらいな」
「そうすル」
短い駄菓子の宴を終え、ゴミとカゴを片付け東雲は涼しい軒先でカミキリを待たせ自転車を取りに向かう。すっかり汗が乾いたというのに陽炎が揺らめく道路を歩いている東雲の背中がこの暑さに辟易しているように見えた。
ゆっくり瞬きをしたカミキリの目が東雲の背中から差し込む陽の光が届かない位置にいる見慣れない足元、随分と着古しているが清潔感のある股引からヘンリーネックシャツを着こなす老婆の皺くちゃの顔を仰ぎ見る。
一目見て分かる、人工的ではないひんやりとした空気で平屋全体を包み込んでいる相手にカミキリは一切驚かなかった。
「初めまシて」
「あいよ」
「僕は、」
「よいよい。あの子の連れダ、悪い子じゃないのは分かっておるワイ。それに自己紹介ハ、あの子がいる時にシてくれた方が」
「方が?」
「はて、何を喋ってイたかノう」
襞のように垂れ下がった分厚い皺に埋もれ隠れて見えない目元で天井を見上げる仕草。其処彼処から反響する不気味な笑い声に呼応して象の皮膚染みた皺が小刻みに震える。
「縺�d縺ッ繧�€∫・樊ァ倥′譚・縺ヲ縺上l縺ヲ蠎励↓邂斐′莉倥>縺溘b縺ョ繧医�縺�」
立ち昇る名状し難い不穏な気配に咄嗟に身構えた。右掌から刀の切っ先を伸ばし、懐に踏み込むべく爪先に力を込め飛び掛かる一歩手前、立ち込めていた禍々しい気配が露のように消えカミキリの体が前のめりになり踏鞴を踏んだ。

「あの子はネ、このババアを繋ぎ止めテるのサ」

皺だらけで目も鼻も口も見えない老婆の顔は確かに慈しむように顔を綻ばせる。
「まだ幼子だったあノ子は、あまリない小遣いを握り締メそりゃあモウ真剣に駄菓子を選んだもンだ」
丸くなった背中をトントンと擦り店内を見渡す老婆になぞり、カミキリもまた店内を覗き込めば在りし日の幻がその宵闇色の瞳に映り込む。
変わり映えのない服を着て駄菓子屋に訪れる幼い東雲は、品数が少ない店内で悩みに悩み選りすぐりの駄菓子とお小遣いを握り締め、奥で椅子に腰かけその姿を眺めている老婆のもとへ駆け寄り年季の入ったテーブルの上にお小遣いをぴったり値段分数えて置いた。

『これ、ください』
『はい、毎度アリ』

「あの子の屈託のない笑顔が好キでねエ。ベンチに座って駄菓子を味わっテ食べる姿がマタ微笑ましくてねエ」
当たりが出ればはち切れんばかりに笑みを浮かべ興奮して見せに行き、外れれば分かり易いくらい気落ちする幼少期の東雲にカミキリも笑みが零れた。
ぴょんぴょん元気よく跳ねまわるカミキリよりも背丈の低い無邪気な東雲と柔らかな日差しのように穏やかな目でその姿を見遣る老婆がいる空間は細やかな幸福に満ちていた。
だが、日に日に駄菓子の数が減っていき店番に出る事も少なくなって来た老婆に幼い東雲は不安な気持ちを滲ませその小さな手で老婆の上着を控えめに引っ張った。

『ばあちゃん元気ない?』
『元気、元気ねえ。よっこいせ』

接着剤でもくっ付いているかのように最近立つ事も儘ならない老婆が立ち、幼い東雲を横切りプラスチック容器のひとつを血管が浮かび上がった皺と染みだらけの手で掴み、隣に駆け寄ってきた東雲に渡した。
何故渡されたのか分からずに小首を傾げる東雲に老婆の朽ち木のような唇が言葉を紡ぐ。

『やるよ。あんたコレ好きだったやろ』
『──!! いいの!?』
『近いうちに店仕舞する予定だ。今更どってこと無い、寧ろあんたに貰われた方が駄菓子らも嬉しかろう』

『へ?』

あれだけ喜んでいた幼い東雲の表情から見る見るうちに笑みが消え立ち尽くす様に老婆は硬く強張った膝と腰を屈め彼女にも分かり易い言葉を選び事の顛末を伝えた。
前々から体の調子が悪かった所に年々買いに来てくれる子供たちも減ってきてしまい、この時代には合わなくなってきたのだろうと店仕舞する覚悟を決めたにもかかわらず、中々最後の一歩が踏み出せなくて「子供たちが全く来なくなったら閉めよう」なんて無責任にも程があるがその方が諦めがつくと子供に身を委ねた。
そして、思惑通りと言うべきか。仕入れを止めた日を境にただでさえ少なかった駄菓子屋に訪れる子供らの足が日に日に遠のく光景に寂しい笑い声が零れ落ち、やっとこさ重たい腰を上げた矢先に常連客である幼い東雲が小さなガムを握り締め買いに来た。
その屈託のない姿をどうにもまだ見たい気持ちが振り払えなくて、買える物が増えることがないのに店を開け続けてしまった。

『ごめんなあ』

買いたい物を買わせてあげられない、店仕舞するのを伝えてしまったら来てくれないかもしれない身勝手な思いを抱いてしまっていた事に老婆は頭を下げ謝罪する。
子供の東雲にとって大人が頭を下げ謝る衝撃は計り知れない。詰まった意味の無い声だけが途切れ途切れに漏れ、衰え乾いた老婆の手が肩を掴む力に東雲は息を飲み、再び紡がれる老婆の謝罪に口を噤んだ。

『許してくれとは言わないさ。ほら、他にも好きなだけ持ってい』
『かないっ』

老婆が言い切る前に言葉を重ねた幼い東雲は、持っていたプラスチック容器の蓋を小さな体で懸命に開け中から一本抜きだしたあと、その容器を老婆に突き返した。

『これ、ツケで!!』
『ツケも何も。全部持ってい』
『やだあっ!!』

叫び被せた幼い東雲は踵を返して駆け出し、駄菓子屋の道を挟んだ場所で立ち止まり振り返り声を張り上げる。
蝉の大合唱に負けず劣らない大きな声はよく通り老婆の遠い耳にも届いた。

『私がツケを払うまで、ばあちゃんお店閉めちゃダメだかんね!! 絶対だかんね!!』

目元を拭い持った串を高らかに掲げる幼い東雲は主張を続ける。

『じゃないと私寂しいもん!! ばあちゃんの駄菓子屋で駄菓子選んで買って食べれなくなるのいやだ!! ばあちゃんずっと駄菓子屋やっててよ!!』

言いたい事を言い切った幼い東雲が涙声で「バイバイッ」と叫んだのを皮切りに老婆のとうに泣き方を忘れてしまっていた目から涙が溢れ頬を伝い流れ落ちた。
子供は大人の事情なんて知らない、知る由がない。駄菓子代を払わなければ、困って店を閉めるのをやめるに違いない。なんて子供らしい単純な発想をこうも突き付けられあたたかい心が涙と笑い声になって老婆の鈍り錆びついていた感情を呼び起こす。笑いが止まらず引き攣り、涙を掬い払う指先は雨に濡れっぱなしだった。



「デ、その後痙攣を起コして息を引き取ったワケじゃが」
「唐突」
「あの子の言葉に如何にも引き寄せらレテの、あノ子が一番好む環境を整え店ヲ続けている」

まさかの急展開に過去の記憶を見せてもらっていたカミキリも思わず喋ってしまい、老婆が見させていた幻は現実世界と混じり合い元に戻っていた。
一年を通して快適な空間を提供し、駄菓子の種類はいつだって賑やかに。そのお陰がぽつりぽつり子供や昔を懐かしむ大人が買いに来てくれるのが増え、店はそこそこ繁盛しているらしい。
「律儀じゃろ? あの子は未だにツケ払いをしてこのババアを駄菓子屋に縛り付けてナあ」
……成仏したイ?」
「いや全~然。もうツケ払いしなくても平気だってネタバラシしようかと思ったが、……あんまりにも健気でノ、言えずにおる」
皺に埋もれていた生前の老婆の顔が音もなく現れ上品に笑う様にカミキリが何か言おうと口を開け。

「カミキリさーん、お待たせー」

東雲に被されてしまい言いかけた事を喉奥に押し込んだ。
夏の暑さにすっかり肌が温くなってしまい、汗が薄っすら滲み始めた東雲の顔がカミキリの後ろにいる店主の姿を見付け大きく口を開いた。

「あーっ! ばあちゃん戻ってたの!?」
「元気そうだねエ」
「ばあちゃんもな。ツケはテーブルんとこに置いてっから」
「はいはい」
「じゃ、また顔見に来るわ。カミキリさん後ろ乗って」
「うん。バイバイ」
「気ィ付けてなア」

安堵に満ちた面持ちで駄菓子屋の店主に軽く手を振りサドルを跨ぎ漕ぎだした東雲に変わって首を捻り駄菓子屋をカミキリが見続けていれば、忽ち白い靄が立ち込め角を曲がるのを見計らいただ雑草が生い茂る空き地が蜃気楼の中から現れた。
「(流れている空気が違うと思ってはいたケド──)」
空間そのものが切り離され存在している駄菓子屋。招いた者しか中に入るのを赦さない仕様に親近感を覚え、カミキリは当たりの蓋や棒が入っているポケットを眺めては東雲にまた駄菓子屋に行く時は誘ってと言ったのだった。