しゃどやま
2024-08-22 22:38:17
3515文字
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偽闇バディがあらわれた!

さきょんさんのイラスト(偽闇バディ)に影響をうけて書きました。イベントでペーパーにしたもの。

 アーロンは首筋に僅かに走った鳥肌を撫でる。僅かだ。全身に出るジンマシンではない。だから眼の前に居る男はクソ詐欺師ではない――というか、細身のインテリヤクザというだけで、別段見間違えるほども似ていない。徹底的に情報を秘匿していることは知っている。だから、偽者もこの程度のクオリティなのだ。
……誰だテメエら」
 念のためアーロンは確認する。仮面の詐欺師と無敵の武人がハスマリーに現れたと聞いて、ワザワザこんな裏路地までやってきた己が情けない。インテリヤクザは皮肉に嗤い、名乗りを上げる。
「解りませんか? 仮面の詐欺師ですよ」
「そして俺が無敵の武人。ドーモヨロシク」
 傍で立っている筋肉男が言葉を続ける。こちらのほうが姿は割れているのか、ヒゲや着崩した民族衣装はまあ、おっさんの真似をしているとも言えなくはない。
……まあ……
 アーロンは口ごもる。不敵に笑う二人は暗器も持っているのだろう、余裕の表情だ。パートナーとして振る舞い慣れていることはわかる。それが名前を借りた詐欺のパートナーだとしても。
「本人たちよりマシかもな……いちいちネチョネチョした惚気話を聞かせてくることもねえだろうし」
「何を呟いている? 恐れをなしたか? やっておしまいなさい、武人よ!」
「ウィッス!」
 武人が袖をアーロンに隠す形で走り出す。隠した武器はそこか。いや。アーロンは偽武人の蹴りをかわす。爪先にかえしの付いた針が出ていた。腕の囮で気を引いて、毒で仕留める。なるほど、ニセモノにしては殺意が高い上に武闘派だ。すぐ体勢を整え、片足で立つ。おっさん以上にマニアックな武術に、一瞬アーロンは目を輝かせる。拳を作り、踏み込んだ。おっさんなら回転を活かしてかわす打撃を、こいつはどういなす。
 アーロンの期待は空振りで終わった。テクニックはまあ、ソコソコだがパワーがたりない。おっさんと違って力の込め方がなっていない。顎に一発、目を回した偽武人が倒れ込んだ。
「もの足りねえな」
「ひいっ……
 怯える仮面の詐欺師(偽)に、アーロンは視線を向ける。後退り、許しを乞う寸前だ。
「そこの偽詐欺師。最悪な名前を名乗るのはやめとけ。地獄を見るぞ。つうか見せるぞ」
 拳を鳴らしながら近付く。もはや膝が震えて立てないのか、へたり込んだ。
「あんなヤツが二人もいたらと思うとゾッとするんだよ!」
 アーロンの拳が、仮面の詐欺師(笑)の顔の横をかすめる。当てたら死ぬ程度の体幹だろう。嫌なものを見たと独りごちながら、アーロンはその場を後にした。

 モクマは手に持っていたトロピカルジュースを、とりあえずテーブルに置いて聞き返す。
「えーと、それは本気で言ってるの?」
「本気らしいですよ、モクマさん。せっかくのバカンスに……
 チェズレイも困惑しながら、薄い色合いのサングラスを外した。てっきりチェズレイ目当てのナンパだと思っていたのだが、アテが外れた。
「もう一回名乗ってみて?」
 眼の前に立つ細身の青年とヒゲの男は得意げに、ニヤリと笑って言う。
「私が仮面の詐欺師で」
「俺が無敵の武人だよ」
「はぇ……
 なんとも言えない声をモクマが上げる。確かにまあ、知らない人が「男の二人組で、片方は細くてもう片方はヒゲ」という情報を元に再現したらこうなるかもしれない。しかし、絶対に違うことがモクマにはわかる。だってそれって俺とチェズレイだし。
「どうする?」
「私に考えがあります」
 水を向けるとチェズレイは立ち上がる。首をかしげて、二人に言った。
「おかしいですねェ……情報屋である私の知る限り、仮面の詐欺師と無敵の武人はたいへん熱烈な恋人同士なのだとか」
「えっ?」
 ヒゲの男が声をあげ、オロオロと細身の男を見る。そっちが雇い主なんだね。
……そうですとも。噂通りでしょう?」
 細身の男はそっとヒゲの男の腕をとる。ぎこちなく触れ合っている二人に、チェズレイはたたみかけた。
「さらには人目をはばかることなくディープ・キスをするような仲だと……とてもそうは見えませんね」
「マジ……?」
 動揺する二人。モクマは氷が溶けそうなのでトロピカルジュースに口をつけた。青色の飲み物って全部ラムネの味がしない? 気のせい? チェズレイはそんなモクマの心に気付かずに、手拍子を始める。
「さぁ、恐れることなく! 見せつけてください、きーっす! それきーっす!」
 ぶるぶる震えた二人はそういう関係じゃなかったらしく、しばらく見つめ合ったあと走って逃げていった。
「新たなカップルを祝福したかったのですが……
「いいからジュース飲もうよ。溶けちまうよ」
 チェズレイはええと頷いて、トロピカルジュースのストローに口をつけた。

「仮面の詐欺師がエリントンに?」
 ルークはココアを啜りながらナーゴの報告を聞く。チェズレイとは昨日電話したけどそんな話は出なかったけどな。ナーゴは慌てた様子で頷いた。
「なんでも無敵の武人とともにマフィアたちから金品を横領しているとか」
「本人たちもギリギリやりそうで判断がつかないな……
「本人?」
「いや、こっちの話。場所とかはわかるかい?」
「っとですね……ハチワレ猫ちゃんと会った時なんですけど……
 ナーゴはレシートの裏に住所と小さな地図を描く。なかなか上手だ。僕もサインとか考えようかな。
「ありがとう、助かった。調べてみるよ」
 お礼をしつつ、ナーゴと別れる。通報があったのは、チェズレイたちに連絡する直前の午後一番だった。
「マフィアのアジトから通報電話? しかも怯えてる?」
「おいおい、警察に頼るマフィアなんて聞いたこと無いぞ……
「とにかく言ってみよう。僕たちの力が必要なのは確かだ」
 ルークたちがたどり着いたのは、いかにもな倉庫だ。マフィアというよりは不良がそのまま大人になったようなセンスの内装にされている。そこに立つ二人は、ゆっくりと振り向いた。
「おやおや……警察ともコネクションを持つ、仮面の詐欺師に武器を向けるとは。命知らずですねェ」
「えっ……?」
 ルークは目を丸くする。長身のシルエットはたしかに――
「全然別な人だ!」
「え?」
 その場にいる全員がルークを見る。部下も、長身の男の隣りにいるヒゲの男もだ。
「あ、ええと、その、通報した人とは違う人だなー! お前は何者だー!」
 ああ、そういうことねと納得した空気がただよう。ルークの胸がチクリと傷んだ。
「仮面の詐欺師と無敵の武人ですよ」
「まさか本当に?」
「世界クラスの犯罪者が……?」
 怯えが部下に広がる。どうしたらいいんだろう。どう考えても偽者だが、それを伝えるとルークが犯罪者と繋がっていることになる。あとモクマさんにマッサージをねだってることとか、チェズレイにあーんされたりしてることがバレる。それはまずい。ここは一度話に乗るべきか……
「手を引いたほうが懸命ッ、ぐあっ!」
「何者ッ! うわっ!」
 天井から降ってきたシルエットは、一つ。あっという間に偽者二人を蹴り倒し、武人のほうから先に押さえつける。
「あっ! モクマさん!」
「ルークはもうひとりの方、頼んだ!」
 元気よく返事をし、銃を取り出そうとしたチェズレイの偽者の手を撃つ。駆け寄って後ろ手に手錠をかけた。
「午後一時十九分、確保!」
「お手柄ですね、ボス。通報は私ですので、被害者についてはご心配なく」
 暗がりからするりと現れたのは本物のチェズレイだ。二人の顔写真をとると、モクマさんに目配せして倉庫から去っていこうとする。
「ありがとうふたりとも!」
「邪魔でしたので。こちらこそありがとうございます」
「またね、ルーク!」
 おおきく手を振るモクマさんに負けじと手を振って、ルークはにっこり笑う。
 そして、背後にいる部下たちの視線に気付いた。誰、というか、何?
「あ、あの人たちはその……仲間っていうか、現地協力者みたいなもので……世界は飛び回ってるんだけど……説明してからいってくれよー!」
 ちゃんちゃん。

 おまけ ある日のテレビ通話
「アーロンのところにも行ったんだろう? 騙されなかったか?」
「騙されるわけあるかよ。お人好しのドギーならともかくな」
「酷いこと言うなよ。僕だって騙されなかったし……ん? 君はハスマリーで会ったんだよな?」
「あ?」
「南国でモクマさんとチェズレイに会ってエリントンまで来て……移動距離、すごいな」
……それで?」
「そんだけ。えへへ」
「切るぞ」
 おしまい。