俺が小さなニンジャジャン活動を終えた、帰り道でのこと。チェズレイの元へ帰るにしても、予定より早い。帰ってもかまわないのだが、今日はチェズレイが夕飯を作る日だ。早すぎても、急かしてしまうかもしれない。気遣いの一つだ。
というのは、言い訳かもしれない。帰りづらいのには理由がある。
「まいったなあ」
俺は頬を掻く。
最近、少しだけモテ期が来ているのだ。
小さな酒場で呑んでいれば、元気な女性グループに声をかけられ。
ショー活動の打ち上げで、気がつけば隣にぴったりとセクシーな女性が。
そして今も、美女に声をかけられている。
甘い猫なで声に振り返れば、なめらかな毛皮をまとった綺麗ドコロが立っていた。
思わせぶりにすり寄って、見上げてくる。
退屈なの。
そう語りかけてきた。
大きく、やや攻撃的で、物言いたげな瞳は、少しチェズレイに似ていた。
流し目で誘う美女に根負けして、俺は隣へ座る。
「何も持ってないよ」
俺はあえて、嫌われるようなことを言う。
それでもいいわ。
彼女は気にせず、マイペースに手で口元を隠す。のんびりとした仕草の中に、優雅さが見え隠れした。
そんな所も少しチェズレイと似ている。上品さが身についた、そういう生き物。
もっともチェズレイだって、やるときはやるワイルドさがあるのだが。
ちら、と冷たい目を向けられる。俺は緩んだ頬を揉んで誤魔化した。
何を喋るわけでもなく、隣に並んで時間を共有する。
流石に飽きてきた俺は笑いを隠さずに、呆れた声を彼女に向ける。
「俺のどこがいいのやら」
さあね、と彼女は目を伏せる。俺は自分の頭に手をのせた。
「ま、チェズレイが選ぶぐらいだからなあ。案外、俺ってアリ……?」
美女は訝しむように首をかしげる。
俺は否定するように首をふった。
「あー、相棒で雇用主? あと伴侶っていうか」
「ん……?」
美女はピンと来ないようで、喉の奥で疑問系の声を出す。
「ゴメンな、意味わからないよね」
頷く彼女に、俺は肩を落とす。俺にもよくわからない。
「ま、大事なひとってことさ」
小指を光に透かす。奇しくも夕日が差し込んで、白く細長い指の幻が見えた。
美女も目を細めて、俺の指を見つめる。
「結婚とかじゃないけどね」
「まぁ……」
「だからキミとは火遊び……ってやつ?」
照れ笑う俺の膝に、そっと白い手が乗せられた。甘える仕草は、エスカレートしていく。胸元に、柔らかい毛皮が触れた。
「随分大胆だねぇ」
強気な目線は、一時の遊びにも本気なようだ。俺は少し考えて、手で制す。
「バレちゃうよ、俺の相棒に」
構わない、といった様子で目を伏せる。微かに口を開いて、美女は触れられるのを待つ。
「仕方ない。抱いてやれば満足するかねえ」
俺は、美女の脇腹に指を差し込む。持ち上げて、腰をささえて膝に乗せた。
シャム猫のような柄の美女はうっとりと目を細め、ごろごろと喉を鳴らす。
「モクマさん。何をなさっているのです」
チェズレイが、口をすぼめて俺を見下ろした。髪をポニーテールににし、手袋をしていない。料理を終えた所なのか、野菜の煮えるいい香りがした。
今の隠れ家は、そう街から離れていない田舎道にある。窓から俺がしゃがみ込んでいるのが見えたのだろう、チェズレイは直接声をかけに来た。
「まあー……懐かれちゃってね」
「私が家で待っていたというのに、玄関先で座り込んでいたとは」
俺は美女の喉を擽りながら、チェズレイを見上げる。
笑ったら許してくれないかな。
チェズレイもまた、ふっ、と笑みを浮かべた。
「仕方ありません」
ため息を吐いたチェズレイは、大げさに手をひろげる。
「どうぞ、そのレディとご一緒に。ネズミなり鳥なりのディナーを」
「あれっ許してくれない流れっ?」
チェズレイは長い足でスタスタと、家に戻ろうとする。
さらりと髪をなびかせて、愉快そうに振り返った。
「火遊びに飽きましたら、私のもとに戻ってきてくださいね」
「それはもちろん」
俺は、猫の脇腹に指をいれて持ち上げる。肉球のついた手を、チェズレイのほうへ振った。
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